(2)どの空にも  



その日、初冬に相応しくあっという間に夕闇が迫ってきた。
西の空は見事なまでに茜色に染まったけれど のんびりと眺めたいた地球市民は一人もいなかった。
  ― 地球市民は 皆 ・・・ 息を潜め身を縮こませていた。



 朝はぐっと冷え込んだ。 お日様がゆっくりと大気を温めだしたころ、
スターシアは我が家から2ブロック離れたところにある施設に入っていった。
「 おはようございます ・・・ ! 」
「 はい、おはようございます、古代さん。 今日もおねがいします。 」
「 はい、こちらこそ宜しくおねがいします。 」
スターシアは入り口で受付に挨拶をすると きびきびした足取りで中に上がる。
まっすぐスタッフ控え室にゆき、長い髪を編み上げくるりと巻きつけた。
「 え・・・っと ・・・ 指輪は・・・ 」
真珠の指輪を外し 首のチェーンに通す。 
「 仕事中は邪魔ですし、子供達を傷つけたらたいへんですものね。 」
独り言をいいつつ、白いエプロンをきりり、と着けて。
「 さ。  ひかり先生は今日もがんばります! 」
ちら・・・っと鏡で我が姿を点検し、彼女は <職場> に出ていった。
子供たちは彼女を  ひかり先生 と呼ぶ。

  ここは地球防衛軍所属の託児所。
産休明けの乳飲み子から学齢前までの乳幼児をあずかっている。
通ってくる子供たちはほとんどが防衛軍の職員の子弟なのだが、
中には出入りの業者や地域の子供達もいる。
子供は社会で育てる、が基本概念なので得に目くじらをたてるものもいなかった。
この時代、地球は慢性的な人手不足だった。
成人のほとんどが なんらかの形で就業していたし、そうしなければ社会は回らない。
子育て支援は社会の義務となっていた。
  
    「 私も なにかしなくちゃ。  」

スターシアは予てからそう思っていて、娘と共にイカルスにいた時分から準備を始めた。
「 守。 私 ・・・ 保育士を目指したいのだけれど ・・・  」
「 え。 きみが かい? 」
妻の決心を聞き、守は少し驚いた。 
慣れない子育てに苦労している・・・と思っていた。 サーシアのことで手一杯だとみていた。
「 しかし ・・・ 忙しいだろう? その・・・サーシアの世話でさ。  」
「 あら サーシアはもう学校に通う年齢ですからね。
 昼間は暇なのよ。  私の経験が役立つことって保育士くらいなんですもの。 」
「 ああ ・・・すこしばかり加速気味な子育てだったけれどな。 
 しかし 保育士になるには学科試験の他に実習も必要だろう? 」
「 ええ。 ゆっくり準備します。 そのためにも託児所でボランティアしようと思って。
 今でも、オムツくらいなら換えられますから少しはお役に立つでしょう。
 どこも地球は人手が足りないのでしょう? 」
「 うん、それはそうなんだが ・・・ 」
「 じゃ オッケーね? 嬉しいわ〜〜 さっそく捜してみるわね。
 地球に居る間でも お仕事ができれば嬉しいわ。  」
「 よし、俺の方からも頼んでみるよ。 」
「 ありがとう 守。 」
「 う〜ん・・・君の笑顔をもらうチビ達が少々妬けるけどな・・・ 」
「 まあ・・・ ふふふふ ・・・ 」

  ― そんなわけで スターシアは官舎と同じ地区にある、防衛軍直営の託児所に通うようになった。

「 は〜い おはようございます 皆 げんきですか〜? 」
「 ? だぁ〜〜〜 ♪ 」
「 いかりしぇんしぇ〜〜 」
「 あらあら ご機嫌ちゃんね、さっちゃん。  はい、ユウちゃん なあに? 」
人気絶大な ひかりせんせい  はたちまち子供たちに取り囲まれた。
託児所の所長さんは防衛軍の現役衛生士官、ガミラス戦以前からの古参・ベテラン女史だ。
スタッフ達はさまざまな年代で 皆大忙しだったから人手はともかく歓迎だった。
「 ただのボランティアとして扱ってください。 」
女王陛下が・・・? と困惑するスタッフ達に ご本人が明解に応えた。
「 どうぞこき使ってくださいな。  これでも <子育て経験者> ですわ。 」
スターシアはちょっとばかり胸を張って言った。
「 承知いたしました。  では 陛下・・・ではなくて <古代さん>、
 乳児室を手伝ってください。 」
「 はい!  」
所長女史はスターシアの心意気に感じ入り、すぐに仕事を回してくれた。
   − その日から スターシアは毎朝元気に託児所に通っている。

