(10)前へ! その1


「あぁ・・・!」
ヤマトの第一艦橋にいる全員が驚きと戸惑いの声をあげた。
彼らの目の前、窓外には一つの美しい惑星が浮かんでいた。
「ち…地球じゃないか」
皆が皆、信じられない思いで目をみはった。
やっと敵母星の位置を割り出し、ヤマトはワープしたのだった。
それなのに、ワープが明けてみれば、彼らの目の前に現れたのは懐かしい地球の姿だったのだ。
「我々は、敵母星を目指していたんじゃないのか?」
「航海班、航路計算に間違いはないのか?」
皆が混乱している中、サーシアは先ほどから重苦しさを感じる額を手で押さえながら、惑星をじっと見つめた。

  あの星が地球だというのなら、占領軍がとっくに気がついて・・・・。
  でも占領軍の気配すら感じられないわ・・・・これはいったいどういうことなのかしら?


「艦長、通信を送ってみましょうか?」
相原が山南を振り返った。
「いや、まて。少し様子を見よう。」
ヤマトは惑星に向けて無人偵察機を放った。
やがて偵察機は映像を次々とヤマトに送ってきた。
一度は失われてしまった、そして再生された地球の各地域がビデオパネルに映し出されてゆく。
「おお!」
ここはやはり地球なのか?と一同はどよめいた。
どれもこれも懐かしい地球の映像だったが、奇妙なことに戦いのあとはまったくなく、
占領軍の姿もどこにも映っていなかった。
そしてどの映像も、よく見れば見るほど知っているはずの地球の様子とはなぜか少しずつ違っていた。
それは一部の建物の形だったり地上の植生の様子に現れていた。
最後には防衛軍本部ビルのある首都の映像が送られてきたが
その映像の端に映ったものを見てサーシアは はっとした。

  あれは・・・・・あの建物・・・あの場所・・・!
  夢でみた女の人と出会った場所。

サーシアの体をめぐる血がざわめいた。
「古代。先発隊のメンバーを選出してくれ。攻撃もしてこんようだし、上陸して様子を直接探りたいのだ。」
おもむろに山南が口を開いた。
「わかりました。」
進は第一艦橋をぐるっと見わたした。
「相原、南部、島、アナライザー・・・・CT隊から坂本・・・」
「私も連れて行って!」
サーシアは進に向かって強く言った。
「サーシア、君は・・・」
戸惑う進を押しのけるような勢いで真田が 
「駄目だ!」
と反対した。
「私も連れて行ってください。」
今度は落ち着いて、サーシアはゆっくりとした口調で訴えた。
「いえ、私を連れていくべきです。
みなさんは送られてきた映像を見てどう思いましたか?
あの惑星は本当に地球なのか?
それとも私たちが目指していた敵の母星なのか。
もし地球だというのなら・・・なぜ地上の様子が私たちが知っている風景とは少しずつ違うのか。
それを探りにいくのですよね?真田班長。」
「それはそうだが・・・。」
「半分イスカンダル人で、力 を持っている私ならその謎を解き明かすことが出来る・・・・
いえ、謎の奥に潜む真実の一端をつかむことが出来ると思います。」
普段、自分の 力 をひけらかすようなことは言わないサーシアだったが、
あえて今は力を強調する言い方をした。
なんとしてもサーシアはあの惑星に降りねばならなかった。
夢で見た同じ場所が現れた。あの夢は単なるいたずらな夢ではない、
自分はあそこへ、あの場所へ行くべきなのだ。
そうすることで自分が望んだみんなの役に立つことにつながる。
あの夢は自分のとるべき道を示していたのだ。
そうサーシアは考えていた。
「しかしサーシア、地球に似ているとはいっても我々にとって未知の領域だ。
どんな危険が潜んでいるともかぎらない。そんな場所に君を行かせるわけにはいかない。
イスカンダル王家の血が流れる君をいかせるわけには。」
真田はサーシアを行かせまいと必死だった。
真田にとってイスカンダル王家云々よりも、大切な娘を・・!
―そう 真田にとってサーシアはそういう存在だった―
危険な目に合わせたくないというのが、本心だった。
真田はサーシアが赤ん坊のころから見守り、教育を担当してきたのだ。
真田にとってサーシアは娘も同然だった。
えこひいきだろうがなんだろうが、ここはどうしても真田はサーシアを引き留めておかねばらなかった。
「真田さんの言う通りだよ、サーシア。君を連れていくわけにはいかない。」
進も真田同様、当然サーシアを危険にさらしたくはなかった。
「真田班長、古代班長。私を特別扱いしないでください。
もともと危険を承知でヤマトに乗艦した私です。
わたしだけ安全な場所に・・というのはありえません。」
一旦言葉を切ると、サーシアは真田にだけ向かって小声でそっとつぶやいた。
「おじさま、私、夢で見た同じ場所を、送られてきた映像の中に見つけたんです。
私はこの目で直に確かめたい・・・。」
「・・・・!」
何かを言おうとする真田を遮るようにサーシアは続けた。
「ヤマトにとって、地球にとってどうすることが有益なのかを第一に考えるのが筋です。
どうか私も先発隊に加えてください。お願いします。」
サーシアにこう言われてしまって、真田も進も何も言えなくなってしまった。
「古代、真田君、サーシア君を行かせよう。」
一連のやり取りを目を瞑って聞いていた山南が静かに言った。
「艦長!」
「サーシア、君ならやれるというのだね。」
山南は鋭いまなざしをサーシアに向けた。
「はい」
「では君も先発隊に加わりたまえ。」
「ありがとうございます。」
「ただし・・」
「?」
山南は表情を和らげてこう付け加えた。
「無理はせぬこと。必ず帰ってくること。女王陛下に顔向けできなくなるからな。」



