その




その映像を見て地下にあるパルチザン本部にいた者みなの口からため息が漏れた。
そこには髪を短く切り落としたスターシアが粗末な丸椅子に座っている様子が映し出されていた。

…スターシア!

守は唇を噛んだ。

占領軍はスターシアを拘束したと発表した後
今度は彼女の拘束場所を重核子爆弾内に移したと発表したのだっだ。


う・・・なんてことだ

パルチザン本部内にさまざまな声が飛び交った。
「どう思う?」
「あんなに戦闘の激しい中陛下を移動させたらこちらにもわかる。」
「はったりなんじゃ」
「でもこちらには知られていないルートで移ったとか」
「敵はかなり焦っているのでは?」

あきらめない地球のパルチザンと占領軍との闘いが日に日に激しくなっていた。
占領軍司令部壊滅と爆弾の撤去。そのために地球側は情報を探りつつ日夜戦いを繰り広げていた。
ある時期を境に敵の動きに隙が目立つようになり、
占領軍はかなり地球側に押されるよになっていた。
隙が目立つようになったのはヤマトが戦果をあげた影響で母星の援軍を望めなくなった
のと、そのために占領軍内に少なからず動揺が広がっていたせいだった。

そんな最中のスターシア拘束の情報とその映像だった。

地球側は様々な情報を集めていく中で一人の思ってもみなかった人物に出会っていた。

「長官、参謀、白い花からです」
ヘッドフォンをつけ何やら機器を操作していた北野が守たちを振り返った。


・・・!

それは森ユキだった。
何故かユキは敵の情報将校の邸宅にいた。
あの高速連絡艇での脱出劇の折、その情報将校に拾われたのだとか。

無理をするなよ

守や皆の心配をよそに
彼女はそこに踏みとどまって白い花の名で様々な情報を短期間で集めパルチザンに送ってくる。
その情報は正確だったのでパルチザン本部のかなりの助けになっていた。

「これは・・!陛下の拘束場所の情報です」

「ならその情報はもう一歩のところで役に立たなかったな。」
「いや、あの映像は爆弾内部なんかじゃないですぜ、どう見たって。
俺が一昨年あの陛下の映像の部屋のある屋敷を建てたからよく分かる。」
 
えっ?

となって一同一人の男を振り返った。
そこには中年の恰幅のよい男性民間人が一人。
「あるお偉いさんの屋敷だってことだった。
一見なんの特徴もない殺風景な倉庫の中だがな、あの陛下の画像は。
その屋敷の倉庫さ。おれは自分のやった仕事は絶対に忘れない。
・・・白い花の情報の通りだね。」
「しかし、あのスターシアの映像は過去のものでもう彼女自身は爆弾の内部に移っていると考えた方がいいのでは?
第一、敵はどんなに画像処理をしても、爆弾内部を写して些細なことであっても情報をこちらに与えたくはないでしょう」
守は淡々と話した。
「いえ、移っていない、いないようですよ、陛下。」
北野が声を張り上げた。
「明日、件の屋敷から陛下を移動させると・・・!白い花からそのように」
おおっ とその場にいた者の間にどよめきがおこった。
「なら、移動する前に陛下を救出しなければ」
「そうだっ」
「今がチャンス」
「だがその情報は確かなのか?」
「何かの罠では?」
「いや、白い花からの情報に今まで間違いがあったか?」
「ない」
みな口々にしゃべり出し、俄かにパルチザン本部内がうるさくなった。
「あっ!」
一人の女性が素っ頓狂な声を出した。
一瞬室内は静まり返った。
「見てっ。この画像、よく見て。陛下が歌っている。」
彼女がそう言ったので、皆が一斉に再びモニタに映し出されたスターシアに注目した。
画像に音声はない。スターシアの口が小さく動いているのが確認されるだけだ。
「私にはわかる。あの歌よ。つゆくさが咲いている・・・」
「確かに陛下は歌っているかもしれない。でもあの歌じゃないかもしれないじゃないか?」
誰かが言った。
「ううん。あの歌よ。私、読唇術の心得があるの。だからわかるの。」
「そうか?」

つゆくさが咲いている

の歌詞で始まるその歌は、いつ、だれが作ったのかわからない歌で
地球人ならだれでも知っている、昔から歌い継がれている歌だった。

女性が、彼女は看護師だった 小さな声で歌い出した。



つゆくさが咲いている
雨粒を受けながら
空をめがけて
背伸びしている



彼女の歌声を聞いて、一人、また一人、つられるようにして歌い出した。
スターシアの声は聞くことが出来なかったが
歌っているうちにスターシアの口の動きがあの歌と同じだということに皆が気づき始めた。

陛下が、地球の歌を
つゆくさの歌を歌っている!

皆の間に言い知れぬ感動が広がっていった。



雲は流れてゆくよ
青空が待っている
花びらは生まれるよ
あとから あとから あふれ出て
明日また輝く



最後は全員で大合唱となった。

「陛下を!陛下を救出しよう!」
「おぅ!」

皆が熱狂して口々に叫び出した。

その様子を長官と守は遠目に見ていた。



2019.3.19

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