今日もよいお天気
                                byめぼうき



「今日も良い天気になりそうだな」
古代守は宮殿の裏庭から明けたばかりの空を仰いだ。
昇ってきた太陽が、深い紫色だった空をオレンジ色の光で満たしてゆく。
散らばった雲はばら色に染まり、ゆっくりと移動していた。
守はしばしその光景に見とれていたが、自分が裏庭にやってきた目的を思い
出して仕事にとりかかった。
宮殿の裏庭には小川が突っ切って流れていた。守は夕べのうちに仕掛けを川
の中へ沈めておいたのだ。
「お、かかってるな」
彼は小川の中から籠を引きあげ、かかった獲物を取り出した。
「川海老だ・・・。」
他に小魚が数匹かかっていたが、彼は必要な分だけをとりわけ魚篭(びく)に
入れると、他はすべて小川にかえしてしまった。
彼はいつもそうしていた。何しろこの広いイスカンダルに彼は彼の妻とたった
二人きりで暮らしているのだ。2人で足りる分以外は必要ないのだった。
滅び行く惑星とはいっても、まだまだイスカンダルには多くの生物が生息して
いた。中には地球のものとよく似たものもあった。守が 川海老 と呼んでいる
今日獲れたものもそのひとつだった。
「塩をふって焼いたら美味いぞ」
その川海老は、彼が妻から最初に教わった食べることが出来るイスカンダル
の生物だった。彼の出身である地球よりも、はるかに科学が発達したイスカン
ダルであっても、人間が生きてゆくための基本的なことは同じということらし
い。
彼の妻は、どの草が、どの魚が食べられるのかそうでないのか、そういったこ
とに非常に詳しかった。
「殆ど母から教わったの。生きてゆくための知恵でもあるけれど、イスカンダル
の女王は、その年の天候や、作物の出来具合を占ったりもしていたから、動植
物の知識は必要だったの。科学が発達して、ある程度の予想はついても、
古くから続く習慣は人々の心の拠り所だったから。」
妻は彼にそう話してくれた。
「・・・・習慣に・・というより、イスカンダルの女王自身が国民の心の拠り所で
あったのだな・・きっと。」
穏やかな青い光をたたえるイスカンダル星そのもののような美しい妻の姿を
想いながら、守はひとりごちた。
「さて、もどるとするか。」
守は魚篭をさげて宮殿へと戻っていった。





昇ってきた太陽の光が空いっぱいに広がると、あちこちでいっせいに小鳥がさ
えずり始めた。夕べの暑かった空気が冷えて、宮殿の中庭全体に静かに横た
わっていた。スターシアはそんな早朝の風景の中、中庭で薬草を摘むのが好
きだった。少し湿り気を帯びた空気は薬草の香りでかぐわしかった。
「みんな、おはよう。守も私も元気よ。みんなから元気をもらっているお陰ね。
いつもありがとう。」
スターシアは摘んだ薬草を籠に入れるとあたりを見回した。庭の片隅に、黄色
い塊が咲いていた。
「今日はあなたをお供えするわね。もうイスカンダルブルーの季節は終わって
しまったものね。」
スターシアはその素朴な花を3本手折った。それから庭の中央にある泉で水
を汲むと、持ってきたガラスの小瓶につめた。
「これでいいわ。」
次に、彼女は中庭をつっきって一旦宮殿に入り、廊下をわたると裏庭に出た。
裏庭はまだ宮殿の影に覆われていて薄暗かったが、影の向こう側の空は晴
れわたり、目にまぶしいほどだった。
スターシアは庭の境界にある、比較的背の低い垣根のように連なって立って
いる木々の間に立った。
「まぁ、沢山・・・・。ふふ・・・ここは小鳥がつついたのね。」
青々と葉を茂らせた木にはうすもも色の小さな丸い実が沢山実っていた。
それはピンポン玉ほどの大きさの実で、甘酸っぱい味の、イスカンダルではポ
ピュラーな果実だった。木の高さはスターシアの背よりも少し高いぐらいだった
ので、彼女が手を伸ばすとらくらくと実を採ることが出来た。
「そろそろ、収穫してちゃんと保存しておかないといけないわね・・・。これもお
供えすることにしましょう。」
収穫はなるべく早いほうがいいだろう、などと考えながら、スターシアは甘酸っ
ぱい実をいくつか籠の中に入れた。
「あ・・・」
スターシアは、彼女が今いる場所とは反対側の方向から、
彼女の夫がゆっくりと歩いてやってくるのを見た。
「守」
「スターシア」
二人は歩み寄るとお互いの籠の中をのぞいた。
「収穫はありまして?」
「ああ、海老や小魚がね。」
「まぁ。私の方は、ほらっ」
とスターシアは籠の中の薬草やら、果物やらを夫に見せた。
「ラスリを採ってきたわ。お供え用にもね。たくさん実っていたわ。小鳥もつつい
ていたみたい。」
「そうか。これ、みかんみたいな味で好きなんだ。」
「いつか話してくれた守の故郷の果物ね。」
「そうさ。」
「今日はご馳走ができるわね。」
「今日も、だよ。イスカンダルで採れるものはなんだって、俺にとってはご馳走
さ。」
二人は顔を見合わせて穏やかに笑った。