「 ・・・ふう〜〜 ともかく皆お昼寝しました・・・ 」
スターシアはそう・・・っと育児室のドアを閉じた。
「 はい ご苦労さま。 助かるわ〜〜 スターシアさん。 」
同僚のスタッフが 笑顔で彼女をねぎらった。
「 スターシアさんって ・・・全然イメージとちがうのね! 」
「 はい? 」
「 そうなんだよね。 女王陛下がいらっしゃる・・・ってすごく緊張してたんだ、僕。 」
「 まあ・・・ 」
「 そう、そうなのよ。 どうしよう〜〜って。 きっと視察だけよねって思ってたの。
 でも一緒にオムツも換えてくれるし。  
 オネショやお粗相の後始末もどんどんやってくださるし。 」
「 もうねえ 子供達にモテモテなんだものなあ〜〜 」
「 ・・・ ふふふ ・・・ 同じレベルですから・・・子供たちと。 
 それに これでも一児の母ですから。 」
うふふふ ・・・ははは ・・・・  スタッフ達はくすくす笑った。
託児所には様々な年代のスタッフがいて中には若い男性も含まれている。
「 あの・・・スターシアさんのご主人は宇宙戦士ですよね、すごいなあ・・・ 」
「 今はずっと地上勤務なの。 ごく普通のオジサンよ。 」
スターシアは笑って答える。
「 僕は ・・・ 宇宙戦士になって地球を護ることはできないけど・・・
 でも こうやって子供達を育てることができる。  これも地球のため、ですよね。 」
「 勿論、そうよ、そうだわ。 子供を育てるってものすごく素敵なことよ! 」
「 ・・・ えへへ・・・ありがとう! 貴女にそう言ってもらえると・・・
 なんだかすごく自信が湧いてきます! 」
「  えええ 〜〜〜〜ん !! 」
「 あらあら・・・どうしたの? マアくん ・・・ 」
けたたましい泣き声が響きスターシアはすぐに腰をあげた。
「 すご・・・ 声だけでわかるんだ? スターシアさん・・・ 」
「 彼女ねえ、 子供達の声を皆聞き分けちゃうわよ。 」
「 すげぇ〜 ・・・ おっといけない。  チビっこのお風呂の用意しなくちゃな。 」
「 あら・・・そんな時間?  じゃ オヤツ、出しておきましょうね。 」
「 ミルク ミルク・・と 」
スタッフたちはてんでに仕事に戻ってゆき 忙しい午後が始まった。



午後も半分が過ぎ、子供たちのオヤツやら赤ん坊たちへのミルクが終ったころ 
   ― 異変が起こった。
「 ―  あら?  」
娯楽室で 子供達の相手をしていたスタッフがまず気がついた。
壁にはめ込まれたTVのスクリーンが 沈黙した。  画面にはノイズが流れているだけだ。
「 ・・・ おかしいわねえ・・・ 壊れちゃったのかしら。 先週、点検にきてくれたばかりなのに・・・ 」
彼女は乳児の一人を抱いたまま カチャカチャとコントローラーを弄くってみた。
「 ダメだわ ・・・ しょうがないわね、あとで修理屋さん、呼ばなくちゃ・・・ 」
「 ぶ〜〜ぶ〜〜〜 」
腕の中の赤ん坊がむずかりだした。
「 はいはい・・・ ごめんごめん。 お腹もいっぱいでオネムなのかな〜 」
「 あの ・・・ 私が修理の依頼をしますね。 」
「 あ ・・・ そうですか? それじゃ お願いします、古代さん。 」
「 はい。 いつもの電器店でいいのですよね。 」
彼女の後ろからスターシアがやはり赤ん坊を抱いて静かに話しかけた。
「 そうです、あそこの角のお店だからすぐに来てくれます。 」
「 はい、わかりました。  事務室で電話してきます。 」
彼女は早足で事務室に向かった。

