プリンセス下町デビュー         
                                           byめぼうき




「あらぁ〜お上手でちゅねぇ」

きゃ・・・きゃ・・・・

午後の日差しの中、守とスターシアが住む官舎のリビングの窓辺に敷いたマットの上で
一人の赤ん坊が、機嫌よく手にした音の出るおもちゃを振っていた。
赤ん坊の母親であるスターシアとお手伝いの千代が恥ずかしげもなく赤ちゃん言葉で話しかけ、
時に頬ずりをし、キスをし、感嘆の声を上げながら夢中で相手をしていた。
「奥さん、それにしてもサァちゃんは少し大きくなるのが早くないですか?
2ヶ月なのにもうとっくに首が据わっているし、離乳食もはじめているんですよね。」
千代がふと以前から感じていたことを口にした。
千代はこの家の事情はよく理解しており、
赤ん坊のサーシアが母親からの遺伝で地球の子供とは成長の速度が違うことは知っていた。
しかし、聞かされていたことと、今目の前にいる赤ん坊の成長具合が少し違うように思え
戸惑いを感じていたのだった。
「そうよね・・・最近私もそれは感じているの。イスカンダル人はだいたい5年ほどで成人します。
個人差はありますが、妹も私もそうでした。
この子はどうやら私達がたどった成長とは少し違うようなのです。
守の・・・地球人の生命力の強さが、私の・・・イスカンダル人の特性に作用しているのかも・・・
でも本当のところは、かかりつけのドクターにも、私にもよくわからないのです。」
少し心配顔のスターシアに千代は はっ とした。
たった二人きりですごしてきたというイスカンダルとは違い、ここ地球には大勢の人の目がある。
ちょっと変わった、違うものを人は好奇の目で見がちだ。
それに親と著しく違う成長過程をたどるということは、
何もお手本となるものがない故、母親にとっては大いに不安なのだろう。
ただでさえ子育ては手探りなのに。
でも・・・・
「なぁに、奥さん、地球の子供達だって一人ひとり成長の具合は違うんですよ。
サァちゃんもちいとばかり成長が早いってだけで何も他の子どもと変わりありゃしませんよ。」
ははは・・・と千代はスターシアの背中をやさしく叩いた。
「千代さん・・・・」
スターシアは千代の気遣いが嬉しかった。
「それより奥さん、明日お天気はよさそうですから、南町まででかけませんか?サァちゃんを連れて。」
そう、あそこなら、あそこの人達ならきっと何も気にしない。
スターシア親子を暖かく迎えてくれるはず と千代は思っていた。
「え?」
「奥さん、サァちゃんが生まれてからずっと家に中で過ごしていることが多いでしょう。たまには気分転換に。
サァちゃんもだいぶしっかりしてきましたしね。
ね、あそこのみんなも ひかりちゃん に会いたがっているんですよ。
赤ちゃんは生まれたの?元気なの?ってね。」
「ああ、みなさんに私も会いたいわ。」
「じゃあ、明日私がエアカーをだしますからそれでいきましょう〜。
みんなにはわたしから連絡しておきますから。」
「ええ、是非!よかったわねぇ〜サーシア。みなさんにあえましゅよ〜。」

「だめだ!」

突然後ろから声がしたので二人はびっくりして振り返った。
「まぁ、守」
「ったく、帰ってきても誰も何も返事がないから、どうしたのかと心配になってしまったよ。」
「ああ、守君おかえり〜。あらあら、もうこんな時間!
ごめんなさいね、すっかりサァちゃんに夢中になっててちっとも気がつかなかったわ。ねぇ、奥さん。」
そう千代に言われてスターシアは少しバツが悪かった。
「お帰りなさい、守。今日はお仕事早く終わったのね。気がつかなくてごめんなさい。」
守はスターシアの傍までゆくとそっと彼女を抱き寄せ挨拶のキスをした。
「まったくですね。」
「守・・・あの・・」
守は に っと笑うとスターシアを強く抱きしめた。
スターシアは千代の手前もあってあたふた守の腕から逃れようとしたが、守がそれを許さなかった。
「あ〜あ、暑いわねぇ、汗かいちゃうわねぇサァちゃん。」
サーシアを抱き上げた千代がわざとあきれた様子で言ったので
スターシアは真っ赤になってしまった。

