(9)あなたは歌うよ その1 何時、誰が作ったのか ― 誰にもわからない。 いわゆる民間伝承なのだろう、詳しい経歴を知るひとはいなかった。 しかし いつの頃からか その歌は人々に間に、あった。 大声で詠唱したり、大勢で合唱したりする歌ではなかった。 いつも どこでも ひっそりと人々の口に登ってくる。 赤ん坊を寝かしつけながら 遅い家人の帰りを待ちつつ ・・・ ほっと一息、一服くゆらしている時に 恋を失くしたときにも そして 絶望的な状況で必死に生きる道を探っているとき 人々はその歌を そのフレーズを 呟いていた。 子供から大人、老人までだれでも知っていて なんとなく口ずさむのだった。 ― それは こんな状態になってからも変わりはなかった。 いや むしろその歌が聞こえる回数は増えているのかもしれない。 今回の占領という未曾有の状況下、一見 落ち着いたか・・・ と思える中で 地球市民たちは 息を潜めてじっと耐えていた ― あの歌をそっと口ずさみつつ。 スターシアがそれを初めて聞いたのは まだ母星イスカンダルにいるときだった。 守が宮殿の庭樹を剪定しつつふんふん・・・ハナウタを歌っていた。 あら ・・・ うふふふ ・・・ なんだか楽しそうねえ・・・ 彼女の夫は 気軽にメロディを口ずさむヒトだった。 特に歌が好き、というのではないらしいが何気ないクセなのかもしれない。 うふふ・・・ 守って いつも陽気で元気なのよね・・・ そんな守が とてもとても好き よ スターシアにとっては勿論初めて聴くメロディばかりだったが なとなく楽しい。 ふんふんふん・・・♪ あら これはこの前も歌っていたわね 覚えてしまった曲もあり 時たま一緒に口ずさんでみたりもした。 そんな新妻に守もとても嬉しそうだった。 「 ・・・ お? なんだ〜 君も知ってるのか? いやそんな訳ないよなあ? 」 守は彼女が声を合わせているのを知ると 目を見張った。 「 ええ 知らない歌よ。 でもね、 守が歌っているので覚えたの。 」 「 え ・・・ ァ 俺ってそんなに何回も歌ってるかなあ? 」 「 そうねえ・・・ 機嫌のいいときは大抵。 」 「 へえ・・・ 自分じゃ気がつかなかったな〜〜 ふ〜ん ・・・ 」 「 ふ〜ん、って可笑しな方 ・・・ ねえ 今の歌、 教えてくださる? 」 「 今の? え・・・っと・・・ なんだっけか? 」 守は剪定ハサミを持ったまま考えこんでいる。 「 いやだわ、覚えていないの? ・・・ こんな曲 ・・・ ♪♪ 〜〜 」 スターシアは 聞き覚えていた数小節を歌ってみせた。 「 ・・・? ・・・ ああ わかった! アレだ あの歌だな・・・ よし 初めから歌うぞ〜 これってなあ、地球ではかなりポピュラーな歌でさ ・・・ 皆 いつの間にか知っている・・・って歌なんだ。 」 守は庭樹の前にあぐらをかいて座るとゆっくりと歌い始めた。 あら ・・・ わたしも♪ スターシアも裳裾を絡げると 夫の側に座り込んだ。 じっと彼の歌声に耳を傾ける。 ・・・ ふん ふんふん〜〜♪ あら素適なメロディなのね・・・ 言葉の意味はよくわからないけれど・・・ 「 へえ ・・・すごいなあ、君。 もう覚えてしまったのかい。 」 「 うふふ ・・・だっていっつも守が歌っているからなんとなく覚えていたの。 ちゃんと始めから聞いたのは 今が最初。 」 「 う〜ん そうかあ ・・・ この歌はこう・・・なんていうかなあ・・・ わざわざ歌う、というより自然にふんふん〜口ずさんでいるって歌なのさ。 」 「 そう・・・ それでどんな意味なの、言葉は。 」 「 言葉? ・・・ああ 歌詞のことだね。 」 「 ええ。 」 「 う〜ん・・・? それがなあ。 はっきり覚えていないんだ。 」 「 どういうこと? 歌には言葉がついているでしょう? 