おー4126号作戦 (1) byばちるど ― ! くそ! また ・・・ 外れたかっ・・・! 古代守 は歯噛みをして悔しがった。 いや ー もう悔しがっている余裕など 残されてはいない。 「 兄さん! 」 隣から弟の悲痛な声が響いてきた。 「 進! 」 「 ダメだ〜〜 こっちは全滅だ ・・・! 」 「 おい、ユキは? ユキはどうした!? 」 「 ダメなんだ・・・ ユキも・・・ ユキももうダメだ。 ・・・ 兄さん! 」 「 く ・・・! 進、諦めるな! 最後の最後まで ― 諦めることは許さん! よ よし ・・・ これで ― 最後 ・・・! 」 守は く・・・っと奥歯を食い縛り全身の神経を集中した。 これを外したら あとがない。 この一撃に 存亡の危機 が掛かっているのだ。 「 ・・・ くそ ・・・! ( 落ち着け! 戦闘士官たるものが! ) 」 彼は静かにレバーに手を当てた。 いくぞ・・・! ・・・・ 撃 −−−−−! ― その日。 地球防衛軍 ・・・ いや 古代一族は全滅した。 そこに現れたのは地球救済の女神にして古代守夫人でもある・イスカンダルのスターシア女王陛下。 「 まあ ・・・ 皆さん、大丈夫ですか? 」 「 あ ・・・ スターシア ・・・ すまん、もうタマがない ・・・ 我々は全滅だ ・・・ 」 「 うふふ・・・ こんなこともあろうかと♪ 真田さんから譲って頂いてありますの。 」 「 な なんだって?? 」 「 ええ 真田さんから万一の場合に備えて・・・と密かに渡されておりますの。 」 「 そ そうか!? では スターシア、君に一縷の望みを託す! さあ ここに来たまえ。 」 「 皆様のお役にたてれば本望ですわ。 」 「 よ よし ・・・ それじゃ ・・・ここを持って こう〜〜〜 ・・・ 」 守は最前線の位置を彼の細君に譲った。 そして ― 女王陛下は その白い御手をレバーに当てた。 「 ・・・こう? えい ・・・! 」 ― ガラガラガラ ・・・・ ぽとり。 ちっちゃな玉がお皿の上に落ち・・・ あた〜〜〜り〜〜〜〜〜 !!! ドンドンドン ッ うわ〜〜〜〜 !! 歓声が辺りいっぱいに響きわたった。 「 あ ありがとう〜〜〜 スターシア!! これで地球は救われた・・・! 」 「 まあ 守ったら。 うふふふ・・・でもお役にたてて嬉しいですわ。 」 女王陛下は いとも艶やかに微笑まれたのであった。 その年、 万年多忙の地球防衛軍本部は ことさら多忙な日々を送っていた。 正月明けから忙しく 花見もゆっくり楽しめず、 GWは全く無視され お盆休みは交代で 紅葉狩りなど別世界な話 ・・・ まあそれなりにいろいろ・・・ あったのだが。 そして カレンダーが最後のページとなり、本部のある街にカラッ風が吹く季節になると 人々のイライラは頂点に達してきていた。 そんなある日、ささやかな楽しみとして 古代守はスターシアと南町商店街にやってきた。 「 まあ 〜〜 とてもにぎやかですのね。 」 「 うん。 歳末大売出しだからな。 ああ ほら、あそこだよ。」 守は商店街の中ほど、 紅白の幕が張ってあるスペースを指した。 「 ふ く び き、 でしたわね。 うふふ〜〜 楽しみだわあ〜〜 」 「 あは ・・・ 券がたくさん溜まったからな。 何回も引けるぞ。 まあ ・・・ 鍋とか大根くらい当たるだろうさ。 」 「 すてき♪ だいこん、大好きですわ〜〜 だいこん だいこん〜〜♪ 」 「 ははは ・・・ お? 進じゃないか。 」 反対側からやってきた弟夫婦をみつけ 守が声をかけた。 「 あ 兄さん! 兄さん達も福引にきたのかい? 」 「 まあ 進さん、 ユキさん〜 お元気そうね。 」 「 お姉さま〜〜 お久し振りです〜〜 ねえ この先にアウトレットのお店ができて・・・ 今度 ご一緒しませんか? 」 「 あうとれっと?? 」 「 ええ あのね ・・・ 」 女性陣はたちまちにぎやかにお喋りを始めた。 