「 ―  あの・・・? 」
彼女が事務室に顔を出した時、そこでも小さな騒ぎが起きていた。
「 ・・・ヘンねえ〜 」
「 どうかしたのですか。 ・・・電器店に電話を掛けたいのですが。 」
「 え? ああ スターシアさん。  ラジオがねえ、 突然聞こえなくなってしまったの。
 PCからでも う〜〜ん ・・・ ダメなのよ。 全然入ってこない〜〜  」
スタッフの一人が カチカチとキーボードを叩いては首をひねっている。
「 え  ラジオも、ですか? 」
「 ラジオも・・・って・・・ 」
「 ええ、今、娯楽室のTVが突然映らなくなってしまって・・・修理を頼もうとおもいまして。 」
「 え?? TVが? 」
「 ― おかしいなあ。  衛星からの放送が全滅だよ。 」
「 ・・・え 衛星 から ・・・の ・・・? 」
スターシアの声がすこし震えた。 衛星の彼方へ ― 彼女の娘はかえっていったのだ。
「 火星はダメだな。  ・・・ う〜ん 土星基地のも入ってこないなあ・・ 」
若い男性スタッフが高出力の通信機を操作しつつ唸った。
「 ヘンだなあ・・・ パラボラの向きがおかしいのかなあ。 ちょっと修正してみるよ。 」
「 タケシくん、お願いね。 防衛軍からの直通もそっちに入るから。 」
「 了解〜〜 任せてくださいよ。 」
青年は気軽にテラスへのサッシを開けようと席を立った。

   ―   ぞく ・・・・!

「 ・・・・ あ ・・・・  」
突然  本当にいきなり、スターシアの全身に悪寒が走った。
脳天から背筋にかけて びりびりと痛いほどの冷たい衝撃が 走る。
「 き 気をつけてっ !!! 」
「 ―  え〜 ? 」
青年はサッシに手をかけたまま スターシアの方に向き直った。
「 大丈夫、べつによじ登ったりはしませんから。 」
「 ・・・いえ  あの そうじゃなくて ・・・ 」
  ―  ガタタガタタガ ・・・ !!!!    いきなり窓ガラスが激しく鳴った。
「  な なんだ!?? 地震か?? 」
ビリビリと空気が揺れる。  青年は咄嗟にガラスを押さえたが振動は止まらない。 
それどころかますます強くなる。  皆 窓際に集まってきた。
「 どうしたの?!  地震 ・・・じゃないわよねえ。 」
「 うん なんだう、カミナリかな。  ・・・ あ!!  あれ ・・・!! 」
「 う???  な なんだ ・・・  うわあ〜〜〜 」
人々は一斉に空へ目を向けた。



      ズズズズズズズ −−−−−−−−−− ン  !!!



夕闇が迫る空を、 どす黒い物体が、見た事もない形状の大物体が降下してきた。
「  な なんなの あれ・・・! 」
「 ち  地球のモノじゃない  ・・・ 」
「 ・・・・・・・ 」
職員たちは皆固まって その物体を見つめていた。
スターシアはがくがくする膝を懸命にささえつつ、腕の中の赤ん坊を抱き締めていた。

     ああ  ああ ・・・!  とうとう あの夢が ・・・!
     あの夢の通りのことが 起きてしまう 
     守 ・・・!!  サーシア ・・・!

呆然としているスタッフ達をかきわけ 所長さんがスターシアに訊ねた。
「 スターシアさん、いえ・・・古代さん。 ご主人と連絡、つきませんか。 」
「 え? あ あの・・・勤務中・・・ 」
「 かまいません、所長の私が許可します。 なんとか防衛軍本部と連絡をつけたいのです。
 この施設との直通回路までまったく応答しなくなりました。 」
「 はい、直通番号を聞いていますので。 お待ちください。 」
スターシアはバッグを取りにゆき、携帯を出した。
「 ・・・・と ・・・・  もしもし・・・? 守 ・・・? 」
全員が しん・・・として固唾を呑んでいる。
スターシアは何回か同じ操作を繰り返したが やがて静かに携帯を降ろした。
「 ― だめです。 全く応答しません。 」
重い沈黙だけが室内に満ちる。
「 そ そうだ ・・・ ツイッターなら、もしかしたら ・・・ 」
青年が気を取り直し、PCにもう一度かじりついた。
「 ・・・・くそ〜〜 ダメだ! 」
「 壊れているの? 」
「 いや。インターネットがすぐに落ちてしまうんだ。  おかしいよ、ツイッターもだめだ、入れない。」
「 え。 アクセス過多でオーバーフローなんじゃないの? 」
「 いや ・・・ ちがうな。 これは大元のサーバーになにか起きたんだ。 」
「 なにか・・・って 」
「 ・・・たぶん  ・・・ アレ ・・・ 」
青年は窓の外に視線を飛ばし 皆はひそ・・・っと口を閉ざしてしまった。

