明日への希望



大きな波
同胞達の魂の輝きが波のようにスターシアに押し寄せる。
が、その波は彼女をすり抜けて遠くへ、遙か遠くへ去ってゆく。
いく度も波が押し寄せてきては彼女をすり抜けてゆく。
イスカンダルの海の波のように寄せてかえすことはない。
深遠の宇宙に吸い込まれるようにみんな手の届かない場所に去ってしまう。

まって・・・
まって・・・・ 行かないで・・!

自分の声に振り向いて欲しいとスターシアは必死に輝きに語りかけるけれども、どの輝きも彼女の声が聞こえないかのように
急ぐように彼女の中をすり抜けてしまう。

ああ・・・ 私も連れて行って・・・
イスカンダル星と多くの同胞の魂を抱いて
この星と運命を共にするのが王家の者としての私のつとめ
なのになぜ・・・・
私を置いてゆくの・・・
なぜ・・・・

騒がしいほどの波はだんだんと薄く細くなりとうとう最後の波が彼女を通り抜けて行った。
やがて耳の奥が痛くなるほどの静けさが彼女を包んだ。


お姉さま


一滴のしずくのような声がスターシアの心の奥に響いた


お姉さま
イスカンダルは多くの同胞とともに星そのものは散ってしまいました。 けれども私達は、ここに、この空間にイスカンダルがあったことを忘れてほしくはないのです。
かつてここに一つの星が存在し多くの人の命の営みがあったことを知っていてほしいのです。
忘れ去られてしまうことほど寂しいものはないわ。 誰かの心の中に、一人でも多くの人の心の中にイスカンダルをとどめておいてほしい。そう願っているのです。
その希望をかなえられるのは お姉さま あなたしかいないの。
どうかお姉さま、イスカンダルの心を残し、伝えて。


サーシア・・・!


はっとして
スターシアは目を開けた。
しらじらとした照明がぼんやりと目に入ってきた。

ここは?

彼女はゆっくりと体を起こし周囲を見回した。
体にかかっていた毛布が落ちた。
スターシアは自分がベッドに寝かされていることに気が付いた。
ベッドの周囲はカーテンでぐるりと覆われていた。

 ああ、そう、ここはヤマトの中だわ。

スターシアは思い出した。

私は守と一緒にイスカンダルから脱出し
イスカンダルの最後をヤマトから見届けたのだったわ・・・。







ガミラスとイスカンダル
双子星の一方であるガミラス星が崩壊しイスカンダルはその軌道からはずれ宇宙を放浪することになってしまった。
イスカンダリウムを狙う謎の艦隊
スターシアと夫の守に助けの手を差し伸べてくれたデスラーとヤマト。
イスカンダルに固執していたスターシアとその想いを汲み取っていた守はそんな彼らの申し出をかたくなに断った。

暴走したイスカンダルは地下マグマの動きも活発化しぼろぼろの状態だった。
もともと滅びゆく運命にあった星であったが軌道をはずれ、暴走したことによりさらにその寿命が縮まってしまった。
赤色巨星をかろうじてかわしイスカンダルのスピードが落ち始めたころ、スターシアは何か得体の知れないうめきのような圧迫した空気を感じた。

イスカンダルが崩壊する!?

彼女は直感的にそう悟った。
イスカンダル人特有の超能力とでも言うべき能力で彼女はそのことを感じたのだった。
彼女の傍らでは守が必死にコンピュータから送られてくるデータをにらんでいた。

・・・・・・。
コンピュータに送られてくるデータ予測よりもずっと早く崩壊するわね。
いざ というときは地下に設置された自爆装置を作動させるつもりだったけれど・・・・
アレを使わなくともこの星は・・・・・。

先ほど傍受したヤマトと謎の艦隊 暗黒星団帝国 との通信によれば、暗黒星団帝国は星間戦争のためにイスカンダリウムを強く欲しているようだった。

これはチャンスよスターシア。 
暗黒星団帝国側もイスカンダル崩壊の兆候はつかんでいるでしょう。
焦っているはずよ。
ガミラシウムを手にすることが出来なかったのだから、なんとしてもイスカンダリウムを手にいれようと焦っている。
でもねフフフ・・・・、残念 この星の崩壊のスピードはもっとずっと早いのよ。
彼らが望んでもイスカンダリウムを手にすることは決してできないでしょうね。
暗黒星団帝国側にイスカンダリウムをやると言えば、しばらくの間戦いは収まるはず。
その間に守をヤマトに送ることが出来る。
そう、イスカンダリウムが彼らの手に渡ることはないし、守を地球へ帰すことも出来るのよ。
守・・・・今まで本当にありがとう・・。
あなたは地球で生きて・・・・・

だが守が、はいそうですかと一人脱出するとは到底考えられない。
スターシアはどうすべきか必死に考えをめぐらせた。




「私はどこにいてもあなたと一緒なら幸せ。あなたの故郷、地球へ参りましょう。」
スターシアの翻意に守は驚いていた様子だったが、その守の視線をを無視するように、スターシアは淡々と脱出の用意をはじめた。そして、スターシアは守を伴ってクリスタルパレス最上階にある脱出カプセルへと急いだ。

