バレンタインデー・Kissオマケの話

ふぁ〜〜〜

古代守は寝不足だった。 それは前の晩、彼の妻に付き合って何故かチョコマフィンを焼くハメになったからっだった。 バレンタインデーの習慣を知った異星人の妻が、 お世話になっている人達、守が世話になっている職場の人たちにもチョコを贈りたいと言い出したからだった。 いくら昔とは違って気軽にみんな親しい者の間でチョコを贈りあうようになったとはいえ、 いわゆる義理だの本命だので盛り上がるのは今でも女性であって、 男性はそういったことには無関心だった。
「いや、君がそんなに気を遣わなくとも誰も何も言わないと思うが。」
守はそう妻であるスターシアに言ったのだが
「守は職場のみなさんにお世話になっているのでしょう?私、誰かに何か言われるからしたいのじゃないの。 本当にみなさんにプレゼントしたいと思っているのよ。軍の人たちには私達何かと配慮してもらってきましたから。」
確かに自分達がむやみにマスコミに晒されることなく、 比較的穏やかに地球で暮らしてゆけるのは軍の強い働きかけがあってのことだとは守も理解している。 それと引き換えに自分は防衛軍にこき使われている(と守は半分思っている)のだが。 まぁそれはともかくとして、スターシアが言っているのは―彼女の想いは置いといて―傍から見ればいわゆる義理チョコなわけで、

それを職場で自分が配るのか?(スターシアを職場に連れて行くわけにもいかないだろう、この場合)

と思うと少々気が重くなる守であったが、お願いと下から見上げるようなスターシアの眼差しに彼は降参してしまった。 そんなわけで、残っていた二箱の粉で(何故か千代は3箱も持ってきており、昼間スターシアと千代はそのうちの一箱を開けて焼いたのだった) 身重の妻に無理させたくない守は彼女を手伝って二人してチョコマフィンを焼いたのだった。 新たに焼いたものに千代とスターシアが焼いたチョコマフィンを加え、ラッピングし、紙袋に入れ 守はそれを提げて月曜朝登庁したのだった。




廊下でぽんっと肩を叩かれ守が振り向くとそこに真田志郎が立っていた。
「ほぉ〜〜古代、もうそんなにもらったのか?やるな」
感心したように守が提げている紙袋を見て真田が言った。
「違うって、これは・・・あ・・」
守はがさごそと紙袋から包みを一つ取り出すと
「ほれっやるよ」
と真田に手渡した。
「古代・・・これはどういう・・・・。」
渡された小さな包みを見て真田は妙な表情をした。
男が男にチョコを贈ることの意味するところは昔も今も変わらない。
「悪いが俺にはそういうシュ・・・」
「ば〜か、スターシアからだ。」
へ?となった真田に
「スターシアがバレンタインデーに、世話になってる人間に何か贈りたいと言いだしてな、 それはその贈り物。お前もその世話になってる一人ってわけさ。」
と守が言った。
「ふ〜〜〜ん」
手の中のラッピングされたマフィンをじっと見ていた真田だったが、やがて
「ありがたく頂戴するよ」
といって袋からマフィンを取り出すとぱくっと一口で食べた。
「お前なぁ・・何もこんなところで・・」
「朝食まだなんでな・・おお美味いな・・!」
「だろ?」
「あの森水の粉はいけるな。」
「なんだ、わかるのか?お前相変わらずいろんな意味でマニアだな。」
「・・・で何個焼いたんだ?お前一緒に作ったんだろう?」
「まぁな〜ってなんでわかるんだ。」
「スターシアさんはまだ地球にやってきて一ヶ月かそこらだぞ。地球の色々に不慣れなハズさ。 考えなくともそんなことぐらいわかる。」

