ヤマトの展望室で
二つの影がイスカンダルのあった方向を言葉もなく見つめていた

スターシアの言葉を信じ
ヤマトとデスラーはイスカンダルのあった宙域を緊急離脱した。
ヤマトもデスラーもイスカンダル崩壊のデータをつかんではいたが
スターシアの言うように、そんなに急なことだとは予想もしていなかった。
暗黒星団帝国の艦隊もデータを手にしていたものの
彼らはスターシアの言葉を信じなかった。
強靭な艦隊もイスカンダルの崩壊に巻き込まれて宇宙の塵と化してしまった。


音もなく強烈な光が漆黒の宇宙の中のある一点から広がり
展望室いっぱいに満たしたかと思うと急速に収束していった。

強引な守に反発する気持ちを持ちながらも
こうなってしまった以上は守の言うようにしっかりとイスカンダルの最後を見届けようと
微動だにせず、イスカンダルの方向をスターシアは見つめ続けていた。
静寂が展望室の二人を包んだ。
しばらくするとざわざわとつぶやくような波がスターシアを襲ってきた。
その波は繰り返し彼女に襲いかかり次第に大きくなっていった。
誰かの思念、イスカンダルに眠る同胞たちの魂の輝き
スターシアはその輝きをつかもうとしたが出来なかった。
どれもこれも彼女を素通りしていってしまう。

「ああ・・・」

めくるめく輝きに翻弄され
スターシアはとうとう気を失い倒れこんでしまった。

「スターシア!」
傍らにいた守はスターシアを抱きとめた。
スターシアに何が起こったのか
波を感じとることが出来ない守には見当もつかなかった。




スターシアが気がつたとき
彼女はヤマトの医務室のベッドに寝かされていた。
いったい自分はどのぐらいここで眠っていたんだろう。
スターシアはゆっくりと体を起こした。
少し頭がくらくらした。

お姉さま、イスカンダルの心を残し、伝えて。

あれは夢だったのだろうか?
妹、サーシアの声がスターシアの胸によみがえってきた。

サーシア、私・・・・。
私、こうして生きているの。
私の役目は生きてイスカンダルを伝えることなのですね?

ええ、次に続く者に お姉さま。

サーシア・・?

するはずのない妹の声が聞こえた気がした。

ふとスターシアは自分のお腹に手をあてた。

スターシアの眼からとめどなく涙が流れ落ちた。
さまざまな想いが彼女の頭の中を通り過ぎていった。
小さなころから、やがて女王となるべくして育てられた。
次々といってしまう同胞をずっと見送ってもきた。
そんな自分はイスカンダルと運命を共にするものだと当たり前のように思ってきた。
だがこうして今自分はイスカンダルから離れた場所で生きている。
そうなったのはあの一人の地球の男のせいだった。

イスカンダルという星が確かに存在したということを伝えるべきではないのか?
俺たちがいなくなってしまったら、特に君がいなくなってしまったら
永久にイスカンダルは消滅してしまうんだ。そんなのはダメだ。
きちんと見届けて伝えるべきなんだ!

あの時守は必死にそう自分に訴えてきた。

守・・・!

思えば、いくら守の力が強かったとはいえ
守の手を振り払えなかったのは
もうあの時点で自分は女王を捨てていたのかもしれない。
守の手前、強がって直立不動でイスカンダルの最後を見つめていたけれど
本当は守に寄りかかりたかった。
気を失いかけ守に抱きとめられたとき
どんなに自分の心は安らいだことか。
強がりの奥の弱い心をもった自分。
スターシアは今まで認めてこなかった自分を今はっきりと認めた。