奥さんは相変わらずねぇ〜
いえ、相変わらずの守君ってところかしらねぇ〜。

でも千代はそんな仲のよい守とスターシア夫婦が大好きだった。
やっとスターシアを開放すると守は千代に抱かれたサーシアのところへやってきて
「ああ、我が家のお姫様はごきげんだね」
とサーシアのぷくっとしたほっぺたを、ちょんっと指でつつくと
千代からサーシアを抱きとった。
「ところで明日南町へ行くのかい?」
守はサーシアをあやしながら千代とスターシアに聞いた。
「ええ、そのつもりで今奥さんに話をしていたところなんです。
あそこの商店街のみんなも奥さんやサァちゃんに会いたがっているんですよ。」
「ダメだ。」
「守君?」
せっかくの奥さんの息抜きの計画を反対されて千代は恨めしそうに守を見上げた。
「いや・・・・その、行くのは今度の日曜日にしてもらえませんか?千代さん。」
「え?」
「守?」
「俺も行く」
スターシアと千代は思わず守の顔をじーーーと見つめた。
「だぁーーーー!俺も行きたいんだ」
二人の女性はぷっとふきだしてしまった。
「あはははは〜〜〜 な〜〜んだ守君も行きたいんだね。
そりゃ〜〜〜かわいいサァちゃんだからね。自慢したいよねぇ〜。」
「いや、そうじゃなくて・・」
「いいじゃないの、自慢しに行きましょう。
じゃあ守君が運転ってことで私達は後ろの席でゆったりと・・ね、奥さん。」
「うふふ、そうね」
「はい、はい、仰せのままに。千代さんにはかなわないなぁ〜、はは」
大人3人がひとしきり笑った後、守が急にあらたまって千代に言った。
「千代さん、今晩はこちらで夕飯を一緒にどうですか?」
といって守はさげてきた包みを見せた。
「まぁ!○○のクリームコロッケじゃありませんか!
どこで買ったんです?ここの美味しいって評判なんですよ、結構並ばないと買えないって。デパ地下・・・??」
制服着てデパートの地下食品売り場で買い物をする守の姿はちょっと想像つかない千代だった。
「はは・・・そうなんです、真田に付き合ってね。」
「あ〜〜真田君ね。うん、うん、彼は相変わらず凝り性なんだね。」
「ええ、まぁ・・」
実は守が頼み込んで真田に付き合ってもらったというのが本当だった。
「千代さん、頼みがあるんです。とても大事なことで。」
「・・・・そうきましたか。クリームコロッケで釣ろうってわけね。」
「まいったな・・」
「ふふふ・・・冗談ですよ。どんなことかしら?私でお役に立てることかしら?」
「守?」
「スターシア、この間話し合ったことだよ。」
「まぁ、では目処がついたのね。」
「かなり強引に押してしまったけどね・・・・。」
「まぁ、なぁに?二人とも。とにかく守君、お話を聞きましょう。」
「ありがとうございます。実はふじみやの草団子もあるんです。」
「まぁまぁ、用意周到ですね。」






「かわいいねぇ〜。」
「おっ こっち見て笑ったよ。」
「あ〜〜それはアンタの顔が面白いから笑ったんだね。」
「ひどいなぁ」
あはははは
南町商店街の一角にある老舗の和菓子屋 ふじみや の喫茶コーナーは今日は一段とにぎわっていた。
ひかりちゃん がダンナと一緒に生まれた赤ん坊を連れてやってきたからだった。
千代が知り合いの顔が広いきみちゃんに連絡をしておいたので大勢の人が集まっていた。
妊娠中、千代に南町商店街に連れてきてもらって以来、
スターシアはサーシアが生まれるまでに何度かこの町に足を運んでおり
そのたびに ふじみや に寄っては町のみんなとおしゃべりをしたり笑ったりして過ごしていた。

ひかりちゃんは、すらっとした美人ではあるけれど、ちっとも気取った様子がなく、
時々子供のような面白いことを言う、本人に自覚があるのかないのか、少し 天然 なところがあった。
そんなひかりちゃんと話をしていると、みんなは気持ちがほぐれてほんわかした気分になるのだった。
みんなはひかりちゃんが大好きだった。

そんなわけでみんなは守と千代をそっちのけにしてスターシアと赤ん坊を取り囲んで輪になっていた。
守はみんなに慕われているスターシアを誇らしく思った。
そしてサーシアのことを見て かわいいね をみんなから連発されると親としては少し得意な気持ちになるのだった。