    ・・・ 市外地に降下した ・・ アレ。
    突然飛来してきた  暗黒の物体。

「 ・・・ ひかりせんせ〜〜 」
幼児が スタッフ室に顔をつっこんできた。
「 あらら・・・なあに どうしの、ユミちゃん 」
「 せんせ〜 ・・・ おか〜さん、まだ。 」
「 ええ あのねえ、 お母様、今日はとっても忙しいのですって。
 だからもうちょっと・・・ここで一緒に待っていましょうね。 」
スターシアはすがりついてきた子供を抱き上げた。
「 うん・・・ ひかりせんせ〜 いいにおい・・・ 」
「 そう? 石鹸の匂いよ、きっと。 」
「 せっけん? 」
「 そうよ。 お風呂にはいるとき、ユミちゃんもつかうでしょう? きゅ きゅって。 」
「 きゅ きゅ〜〜〜  きゅっきゅぅ〜〜 」
幼児はたちまちスターシアの腕の中できゃらきゃらと笑い声をあげた。
「 さ・・・ おゆうぎ室であそびましょ。 」
「 うん♪  ひかりせんせ〜 おうた うたって〜〜 」
「 いいわよ。 それじゃ・・・みんないらっしゃァい〜〜って。」
スターシアはお遊戯室の真ん中にすわり、子供たちを集めた。
そしてゆっくりと歌い始めた。 ― イスカンダルに伝わる旧い旧い子守唄を ・・・
聞き入る子供達はやがて 一人、また一人・・・可愛い寝息を立て始める

    ・・・ この歌で サーシアを育てたわ
    ああ  ・・・ サーシア!  可愛いサーシア・・・!
    どうか どうか  無事でいて・・・!

    こんなふうにあなたを抱っこしたのは 
    つい この前なのに ・・・

温かい幼児に体温に スターシアの方が安堵を覚えるのだった。



定時になっても <お迎え> の保護者の姿はなかった。
「 古代さん・・・ 所長さんが集まってくださいって。 」
「 はい。  じゃ・・・一緒にゆこうか、たっくん。 」
スターシアはぐずっている赤ん坊を抱いてスタッフ・ルームに行った。
所長さんは少し厳しい表情で しかし落ち着いて話し始めた。
「 ただいま防衛軍の非常ラインで 第一級防衛体制が宣言されました。
 当託児所は ただいまから非常事態を宣言します。
 ここは非常の場合には 核シェルター・及び地域の避難所にもなります。
 飲料水・食料、 オムツ は一月分の備蓄があります。 
 地下には飲料水の大タンクと自家発電が設備しています。
 ですから ― 皆さんは落ち着いて いつもと同じ に子供と接するよう努めてください。 」
「 はい。 」
全員が力強く頷いた。
所長さんもゆっくりと頷き返してから スターシアをまっすぐに見つめた。
「 スターシア女王陛下。 」
「 ・・・ はい。 」
スターシアも所長と向き合った。
「 陛下。 地球防衛軍として陛下には安全な避難区域にお移りを願いたいのです。
 これは地球連邦政府から友好国元首である陛下への要請です。 」
「 わたくしは 地球市民・古代スターシアです。 
 足手纏いにはならないつもりですから どうぞ・・・地球市民として扱ってください。 」
「 それは ・・・ 私の一存では決めかねます。 」
「 では ―  」
スターシアは 少し言葉を切ると、静かにしかし明瞭に話しだした。
「 イスカンダルは友好国である地球連邦を全面的に支持いたします。
 そして全面的な支援・協力を申し出ます。  どうぞご指示ください。 」
「 ・・・陛下 ・・・ いえ スターシアさん・・・
 それでは どうぞ・・・子供達をお願いいたします 」
「 了承いたしました。 お任せください。 」
「 ・・・ ありがとう ・・・スターシアさん! では皆さんも子供たちをお願いします。 」
「 はい! 」
スタッフたちは静かに持ち場に戻っていった。



夜になった。  スタッフは子供達と共に全員が育児室に集まった。
皆 不安な気持ちを抑え、つとめて平静にしている。
「 ・・・あら カーテンを閉め忘れて ・・・ 」
スターシアはベランダへのサッシを点検し、カーテンを引こうとした。

