(10)前へ! その4


「さぁこの廊下をまっすぐに進めば外へ出られます。ではわたくし共はこれで。」
サーダはサーシア達に帰りの道を教えると、会釈をし、兵士を従えて立ち去ってしまった。
ヤマトが200年後の地球へ残らないとわかるや、ヤマトに関心がなくなったといった感じだった。
一同はしばらく無言のまま出口に向かって長い廊下を歩いていた。
廊下の両脇の壁には地球では誰もがみな知っているような有名な絵画がかかっていた。
「遊星爆弾でほとんどの美術品は失われてしまったから、これらはみんな複製ということになるなぁ。でも200年たっているならそれでもかなりの価値のあるものということになるのかな。」
相原がぽつりと言った。
サーシアも、壁にかかった絵画が「本物の複製」なら価値のあるものだろうと思ったけれども、どうもすべてが中身の伴わない薄っぺらなものに感じられて仕方がなかった。
いや、本当に中身の伴わない 嘘 の塊なのだ とサーシアは思った。



  みんなのためにアタシが出来ること・・・・・

先ほどからずっとサーシアは考えていた。

  そうね、とりあえず・・・・。

携帯端末を取り出すとサーシアはすばやくキーを叩いた。

  あとは叔父様をどう振り切るか考えなくちゃ。



やがて一同はビルの外へ出た。
陽はだいぶ傾いて空は燃えるような朱色に染まっていた。
サーシアは空を見上げた。
禍々しいほど赤く美しい光に照らされて、はるか上空にぽつりとヤマトが浮かんでいるのが見える。
一陣の風が吹き、サーシアの髪を揺らした。


  サーシア・・・・・

  え?

誰かが自分のことを呼んだ気がしてサーシアはあたりを見回した。
胸にさげた星のペンダントが再び ちりり とわずかに熱くなっていた。

お母様?

あらためてサーシアは空に浮かぶヤマトを見上げた。
生まれて一年と少し、サーシアにとってイカルスとヤマトが世界のすべてだった。
そして、自分をこれからの世界にヤマトが連れて行ってくれることを約束してくれるハズだった。

  帰りたい・・・・
  でもあたしはあそこへは帰らない。
  あたしはあたしに出来ることをする。

サーシアは泣きたいほど切なくなった。
ヤマトへ戻れば地球へ帰ることが出来る。
両親の元へ帰ることが出来る。
まるで柔らかな毛布に包まれるような両親のぬくもりがサーシアにはたまらなく懐かしかった。

  ああ、お母様正直お母様の存在が私には重すぎると思っていました。
  どうしてあたしはそうとしか思わなかったんでしょう。
  懐かしいお母様。今はあなたの娘であることに感謝します。

サーシアは一旦目を閉じて覚悟を決めるとアナライザーを呼び止めた。




進は待っていた連絡艇に乗り込もうとして、サーシアが少し離れたところでアナライザーと何やら話をしていてみんなから遅れをとっていることに気が付いた。
「サーシア、急いで」
進はサーシアに声をかけたが彼女は動かなかった。
「サーシアどうしたんだ?」
「わたし・・・・残る」
「え?」
サーシアは思いつめたような表情で進を見つめると、踵を返し連絡艇から離れるように走り出した。
進はサーシアを追いかけた。
意外にもサーシアの足は速かった。随分走ったところで進はやっとサーシアに追いついた。
そこは聖総統と会見した広間のあるビルの入口だった。
進はサーシアの手首をつかんだ。
「残るなんて嘘だろう?」
「いいえ、本当よ。私は半分は宇宙人、200年後のこの世界の方が住いいの。」
「本当か?君のお母さん、スターシアさんは地球にすっかり溶け込んでいるじゃないか。」
「・・・・・。」
「本当のことを言ってくれ、サーシア、君は何か隠しているね。」
「私・・・・叔父様とは一緒に帰れない・・・。」
「?」
「あなたには・・・ユキさんがいるもの。私の入りこむ隙なんか・・・ない」
進はぎくりとした。
「叔父様ですものね・・・・わかっていたの私、さよなうなら・・・!」
突然のサーシアの告白に進の頭の中は混乱し、進のサーシアの手首を握る手の力が緩んだ。
そのすきにサーシアは身をひるがえすとビルの中へ入り壁のスイッチを押した。
ビルの構造を見ておそらくそうだろうと推測して押したスイッチだった。
サーシアの思った通り入口の自動扉にロックがかかり開かなくなった。
あと一歩のところで扉に阻まれ進はビルの中へ入れなくなってしまった。
「サーシア!」
「さようなら!」
サーシアは目に涙を浮かべながら、唇の片方をわずかに上げてどうにか作った笑顔を進に見せると長い廊下の奥へと走り去ってしまった。
「サーシア・・・」
進はただ茫然と立ち尽くし、ビルの奥へと消えるサーシアを見送るしかなかった。




だいぶ廊下を走ったところでサーシアは立ち止まった。
はぁはぁと肩で息をしていたのを落ち着かせようと思った。

  あたし、上手くやれた?
  俳優さんになれるかしら?ふふふ・・・
  叔父様、ごめんさいねあんなひどいウソをついて。
  きっと叔父様ひどく凹んでる・・。
  ああでも言わないと叔父様は無理やりにでも私をヤマトへ連れ帰るでしょうから。

とはいえ、やはり進に別れを告げて寂しさを感じるサーシアだった。
進はきっと自分がここに残るということを山南や真田、ヤマトの仲間に報告するだろう。

  真田のおじさま、ありがとうございます。あなたに教えていただいたこと、ここで最大限生かそうと思います。  艦長・・・私・・・ヤマトへ帰らなかった、ごめんなさい。

「帰ってこい!絶対に」といった加藤四朗の顔がサーシアの脳裏に浮かんだ。

  おにいさま・・・・ああ、おにいさま・・!さようなら。

「さぁ、感傷に浸るのはこまでよ、サーシア。まずは情報を集めなくては。」



2016.6.23

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