旅の途中
Byめぼうき




  綺麗な人だなぁ

先ほどから僕は、カフェの窓際の席に座っている女性が気になって仕方がなかった。 落ち着いた茶色のスーツを着た彼女は、大きな窓の向こうに浮かんだ絵に描いたような地球を眺めている。 最近、この月にまで進出してきた、地球では老舗のこのカフェの店内は、 少し落とされた照明のために薄暗かったが、 彼女にだけ光が降り注いでいるように僕は感じた。

  きれいに纏め上げた金色の髪
  やわらかな線を描く頬
  小さな唇
  ティーカップに添えられた白い華奢な手

彼女は、僕と僕の友人知人達には絶対に(と断言する)持ち得ない優雅さを纏っていた。

 そうだ 

僕はリュックサックからスケッチブックと鉛筆を取り出すと さくさくと彼女をスケッチしていった。
考えていなかった。
紙の上を鉛筆を持つ手が勝手に動いている感じだった。

 できた! 

スケッチブックから顔をあげて彼女に目を向けると、遠目からでも彼女の頬が光っているように見えた。

  泣いている?

僕ははっとした。

   天に還ってしまうかもしれない。
   昔読んだおとぎ話の天女のように。

なぜかそう思ってしまった。 放っておけない気がした。 赤の他人にそんな気を起こすなんて馬鹿げているけれど スケッチしてしまった以上、ただの他人にも思えなかった。 そう思い込んでしまった。 リュックとスケッチブックを持って、よいしょと席を立って彼女のそばまで行って 、僕は彼女に声をかけた。
「あの・・・・・。」
「何か?」
彼女の声は思ったよりも低く、けれども美しく澄んでいた。 怪訝な顔をして彼女が僕を見上げた。
そりゃそうだよね。 僕ときたらくたびれたシャツにGパン、少しすりきれたスニーカーといったいでたちで、見た目はとても埃っぽかったから(まぁそれも貧乏旅行の途中だったから仕方がないっていえばそれまでなんだけど)。そんな見ず知らずの人に突然声をかけられたら普通は ひく よね。
思わず声をかけてしまったことに僕は少し後悔をした。 けれども声をかけてしまったからには怯んではいられない。
「あの、僕は趣味で絵を描いているんですが、先ほどあなたのことをスケッチしたんです。 だまってスケッチしてしまってすみません。それでアナタになんのことわりもないのも失礼かと思いまして 声をかけさせてもらったんです。」
内心僕は、我ながらよくもすらすらと言葉が口からでてくるものだなぁと感心した。 彼女を前にして僕の心臓はばくばくと音をたてているというのに。 じっと彼女は僕をみつめていたがやがて 「見せてもらってもいいですか?」 と言った。
「え?」
「スケッチ。してくださったんでしょう?見せてくださいな。」