その部屋の真ん中に、高さ1mほどの石柱がひとつ、でんっと構えていた。
石柱は真上から見ると正方形で、その正方形の上に、小さな花瓶に挿された
黄色い花、水の入ったお椀、楕円の器に盛られたうすももいろの果物が置か
れていた。花瓶もお椀も楕円の器もみなクリスタルで出来ていた。
石柱は祭壇だった。祭壇のある部屋はいわゆる神殿で、石の祭壇のほかに
は何もなかった。黄色い花も、水も、くだものもスターシアが先刻供えたもの
だ。
祭壇の真上の天井に綺麗な青いガラスがはめ込まれた小窓がひとつあり、そ
こから一条の光が祭壇に降り注いで、クリスタルが神秘的な輝きを放ってい
た。
「今日もこうしてお供えさせていただくことが出来ました。
そのことに感謝いたします・・・・。」
スターシアは目を閉じて静かに祭壇の前に跪いた。
守もスターシアよりも少し下がった位置で同じように静かに跪く。
しばらく二人はそれぞれに無心になって頭を低くしていたが、やがてスターシ
アがゆっくりと立ち上がり、それにならって守も立ち上がった。
毎朝スターシアは、神殿にある祭壇、イスカンダルの御前に献餞(けんせん)
をし、夕刻には撤餞(てっせん)をする。そうしてスターシアと守は簡潔かつ心
からの祈りをささげる。この朝夕に行う祈りは二人の大切な儀式であり日課だ
った。以前はスターシア一人が行っていたのだが、彼女が結婚してからは
夫である守も加わるようになった。
どういう光の加減なのか、突然クリスタルにあたって反射していた光の輝きが
増し、目にまぶしいほどに光りはじめた。
その光は急速に一本の筋状に収束し、スターシアの額に当たってはじけた。
「ああ・・・・!」
光の衝撃でスターシアの体が揺らいだ。
「スターシア!」
守は咄嗟にスターシアの肩を抱きとめた。
「大丈夫か?」
「ええ・・・。びっくりしたわね。」
「??びっくり? 気分が悪いのかい?」
「守?・・・いえ大丈夫よ。」
どうやら守には今の光が見えていなかったようだとスターシアは気がついた。
スターシアが神殿で祈りをささげるようになってもうずいぶんになるが、こんな
ことは過去に一度もなかった。彼女の妹が遠い地で命を落とした時も、ガミラ
スが滅んだ時も、イスカンダルは黙して何も語りかけてはこなかった。

   何かの予兆かしら。守に話をしたほうが・・・。

そうスターシアが思った時だった。突然彼女の耳の奥で何かが壊れる音が響
いた。

ズ  ー  ー ー ーーーーンっ

地の底からわいてくるような音だった。
スターシアの目の前に、突然別の視野が開けた。

ひとつの星が崩れてゆく
星の核が白く輝いている

   あ・・・ガミラス・・・・・・。


次に彼女が見たものは
砕け散るクリスタル
荒れ狂う風と海
地表から噴出する真っ赤なマグマだった。

   これは・・・・・

赤いマグマは温度を増し、白く輝きだした。
スターシアの周囲は白い光でいっぱいになった。
光がまぶしすぎてスターシアの頭はくらくらした。
あまりの光量に圧倒されて、スターシアはとうとう倒れこんでしまった。

   スターシア・・・・

   え?