」 スターシアは不思議そうに守の顔をみる。 彼女はよく通る澄んだ声の持ち主で イスカンダルに伝わる歌をうたってくれる。 守はしばしば彼女の歌に聞きほれていた。 「 そうなんだけど。 この歌はかなり昔から伝わっている歌でね・・・ 歌詞は はっきりしないんだ。 いろいろ種類があるみたいで、皆好き勝手に歌っていたよ。 」 「 あら 素適! なんだか楽しいわね。 」 「 え ・・・ 」 守はまじまじと新妻の顔を見ていたが すぐに彼女を抱き寄せた。 「 きゃ・・・ 守 ? 」 「 君ってひとは。 ああ なんて本当にステキなんだ・・・! 」 「 ・・・ あん ・・・ 」 二人は縺れ合ったまま・・・庭の苔の上にゆっくりと倒れていった。 「 ・・・ ふふふ ・・・ あの時 守ったら ・・・ 庭で ・・・ 」 夜の床の中で スターシアはごく低く笑った。 託児所で過すようになり もう昼間の仕事や夜のシフトにも馴染んできた。 夜は職員たちと一緒の部屋でベッドを並べて休んでいる。 「 ・・・ いけない。 皆さんを起こしてしまうわね ・・・ 」 声を潜め、彼女は手にしていた手袋に頬を寄せた。 夫があの朝 忘れていった手袋 ― それが今は彼女の心の支えとなっている。 離れている淋しさ を片っ方だけの手袋を胸に眠ることで耐えていた。 ふふふ ・・・ なんて大きな手袋・・・ そうよ 守の手はね とても大きくて ・・・ 温かくて。 あの手を当ててもらえば たちまち元気になれるの。 あの手で ・・・ 愛してもらえば ・・・ 愛してもらえば ・・・ ・・・ 私は頑張ることができるの・・・! そうよ どんな時だって ― 生きてゆけるわ 故郷の星では 女王の治世は星が栄える という言い伝えがあった。 ただの伝説だろう、と思っていたがスターシアは今、はっきりとわかったのだ。 「 ・・・ そうね。 優れた貴士 ( ナイト ) に支えられた女王の治世は いつだって素晴しいものだったのよ。 人々も微笑んで暮していたのよね。 お母様の時代も そうだったもの ・・・ 」 公私ともに全力で自分自身を支え、そして深く愛し合えるパートナーがいれば 女王はどんな困難にも果敢に立ち向かい、星を治めてゆけたのだろう。 「 お母様。 私、幸せですわ ・・・ 私にも守という素晴しいナイトがおりますもの。 」 スターシアは心の中で 母の面影に語りかけたいた。 昼間は相変わらず大忙しの日々だった。 「 え〜と・・・・あとは・・っと。 オムツを倉庫から出してこなくちゃ・・・ 」 スターシアは立ち上がり、エプロンの紐を結び直した。 「 〜〜♪ ♪♪ ・・・ 」 自然にメロディが口から零れでる。 「 ・・・え? どうして・・・ その歌、知っているのですか? 」 「 え? 」 一緒に洗濯物を畳んでいたスタッフの一人が びっくりした顔で聞いてきた。 何気なく歌っていたので、聞かれたほうが驚いた。 「 今 ・・・ 歌っていらしたでしょう? 」 「 あ ・・・ え ええ・・・ これね、守 ・・・いえ、主人から教わりましたの。 」 「 ああ ! それで ・・・ 綺麗な声ですねえ〜〜 もっと歌ってください。 」 「 あら ・・・ でも間違っているかもしれませんわよ? 」 「 いやあ〜 いいんですよ、その歌は皆、好き勝手に歌っていますからね。 」 「 じゃあ ・・・ 一緒に歌いません? 」 「 ・・・え やあ嬉しいなあ〜 」 小さな声だが歌がながれ ― ざわざわしていた空気が落ち着いた。 「 ― 不思議は人だな ・・・スターシアさんは ・・・ 」 そのスタッフは感心した面持ちで 彼女を眺めていた。 またある時は 繕い物をしつつ彼女はあの歌を口ずさむ。 「 古代さん ・・・ お上手ですねえ。 お裁縫、以前からお得意なんですか? 」 「 まあ 所長さん。 