    あ ・・・ 今夜も綺麗な星空 ・・・
    ―  守   絶対に無事よね。
    サーシア ・・・ 大丈夫よね?
    守もきっと同じ空を 同じ星をみているわ
    サーシアはね、ほら・・・あの方角にいるの

    そうよ
    どんな時だって どの空にだって 星は輝くの
    ねえ 守   そうでしょ、サーシア 

    サーシア。 あなたは大丈夫。
    そのペンダントが  イスカンダルの心があなたを導くわ
    サーシア  あなたは大丈夫
    お父様の、古代 守の娘ですもの
    どんなことがあっても生き抜くのよ

    ・・・ ああ サーシア ・・・

しばし夜空を見上げていたのだが ・・・



         ―  ・・・え??


ひゅ・・・!   彼女の咽喉が鳴った。
満天の星、と思った光がずんずんと降下してきたのだ、そうまるで 星の涙みたいに。
「 あ!! あ あれは あれは・・・! 」
スターシアには見覚えがあった。 
     ― アレだわ! ガミラスとイスカンダルに盗掘にやってきた・・・アレ!
「 どうしたの、古代さん。  ・・・え ええ!! 」
「 ? ・・ あ ああ ・・・ あ あれは あれは 敵兵? 」
「 シャッターを降ろしなさい! 」
「 はい・・・! 」
所長の命令で 青年が慌ててパネルを操作した。


   ズガーーーーーン ・・・・!!!  ドーーー ン ・・・  ドーーーン ・・・!!

爆発音が聞こえると あとはもう雪崩のごとく足下まで揺れるほどの銃撃戦が随所で始まった。
「 全員 地下へ退避! 」
「 は はい!! 」
スタッフ達は乳幼児を連れ、あやしつつ移動していった。
暗い暗い夜になった。
都市のライフ・ラインは寸断され、ぽつり ぽつりと見える灯は壊れずに残っている街燈くらいだ。
時折 ぱあ〜〜〜っと激しい火の手が上がる。  爆発音もする。
しかし救急車・消防車のサイレンはもはや聞こえてはこない。
自家発電に切り替えたところも 光がもれ出ないよう、閉じ篭り怯えていた。

  ― ドンドンドン ・・・!

玄関のシャッターが激しく叩かれた。
「 !?  は はい・・? ・・・どちら様ですか。 」
「 あのぅ〜〜 キムラです! 息子を迎えにきました! 」
父兄の一人がぼろぼろになりつつ子供を引き取りにやって来たのだ。
「 ご無事でなによりです、キムラさん 」
「 ・・・ なんとか・・・ それにしても寒くて! 雪が降ってきたんですよ。  」
「 雪?  まあ・・・ まだ11月なのに ・・・ 」
「 冷え込みがねえ、キツくて。  あのウチの拓は  」
「 はい、元気でお父様を待ってましたよ。  たっく〜ん、お父様よ〜〜 」
その後もぽつぽつ親たちが我が子を迎えにきた。  皆 必死で辿り着いた様子だ。
「 空間騎兵隊が出動したそうですよ 」
「 ・・・ 全滅した、と聞いたぞ ・・・ 」
「 すごい見たこともない戦車が たちまち辺りを焼け野原、さ 」
「 九区・・・防衛軍の倉庫街は特に酷いよ。 絨毯爆撃だ ・・・ 」
「 無人艦隊も全滅だって・・・ 」
彼らがもってくる情報は よくないことばかりだった。
スターシアは子供たちの相手をしつつ、心のざわめきを懸命に抑えていた。

   ―  ・・・ スターシア ・・・!

「 ・・・え。 守? 」
不意に名を呼ばれた、 懐かしい夫の声が自分を呼んだ ― と思った。
彼女は宙に目を凝らし懸命に耳を澄ませた。
そしてこころの中で語りかける。

      守 ・・・!  はい わたしはここに。    
      守、私のただ一人の愛するひと・・・
      
       生きて。  どんなことがあっても 生きて!

スターシアはひたすら心の底から祈り続けていた。
やがて・・・日付も変わる頃 その日最悪のニュースが齎された。

              防衛軍総指令本部が墜ちた   

戦争が 始まった  ―  そして メトロポリスは一夜にして占領された。


2011.11.17

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