「 お〜い それじゃ俺たちから始めるぞ〜〜 」 「 はい 守、どうぞ。 しっかり見学していますから。 」 「 よし。 俺の腕前を見ていろよ! ふふん・・・ 戦闘士官の腕のみせどころ、だ。 」 「 お〜っと兄さん? ここは戦闘班長の僕が優位だと思うな〜〜 」 「 お。 言ったな? それじゃ競争だ。 」 「 了解〜〜 いざ! 」 「 おう! 」 ― という訳で福引に勇んで挑んだのだが ・・・ 古代兄弟は全滅、ティッシュの山だけが手元に残り、頼みの綱であったユキも券を全部使って キッチン用洗剤 を一個引き当てただけだった。 唯一残っていた <古代一族 > ― 古代サーシア嬢は。 「 あら お父様〜〜 やだ お母様とご一緒にお買い物なの? 相変わらずお熱いこって・・・ え。 ふくびきけん? それ ・・・ なあに? 」 ― てんでオハナシにはならなかったのである。 ・・・ そして。 やはり、というか さすが というか。 女王陛下は見事に 特賞 をお当てになったのだ。 「 きゃ〜〜〜 すごいわァ〜〜 お姉さまったら〜〜 」 「 う〜〜ん ・・・さすがだなあ〜〜 義姉さん 〜 」 「 お母様って ・・・ 強運のヒトなのねえ〜〜 」 弟夫婦とムスメの感嘆の視線を受け ご本人もにこにこ・・・満面の笑みである。 「 うふふ うれしいわ〜〜 ねえ 守、 とくしょう ってなあに? 」 「 一等賞よりも上!っていうことだよ〜 」 「 まああ〜〜 それじゃ ・・・・だいこんをたくさんいただけるのかしら。 あら お鍋でもいいのですけれど? 」 「 奥さん 奥さん 〜〜 南町商店街を侮ってもらっちゃ困りますなあ〜〜 」 福引所にいたハッピをきたオッサンが ずい、と胸を張って言った。 「 はい? 」 「 あのですね、 南町商店街・歳末大売出しの福引・特賞はですね ― 」 ― 一泊ニ日の伊東温泉旅行の旅 だったのである。 「 うわ〜〜〜 やったな〜〜 」 「 すごい すごい すごいわァ〜〜 お姉さま〜〜〜 」 「 よし。 決めた! 俺、 休むぞ〜〜〜 年休 消化だあ〜 」 「 兄さん! ・・・ 僕も便乗しても いいかな!? 」 「 おう、ユキと二人で一緒に来い。 ナンならお前ら〜〜 新婚旅行にするか? 」 「 え。 ・・・ 遠慮しとく。 一泊二日だしなあ ・・・ 」 「 だから来いって行ってるだろ。 お前も年休、未消化チームなんだろ? この際 なんだっていいんだ、理由くっつけて休め! 」 「 う うん ・・・ そだね、この際ガバっと休んで温泉〜〜♪ どうだい、ユキ? 」 「 きゃ〜〜 古代く〜〜ん♪ 素適ィ〜〜〜 ♪ 」 ユキがぺったり・・・進に抱き付いた。 「 ユキさん。 お控えなさい。 皆さんの前で人妻がはしたないですわ。 」 「 あ ・・・ご ごめんなさい ・・・ お姉さま ・・・ 」 スターシアが厳しい声で ユキを嗜めた。 「 「 ひえ・・・ おっかね〜〜〜 ★ 」 」 古代兄弟はそっと ・・・溜息をつき首を竦めた。 「 お父様〜 お母様〜〜〜 アタシも〜〜 アタシもまぜてェ〜〜 」 「 おう サーシア。 ほら これ < ご家族でご招待 > ってなってるぞ? お前もひっくるめて ウチ中で繰り出そう! 」 「 きゃ〜〜〜 お父様〜〜〜 ステキ♪ 」 サーシア嬢は 守の首ったまに齧りついた。 「 ・・・ 義姉さん ・・・ 叱らないんですか? 人前で・・・って。 」 「 あら 進さん。 サーシアはまだやっと四つですもの、コドモはいいんです。 」 「 ・・・ ( ソレってアリかあ〜〜?? ) 」 「 凄いですねえ〜〜 特賞ですか? 古代さん。 」 「 お? 相原じゃなか〜〜 なんだ、相原も福引かい。 」 「 ええ。 結構ここで買い物するから ・・・ 券が溜まってて・・・ それに彼女を案内してて 」 「 へ? 」 「 こんにちは。 お久し振りです。 」 相原の後ろから若い女性が丁寧にお辞儀をした。 