いいえ 私、こういう風なお裁縫は知りませんでした。 」 「 え・・・でもすごくお上手ですよ? 」 「 ふふふ ・・・ 主人が年中制服を破いたりボタンを落としたりしてきますので・・・ 慣れましたの。 」 「 まあ そうなんですか。 あのご主人がねえ・・・ 」 颯爽とした古代参謀を知る託児所長は くすくす笑いだしてしまった。 タタタタ ・・・・ ! 足音を出来るだけ潜め 路地を抜けてゆく。 ― しかし。 さっきから 別の足音が執拗に後を追ってくる。 ちッ ! ・・・ マズったな ・・・ この地域は 市街地だから油断してしまった ・・・! 北野は焦っていた。 この辺りの区域は何回か足を運んだことがあり、地形を知っていたので少々油断していたのかもしれない。 彼は長官からの内命を受け スターシア陛下の身柄保護に赴いていた。 女王陛下は地球連邦の友好国イスカンダルの元首であり、また地球のあらゆる生命の大恩人、 彼女の身の安全は 地球防衛軍の最優先職務でもあった。 「 女王陛下の居場所はわかっている。 早急に秘密裏に保護申し上げろ。 」 「 は。 」 「 君は ・・・ 陛下と面識があったな? 」 「 は。 面識、などとは畏れ多いですが。 かのイスカンダル星からのご救出の際、 自分はヤマトの航海班の一員でありましたので ・・・ 」 「 うむ。 では内々の事情もわかっていると思う。 彼女は古代参謀夫人でもあるのだ。 同僚の家族保護もまた大切な任務だ。 」 「 は。 了解いたしました! 」 北野は緊張の面持ちで長官からの命を受けた。 「 ・・・ おい、北野。 」 「 はい? 」 彼がパルチザン本部を出発する直前に 古代守が姿をみせた。 「 すまんな。 ・・・ これを着てゆけ。 」 「 参謀。 これは? 」 「 うん 真田が開発したボディ・スーツだ。 従来のボディ・アーマーより遥かに 高性能でしかも嵩張らない。 俺がなんとか無事に脱出できたのもコレのおかげさ。 真田は試作品を何枚か本部にも納めていたんだ。 これを着用してくれ。 」 「 いいのですか。 」 「 ヤツらはパルチザン討伐に目の色を変えているはずだ。 用心しろよ。 」 「 はい、ありがとうございます! 必ず命令を遂行します! 」 「 うむ。 気をつけてな。 」 守も北野もそれ以上、なにもいわなかったが ・・・ すまん。 余計な任務をさせてしまうな。 必ず 女王陛下をおつれいたします! 街は ― 一応平穏な様子を呈していた。 占領軍は一般市民には手出しはしない ・・・ その公言は守られているようだった。 しかし街の雰囲気自体は 以前とはまるで異なっている。 街ゆく人々は 皆、強張り緊張した表情だったし、数も少ない。 足早に行き交ってゆく。 一般市民は無駄な外出は極力避けているらしい。 ・・・ これは注意しないとマズいな。 人混みに紛れて・・・ってことは不可能だ ・・・ 北野は路地や私道に近い小道を選び進んでいた。 軍の託児所のある区域まであと少し。 おそらく、女王陛下はその近辺に居るはずだ。 接近するにつれ 占領軍の警備兵が多くなってきた。 裏からゆくか。 くそ・・・時間を選んでくるべきだったな 足音を殺し気配を消し ― 北野は昼の影を伝い密かに進んでゆく。 直接託児所に行くわけにはいかんし ・・・ できれば周囲で市民から情報を得たいけど ・・・ これじゃ無理だな ・・・ いっそ地下から ・・・ いや もっと警備は厳重だろう 油断なく周囲を警戒していたが 民家の塀の角を素早く曲がった瞬間 ― 「 ― ワン !? 」 「 わ! あ〜〜びっくりしたぁ ・・・ お兄さん、ごめんなさい〜 」 「 ク〜〜ン ワン! 」 仔犬をつれた少女と ばったり。 鉢合わせしてしまった。 