ヤマトの艦載機格納庫は上陸準備であわただしかった。
短い時間の中で、上陸艇に積み込まれる計器類のチェックが入念に行われた。
サーシアも上陸メンバーとともに準備で忙しかったが、
ふと顔を上げると彼女の視界の隅に心配顔の加藤四朗の姿が飛び込んできた。

  ・・・・おにいさま・・・・。

四朗はサーシアに近づくと彼女に声をかけた。
「あの惑星に降りるんだって?」
「ええ。」
計器類を調整するためにサーシアはモニター画面に顔を向け、
あえて四朗に顔を向けることなく手を忙しく動かしていた。
「・・・・・・。」
「なぁに?」
「あの・・・」
「おにいさま、私今準備で忙しいのよ。」
「ごめん・・・だけど・・」
サーシアは手を止めて四朗を見た。
「おにいさま!私は大丈夫。私を心配してくれているんでしょう?顔にでてる。ありがと。
でも特別扱いはいやなの。」
「帰ってこい。絶対に!」
「・・・・・。おにいさまったら変なことを言うのね。」
「胸騒ぎがするんだ。嫌な感じがする。」
「大丈夫、私は帰ってきますから心配しないで。」
再びサーシアは計器に向き合ったが、ふと思い出したように顔を上げた。
「そうだわ・・・・・。」
サーシアは羽織っているジャケットのポケットを探り、中から何かを取り出した。
「これ、おにいさまに持っていてほしいの。」
そういってサーシアは四朗の手のひらにあるものをそっと乗せた。
「これは・・。」
「覚えてる?」
「あ・・・ああ。もちろん。」
「うふふ。私が帰ってくるまで預かっていてね。」
「なんで?」
「うーーん、おまじない。」
「おまじないって・・・。」
「いいから、いいから、ね?お願い。」
見上げるように大きな瞳でサーシアに見つめられた四朗は頬が熱くなるのを感じた。
「わ、わかった」
「ありがとう。」
サーシアはにっこりとほほ笑んだ。
「そっちの準備はどうだ?」
真田の声がサーシアと四朗に降ってきた。
「はい、終わりました、班長。」
そう答えるとサーシアは、四朗を振り返り、もう一度ほほ笑むと四朗の側から去って行った。
四朗の手のひらには、モールで出来た古ぼけた小さなおもちゃの指輪が、ぽつんと残った。




第一艦橋のビデオパネルには惑星に降りてゆく上陸艇の姿が映し出されていた。

  サーシア・・・・

真田は先ほどからサーシアがそっと自分だけに呟いた言葉が気になっていた。
上陸準備は万全のはずだった。
あとは先発隊のメンバーがどれだけ情報を持ち帰ってくるかでヤマトの行く道が決まる。

  無理はするな、サーシア。

真田はじっとビデオパネルを見つめた。


2014.9.17


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