「 あ ・・・ 晶子さんじゃないですか〜〜 いやあ・・・こちらこそ久し振りです! 」 守が先に気がついて 彼もきちんと挨拶をした。 相原が一緒にいた女性は ― 藤堂晶子。 かの御仁の孫娘だ。 二人は南のリゾート地で偶然出会い恋に落ち ・・・ 紆余曲折を経てなんとか 公認の仲 と なったのはつい最近なのだ。 「 うふふ・・・ 私たちもティッシュばっかりでした。 」 「 えへへ・・・ くじ運はまるっきり・・・ですから。 」 「 オマエは金星射止めたんだから ― 一生分の運は使い果たしたのさ! 」 守の言葉に 周りにいた関係者一同がどっと笑った。 そう ・・・南町商店街の福引には防衛軍の人達がたくさんきていた。 ここは本部のお膝元で 日々の勤めの行き帰りや昼休みに皆が利用する町なのだ。 「 え〜〜 年休消化ですか〜〜 いいなあ〜〜 」 「 そんな〜〜〜 一緒に休みたい〜〜 」 「 仕事 山積みなんですよ〜〜 」 守の < 年休宣言 > に あちこちから聞き慣れた声がぶちぶち聞こえてきた。 「 う〜〜 ・・・・ ええい! 全員ひっくるめて〜〜 温泉行きだあ! 」 「 まあ すてき。 楽しみですわ。 」 女王陛下もにこやかにご賛同なさったのである。 でもって。 守にスターシア、そして弟夫婦、 サーシアになぜか四郎君、なんと真田さん に 島クン そして 相原クンに晶子さん ・・・という伊東温泉行き・ご一行様 が組織されたのだった。 ― その日の朝。 地球防衛軍本部の総務部は 朝から電話が鳴りっぱなしだった。 「 はい 総務部。 ・・・ ああ欠勤届けですね。 お名前とIDをどうぞ。 は? オジサマがご危篤? サーシアさん? はァ・・・ は? メリー・ジェーンさん?? がご病気? ・・・ ああ 猫ちゃんですか・・・ は? 婚約者様のオジイサマがご休病? え 相原さん? は? ガス会社と排水工事と電気工事が重なった? は? 高熱で腹痛で頭痛で腰痛で 起きられない? は? 弟さんの運動会の撮影要員? 島さん? はあ〜〜 ・・・ お大事に!!! 」 「 なんなの〜〜〜 なんだって今朝に限ってこんなに欠勤が多いのよぉ〜〜〜 」 「 わかんないけど ・・・ まあ ぽちっとすればそれで済むじゃん。 」 「 まあ ね。 さっさと済ませるわ〜〜〜 えっと? 参謀本部 ・・・ 参謀本部 ・・・あら これも参謀本部。 ふうん? 今日は参謀本部は臨時休業なのかしらね〜 ま いいけど。 」 総務部の女性担当官は勤怠などはさっさと ぽちっと済ませ 他の仕事に集中した。 そうなのだ! 各人はそれぞれ己の持ち場で己の最大限の努力をすべきであり ・・・ ― 他の部署がど〜であろうと 知ったこっちゃないのである。 「 わあ〜〜〜 ここが ホテル・ぴじょん? 」 送迎バスから一番に降りたサーシアが 歓声をあげた。 「 こらこら ・・・ 先に行くんじゃない。 ああ お前は温泉旅行は初めてだよなあ。 」 「 お父様〜〜 そうよ。 ねえ ・・・ ホテルってこういう建物だっけ? 」 サーシアの前には でん! と横になが〜〜い建物が構えていた。 南町商店街・福引特賞の < ご招待 > は 200年以上続く老舗の旅館 ホテル・ぴじょん。 伊東の町の海に臨める一角を占めていた。 「 ここはなあ、ホテルっていってもなあ。 今時のヤツとはちょっと違うんだ。 戦災後の復興の時にな、300年以上前の創業時の姿に戻したんだと。 」 「 へえ〜〜 お父様〜〜 さすが〜〜 」 「 ・・・と ガイド・ブックに書いてあったとさ。 」 「 ! 真田ァ〜〜〜 」 後ろから降りてきた真田が 笑いつつサーシアに説明補足をした。 「 真田のオジサマ〜〜 さすがね! 」 サーシアはぽん・・・と真田に抱きついた。 「 ははは ・・・このようなタイプは 旅館 と言われていたんだ。 ホテル・ぴじょんのウリは 大浴場と露天風呂、そして 多彩な海の幸 だそうだ。 