「 !? あ ・・・ あ いや ・・・ 」 「 キュゥ 〜〜 ン ・・・ ワンワン♪ 」 仔犬は北野にじゃれついてきた。 「 こらぁ〜 リリ〜 だめよ〜 」 「 あ は ・・・ いや かわいい犬だねえ 」 北野は屈みこんで仔犬を撫でてやった。 「 ウン♪ 本当はねえ、お外へでたらダメ・・・って言われてるんだけど〜 おじいちゃまの所に遊び来るならいいでしょ?って リリも一緒につれてきたの。 今日は土曜日だし ・・ 」 「 ふうん ・・・ おじいちゃまの家はこの近く? 」 うん、 ココよ〜〜 あのね、リリのお母さんもいるのよ。 マリリンっていうの。 」 少女はたった今、北野が曲がった塀を指した。 「 そうなんだ〜 」 「 リリもねえ、お母さんに会えて喜んでたの。 あ お兄さん、こっちは行き止まりよ? 大きな道に出るなら あっち。 」 「 あ ・・・ そうか〜 どうもありがとう! 」 少女が指差す方向に チラリ、とデザリアム兵の姿が見えた。 ! ・・・ クソ ・・! 見つかったな ・・・ この子が行過ぎた途端に 発砲か? 彼は左右を見た。 どちらも民家の塀が迫っているが片方には庭樹が大きく枝を伸ばしていた。 よし。 あれを伝って ― 庭先を拝借 ・・・! 「 あ〜〜! リリ、ダメでしょう〜〜 」 「 え? ・・・ あちゃ・・・ 」 仔犬は北野の脚にじゃれ付いていたが ・・・ ちょいと片脚を上げて。 「 うわあ ごめんなさい、お兄さん〜 こら リリ〜 お兄さんの脚におしっこしちゃダメ〜 」 「 あ・・・ は いいよ いいよ〜 ちょびっとだし、すぐに洗うから・・・ 」 「 ごめんね、お兄さん ・・・ 」 「 気にしないで ・・・ 気をつけて帰るんだよ〜 リリもね。 」 「 うん♪ じゃあねえ お兄さん。 こっちが近道よ? バイバイ〜 」 「 あ ああ ありがとう! ばいばい・・・ 」 「 バイバ〜イ ♪ 」 「 ワン♪ 」 少女と仔犬が次の角を曲がった瞬間 ― ― バサ ・・・!!! 北野は塀によじ登り枝に飛びついた ダダダダ ・・・!! 複数の足音が追ってきた。 「 追エ! コノ家ノ中ダ! 」 「 ぱるちざんカ? 」 「 判ランガ ・・・ 追エ! ソシテ捕縛セヨ。 」 「 了解! 」 塀の外からデザリアム兵のやりとりが聞こえてくる。 クソ ・・・! 急いで反対側に抜けなければ ・・・ 北野は枝を伝って足場を変えた その途端に バキ ・・・ バキバキ 〜〜〜 バサ 〜〜〜!! 「 う? うわあ〜〜〜 ・・・! 」 彼は裂けた大枝とともに地上に落下し したたか打ち付けられ昏倒した。 バタバタバタ −−− !! ガタン ・・・! 「 コッチダ! コノ家ダ! 」 「 ヨシ。 フミコンデ捕マエロ! 」 「 ハッ! 」 「 踏ミ込メ ! 」 ザザザザ ・・・! 軍靴が門を蹴飛ばし民家に侵入した。 「 ― 案内も請わずに 無礼者! 」 ずい・・・っと 兵士らの前に老人が現れ大喝した。 「 !??? ウ ・・・?? 」 デザリアム兵達は 一瞬、気を呑まれ棒立ちになってしまった。 そんな彼らを老人はじろり、と睨みつける。 隊長が動揺を抑えつつなんとか口を開いた。 手にした銃が震えている。 「 ・・・ 我々ハ ウ?? 」 ウゥ 〜〜〜〜〜 ・・・・! ウゥ 〜〜〜〜〜〜 ・・・・!!! のそり ・・・ 精悍な面構えの秋田犬が犬小屋から顔を出し ― 小屋の前に座った。 いや いつでも命があれば飛び掛る! 姿勢で兵士らを睨んでいる。 「 他人の家に無断で入るとは泥棒と同じ。 即刻 お引取りねがおう! 」 「 イ イヤ アノ コノ家ニ ・・・ 」 のそり のそり。 犬はゆっくりとデザリアム兵に近づいてくる。 くんくん・・・と兵士たちを嗅ぎ回り、また小屋の前に戻り鼻の上に皺を寄せて低く唸った。 ウゥ 〜〜〜〜〜 ワンッ !!! 