気を失う寸前、スターシアは光の中に、穏やかな守の姿を見た 気がした。



「スターシア!スターシア!おい!」
「え・・・?」
はっとしてスターシアは目を開いた。
守の顔が視界いっぱいに広がっていた。
「守・・。」
「大丈夫か?」
スターシアは守の腕の中にいることに気がついた。
「あの、私・・・。」
「急に倒れそたんだ。びっくりしたよ。」
「そうだったの。」
「汗が・・・。寝室へ行こう。歩けるかい?」
「ええ・・・。」
守はスターシアを抱きかかえるようにして神殿の外へでた。寝室に到着すると
彼は彼女をベッドに寝かせた。
しばらく目を閉じて仰向けになっていたスターシアだったが、落ち着くと、ゆっく
りと身を起こした。
「大丈夫かい?」
「ええ、ありがとう。だいぶ落ち着いたわ。」
「そうか?」
スターシアは守の胸にそっと自分の頭をもたせかけた。
そんなスターシアの肩を守はやさしく抱いた。
二人はしばらくそのままじっとしていたが、やがてスターシアがにっこりと笑顔
を作り、守を見上げて
「遅くなってしまったわね。朝食にしましょう、守。私はもう大丈夫。」
と言った。
スターシアは、出来れば神殿で 見た ことは今は守には話さないでおこうと
思っていた。あれはおそらく双子星の行く末の映像なのだろう。だからこそ・・・
星の最後にかかわる重大事だからこそ、イスカンダルがその統治者に見せた
映像だったのかもしれなかった。だが、そうだ という確信もスターシアは持てな
かった。もっと頭の中を整理する時間が欲しいとスターシアは思っていた。そう
してから守に話をしても遅くはないと彼女は思った。
「・・・・・・。」
「守?」
「・・・。大丈夫じゃないだろう?」
守は両手でスターシアの顔を優しく包むと、だが、いつになく厳しい表情でまっ
すぐスターシアを見つめた。

   ああ、この人にはかなわない・・・・

スターシアは夫の深いまなざしの前にかんねんした。
「ごめんなさい、守。でも体はなんともないの。」
「本当に?」
「ええ、本当に。」
「じゃあ・・・」
「あのね・・私、見たの」
「見た?」
「先ほど神殿で・・・。私が倒れている間のことよ。たぶんあれは、イスカンダル
が私に見せてくれたビジョンだと思うの。ガミラスが大爆発を起こして崩れてい
ったわ。イスカンダルの海が荒れ狂って・・・・。地表はマグマで覆われてい
た・・・・。そんな光景を見たの。」
「・・・・。」
「・・・・何か、何かが起きるわね、きっと。ガミラスが爆発するなんて・・・。
どうしてそんなことが起こるのか見当もつかないけれど。この星の終わりが、
案外私たちが考えているよりも早くやってくるのかも。」
「そうか・・・・神殿で君が見たというなら、それは何かしらの予兆かもしれない
ね。」
「・・・・・守。もしも、もしもよ、私が見た通りのことが起こったら、アナタは地球
へ帰ってね。イスカンダルにはまだ宇宙船が残されているもの。あなた一人な
ら・・・」
「それは言わない約束。」
「でも・・・・・」
「また君はそんなこと。君は俺にとって、何者にもかえることの出来ない唯一の
存在なんだ。それがわかったからこそ、俺はこの地に残った。俺の歩む道は
君とともにある。」
守はスターシアの手をとると、自分の唇を熱くあてた。
「だから俺は君の側から離れるつもりはないよ。」
「守・・。私・・・私は・・・・」
スターシアは胸がいっぱいになった。自然と彼女の美しい瞳から涙がこぼれ
落ちた。
「さぁ、そんな顔をしないで、スターシア。その、君の見た光景が、仮にイスカン
ダルの未来だとして、それは明日かもしれないし、一年後か、何十年、何百年
先のことかもしれない。違うかい?」
「ええ・・・・そうね。私は 見た けれど、正確にいつ起こるかまではわからないもの。」
「だったら・・・。今日をせいいっぱい生きよう。君の見たことは心に留めておか
なくてはならないと思うけれど、そのことばかりに気をとられていたら毎日がつ
まらないだろう。もしも、君が見たような光景がイスカンダルに近い将来起こる
とするならば、そのときは二人でしっかりと見届けるまでさ。君は一人じゃな
い。」
「守・・・そうね、そうよね。」
スターシアは守にしがみつくように抱きついた。
「ねぇ、心配なら朝食がすんだら、イスカンダル星のあらゆる事象を今までより
も細かくチェックしよう。そうして、これからはきめ細かにチェックすることにしよ
う。どんなことが起ころうとも、どうしたら最後までこの地で過ごすことが出来る
か二人で考えよう。」
「ええ・・」
「さぁ、この話はひとまずおしまい。」
守の瞳の奥がちかちかっとまたたいた。
「女王陛下はこちらでしばらくお休みになっていてくださいませ。本日はわたく
しめが寝室まで朝食を運んでまいります。」
「病気でもないのに寝室でお食事なんて、お行儀が悪いわ。」
「陛下!」
「はい」
「陛下は先ほど倒れられました。違いますか?」
「違いません」
「では、わたくしの言うことを聞いていただきます。」
「・・・・でも」
「でも、はナシ。」
「・・・わかりました。」
スターシアはうらめしそうに守を見上げた。
そんなスターシアが守はかわいくて仕方がなかった。
守はにやりとしてスターシアの額にキスをすると、朝食の支度のために寝室を
あとにした。
「もう、守ったら・・・ふふふ・・・。」
スターシアは守の後姿を見ながら、くすくすと笑った。
スターシアは守と結婚してからよく笑うようになった。一人で暮らしていた頃に
は考えられないことだった。