」 「 まあ〜〜 すてき♪ ・・・ ろてんぶろ ってなんですか? 」 いつのまにか スターシアも娘と一緒になって真田の解説を聞いている。 「 スターシアさん。 露天風呂とは ― 文字通り、野外で入る風呂、温泉ですよ。 」 「 やがい? 外、ですわね。 まあ〜〜〜 ステキ♪ 」 「 わあ〜〜 それじゃお風呂に入りながら外の景色が見られるのね? あ・・・ ここなら海もみえるんじゃない? ねえ お母様 」 「 そうね そうね サーシア。 一緒に入りましょう〜〜 たのしみですわ〜〜 」 一行はもうわいわい・・・盛り上がって ホテル・ぴじょん に入っていった。 「 いらっしゃいませ〜〜 」 従業員さん達が並んで迎えてくれた。 福引・特賞ご一行様 は 守を先頭にしてどやどやと玄関口をくぐった。 「 あ〜〜 こんにちは〜 お世話になります。 」 「 代表の方? 恐れ入りますが 宿帳にご記入をお願いします。 」 「 はい じゃ〜 俺が ・・・ 」 守はフロントと思しきコーナーにゆき、 あとのモロモロはわらわらと靴を脱いだり 荷物を持ち上げたりし始めた。 「 あ ・・・ こちらでお願いしたいのですが ・・・ 奥様もご一緒に どうぞ ・・・」 フロント・マスターらしき少し年配の男性がすっと進み出て守とスターシアを個室に案内した。 「 守 ・・・ ? 」 いつも側に寄りそうスターシアはぴたりと彼に着いてきた。 「 ご足労をおかけいたしまして申し訳ございません ・・・ こちらでございます。 」 「 はあ ・・・ ァ お邪魔します 」 守はスターシアを伴って 杉の引き戸を開けた。 部屋の正面には 旅館の主が威を正して二人を迎えた。 「 ようこそお出掛けくださいました。 」 「 あ ・・・ いや その〜〜 南町商店街の ・・その 福引で特賞 ・・・ 」 「 ええ そうですの。 がらがら ぽ〜〜ん・・・って。 こちらこそありがとうございます。 」 守もスターシアも 少々面食らいあわてて挨拶を返した。 「 あの〜〜 宿帳は ・・・・? 」 「 女王陛下。 お越し頂きまして光栄でございます。 」 旅館の主は正座のままもう一度深く頭を下げた。 「 え ・・・ あ〜〜 あの 」 「 私、 今は古代の妻ですわ。 もう女王では 」 「 いえ。 陛下。 古代参謀殿。 ほんの少しだけお時間をいただけますか。 」 「 え ええ どうぞ どうぞ。 なあ? 」 「 ええ。 なにか ・・・ あ お話があるのですか? 」 スターシアはこくん、と首を傾げて訊いた。 「 御意にござりまする。 どうかお聞きくださいまし。 」 当主はまたまた一礼すると ゆっくりと話始めた。 「 ・・・ コスモ・クリーナーが稼働し始め 私共がやっと地上に出ることが出来た時 ― 私はイの一番に ここの・・・ホテルの跡地にやってきました。 全ては破壊され 地表もぼこぼこ ・・・ 海だけがやけに近くに見えましたっけ・・ やっと芽生えはじめた頼りない緑がそれは新鮮に見えましたよ。 」 当主は 遠い目をして続ける。 「 そして ・・・その瓦礫の中に ― あったのです。 滾々と湧き出ている 温泉の源が。 小さな小さな源泉でしたが ・・・確かに温泉でした。 これは この地に再建せよ、というこの地の神と先祖のご意志だ と直感しました。 それで 創業時と同じ昔風な建物での ホテル・ぴじょん の再興を決心したのです。 」 「 まあ ・・・ ステキですわね。 おんせんさんも皆様を待っていたのですね。 」 スターシアがほんわり〜した口調で答えた。 「 ああ そうだねえ・・・ それは素晴しいですね。 是非是非 ずっとこの地を護って来た温泉を楽しませてください。 」 「 ― どうぞ。 心からご歓待申し上げます。 お越し頂まして心から御礼申し上げます。」 「 いやあ〜〜 それは南口商店街さんにお願いしますよ。 あの 〜 どうぞ ただの、いや 少々賑やかな客、として扱ってください。 