「 ヒ ・・・ ヒェ ・・・! 」 「 コレハ ・・・ 獣 カ ・・? 」 「 カ カマウナ! ソ 捜索セヨ ・・・! 」 デザリアム兵達は、縮み上がりつつもなおも踏み込もうとしたのだが ― シュ ・・・! 大ぶりの刃物がぎらり、と光った。 「 ヒ !? ヒェ ・・・? 」 ダン ・・・! 刃物はそのまま空を切り振り下ろされ 大きな野菜がまっぷたつ。 ゴロン ・・・ 半部になった野菜がころがった。 葉の端が縮れていて どことなく首に・・・見えなくも ない。 ザク ・・・! ダン ・・・! 庭の端でやはり老いた女性が 大振りに刃物を振るい野菜を切り裁いているのだ。 彼女の足元には大きな筒状の入れ物があり、そこに切られた野菜が詰められてゆく。 「 ・・・ ナ ナンダ!? アノ ・・・ 光ルモノハ・・・? 」 「 ワカラン。 シカシ ・・・ 丸イ物ガ ・・・ マップタツダ ・・・ 」 デザリアム兵達は完全に浮き足立っていた。 ― 半機械人間の文明に 刃物 は存在しない。 初めて見る刃物にデザリアム兵らは その切れ味に そのぎらり、と輝く刃に完全に 怖気付いてしまった。 シャキン ・・・! 老人は手にしていた大きな剪定鋏を鳴らす。 「 もう一度言う。 お引取り願おう。 」 ウ ゥ〜〜〜〜〜 ワンワンワン 〜〜〜 !!! 「 ヒ ヒェ ・・・ イ イヤ! カ ・・・ 隠シ立テヲスルト許サンカラナ ! 」 捨て台詞を残し、兵士らはほうほうの態で尻尾を巻いて退散した。 「 ふん。 肝っ玉の小さいヤツラだな! 」 老人は軽蔑の眼差しと投げつけ さっさと門を閉じてしまった。 そして 犬小屋の前に屈みこみ ・・・ 中を覗いた。 「 おい・・? 若いの? 大丈夫か? マリリン、ちょいと舐めてやってくれ。 」 「 ワン! ・・・ クゥ〜〜〜ンン ??? 」 主人と一緒に自分の小屋を覗きこんでいた秋田犬は 北野の側ににじりよった。 「 クゥ〜〜ン ・・・? 」 「 ・・・ う ・・・ 」 「 あ〜 こりゃ・・・ お〜〜い ばあさんや、ちょっと手を貸しておくれ。 」 老人は 庭の隅で白菜漬けの準備をしていた老妻に声をかけた。 「 はいはい ・・・ おじいさん。 マリリン? お前、出ておいで。 」 「 クゥン ・・・ 」 秋田犬は 素直に小屋から出てきて老婆の側に座った。 「 ・・・ 撃たれなすったのかしら ? 」 「 いや・・・ 樹から落ちてアタマを打ったらしい。 まあ 多分脳震盪だろうよ。 」 「 まあまあ・・・それじゃ座敷に寝かせてあげましょう。 蒲団を敷いてきますよ。 」 「 そうだなあ ・・・ おい〜〜 引っ張るぞ〜 スマンなあ 」 「 ワン ・・・ クゥ 〜〜〜ン ・・・・ 」 マリリンは倒れている青年の頬を一生懸命に舐めていた。 「 ・・・う ・・・・・? 」 「 ああ ・・・ 気がつきなさったですか。 」 「 ・・・ ここ は ・・・? 」 うう ・・・ どこ だ ・・・? デザリアムに捕まった か ・・・・ いや ここは ・・・ 和室 ・・?? 北野はがんがんするアタマを押さえ 起き上がろうとした。 「 まだ 起きてはダメですよ。 ほうら ・・・ ゆっくり横になりなすって・・・ 」 老婆が彼の肩を押さえた。 「 あ ・・・ あの ここは ・・・ 」 「 あんたさん、ウチの樹から落ちて。 大丈夫、ヤツラは逃げ帰りましたよ。 」 「 え ?? 」 「 今 主人を呼んできますから。 そのまま ね ・・・ 」 「 ・・・ は はい ・・・ 」 あの民家の中 か ・・・ チクショウ〜〜 なんてドジ踏んだんだ〜〜 「 あの御方なら 裏の託児所においでなさる。 」 襖を開けて入ってきた老人は静かに彼に言った。 「 ― え ・・・!?? 」 2012.11.13 TOP BACK NEXT |