守・・・

スターシアは無性に守に会いたくなった。
足音が近づいてくる
静かに だが心強い足音。

「スターシア、起きて大丈夫なのか?」

ベッド周りのカーテンが少し開いて
今スターシアが会いたいと願っていた相手
守が顔をのぞかせた。

「守・・守・・・」
スターシアは必死に守にしがみつくように抱きついた。
「おいおい、どうしたんだい?もしかして泣いていたのかい?
君が呼んでいる声が聞こえた気がしたんだ。
佐渡先生は、疲れているからそっと君を眠らせておいたほうがいいとおっしゃっていたからね。
俺は隣の部屋にいたんだけれど」
「大丈夫よ・・・守・・あの・・」
「おお、スターシアさん気がつかれたかの?うん、顔色もだいぶもどったようじゃの」
佐渡医師もスターシアの起きた気配に気がついて顔をのぞかせた。
「あの、私どうしていたんですの?」
「展望室で急に倒れたんじゃよ。守君があんたを抱えてここまでやってきたんじゃ。
ずいぶんをあわてとったぞ。まぁ、そのいろいろあったからの。きっと疲れていたんじゃろて。
それに・・・」
「それに??」
「ああ、佐渡先生。私はスターシアと少し静かな場所で話がしたいのですが」
守が佐渡の言葉をさえぎるようにあわてて言った。
「おう、かまわんが、奥方にあんまり無理をさせるんじゃないぞ。
まぁ、あれはなんだ、お前さんから話ておやり。」
「そうします。」
「お話?なぁに?守」
「俺達二人の部屋を用意してもらったんだ。そこへ行こうか?スターシア。大丈夫かい?」
「ええ、大丈夫よ。行きましょう。」


2人に用意された部屋は戦艦特有の簡素なものだった。
ベッドサイドの小さなテーブルの上に飾られた
特殊ガラスの花瓶のかわいらしいピンク色の花が部屋の雰囲気を幾分和らげていた。
せめてもの雪の心遣いだった。
それに気がついたスターシアの頬には自然と笑みが広がった。
ベッドの端に腰を下ろすとスターシアが守を見上げて言った。
「守・・お話って?」
入院検査用の白い服を着て上からガウンを羽織っただけのスターシアだったが
その横顔はすっきりといつにも増して美しかった。
「あの・・」
そんなスターシアにしばし見とれて守が言葉に詰まっていると
「守。ありがとう。」
スターシアが静かに言った。
「え?」
「なんて強引な人なんだろう、私の気持ちはどうなるのって
私、あなたのことちょっぴり恨んでいました。
でも、今こうしてあなたと一緒にここに生きていることがとても嬉しいの・・」
守は言葉もなく静かにスターシアを抱き寄せた。
「イスカンダルが崩壊したあとイスカンダルに眠っていた同胞の魂が私に波のように寄せてきたわ。
私が気を失ったときのことね。
みんなすり抜けて遠くへ行ってしまってとても悲しかったわ。私も一緒に行ってしまいたかった。」
「スターシア・・!」
「でも最後に妹がやってきて私にこう言ったの。
イスカンダルの心を残して伝えて と。
守とおんなじことを言ったのよ。
妹が私をあなたのもとへ背中を押してくれたのよ。
そしてあなたが私をイスカンダルから連れ出してくれたわ。
あのままだったら、私、私・・・。」
スターシアの眼から涙があふれ出た。
守はたまらずスターシアを強く抱きしめた。
「私が気を失いかけたとき、あなたは私を受け止めてくれたわね。
あの時私はとっても安心したの。あながいるから大丈夫だと。
私にとってあなたはかけがえのない人・・・
守、いつも側にいてくれてありがとう。」
「俺の方こそ、君は俺にとってもかけがえのない人さ。
君がいなかったら今の俺はいない。ありがとう・・スターシア。
あの時、強引だとは思ったけれど、必死だったんだ。
君を失うわけにはいかなかったから。
本当に今こうしてここに居てくれてありがとう。それに・・」
「・・?」
「うん、実はね君が倒れたときに、佐渡先生が検査をしてわかったことなんだけど・・」
「ふふふ・・・私達の希望のことね」
「スターシア・・!」
「私、母親になるのですねぇ。」
「そうだよ。えっ?知っていたのかい?」
「そうねぇ、つい先ほど気がついたの。あいまいな感じだったのだけれど、
でも、守のお話で確かめられたわ。
私はこの子に伝えることが出来るのね。」
「ああ・・」
「この子はきっと女の子よ。サーシアって名前にするわ」
「ずいぶん気が早いね」
二人は静かに笑った。
スターシアはいとおしそうに自分のお腹に手をやった。
そんな彼女を守はやさしく見守っていた。


おしまい
2010.11.16
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ちょっと苦しいこじつけのお話し。
やっぱり夫婦二人そろって生きてた方がいいな〜と
こうだったらいいな〜と思い書きましたが突っ込み満載です。
大目に見ていただけますとありがたいです。
イラストは大昔に描いたものを発掘しました(笑)
1988年に描いたもの。Gペンを握らなくなって久しいので、もうこのような絵は描けないでしょう。

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