「それで、山田さん…は学生さん?」
「いえ、親父・・父が経営する工場で働いるんです。」
気がつくと僕は彼女 ひかりさん に促されるままテーブルの向い側の椅子に腰かけ、 すっかり打ち解けて話しこんでいた。 ひかりさんは僕に自分の名前だけを教えてくれた。 少しいたずらっぽく笑いながら。 名字はなんていうんだろう?まぁそんなことはどうでもいいことだ。 旅の途中なんだし、彼女はたぶん通りすがりの思い出にしかならないから。
それにしても ひかりさん は不思議なひとだ。 彼女と話をしているとかなんだふんわりとした気持ちになる。 それは彼女の優しい話し方からそういった気持ちになるのか それとも彼女が聞き上手だからなのか、 とにかく先ほどの緊張がうそのようだった。
「まぁ、お父様を助けていらっしゃるのね。」
「はたして助けになっているかどうか・・・・。そんな大きな工場ではないんですよ。 小さな、本当に小さな家族総出で働いているような町工場で 僕は現場で機械まわしている父の傍らで図面をひいているんです。」
「そうですか。月にはご旅行で?」
「まぁ、そんなところです。地球の復興にともなってウチの工場も何かと忙しいんですが、 年に一度、わがまま言って休みをもらってスケッチ旅行しているんです。 忙しいといってもウチは大企業じゃないから、 給料も少ないし、贅沢はできないから貧乏旅行ですけどね。 でもそれでもいいんです。好きな絵を描くための旅行ですから。きままな一人旅です。 今回はちょっと奮発して月まで足を延ばしてみたってわけなんですよ。 ひかりさんは?」
「私も旅行です。旅の途中で月に立ち寄ることになりまして。」
「おひとりでですか?」
「いえ、夫と娘が一緒ですわ。今日は夫と娘はデートなんですの。 ふふ…夫は忙しいのでなかなか娘に付き合えなくて、今日は娘が夫を独り占めしているというわけなんですよ。」
ひかりさんの左手薬指には指輪が光っていた。
あぁ、おとぎ話の天女も地上の人間と結婚したんだったっけ、とぼんやりと思った。
「仲のよいご家族なんですね。」
僕にそう言われて、ひかりさんは幸せそうにほほ笑んだ。
「それにしてもあなたは本当にお上手。何か夢中になれるものをもっているって素敵ですね。」 ひかりさんは先ほど僕が見せたスケッチを再び見ながら本当に感心したように言うので、僕はほんの少しくすぐったくなった。
「線がざっくりと単純なのに、何かこう訴えてくるものがありますね。」
「ありがとうございます。」
「でも、残念。私はこんなに儚くはないわ。」
あ、と僕は思った。 ひかりさんの第一印象が無意識のうちにスケッチの上に現われていたのだった。僕にとってのスケッチは、その時に感じたことをとどめておく記録のようなものだったからそれでよいのだけれど。
「そ、そうなんですか?」
「私はもっと図太いと自分では思っていますよ。」
「・・・・。」
「山田さんもそうだと思いますが、地球人はみな過去の戦いをくぐりぬけてきました。たくましくなければ、この世の中生き抜けませんから。」
「それはそうですが…。」
ひかりさんにそう言われてもなぁ…。
確かに話をするうちに最初の印象とは違うひかりさんを今は感じるけれども。
「山田さんは絵をこれからも続けてゆくのでしょう?」
「はい。まだまだですが、これからも自分のスタイルを探し続けてゆきます。 ひかりさんも絵を描かれるのですか?」
「いえ、まったく。私へたなんです。」
「ええ!僕はまたてっきりご自分でも描くのかと。」
「でも芸術作品を見るのは好きですよ。」
「どなたかご家族の方は?」
「夫はこういうことにはまったく。娘は描くのは好きですけれど、でも 好き の領域ですわねぇ。  …妹はとても上手でしたわ…。」
「妹さんがいらっしゃるのですか?」
「ええ…」 ひかりさんはなぜか目を伏せてしまった。
「ひかりさん?」
「すみません…」 といって顔をあげたひかりさんの目には涙が光っていた。
「あの…」
「妹を…思い出してしまったものですから。失礼をしましたわ。」
ひかりさんは膝の上にのせていたバッグからハンカチを取り出すと涙をそっとぬぐった。
「妹さんは…」
「亡くなりました。」
「そうですか。」
「先ほど、旅の途中といいましたけど、明日火星に向かうのです。そこに妹が眠っているんです。」
「そうでしたか。」
火星には防衛軍の基地もあるが、少ないけれど民間の移住した人たちの居住区もあることを思い出した。 ひかりさんは以前火星に住んでいたのだろうか? それとも姉妹で防衛軍で働いていたとか?とてもそうは見えないけれど。
「私のような主婦にとって火星は地球から遠い場所ですから、なかなか行けなくて。」
「そう…ですよね。」
「以前に一度だけ、この間の戦争の前に火星に立ち寄ったことがあったのですが、あのとき私は妊娠中で 妹の眠る場所まで行きたかったのだけれど、夫がダメだと頑として反対しましてね。 あそこでは宇宙服が必要でしょう?艦(ふね)の窓からただただ墓標を眺めるだけでしたわ。 今回やっと妹に会いに行けます。」