「ひかりちゃんありがとうね〜赤ちゃんを連れてきてくれて。みんなどうしたかなぁって心配していたんだよ。」
きみちゃんがスターシアに話しかけてきた。
「すみません、ご無沙汰してまして。」
「まぁ仕方ないよ。赤ん坊の世話は大変だからね。」
「妻がいつもこちらのみなさんにお世話になっているそうで、ありがとうございます。」
守もきみちゃんに挨拶をした。
「いやぁ〜〜〜、ひかりちゃんのだんなさん。アンタいい声してるねぇ〜。惚れ惚れするねぇ。」
「いや、その・・・」
上機嫌のきみちゃんに守はどう反応してよいのやらわからなかった。
「世話になってるのはこっちの方ですよ。ひかりちゃんにはみんな話を聞いてもらってるからねぇ。
まぁ、お互い様ですわ〜〜。」
あはははときみちゃんは陽気に笑った。
「サーシアです。」
そういってスターシアは抱っこしていたサーシアをきみちゃんの方に見せるように抱きなおした。
「あぁ、サーシアちゃんかい。また随分ハイカラな名前だねぇ。
ひかりちゃんが住んでいたお国の名前かい?」
「ええ。」
「サーシアちゃん。こんにちは。サァちゃんでいいねぇ。サァちゃん〜。」
きみちゃんが声をかけるとサーシアは
うきゃ うきゃ と手をのばしてきみちゃんの頬にぺたっと小さな小さな手をくっつけた。
「あぁかわいいねぇ〜。あんた初めての子どもだろう?
お母さんはなかなか休めないし大変なんじゃないかい?」
「でも夫や千代おば様が随分手助けしてくれますの。非常に心強いんですよ。」
「まぁまぁ、千代ちゃんはこき使ったがいいよ、ひかりちゃん。」
「なにそれ〜(怒)きみちゃん。
でもね、奥・・・ひかりちゃんのためならなんだってしちゃうよアタしゃ。」
千代は笑って言った。
「でしょう?」
「この間は夫が娘をお風呂にいれてくれたんですよ。ね、サーシア、
お父様に入れてもらって気持ちよかったわねぇ。」

う〜 う〜・・うきゃぁ・・・・

わかっているのかわかっていないのかサーシアは機嫌よくスターシアの腕の中で体をゆすった。
「アンタ、ひかりちゃんを大事にしてるんだね。よろしい!」
「いてっ!」
そういってきみちゃんは守の背中を笑ってバンバンたたいた。
「ひかりちゃん、サーシアちゃんは今何ヶ月だい?」
そばにいたおばちゃんがスターシアに聞いた。
「2ヶ月になります。」
「それにしちゃあ、ちょっと大きくないかい?しっかりしているし。」
守もスターシアも千代も はっ となった。
「そうかい?」
別のおばちゃんが言った。
「ひかりちゃんは外国暮らしが長かったからねぇ〜。娘さんだって外国風に育っていくんだよ。」
「そうか!うん、うん、そうだね」
めちゃくちゃな理由だったが、周りのみんなは何故かそれで納得してしまった。
やっぱり・・と千代は思った。

