(3) 四郎にとってあの時の思い出は印象深く、サーシャが地球人の17歳相当にまで成長した今でも、 彼女の事を小さな澪のように感じてしまうのだった。 それはサーシャも同じで、四郎は彼女にとって今でも いいおにいちゃま な部分があった。 「うふふふふ。あの時の事があって以来ねぇ、定期便が到着した日なんかに外へ積極的に出してもらう事が出来るように なったのよ 私。お手伝いさんの千代さんが、子供は集団で遊んで揉まれて成長するものだ 今の閉鎖された空間、限られた人間ばかりの中で育つのはよくないって お義父さまに強く言ってくださったの。」 再びサーシャはベンチに腰を下ろしながら話した。四郎もそれにつられるように、サーシャの隣に座った。 「千代さんってあの千代さん?」 四郎の頭の中にはある一人の女性の顔が浮かんでいた。 それはカルスの訓練学校の寮にいた寮母で、大沢千代という人物だった。 「そうよ真田の義父さまとお父さまが頼んでイカルスに来て貰って、お手伝いさんもしてもらっていたの。そうねぇ・・・・ お手伝いさんという言葉は当てはまらないわね、千代さんには。私たちの身の回りの事いっさい、すごくお世話になったんだもの。 もう一人のお母様のような人だわ。」 いくら親友の守に頼まれたからといって、真田にとって右も左もわからない子育ては大いに不安があった。 そこで、面接をかさね、口の堅いお手伝いさんを一人置く事になったのだった。表向きは訓練学校の寮の寮母という形で。 それが大沢千代だった。50代後半の彼女は、柔和な笑顔が印象的な大柄で落ち着いた雰囲気の女性だった。 こまごまとした子供の世話は、やはり真田では手の行き届かない場面が多々あった。 真田もサーシャも彼女には大いに助けられていたのだった。 「私の成長速度が地球人とかなり違うっていう事もあったけれど、私、小さな頃はよく熱をだしたのよ。 そんなこともあってお義父さまはよけいに、私を外へ出したがらなかったみたいなの。 事情はわかるけれど、でもこのままじゃあ、心も体も弱い子供になってしまうって千代さんが・・。 私が脱走してからお義父さまも考えたのね、定期便で子供たちがやってきた時には外へ出る事ができるようになったの。 案外みんな気がつかないものね。もっとも毎回同じ子供たちがやってくるわけじゃないし 不思議に思う人もいたみたいだっけれど、まさか私がこんなに早く成長するなんて誰も想像できなかったから 小さな頃の私に似た子供がまた遊んでいる ぐらいにしか思われなったみたい。もっとも、毎回髪型変えたり 髪を染めたり、ちょっとは変装したんだけど。」 とサーシャは肩をすくめた。 「俺も、実は不思議に思っていた一人なんだ」 「そうなの?」 「うん。でもそのうち忙しくなって気にとめなくなってしまった。 それにしても千代さんがそんなことをしていたなんて知らなかったなぁ〜。」 「ふふ。私、千代さんからいろんな事を教わったのよ。 お裁縫、お料理・・・あなたはイスカンダルだかなんだかの王女様かもしれないけれど、王女様だって 自分の事は自分で出来ないとね。ここはイカルスなんだから。自立するためにはまずご飯。ご飯が作れなくっちゃ 何時の時代も生き残れないよ。・・・・っていうのが千代さんの口癖だったわ。 千代さん、今頃何しているかしら・・・」 大沢千代は、真田やサーシャ、守にまでも大きな影響を与えていた。 サーシャの成長が落ち着いた頃、訓練学校の生徒と共に、ヤマトの整備をサーシャにさせたいと、大勢の人間とのかかわりを 出来るだけ持たせたいと、守と真田が強く望んだことが、大いにその事を物語っていた。 その千代は、サーシャがヤマトに関わるようになった頃、イカルスの寮を辞めて地球へ帰ってしまったのだった。 サーシャは千代に深く感謝をしていた。敵にあっという間に攻め込まれてしまった地球。 生きていて欲しい、そう強く願うのだった。 「ふふ・・・それでね、あの時、本当は迷子になったんじゃなくて・・・」 ふっとサーシャは思い出したように言った。 「え?」 「ほら、私が おにいちゃま と初めて逢った時の事よ。 あれ、迷子になったんじゃなくて・・・・いえ、迷子になったんだけど、歩き回って迷子になったんじゃなかったのよ。」 サーシャは遠くを見つめるように四郎に言った。 「え?そうなんだ??いったいどういう」 「テレポートしたらしかったの」 「ええ〜〜〜〜テレポート?」 サーシャには、ある特殊能力が生まれつき備わっていた。 主に透視の能力だったが、おぼろげながら予知の力もあった。(だからあのビジョンを繰り返し見たのだったが) 「真田のお義父さまがお休みになったのを確認して、お部屋のドアを開けようとしたら、いきなりあの廊下にいたのよ。 最初、自分がどこにいるのかさっぱり分からなくて、心細くて泣いてしまったの。 でもテレポートは、あの後しようと思ってもできなくて、ただの偶然だったんだなって。 お父様の言うのには、正確にはお父様がお母様から聞いた話なんだけど、イスカンダル人は子供の頃は力が安定しなくて 様々な力が現れたり消えてしまったりするらしいの。大人になるうちに使える力が決まってきて安定するのですって。 大人になる頃には力が消えてしまう人も大勢いて、私のように大人になってからも力が残っている人は、少なかったんですって。」 「そうなんだ・・。」 「でも楽しかったな。四郎おにいちゃま に教えてもらった折鶴、今でも上手に折れるわよ。」 「ほんとか? ・・・まてよ、君はあれ以来テレポート出来なかったって言うけれど 出来たじゃないか。だからあの戦いの折、俺たちのもとへ帰って来ることが出来たんじゃないのか? あの時の説明は誰もしてくれないし、なんだかよくわからないけれど、本当にびっくりしたけれど、 とにかく君が帰ってきてくれてみんな嬉しかったんだ。」 サーシャははっとした。 あれは、自分がテレポートしたから、ヤマトへ戻る事ができたんだろうか? いや、違う・・・ 本当のところは何が起こったのかサーシャにもよくわからないのだった。 でもあれは・・・あの人の力がなければ自分は帰ってくることが出来なかった。たぶん。 長い髪の、自分と同じ色の瞳の、・・・・・ 行きなさい。サーシャ、行くのです。アナタの未来にむかって。 生きなさい。それが母の願い・・・・。 お母様・・・・。 ヤマトが波動砲でデザリアムを撃破し、崩壊する銀河から逃げるようにひた走っていた時、 ヤマトの艦載機格納庫内は大騒ぎになっていた。 ***************************************************************** サーシャに、普段生活していくという事はどういう事なのかを教えてくれる人がいた方がいいかな、と思いオリキャラ出しましたが、 設定に無理が・・・・ツッコミはご勘弁を。(その他のツッコミもね^^ゞ) back top next |