たぶん居住ドームの外に墓があるのだろう。 スケッチを終えた僕が見た、あのひかりさんの涙は、妹さんを思い出してながしていた涙だったのだろうか?
「すみません。しめっぽくなってしまいましたね。話を変えましょう。  山田さんは一年に一度、スケッチ旅行をするということでしたが、今回はどうして月を旅行先に選んだのですか?」
「それはもう地球を見るためです。 僕の知人の一人が宇宙戦士なんですが、地球を外から眺めると、まるで手に届くようだ と話してくれたことがあったんです。 大きな地球が手に届くようだとはどういうことかと考えてみたんです。
普通、地球上でのものの見え方は、遠くにあるものは薄く青い色がかかったように見えます。 それは大気のせいでそう見えるんです。遠くにあるものはいかにも遠くにあるように青っぽく見える。 それで普段僕たちは遠近を感じているのですが、宇宙には地球のような大気はないから、 遠近の感じ方がまったく地球で感じるそれとは違うのではないかと。 だから手にとどくようだ と感じるのではないかと思ったんです。それをぜひ確かめたくて。」
「どうでしたか?」
「彼の言っていたことがよくわかりました。本当に手に届くようじゃありませんか。 初めて見た時は感覚がつかめなくて少し怖いぐらいでした。」
僕はカフェの窓の向こうに目をやった。 漆黒の宇宙空間に、何にも遮られることなく、くっきりとした青に、まぶしいほどの白の混じった鮮明な地球が浮かんでいた。
あぁ、夢にまで見た地球、本当にこういう青い地球を僕たちは待ち焦がれていた。
いろいろな出来事が僕の頭の中をよぎっていった。
小学生のころ教科書で、コンピュータで、新聞で、テレビで見た地球の青い画像。 ガミラスから攻撃を受けていた時は軍の工廠で必死に働いていて、海が干上がり赤く無残な姿になった地球を配信された画像で知った。 ヤマトが大航海から還ってきてから、やっと地球に水が戻り、青さが戻り、 その後も彗星帝国やら暗黒星団帝国やら、戦争はあったけれど どうにか苦しい時期をくぐりぬけて今、僕はこうして月から地球を眺めている。 小学生のころ出会った画像のように青い地球を。
あれ? おかしいな、なんで頬が濡れているんだろう。
涙が勝手に僕の頬をつたってゆく。 人前で恥ずかしかったけれど、どうすることも出来なかった。そんな僕をひかりさんは静かに見つめていた。
あぁ、そうか。
もしかしたらひかりさんも、僕と同じような気持ちで涙を流していたのかもしれない。
「すみません。地球を見つめていたら胸がいっぱいになってしまって。」
ひかりさんは何も言わなかった。
「僕、ひとつだけ誇りに思っていることがあるんです。 僕はヤマトには乗り組まなかったけれど、イスカンダルにも行ったことはないけれど でも父と僕の仕事がヤマトや地球に微力ながら貢献できたんだって。」
「それはどんなお仕事なんですか?」
「父と僕は地球で一番最初の波動エンジンの製作に携わったんです。」
「まぁ・・。」
「ガミラスの攻撃を受けていたころ、地上にあったウチの工場は破壊され、地下都市に移り住みましたが、 地下での工場再建はとても難しくなっていました。 それで父と僕は軍の工廠で働くことにしたんです。 人手はいくらあってもいいぐらいでしたし、父は腕のいい職人でしたからすぐに就職できました。 僕はオマケみたいなものでしたけれど。 最後の地球防衛艦隊がほぼ全滅してみんなが絶望していたときに、父のもとにある話が舞い込んだんです。 あのときのことは今でも忘れません。 背の高い、ちょっと怖い顔つきの男が父のもとにやってきてこう言ったんです。
波動エンジンの製作に協力してほしい と。
聞いたことのないエンジンでした。今では地球人みんなが知ってますけれどね。 もちろんそれがイスカンダルからもたらされた技術であることも。 でも当時は極秘扱いでした。 すぐに父と僕は九州の工廠につれていかれました。 僕は父からすればほんの見習い程度の腕前しかありませんでしたが、本当に人手不足だったんでしょう、何かの役には立つと思われたんでしょうね。 九州の工廠にはそれこそ世界中から技術者やら職人やらが集められていました。イスカンダルの図面の解読、理解に時間がかかってしまったと真田さん ―あの背の高い男― が言っていました。 時間がありませんでした。それでも父も含め職人たちはそれこそ寝る暇も惜しんで部品を作り、それを組み立てていきました。 その部品も極めて厳しい精度を求められていたので非常に苦労しました。 その精密な部品を今度はどうやったらコピーできるのかを検討し、 ヤマトの艦内工場のコンピュータに製作過程をプログラミングしていかなくてはなりませんでした。その仕事は僕の受け持ちでした。みんな心身共にぼろぼろでしたが、 とにかく波動エンジンは完成しヤマトに取り付けられました。 ただ十分なテストを行う時間がなかったのが心残りでした。 それでも技術者も職人もみんなあのエンジンは必ず動くと信じていました。 みんなが心血注いで作ったエンジンでしたし、イスカンダルを信じ、みんなヤマトに賭けていたんです。 波動エンジンのごく一部分にすぎませんが、父が作った部品はヤマトとともにイスカンダルまで行って還ってきたんです。