ここのみんなは優しい。
奥さん達を連れてきてよかった。

千代はみんなの気遣いに、いや、みんなは気を遣っていることなど自覚はないのかもしれなかったが
涙がでそうになった。

「ひかりちゃんのだんなさん、こーーーーんなに可愛い子、ひかりちゃんが生んでくれてよかったねぇ。
ねぇ、ねぇ、ひかりちゃんとはどこで知り合ったんだい?
あんたもかなりの男前だけどさ、ひかりちゃんも美人だろう?一目ぼれかね。」
一人のおじちゃんが聞いてきた。
「あの・・・それは」
守が言葉に詰まっていると
「知りたい。知りたい!」
とみんなが迫ってきた。
「いや、まいったなぁ・・・・」
「ほぉ〜〜、あたしも知りたいね。」
きみちゃんもそういって守を見上げた。
「守・・・・」
少し困った表情をしてスターシアが守を見た。
そんなスターシアに守は頷いてみせると
「こほん。ではお話ししましょう。」
と言ったので、みんなは身を乗り出した。
「ガミラスが地球に遊星爆弾を落として攻撃していたころ、私は宇宙戦艦に乗って戦っていました。」
うん うん とみんなが頷いた。
「あるとき激しい戦闘があって、私はひどい怪我を負ってしまい、戦線を離れることになりました。
その私を看病してくれたのがス・・・・ひかりでした。」
おぉーーー とみんなから声が上がった。
「ひかりは一生懸命に私を看病してくれましたが、まさに私にとってひかりは光でした。
美しい光、一目ぼれでしたよ。大切に守りたいと思いました。」
恥ずかしげもなくこう言ってのける守に、おばちゃんたちは ほぅ とため息をつくのだった。
「ねぇ、ねぇ、ひかりちゃんは?」
誰かが聞いた。
「あの・・・私は・・・」
スターシアは気恥ずかしくて顔が真っ赤だった。
「守は最初はひどい怪我で命も危なかったんです。でも看病を続けるうちに
だんだんと元気になってきて・・・・」
守とスターシアの脳裏にイスカンダルでの日々がありありと思い出された。
惹かれあいながらも心のうちを見せることの出来なった日々。
二人の胸が懐かしさで疼いた。
「守・・・・」
「・・・・・・」
二人は見詰め合った。
周囲もそんな二人の様子に息を詰めた。

だぁ〜〜〜、だぁ、だぁ

し・・・んとした空気を打ち破ったのはサーシアだった。
「あはは・・・サーシア。お父様はお母様と出会うことが出来て幸せさ。
そして君が私達のもとにやってきてくれた。」
守はサーシアをスターシアから抱き取ると軽く高い高いをした。

きゃっ きゃっ・・・

サーシアはますますご機嫌な声をあげた。
「だぁーーーーーやってらんねぇな(笑)。
じゃあ、だんなさんはひかりちゃんと病院で出会ったってわけなんだね。」
とおじちゃんが言った。
「そういうことですね。」
「はぁ〜、宇宙戦士と看護師の恋。いいねぇ〜ロマンスだわねぇ〜。」
おばちゃん達が目をハートにして言った。
「あたしにもロマンスが降ってこないかねぇ・・」
「無理無理、ばぁさんじゃあ無理だって」
「ひどぉい〜〜〜」
あはははは
店中に笑いが広がった。
「ところでさ、まぁこの子の耳、いい形をしてるわねぇ。ふぅーーん、こりゃ玉の輿かな。」
きみちゃんがしげしげとサーシアを眺めながら言った。
「玉の輿・・?ですか?どういう意味なんでしょうか?」
スターシアが不思議そうに言った。
「きみちゃん〜また適当なこと言ってぇ」
千代は少々あきれて言った。
きみちゃんは赤ん坊をみると必ず耳を見る癖がって、
占いおばさんよろしくいつも適当なことを言っているのだった。
女の赤ちゃんには将来玉の輿にのると言って
男の赤ちゃんには大金持ちになる運命だと言っていた。
そういわれて誰も悪い気はしなかった。
それはきみちゃんの他人とのコミュニケーションをとる一つの方法だったのだが・・・・
「千代ちゃん、今回は適当なんかじゃないさ。」
きみちゃんはいつになく真剣な目つきで言った。
「この子は、なにか特別なものを持っているよ。そう感じるのさ。
ひかりちゃん、玉の輿は貴人の乗るりっぱな輿・・・乗り物のことなんだけどね、
女の子がその乗り物に乗るってことは、
りっぱな身分の人と結婚するか、大金持ちの人と結婚することを意味するのさ。」
守がそっとスターシアの肩に手をのせた。
もしも、イスカンダルが滅びの運命をたどらなかったなら、昔の繁栄した姿のままだったなら、
イスカンダル王家の娘ならば、きみちゃんの言う玉の輿・・・とは少し違うが
それ相応の人物の妻となる道をたどることになったかもしれない。
そういうサーシアが生まれながらにして持っている星を
きみちゃんは知らずに見抜いているのかもしれなかった。
だがそれは現実的ではない。もうイスカンダルは宇宙のどこにも存在しないのだから。
たった一人残ったイスカンダルの女王は地球人の夫の傍で娘を抱いて、
こうして地球の一角の下町でおばちゃんやおじちゃんたちに囲まれているのだ。
サーシアは地球の一員としてたくましく育ってゆくことになるだろう。
そして守もスターシアも身分やら、金持ち にはあまり関心がなかった。
残念ながらきみちゃんの予言は当たらない確立の方が高いのだった。
守とスターシアは顔を見合わせてにっこりと静かに笑った。
「そうでしょうか?この子がそんな運命にあるとも思いませんが
私はこの子が元気に育ってくれたらそれでよいのです。」
「ああ、そうだな。」
サーシアをはさんでにっこりと笑いあう夫婦を見て
きみちゃんははっとした。
三人の親子の後ろに見たこともない美しい青い惑星(ほし)が見えた・・・気がしたからだった。
ひかりちゃんは気高く、物語りに出てくる冠をつけた女王様のようにも見えた。
そんな幻影は一瞬の後には跡形もなく消え去り、いつものふじみやの喫茶室に戻っていた。
そうか・・・・・ときみちゃんは悟った。

