(1)はじまり



「やったな 進。」
古代守は、壁が破壊され、ぽっかりとあいた穴の向こうに、見覚えのある高速
連絡艇が空高く上昇してゆくのを見た。あの連絡艇が発進したということは、
先刻ユキに託した命令書が無事に進の手に渡ったということだ。
「旧ヤマトの乗組員を集め、イカルス天文台の真田志郎と連絡をとれ」
という命令を進は遂行しているのだった。

  イカルスに到着するまで、気を抜くなよ・・・進

だがしかし、今の守にはゆっくりと連絡艇を見送っている暇はなかった。
防衛軍司令部内には銃声が響き渡っていた。
みな銃を手にとり、ありとあらゆるものでバリケードを築き、急襲してきた謎の
黒い敵に応戦していた。
しかしながらどう見ても地球防衛軍側が劣勢だった。
司令部が陥落するのも時間の問題だろう。




エマージェンシイ  エマージェンシイ  エマージェンシイ
その日、
非常警報が鳴り、地球防衛軍指令本部の中央管制室には緊張が走った。
「外洋センサー、すべて作動停止!」
「冥王星基地、依然として応答ありません!」
「土星基地も沈黙!」
異様な形をした謎の飛行物体が、外宇宙から突如太陽系内に進入してきた。
守は飛行物体の予想針路を映し出したモニターをにらんでいた。
太陽系惑星地図上を移動する物体の光点は、明らかに地球へと向かう針路
をとっていた。どういうわけか、物体が地球へ近づくのにともなって、各惑星基
地がつぎつぎと沈黙してしいった。そして、あっという間に飛行物体は火星宙
域を通過してしまった。

  速すぎる・・。それにしても、なんという速さなんだ。
  ・・・・これは・・・もしかしたら・・・・

守の背中につめたいものが走った。

  スターシア、残念ながら君の夢はどうやら あたり だ・・。
  そして俺たちの予測も・・・。

守は地球にせまる飛行物体に対して迎撃ミサイルで応戦するよう命じたが、
なぜかミサイルはすべて軌道をはずれ失敗に終わった。
飛行物体はとうとう地球に到達し、首都上空にて一旦停止、その後ゆっくりと
下降し、未開発エリアへ軟着陸してしまった。
直ちに科学調査隊と防衛軍の兵士が物体の調査に向かったが、物体が発す
る強いエネルギーにより誰も物体には近づくことが出来なかった。
日が落ちると、今度は謎の兵士が空から降下してきた。まるで星が降ってくる
かのように、無数の兵士が・・・・・!
いつの間にか現れた黒々とした艦隊が、戦闘爆撃機、上陸用舟艇を繰り出し
都市を破壊、的確に軍や政府の主要施設を制圧していった。
ヤマトの二回目のイスカンダルへの航海以後、配備していた無人艦隊も、コン
トロールタワーを攻撃され、無残にも敗れてしまった。

  敵は我々を知りつくしている・・・・。

そう守は感じ、薄ら寒くなった。
確実に・・・確実に敵は防衛軍本部の制圧にもとりかかるだろう。
案の定、そう時間をおかずに防衛軍本部のロビーが破られた。
黒い謎の敵・・・・謎などではない。守にはわかっていた。

  あれは、イスカンダルとガミラスを襲ったやつらだ・・・・




「古代参謀、データの消去完了しました。」
部下の一人が守に告げた。
「そうか、後は・・・・」
守が言いかけた、その時
「参謀!危ない!」
近くで敵の砲弾が炸裂した。
「古代参謀!しっかりしてください!古代参謀!!」

  うう・・・・

守はとっさに伏せたが、間に合わなかった。
立ち上がろうとしても、体に力が入らなかった。

  サーシア、進たちがそっちに行くぞ。君を見たらびっくりするだろうな。
  新しく生まれ変わったヤマトを進たちに案内してやってくれ…
  スターシア、今夜は帰れそうにない。いつも帰りが遅くてすまない…

愛娘の笑顔が、スターシアの美しい顔が守の脳裏をよぎった。
一時的に地球で過ごしていたものの、聴講していた宇宙戦士訓練学校の講義
が残っているからと、娘は予定よりも早くイカルスに戻っていった。
娘が今、このときにイカルスにいるのは幸いだった。
そう、密かに宇宙戦艦ヤマトの改修作業が行われているドックがある
イカルスに。

  スターシアは・・・・ボランティアだったな・・・無事に避難しただろうか?

守はがんがんする頭を抱えながらさまざまなことを思ったが、次第に意識が遠
のき、やがて完全に暗闇に飲まれてしまった。

2011.11.8

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