」 「 お願いしますわ。 うふふ ・・・ おんせん 〜〜 もう楽しみで・・・ 」 「 どうぞ ごゆっくりお過ごしくださいませ。 」 当主の心からの歓迎を受け 二人は返って恐縮してしまった。 「 あ〜〜〜 お母様ったら〜〜 遅い〜〜 ねえ お風呂 お風呂〜〜〜 」 部屋に戻ると サーシアが浴衣を広げてわいわい・・・騒いでいた。 < 特賞 ご一行さま > は 男女大部屋二つに分かれての宿泊だ。 「 まあ サーシア。 それは・・・ ユカタ でしょう? 」 「 お義姉さま よくご存知ですね。 」 「 うふふ・・・実は千代さんに教わったの。 着方と一緒にね。 」 「 ねえ〜〜 お母様! 早くお風呂に行きましょうよ〜う ! これ ・・・ 来てゆくの? 」 「 湯上りにさっぱりして着た方が気持ちがいいと思いますわ。 」 晶子がにこにこ ・・・ サーシアに教えている。 「 そうなんですか。 それじゃ早くお風呂! ねえ ねえ〜〜 ろてんぶろ〜〜 」 「 そうそう ・・・ 晩御飯は大宴会ですもの。 それまでにしっかり磨いておかなくっちゃ 」 「 まあ ユキさん。 進さんは今のままのアナタが一番、と思っていますわ。 」 「 や ・・・ だ お義姉さまったら〜〜〜 」 「 ねえねえ お風呂 お風呂〜〜 はやく はやく〜〜 」 「 はいはい わかりましたよ、サーシア。 」 サーシアは見知った顔ばかりなので < 小さなサアちゃん > に戻っていて きゃいきゃいとはしゃいでいる。 「 だいよくじょう? ・・・ こっちだわね! 」 サーシアは先頭になって母たちを引っ張っていった。 ほわ〜〜〜ん ・・・ 湯気が高い高い天井まで登ってゆく。 ホテル・ぴじょん自慢の大浴場は メインの大きな浴槽だけではなく、小さな浴槽があちこちに 点在していた。 「 わあ〜〜 これって ・・・ う〜〜〜ん ミカンの香りだ〜〜 」 「 きゃ・・・ ミルク風呂 ですって! 」 サーシアは それぞれの浴槽を渡り歩きそのたびに歓声をあげている。 「 まあ ・・・いろいろなお風呂がありますのねえ。 あらお湯の温度も違うのね。 」 「 うわあ〜〜・・・・ 温泉なんて何年ぶりかしら ・・・ いい気持ち ・・・ 」 「 ほんとうに ・・・ ここはジャングル風呂というそうです。 」 ユキや晶子も の〜〜んびり湯に浸かっておしゃべりを楽しいでいる。 「 お姉さま〜〜 なんてステキなボディ・ラインなんでしょう〜 一児の母、とは思えませんわ。 」 「 あら いやよ、ユキさん。 若い頃とは違ってきているのに・・・ 」 「 いいえ スターシアさん。 お肌もつやつやだし、スタイルもばっちり・・・ すごいです。 」 「 ??? いちじのはは って? 」 サーシアが ざぶざぶとメインの浴槽に戻ってきた。 「 うふふふ ・・・ アナタのお母様ってことよ、サーシアちゃん。 」 「 ? ・・・ ねえねえ ・・・ ろてんぶろ ってココじゃあないわよね? 」 「 あ ・・・ 露天風呂はねえ、この時間はダメなのですって。 」 ユキが壁に掲示されている注意書きを指した。 「 ぶ〜〜〜 ろてんぶろ って なんでダメなの〜〜 」 「 ・・・ 昼間は男性用、と書いてありますわ。 」 「 え〜〜〜 そんなの、ズルい〜〜 」 「 ろてんぶろ ・・・って こちらかしら? 」 「 ええ ・・・ その潅木の茂みの向こうから出るみたい、お姉さま。 」 「 まあ そうなの? 」 ホテル・ぴじょん自慢の露天風呂は 建物の屋上ちかくに設置されていた。 浴槽からははるか大海原が見渡せ 反対の方角には運がよければ富士山が見える という。 「 あらあ〜 わたしも入りたいですわ。 え〜と ・・・ ああ このドアね。 」 スターシアは すたすたと茂みの中に入ってゆく。 「 !!! お姉さま! い いえ 陛下〜〜〜 ダメです〜〜〜〜 」 「 今は! 殿方たちが入っていらっしゃいますし〜〜 」 ユキと晶子がびっくり仰天して あわててスターシアを止めた。 