やっぱりそうだったんだ。

今まで疑問に思っていたことが一気に解決してしまった。
でもそのことを口にする必要はなないと彼女は思った。
スターシアもここでひかりであることを楽しんでいるし
みんなもたぶん薄々気づいていてそれを楽しんでいるのだから
それでいいじゃないか  と。
どこの生まれだろうと、どんな身分だろうと、ひかりちゃんはひかりちゃんなのだから。




「また、遊びにきてね〜待ってるよ」
みんなの声に見送られて
ふじみやを後にした守一家と千代だった。
サーシアはいつの間にか眠ってしまい
ベビーカーの中でくぅくぅと寝息をたてていた。
「また・・・・来ることが出来るかしら」
スターシアがぽつりと言った。
「もちろん!奥さん。まだ少し時間があるじゃあないですか。あと2,3回は大丈夫ですよ。」
「そう・・・そうね。」
スターシアとサーシアは約1ヵ月後に小惑星イカルスにある天文台へ引っ越すことになっていた。
それは、地球人ともイスカンダル人とも少し違う成長をたどるであろう小さなサーシアのためであった。
そして・・・・
「アタシはね、奥さん、イカルスでの暮らしを楽しみにしているんですよ。
地球の外で暮らすなんて初めてですからね。
まぁしばらくは帰ってこれないから、引っ越すまでの間、この町にはまた出来るだけ遊びに来ましょうよ。」
千代もスターシア親子に同行することになっていた。
オモテむきはイカルス天文台に併設される宇宙戦士訓練学校の寮の寮母としてだった。
それは妻と娘を心配する、仕事の関係で地球を離れることが出来ない守の願いだった。
自分の娘はとっくに成人し独立している千代は敬愛する奥さんのためならとこの仕事を引き受けたのだった。
「それにしても、今日来てよかった。」
「守君?」
「スターシアからは聞いていたんだが、一度南町のみなさんとゆっくりと話をしてみたかったのさ。
本部ビルから近いわりには俺はなかなか南町へは忙しくて行けないでいたから。
スターシアが随分世話になっていたようだし、イカルスに行く前にぜひとも南町へってね。」
「そうだったの、守君。」
3人と赤ん坊は南町商店街の駐車場に到着した。
「さ、千代さん送っていきますよ。今日はどうもありがとうございました。」
守がエアカーのドアを開けて千代に手をさし述べた。
「いえ、守君。今日はここでおいとまするわ。少し買い物をして帰りたいんでね。」
「そうですか・・・。」
「あの、千代さん。今日はありがとうございました。これからもよろしくお願いします。」
守とスターシアは静かに頭を下げた。
「もう、いやですよぉ〜、あらたまっちゃって。私も好きでやっているんですからね。
それよりこちらこそよろしくお願いしますね。宇宙なんて私はシロウトなんですから。」
にっこりと笑って手をふって去ってゆく千代を
守とスターシアは寄り添って見送った。

さて
きみちゃんの玉の輿の予言は見事に外れることになるのだが
何かサーシアが特別なものを持っている というのは外れていなかった。
その特別なものに突き動かされるようにサーシアはやがてやってくる地球の危機を駆け抜けることになるのだった。
それはイスカンダル人に流れる血、想いであったが、
サーシア自身を守ると同時に危険にさらすことにもなった。
そうなるのはだがもう少し先のこと。

サーシアは今は可愛い微笑みを浮かべ
両親の元、安心しきって眠っていた。



おしまい

2011.5.22

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