   守・・・あなたは本当に温かなヒト。私はあなたと一緒にいると心が安らぐの。
   本当よ。あなたから沢山の愛をもらったわ。

イスカンダルにはまだ何万年もの時間が残されているとずっと思ってきたが、
どうもそうではないらしいと今朝の一件でスターシアは肌で感じとった。守の想
いがスターシアにはうれしかった。彼女にとっても守は唯一の存在であり、守
のいない人生など彼女には考えられなかった。できれば彼と共に穏やかな一
生を過ごしたいと思っていた。それでも・・・だからこそ、スターシアは守には万
が一の時には地球へ避難して欲しいと、それがたとえ自分の身勝手な思いで
あっても、自分は滅びようとも、その滅びに守を巻き込みたくないとスターシア
は思った。しかしその想いをスターシアは守の前でもう口にすることはしなかっ
た。





イスカンダルでの調理の方法は守にとって不思議なことだらけだった。
だいたい、ナイフが存在しない。はさみによく似た器具があり、それを使ってス
ターシアは野菜でも魚でも、器用にさばき、あるいは皮をむき、カットしていた。
守にとってはまどろっこしいことこの上なく、とうとう彼はイスカンダル鋏を分解
して彼用のナイフを作ってしまった。火はもっとよくわからなかった。いわゆるコ
ンロはあったが炎はでない。電磁調理器でもない。原理はよくわからないのだ
が、鍋(イスカンダルにも鍋はあった・・!)をコンロの上に置くといつの間にか
温まってお湯が沸いたりする。そしてわからないものの最たるものが、料理の
名前を告げるとそのものが出てくるシステム。何から料理が作られるのか守に
はさっぱりわからなかった。イスカンダルのさまざまなシステムは、スターシア
がたった一人で暮らしていたのにもかかわらず、正常に機能していた。機械が
機械どうし、お互いに故障が起これば修復しあっているらしい。そうやって半永
久的に機能しているらしいかった。とにかくそのシステム、ロー茶(イスカンダ
ルの薬草茶)といえば ロー茶がでてくるはずなのだが、守は一度として成功
したためしがなかった。イスカンダル語の発音がどこか違うのだろう。そのシス
テムだけでは栄養が偏るらしく、スターシアは 本物 もよく口にしていた。
守もスターシアにならってイスカンダルの 本物 をよく口にする。
中庭の片隅で畑を作っていたし、アンドロイドに命じて宮殿内に野菜を栽培してもいた。
野菜工房といったところだ。たんぱく質は川や海の魚類から、ときに鳥の卵を食べる
こともあった。二人で生きてゆくためには十分な量だったが、それでも近年、鳥
も魚も数が減ってきているとスターシアは守に話した。
本物の火ももちろん存在するが、主に イスカンダルランプ や、ごくたまに卓
上の照明にだけ使う。調理には殆ど使用されていなかった。が、物足りなさを
感じている守が、中庭に石を並べて簡単な釜戸を作り、たまにそのかまどに
火を入れて彼は野外調理よろしく、日々の食事を作ることもあった。その火の
おこし方が意外にもアナログな方法だった。まったく地球でのやり方と同じだっ
たので守は不思議な気分だった。二つの平たい小さな石を かち っと擦るよ
うにたたくと火花が散る。その火花を「ほぐち」の上にちらすと火がついて燃え
るのだった。ほぐちはイスカンダルでは乾燥させたイスカンダルブルーの葉だ
った。火がつくとイスカンダルブルー独特の、地球でいえば蓬に似た香りが立
ちのぼる。
「この石はね、火花石というのよ」
とスターシアが守に話してくれた。
「へぇ、地球にも似たようなものあがって、火打石というんだ。」