「 え? だから安全でしょ? 」 「 ― は? 」 「 わたし、いつでも守と一緒にお風呂に入りますし。 ユキさんだって進さんと一緒でしょう? 」 「 ・・・ え 」 「 晶子さんも サーシアだって ・・・決まったお相手がいらっしゃいますでしょう? 相原さんや四郎君も楽しんでいらっしゃるようだし・・・ 一緒に ろてんぶろ、楽しみましょうよ。 」 「 それとこれは! 」 「 まあ ・・・ だって他の男性のものになった女なんて 他の殿方は興味ないでしょう? 」 「 あの それはちょっと〜〜 」 「 陛下 ・・・ あの ・・・ 地球では公の場では既婚婦人も未婚婦人も殿方と一緒に 入浴はしないしきたりなのです。 」 晶子が多少苦しい説明をし、スターシアをやんわりと止めた。 「 まあ ・・・ そうなんですの? しきたり ねえ ・・・ 」 「 はい。 あの ・・・ お家では別に構わないのですが 温泉とかでは ・・・ ねえ ユキさん? 」 「 ・・・ ! ・・・! 」 ユキも必死にこくこくと首を縦に振っている。 「 あらあ ・・・ つまりませんこと。 でもしきたりは守らなければなりませんわ。 」 「 え〜〜〜 つまんな〜〜い〜〜 お父様とでも ダメなのオ? 」 「 サーシアちゃん。 あなたも立派なレディでしょ? 夜間は女性用、ですって。 宴会の後にゆっくり・・・露天風呂、入りましょ 」 「 夜? まあ〜〜〜ステキ♪ ロマンチックですわね。 楽しみですわ〜 サーシア、 星を眺めながらお風呂に入れるわよ。 」 「 う〜〜ん ・・・じゃあ ・・・ 今はガマンする。 」 「 そうそう それがいいわ。 あ そろそろ上がって ・・・ 夕食前に少し散歩でもしません? 旅館のロビーでお土産を見てもいいし。 」 「 わ〜〜い お土産〜〜〜 」 「 ああ サーシアさん ・・・ ほら 浴衣、それじゃ前が肌蹴てしまいます? 」 またまた大はしゃぎのサーシアに 晶子が丁寧に浴衣を着せてくれた。 ・・・ う〜〜ん さすが < お嬢様 > ねえ ・・・! ユキは こちらはスターシアに浴衣の着付けをしてもらいつつちらり、と横目を使っていた。 ホテル・ぴじょん ではロビーも200年以上前の風情に建て直してあった。 「 わあ ・・・ いろんなのがある〜〜 絵葉書だけでもこんなに ・・・ 」 サーシアは < 思い出グッズ・コーナー > に張り付いている。 「 うふふ ・・・ よく見てお選びなさいね。 」 「 あ〜〜〜 このストラップ・・・・ 木でできてる?? 」 大騒ぎの娘を眺めていると どやどやと男性陣もロビーにやってきた。 「 いやあ〜〜〜 いい湯だったなあ〜〜 」 「 ほんと! 僕、家族で温泉旅行なんて初めてかも 〜〜 」 「 あ〜 そうでもないぞ? 進、お前が赤ん坊の頃 熱海に行ったっけなあ〜 」 「 ・・・ んなの覚えてるわけないじゃん〜〜 」 古代兄弟がじゃれあっている横で 島がスターシアに < レクチュア > をしている。 「 そうです、スターシアさん。 こうやって腰に手をあてて ですね ・・・ こう〜〜〜 イッキのみするんですよ〜〜 それがこういった風呂での習慣なんです。 いわば 風呂上りのしきたり、ですかね〜 」 島は真面目な顔をして ぬけぬけとデタラメを言う。 「 え? こう ・・・ ですか? 」 スターシアも真剣な顔つきで島とならんで フルーツ牛乳をビンからイッキ飲みしていた・・・ 「 おい〜〜 島! ウチのにヘンなこと、吹き込むな! 」 「 うひゃあ 〜〜 参謀〜〜 」 「 ったく〜〜 ちょっと目を離すと〜 ロクなことせんからなあ・・・! 」 ぷりぷりしつつ 守は島を睨みつけてから ― コーヒー牛乳をぐい、っとイッキに飲み干した。 腰に手を当てて・・・ 「 あ。 卓球台がある! 」 ロビーの隅っこで 相原が声をあげた。 2013.6.17 TOP NEXT |