それが僕の誇りです。 ヤマトが還ってきた日、もちろんこれで地球が助かるという思いもありましたが、別の意味で僕と父は涙していたんです。」
ひかりさんは僕の話をだまって聞いていた。 やがて静かにこう言った。
「そういう山田さんや、山田さんのお父様のような人たちの、ものを作る力、外から入ってきた技術を理解する力が地球を救ったのですね。素晴らしいことだわ。」
最後の方は殆どつぶやきに近かった。
「そんな、大げさなものじゃないですよ。ただ少しは貢献できたかなって。 小さなことですけど、でも僕の中では大きな誇りになっているんです。」
「そうでしょうね。」 ひかりさんは熱心に言った。
「でも、それもこれもイスカンダルからの技術提供がなければ成り立たなかったことです。 スターシアさんには本当に感謝しているんです。遠くの、見ず知らずの地球に、僕らに手を差し伸べてくれて。 もしも、もしもスターシアさんに会う機会があったなら僕はお礼が言いたい。 ありがとうって。そんな機会は一地球市民の僕にはめぐってこないだろうけれども。」
ひかりさんは何故か一瞬びっくりしたように目を丸くしたが、 そのまま窓の向こうへ視線を向けたので、僕もつられて窓の向こうを見つめた。
しばらく二人で無言のまま、輝く地球を眺めていた。
おもむろにひかりさんが口を開いて言った。
「山田さん。もう一度スケッチを見せてくださる? それと、もしよろしければ今度の旅で、ほかに描いたものがあればそれも。」
「どうぞ。」
僕はリュックからスケッチブックをもう一冊取り出すとひかりさんにわたした。 ひかりさんはゆっくりと紙をめくって僕の描いたものをひとつひとつ丁寧に見ていった。
「山田さんの中には静かに情熱が息づいているのですね。 お描きになったものを見ているとそれが伝わってきます。 その情熱が私の心を動かすのね。 ありがとうございます。久しぶりにいいものを見させてもらいました。 山田さんはいつかきっともっと大勢の人の心を動かすのではないかと思うわ。」
そんな風に人から言われたのは初めてだった。 好きで描いてきた僕の絵が人の心を動かすなんて考えたこともなかった。
「そうでしょうか?」
「ええ」
ひかりさんがにっこりしながらはっきりと言ったので、 何の確証もないのに、僕は本当にそうなる気がしてしまった。 けれど…
「先がどうかなんてわかりません。 僕はただ…僕の願いは、父の工場を手伝いながら、好きな絵をずっと描き続けてゆけたらいい 描きつづけたい  ただそれだけです。」
「そう?」
「ええ。絵が描けるから 僕は明日を生きてゆけるんです。」
「そうですか。 あら、そろそろおいとましなくてはなりませんわ。夫と娘が来ました。」
ひかりさんの視線の方向に目をむけると、カフェの入り口付近に ひかりさんの旦那さんと思われる背が高くがっしりとした体つきの男性と 長い金色の髪の女性が立っていた。
女性!そう女性なのだ。そのひかりさんの娘さんとみられる女性はどうみても20代に見えた。
二人はまだこちらには気がついていないようだった。 ひかりさんっていったい何歳なんだろう。あんなに大きな娘さんがいるなんて。 ひかりさんと並んだら母子じゃなくてまるで姉妹のように見える。 いや、この間TVで息子の友達に告られた見た目若い50代母とかいう人が出てたし…
「私の娘ですよ。すこしばかり育ち方が速く、すぐに大きくなってしまいましたけれど。」
ええ!
僕の頭の中の混乱を見透かしたようなひかりさんの発言に僕は飛び上がらんばかりにびっくりした。ひかりさんは、僕に名前を教えてくれた時と同じように、いたずらっぽく笑うと
「山田さん、楽しいひと時をありがとうございました。 どうぞ、お体に気をつけて、絵を描き続けてくださいね。 これからのご活躍をお祈りします。」 と言った。
「え?ああ、こちらこそ。ひかりさんとお話できて思いがけず僕も楽しい時間を過ごすことができました。 ありがとうございました。」
本当に僕はそう思っていた。心から楽しかったと。 普段僕はあまりしゃべる方ではない。 でもひかりさんが真剣に僕の話すことに耳をかたむけてくれたので 思わず僕はどんどんしゃべってしまった。 でもそれがとてもここちよかった。 知らず知らずのうちに相手の心をふんわりと包んでしまうひかりさん。 そんなひかりさんの家族を少しだけ僕は羨ましく思った。 ひかりさんが手をさしだしたので僕はひかりさんと軽く握手をした。 ひかりさんの手は思ったよりしっかりと力強かった。

