(6)集結 



走った。
とにかくよく走った。
敵をやり過ごしながら、時に敵に向かって発砲しながら、
緑の男―古野間といった―に案内され、守と長官がどろどろになってたどり着
いたところは見覚えのある地下ドッグだった。
「ここは・・・」
守は周囲を見渡して目をみはった。そこには数こそ少ないが、強い決意を秘
めた目をした人々が集結し、ある種の熱気に包まれていた。よく見ると防衛軍
の人間もいればエンジニアや職人といった民間人、さまざまな人間が混ざって
いるようだった。
「長官…!」
「うむ・・」
守は古野間を振り返った。
「ここは・・・」
「そうです、ここはヤマト改修に使っていたドッグです。ここをパルチザン本部に
しているんです。敵はヤマトを血眼になって探しているのはご存知ですね。当
然ここへ探しにきたようですが・・ここには何もありませんでしたからね。」
「一度探した場所はもう探さない・・・か。」
「みんな地球を思って集まってきたものばかりです。
ここでくじけるわけにはいかないのです。」

入ってきた藤堂と守の姿を見つけると、みんな
   長官! 長官・・・! 
と藤堂の周りに集まってきた。

長官が無事だった。しかも長官の信頼厚い古代参謀も。

対ガミラス戦、対ガトランティス戦の二度の戦争を、先頭に立ち、防衛軍をまと
め導いてきた藤堂に、皆あつい信頼を寄せているのだった。
否応なくその場にいる者のテンションがあがってゆくのを守は感じ取った。
「それにしても、よくコレだけの人間をまとめて施設を設置したものだな。
リーダーは君が?」
「はい。でも今からリーダーは長官にバトンタッチです。俺はどちらかというと体
を動かしている方が得意でしてね。」

「古代・・守さん?」
一人の若者が懐かしそうに守に近寄ってきた。
「君は・・・ああ君は北野君!」
「はい。お久しぶりです、古代さん、いえ古代参謀。」
「あの時は世話になったね。どうもありがとう。」
「いえ、そんな・・・、私は新人でしたし・・今でもまだまだ先輩方には及びません
が・・たいしたことはしていません。」
「いやいや、君をはじめ、ヤマトのみんなには本当に助けられたよ、俺もスター
シアも・・・。」
北野ははっとした。

   陛下は・・・・

「・・・・奥様は・・・・」
と北野が守に言いかけたところを、古野間が横から
「こんなことを言ってますがね、この先生は、ここではなかなかのやり手ですぜ、
参謀。民間人をまとめて情報の収集やら分析やら。アタマのいいやつは違う
ねえ〜。」
と守に言った。
「先生 だなんてやめてくださいよ〜〜」
北野と古野間のやり取りを見て、守はこの寄せ集め集団が良い雰囲気で
まとまっていると感じた。
「北野君、君はここで情報の収集、分析をしているのだね?」
藤堂が北野にむかって確かめるように言った。
「はい。」
「では、君は知っているかね、陛下が今どんな状況なのか?」
藤堂は気にしていることを口にした。
  陛下・・・!
この単語に周囲の者皆が敏感に反応した。
イスカンダルのスターシア女王陛下。
地球人にとって彼女は大恩人であり、希望の象徴であったから、彼女の所在は
皆気になるところだった。
有事の際、イスカンダルのスターシアはしかるべき場所へ避難させる手はず
になっていたが、先ほどの北野の表情から、上手く避難できていないのではな
いかと藤堂は不安になったのだ。
「・・・・現在、スターシア女王陛下の安否の確認は取れていません。」
  ああ・・・
と周囲からため息が漏れた。
「・・・古代・・」
藤堂が守を見た。
そして周囲の軍人がみな守に注目した。
一般市民はともかく、防衛軍の中では守の妻がイスカンダルのスターシアであ
ることは周知のことだったからだ。
「彼女には、何かあったときは避難するように とよくよく話をしてあります。
ですから彼女は無事です。」
険しい表情で守は言った。周囲が困難な状況にあるのに、スターシアが一人
安全な場所に避難するとはとても考えられない。何をどう周囲の人間を説き伏
せるか知らないが、とにかくそんなことをするような彼女ではない。  
と守は思っていたが、ここはきっぱり自分が言いきらなければならない と守は心
得ていた。スターシアが地球ではどんな立場にいるのかわかっていたから。
それに、他人には信じてもらえないかもしれないが、守はスターシアが無事だ
という確信を肌で感じていた。
「長官、みな心あるものはここに集まってきています。
我々にはしなくてはならないことが山ほどあります。
地球をなんとしても守り通さねばなりません。
彼女は無事です。そう信じています。ですから今は地球のために…」
「うむ」
と藤堂は頷いた。
「今到着したばかりだからな、いろいろと教えてくれないか?」
守はそう言うと古野間と共に皆の中へと入っていった。
そんな守の背中を見送ると、藤堂は北野を振り返って言った。
「陛下を確実に探し出してもらいたい。」
人道的な考えからスターシアを探し出すべきと思っている藤堂だったが、一方
では、今の地球の状況を考えると、強力に市民をひとつに纏めることが出来る
ような人物が是非必要だとも考えていた。
「・・・・はい。それと長官、もうひとつ。」
「ん?」
「森さんが、森ユキさんが敵に軟禁されているという情報が入ってきているの
です。確認が取れていないので、確実な情報ではありませんが。」




パネルの向こうの娘に自分の気持ちが伝わったのだろうか。
娘がわずかに わかったわ というように頷いたように見えた。
親友である真田も、こっちのことはまかせろ といった様子で自分の方を見て
いた。

ヤマトと交信出来たわずかな時間、古代守はパネルの向こうに娘の姿をみつ
けて少々驚いたが(第一艦橋にある席に娘が座っていたということは、彼女が
重要な仕事を任されたということだったから)無事だということが確認でき、安
心した。

   サーシア、しっかりやるんだぞ・・・・・!

そして弟は、幾分憔悴しているようにも見えた。
恋人と離れ離れになってしまったのだからそれも仕方がないか と思いつつ
 
   ぐだぐだしてないで、しっかりやれよ!

と、カツを入れるつもりで弟を軽く睨んだ が、

   そんなの言われなくてもわかってるよ、兄さん

といった感じで弟が睨み返してきたので、守は幾分ほっとした。



守は気持ちを引き締めようと、洗面所で顔を洗った。
鏡には、ぼろぼろの制服を纏った自分の姿が写っていた。
ひきちぎったボタンの跡に守はそっと手を当てた。

   スターシアが縫い付けてくれたんだったな・・・・。
   スターシア・・・・!

す・・と遠くを見るように守は目を細めた。

   君は今どこで何をしている?あの託児所だろうか?それとも・・。

ヤマトは発進し、地下にはパルチザンが集結していた。

   これから忙しくなるな

守は パン っと自分の手で両頬を打った。


2012.1.16

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