そのイスカンダルの宮殿の厨房で守は朝食をととのえ、(といっても朝の祈
りの前にスターシアがあらかじめ用意をしておいたものだったが)寝室にいる
スターシアのもとへと運んだ。





朝食が遅かったので、二人は朝採ったラスリだけで昼食を済ませてしまった。
イスカンダル星全体のチェックに夢中だったせいもあった。
「ふぅ・・・・今のところ、どこにも異常はみられないね。」
「ええ・・・そのようね。」
宮殿の奥深く、コントロールルームのコンピュータの前で二人は軽くため息を
ついた。
「疲れたかい?」
「ええ・・少し。」
「外へでようか?」
「はい」
二人は宮殿の外へと、緑の原へと足をむけた。
イスカンダルブルーの季節は終わっていたが、かわりに色とりどりの素朴な小
さな花がそこここに咲き乱れていた。
守は胸いっぱいに新鮮な空気を吸い込んだ。
「ああ、気持ちがいいな。」
「ええ。」
海からの風がスターシアの髪やドレスのすそをやさしくなでていった。
空はどこまでも青く、空の青を映したような海面はきらきらと輝いていた。
守は、この素朴で美しい光景が、いつか崩れてマグマで覆われてしまうなど、
とても想像できなかった。
いや、考えまい、出来るだけのことをしてその いつか に備えるまでだ。
守はそう思った。
スターシアは緑の中に座って無心に花を摘んでいた。
今朝見たビジョンはショッキングではあったが、守が側にいてくれたことで彼女
の心は安定していた。

   すべてのことに・・・今のこの幸せに感謝します・・・・。

スターシアは摘んだ花に顔をうずめた。
ふいに守が独り言のようにスターシアに話しかけた。
「スターシア、生きよう。この先何があっても。」

   あ・・・

スターシアは はっとした。
守の表情が、神殿で見たビジョンの最後に出てきた守の姿と重なった。

   私・・・私の運命はこのイスカンダルではなく、守で決まる・・・の?

すでに、守がイスカンダルにとどまった時点で運命はスターシアのうかがい知
れない方向へと動いているのかもしれなかった。

   私にそんな生き方が許されるのでしょうか?
   お母様、お父様・・・サーシア・・・・!

いや・・・今はあれこれ考えまい。そうスターシアは思った。
愛する人が側にいる、今はそれだけでいい。

「そうね・・守・・・・。」


午後の日差しが二人を優しく包んでいた。
緑の原で二人は満ち足りた気分だった。他愛もないおしゃべりをしたり、時に
花の中に埋もれるようにあお向けになってみたり、夕刻、祈りの時間がやって
くるまで、二人はのどかなイスカンダルの風景の中でゆったりと過ごした。
この日の午後の光景はいつまでも二人の心の奥で輝いていた。
いつものイスカンダルの空気や光が、やがて二人にとってはかけがえのない
思い出となる日がそう遠くない未来にやってくる。
それを淡く予感しながらも、恋人達はイスカンダルの 今 を楽しんでいた。


2012.7.31

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調理関係で不思議〜といえば私はまっさきにスタートレックの
レプリケーターを思い出します。あれはモノを作り出す(コピー??)だけでなく
ごみ処理に利用できたりとか、かなり便利なもののようです。
すごく便利なのでここで使いました。すみません。
イスカンダル食事事情を想像するのは結構難しいです。

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