たくましくなければ、この世の中生き抜けませんから。

と言っていたひかりさんを今実感できた気がした。 ひかりさんは僕に頭を下げると旦那さんと娘さんの方へ行ってしまった。 旦那さんと娘さんはひかりさんに気がついたようだった。 三人の家族は二言三言言葉を交わすとカフェの外へ、僕の視界から消えていった。 旦那さんはひかりさんの肩をそっと抱いて ひかりさんはだんなさんに寄り添い… とてもお似合いなご夫婦だと僕は思った。 娘さんの綺麗な長い髪がゆれる後ろ姿を見て、突然僕の中で何かがはじけた。

  あーーー!!





月の旅から戻ると、僕は急いでコンピュータに向かい 大切に保存しているファイルを開いた。
やっぱり・・・。
モニターには地球防衛軍長官と連邦大統領とともに写る、さらさらと長い髪のひかりさんがいた。 ずいぶん前に公開されたものだ。 どうしてあのとき気がつかなかったんだろう。 髪をアップにしていたから? この写真が公開されてからずいぶん時間がたっているから? ちがう・・・・

  山田さん…は学生さん?

ふいにひかりさんの、ふんわりとした人の気持ちを包みこむような声が頭によみがえった。
そうか 彼女はそっと人の心に寄り添う人だから、あまりにもさりげなく寄り添う人だから イスカンダルの女王スターシア その人と気がつかなかったんだ。
最後に見たひかりさんと旦那さんの後ろ姿はとても幸せそうだった。
それにひかりさんのあの てのひら。

  天女は天には還らない。
  しっかりと地上に足をつけて歩いているんだ。

そう思うと僕はなんだか嬉しくなった。 僕らと一緒に未来を築いてゆくんだ。
知らなかったとはいえ 結果、直接スターシアさんにお礼を言えたことも僕には嬉しかった。 旅の途中の出来事はたぶん僕の心の中に一生の思い出として残るだろう。

  山田さんの中には静かに情熱が息づいているのですね。

僕は今日も絵を描く。 明日を生きるために。

おしまい

2011.6.26

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