こんな二人のやり取りを廊下に居合わせた数人の職員が聞いていた。 彼らは何事か考えていたようだったがやがて意を決したように
「「「あの〜〜〜〜古代参謀?」」」
と守に近づいていった。
「何か??」
「ソレ・・・」
一人の職員が守の紙袋を指差した。
「コレが何か?」
「「「奥様の手作りなんですよね?」」」
職員全員が見事にハモった。
「いや、手作りというほどのものでは・・・!」
目をきらきらさせた職員がお願いのポーズで守にせまってきた。
「「「古代参謀いつもお世話になってます。」」」
(いや、君達とは部署違うし、)
「コレ大したものではないですが・・」
一人の職員が包みを差し出した。
(男からチョコ貰っても困るんだが・・・ってなんで持ってるんだ?)
心の中で突っ込む守にお構いなしにさらに職員達は守にせまってきた。
「「「古代参謀〜〜」」」
(なんなんだこの異様な気迫は?)
守がそんな職員達に戸惑っていると、
いきなり
「ほれっこれ持ってさっさと自分の部署に行け!ありがたく食べろよ。」
真田がそう言って守の紙袋からマフィンを取り出すと 職員達にほい、ほい、ほいっと手渡した。
「「「ありがとうございます。」」」
嬉々として彼らは去っていった。
「な・・なんなんだ?」
守には何がなんだかわからなかった。
「ありゃスターシアさんのファンだな〜よほどそのマフィンが欲しかったんだな。」
真田が守には理解できないことを言った。
「なんだそりゃ?」
「地球に手を差し伸べてくれたスターシアさんにみんな感謝してるのさ。そのことはわかるな?」
「まぁ・・・それは。でもファンとかってワケわからん。」
「一度だけマスコミにスターシアさんの姿が公開されたことがあっただろう?」
あ・・と守は思った。 一度スターシアは連邦大統領と防衛軍司令長官とに会見したが、その時の写真が公開されたのだった。 本人の強い希望からスターシアをそっと扱いたい防衛軍側だったが、一目スターシアを見たいという地球市民の強い欲求に折れた結果だった。
「みんな・・防衛軍に勤めている者はわかってるからな、 表面上はみんな騒がないけど、お前の奥方は結構人気あるぞ、美人だし。あの写真が決定的だったな〜」
真田はニヤリとして言った。
そういえば・・・と守は思い出した。 何故か、奥様は元気にしていらっしゃいますか?と人からよく声をかけられるのだ。
「あの〜古代参謀?」
またも誰かに守は声をかけられた。
明らかにスターシアのマフィン目当てである。
先ほどの職員から話を聞いたのだろう。 それからは
「古代参謀〜」
「古代参謀?」
と次から次へと守と真田の周囲に人が集まってきた。 廊下はもう身動きできない状態になってしまった。

な、なんなんだぁぁぁぁ〜〜〜〜〜

歴戦の勇士といえど古代守はこの異様な状態になす術なく立ちつくしていた。 そのときだった。
「「くじ引きにしま〜〜〜す!!」」
と人ごみの一番後ろの方から声がした。 南部と長官秘書の森ユキだった。
「みなさん、本日午後5時、大会議室で大くじ引き大会をしま〜す。 スターシアさんのチョコマフィンを欲しい方はお集まりください」
と南部。
「もちろん古代参謀立会いのもとです。」
とユキ。
「スターシアさんのチョコマフィン欲しいかぁぁぁ?」
南部が叫べば
「おおおおおーーーー!」
とその場にいたもの全員がこぶしをあげて答える。
「参謀、それでよろしいですね?」 とユキ。
「あ・・・ああ。」
守はあっけにとられていたが、この状況をなんとか出来そうだとわかると
「解散!」
と号令をかけた。
守の一言で廊下の人ごみはあっという間に散っていった。
「いやあ助かったよ。」
守はほっとして南部とユキに声をかけた。
「ふふふ〜くじ引きのアイディアは南部君なんですよ。」
「会議室を押さえたのはユキさんですよ。いや〜もう廊下が人で一杯だったんで最初は何事かと思いましたよ。」
「俺自身もびっくりさ。」
守はがっくり疲れていた。
「古代、言ったろう。スターシアさん人気があるって。」

さて予定通りくじ引き大会は開かれ スターシアのチョコマフィンを手に入れた者は 非常に幸せそうな顔をしてみな帰っていった。

スターシアさんの手作りかぁ〜
防衛軍に勤めていてよかった〜
これ食べないで一生大事にします〜〜

とわけのわからないことを言いながら。

いや、大事にしなくていいからとっとと食べてくれ。

と内心ツッコミを入れつつ、 一瞬地球防衛軍の行く末に不安を抱いた守だったが、 とりあえず義理マフィンが全部はけ、みんな喜んでくれたようなのでホっとした。

「来年からはコレ、イベントにしましょう〜是非。スターシアさんにも来てもらって」
南部が眼鏡を光らせて守に言った。
「南部ぅぅぅぅ〜〜〜〜〜。ウチのにはこんな大騒ぎに巻き込みたくないからな。」
「あはははは・・・・・」

さて 守の思いとは反対に 南部が取り仕切り、毎年バレンタインイベントは開かれることとなった。 意外にもスターシアも参加することとなった。 戦争で悲しい思いをしてきた地球人は何かでみな盛り上がりたいと思っていたのだった。 その気持ちを汲んだからこそスターシアは参加することにしたのだった。

おしまい

2010.1.16

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