(10)前へ! その2


白い可憐な花が咲く野原が目の前に広がっていた。
その向こう側の小高い丘の上には、ダイヤの冠を戴いた優美な塔がすっとそびえ建っていた。
野原の真ん中に大勢の人たちがにこやかな表情で立ったり座ったりしながらこちらを見ていた。
その中にはサーシアのよく知っている人物、進や雪、母・スターシア、隅っこには真田と並んで父・古代守の姿もあった。
「わぁ・・・綺麗なところね。これがイスカンダル・・・。」
「そうだよ。この写真はみんなで記念撮影したときのだな。」
イカルスの一角、真田の自室で小さなサーシアはコンピュータのモニターを通して一枚の写真を夢中で眺めていた。
その写真はかつてイスカンダルで撮影されたもので、真田が大切にしている一枚だった。
サーシアは、話に聞く自分のルーツである星の風景を是非見てみたいと真田にせがんだのだった。
「ねぇ、お父様もお母様もなんだか難しいお顔をしているのね。」
「そうか?そんなことないと思うけどな。」
「そうかしら・・・・。」
真田は心の中で苦笑した。
撮影した時には気が付かなかったのだが、今にして思えばスターシアも守もこの時点ですでにお互いに惹かれあう存在だったのだ。
ヤマトが地球に向けて出発する数日前に撮影されたものだったから、どんなに取り繕っていても表情に出てしまったのだろう。
「こんなに素敵な場所にいるのにお顔が笑っていないなんてもったいないわね。」
「ふふ・・・・そうだね。」
「きゃーー叔父様、叔母様〜〜〜♪いい雰囲気〜〜〜♪」
「こらこら、叔父様はともかく雪のことを叔母様なんていったら怒られるぞ。」
「えっ?だって叔母様になるのでしょう?」
「んーーーまぁ、叔母様予定ではあるが・・・いろいろあるんだよ。叔母様と呼ぶのはやめておけ。」
「ふーーん。あ、ねぇねぇこの野原のお花はなんていう名前なの?」
「ああ、イスカンダル・ブルーというんだよ。」
「え、でもこのお花、白いお花よ。」
「ああ、スターシアさんによると、イスカンダルではこの花を使って布を綺麗な青い色に染めていたそうだよ。」
「もしかして、このお母様のドレスの青い色?」
「そうだよ。だからその色からイスカンダル・ブルーという名前になったんだって。」
「おもしろーーい」
「ははは、そうか? 実はな、イスカンダル・ブルーは奇跡的に生き残って今地球にあるんだ。」
「本当?すごい!」
「まだ数は少ないけれど、そのうち何年かしたら地球上で沢山見られるようになると思う。」
「わぁ〜〜〜!早くお花に会いたいな。」




「着陸態勢に入る」
島の声でサーシアは我に返った。

 イスカンダル・ブルー・・・。ああ、なんだってイカルスでのことを思い出したのかしら?
 ふぅ・・・気を引き締めなきゃ・・・・。
 

サーシアが窓外に目をやるとぐんぐんと迫ってくる地上の様子がうかがえた。


  あ・・・・ああ・・!あの景色だわ。夢の通り・・・。


着陸ポイントはあらかじめ知らされていたし、そのポイントがまさに夢でみた景色の場所だということもわかっていたが実際にその景色を見ると否応なく緊張が高まるサーシアだった。
 

上陸艇から降り立った一同は興味深そうにあたりを見回した。
地球と同じ大気成分だということは事前の分析でわかっていた。
たとえ未知の惑星のものでも一同にとって久しぶりに吸う外の空気だった。
「なんだか殺風景な場所だなぁ。」
「人の気配がしない。」
「住民はどこへ?」
「ここは地球なのか?」
メンバーはしばらくぼやっとその場に立ち尽くしていたが、我に返った進が
「あのビル群の方へ行ってみよう。」
と一同を促した。
何かを考えるようにしてあたりを見回していたサーシアはアナライザーにそっと指示をだした。
「アナライザー、この地表の、わずかに舞っている土埃を採取して。それから、これから向かうビル。
建材にはどんなものが使われているのか、表面から出来るだけの情報を引き出して分析して。
今はまだ用心してね。それとなく、そっとよ。」
緊急時対応要員として南部と坂本を上陸艇に残し、他のメンバーはとりあえず一番近くにあるビルへと向かって進んでいった。
「・・・・チカクニ セイメイハンノウ アリ。」
チカチカと頭を光らせてアナライザーが突然告げた。
「なにッ!?」
進が前方に鋭い視線を向けた。
見るまに一同に近づいてくる人影があった。
それは二名の護衛兵らしき男を引き連れた女だった。

  あ・・・・あ、ああ・・!

サーシアは心臓がドキドキするのを抑えることが出来なかった。

  あの女の人だわ・・・!

女は一同のいる場所までやってくると
「お迎えにあがりました。聖総統がお待ちかねです。」と言った。
すらっとした色白の大変美しい女だったが、切れ長の瞳に光はなく、覗き見たら最後、引き込まれて溺れてしまう底なし沼のようだった。

  ひゅーーーーー

風が駆け抜けた。女のさらさらとした薄紫色の髪が舞い上がった。
サーシアは一瞬どきっとしたが、夢の中のように女は塵になることはなかった。

  ・・・とうとう、あなたに会ったわ。
  さぁ、あなたは私たちに何をしようというの?
  いえ、何を伝えてくれるのかしら?
  それとも私はあなたとどう係りをもつのかしら?

サーシアは緊張しつつ、皆と一緒に女の後に続いた。



2014.9.17


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