自分も一緒カプセルに入ると見せかけ、守を一人残し扉を閉めてしまえばそれですむことよ
私の決心を守に悟られませんように

スターシアの心は震えた。

「スターシア、本当にいいのか?」
カプセルに入ると守はスターシアに問いかけた。
ええ とスターシアは静かにうなずいた。
それとなくスターシアは扉の方へと体を移動させた。
ゆっくり、ゆっくりと。
カプセル内の計器を操作する素振りを見せながら。
あと一歩踏み出せば扉の外へ出られる、というところまで移動したところで一瞬・・・・、スターシアは守をじっと見つめた。
そんなスターシアを守もじっと見つめた。

さようなら・・・・守・・・・・

さっとスターシアは身を翻すとドアの外へと躍り出た。
ドアの外へ出るはずだった。

「嘘はやめて欲しいな。」
守の強い力でスターシアは手首をつかまれた。
「守!」
「君はイスカンダルに残るつもりだね。」
「・・・・!」
「イスカンダルはもうすぐ・・・そうコンピュータの解析だとあと一日二日のうちに崩壊する。
そんなイスカンダルに君は残るつもりなんだね。
君は暗黒星団帝国にイスカンダリウムをくれてやると言った。
イスカンダル崩壊が近いことを彼らにわざわざ言い添えて。
まるで、そう、まるで早くしないとイスカンダリウムを手に入れることが出来なくなるとでもいうように。」
そこまで守は言ってからはたと気が付いた。
「・・・!そうか!もしかして解析結果よりもものすごく早いんじゃないのか?崩壊が。それを君は感じたんだ。イスカンダル人特有の感性で。彼らがイスカンダリウムを手にすることは出来ないという確信も君は持っている。そうなんだね?」
守が問い詰めるように厳しい視線をスターシアに投げた。
「何故だ!君の言葉で戦闘は収まったが、その間になぜ俺だけを脱出させようとするんだ。」
いっそう守は力を入れてスターシアの手首をつかんだ。
「それは・・・・」
守の洞察力にスターシアは言葉が出なかった。
怒りと悲しみの混じった目で守はスターシアを見つめた。
守のストレートな感情がスターシアの心に怒涛のごとく入り込んでくる。
一瞬スターシアはひるみそうになった。だが
「私はイスカンダル王家の最後の者。イスカンダルを最後まで見届けるのが私のつとめ。
でも、あなたは違うわ。あなたは地球のひと・・・・・。」
やっとのことでスターシアは守に言った。
「違う!!」
守はスターシアを力いっぱい抱きしめた。
「あの日、イスカンダルに残ると決めたあの日から俺はイスカンダルの人間なんだ。」
「だめ、守、」
「君はわかってない!」
守はスターシアを抱きしめる腕の力を強めた。
今この女性を離してしまったら二度と自分の手の中に戻ることはないと守は必死だった。
「俺の命は君とともにあるんだ。」
スターシアはどうしてよいかわからず途方にくれた。
一緒に運命を共にと言ってくれる守の気持ちが嬉しかった。
出来ればずっとこうして守に抱きしめられていたかった。
でも自分は女王だ。
どうしてもイスカンダルを、大地に眠っている同胞を見捨てるわけにはいかないのだ。
たとえ消滅する星であっても。
一人の女性としての感情と女王であろうとする感情が彼女の中で渦巻いていた。
ふいに一筋の涙がスターシアの眼から零れ落ちた。
守はそれを見逃さなかった。

この女性を死なせてはならない。
瀕死の自分を助けてくれたこの女性を!

守の頭の中に叫ぶような自分自身の言葉が響き渡った。

俺はイスカンダルの人間?
イスカンダルとスターシアと運命を共にする?
何を考えていたんだ俺はっ!
スターシアと結婚して確かにイスカンダルの人間にはなった。
けれどもやはり自分は地球人だ。
生まれ育った星が地球だから。それは紛れもない事実だ。
その地球人の自分がイスカンダルのスターシアを愛した。
スターシアと運命を共にするというのならそれは死ぬためじゃない。
一緒に生きるためだ。それが地球人というものだ!

守は決心した。
「スターシア・・・・。君はさっき、俺は地球の人だと言ったね。
だからイスカンダルの運命に巻き込むわけにはいかないと・・。
君の言うとおり、俺が自分自身どんなにイスカンダルの人間だと思っていても
俺の中に流れているのは地球人の血だ。地球人なんだ。
そして一度は死んだも同然な人間。その命を君に助けられた。
だからこそ言うよ。
地球人として言うよ。
共に生きよう、スターシア。
イスカンダル人の君にはイスカンダルと運命を共にするという道しか考えられないかもしれない。
でも、最後の人間だからこそ、この目でしっかりとイスカンダルの最後を見届けるべきではないのか?」
「守・・」
「見届けて、イスカンダルという星が確かに存在したということを伝えるべきではないのか?
俺たちがいなくなってしまったら、特に君がいなくなってしまったら
永久にイスカンダルは消滅してしまうんだ。そんなのはダメだ。
きちんと見届けて伝えるべきなんだ!」
「・・でも」
「・・ふん・・君は見届ける勇気がないんだね。」
「失礼だわ・・私はそんな・・」
言ってしまってスターシアはしまったと思った。
「決まりだ!」
守はニヤリとしてさっさと脱出用カプセルの離脱ボタンを押してしまった。
「さっき君は俺と一緒に地球へ行くといった。
だから君を地球へ連れてゆく!
方便?ああ、何とでも言えばいい!
俺は君の手を離すつもりはない。」

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