このお話しはおまじないの加藤君サイドのお話です。

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曇りのち晴れ


・・・・・!・・・・・・!

まったく理解できない言葉をつぶやきながら彼女にいきなり抱きつかれて加藤四郎は困惑していた。





 仕事の関係で火星に行っていた四郎は、その仕事も終わり約一ヶ月ぶりに地球の宇宙港へと降り立った。民間の定期連絡船で。 行きは火星への軍の輸送艦でだった。  
「う〜〜ん、今このタイミングで地球へ向かう輸送艦ってないんだなぁ〜これが。チケットとったから 民間の船で帰ってくれ。はいこれがチケット。」  
 火星基地の総務部の人間にそう言われて四郎に渡されたチケットはたぶん一番安いだろうと思われる航宙会社のものだった。

はぁ〜、防衛軍には人手も金もないんだなー。

 四郎はこっそりと心の中でため息をつきつつ、
でもこの会社の連絡船は安い割りに機内食は美味いと評判なので、 ま、いいかぁ〜と、そう思った。
それに早く地球へ帰りたかった。 次に火星を出発する軍の輸送艦は2週間後。すでに仕事を終えている四郎を遊ばせておくほど軍には余裕はない。 仮にその2週間、余分に四郎に仕事をさせたとしても出張費やら、なんたら手当てがついたりして費用がかさむ。 だったらチケット代がかかっても仕事が済んだのなら民間の船ででもなんでも地球へ帰ってこい、というのが上の方針らしかった。 しかも費用はなるべくおさえたいから格安チケットで。
四郎は苦笑しながらチケットを眺め、地球にいる彼女のことを思った。
 どうしてか、理由はわからないのだが、あの日彼女は ぷんっ と怒ってデート中にカフェを飛び出してしまった。それきり自分は火星に来てしまったので連絡もとっていない。 もともと個人で火星から地球へ簡単に連絡をとれるものではないのだが、 四郎は少し時間が欲しいと思った。
どうして?などと今彼女を追いかけても、理由はもちろん教えてもらえないし、ますますへそを曲げてしまいかねない、 と これまでの彼女との付き合いから四郎には分かりすぎるほどわかっていたからだった。 だから意識的に彼女とは連絡をとらなかった。



 あの戦いの最中 デザリアムにサーシアが残ったことを知り 四郎は胸の奥が凍りついたようになった。 その時になってはじめて四郎は今まで妹のようだとばかり思っていたサーシアへの本当の自分の気持ちに気がついた。
大きな鳶色の瞳をくるくるさせながら面白いことを言うサーシア
何が気に入らないのか頬をぷっと膨らませて怒っているサーシア
油まみれになってみんなと一緒にヤマトの整備をしているサーシア
綺麗な声で一人植物に語りかけるように艦内農園で歌っているサーシア
いつの間にか四郎の心の中にはサーシアのしぐさや表情が当たり前のように住み着いていた。
 サーシアは自分の能力の限界まで使ってテレポートしてヤマトへと戻ってきた。陽炎のように彼女が現れたポイントは艦載機格納庫だった。

「だっておにいさまの顔が早くみたかったんだもの。」
 戦いの後、随分たってからサーシアは四郎にそう語った。

 サーシアがまだほんの子供だったころは、よく彼女は四郎に纏わりついて遊んだものだったが、 いつの頃からか、サーシアが大人になるにつれだんだんと四郎との距離が出来た。 彼女が訓練校へ聴講生として入ってきたときも、 なし崩し的にヤマトへ乗り組んだときも、 会えば何故か二人は、というよりサーシアの方がよそよそしい態度になってしまい、 そのうちお互い会話も殆どしない完全に見ず知らずの他人のような関係になってしまった。 実はそれはサーシアが四郎を「おにいさま」ではなく、一人の好もしい青年として意識しだしたからだった。
小さいころはあんなに無邪気に四郎に接することが出来たのに、今はそれがなんだか気恥ずかしい。
サーシアは自分の中に生まれた感情をどうしてよいのかもてあましていたのだった。

 格納庫でサーシアを一早くみつけ四郎は彼女に駆け寄った。 余裕はなかったのだろう、サーシアは疲れきった様子で床に倒れこんだ。
「サーシア、サーシア!」
 四郎が呼びかけると彼女はうっすらと目をあけて
「・・・にいさま・・・・」
 と一言つぶやくと四郎の方に手を伸ばしてきた。 四郎はたまらなくなってサーシアを力いっぱい抱きしめた。 その存在を確かめるように。 彼女の体は冷たかった。だが鼓動はあった。 四郎に抱きしめられたサーシアに彼の激しくも暖かな感情が流れ込んできた。 疲れた自分の心がすぅっと安らいでゆくのをを彼女は感じた。

あぁ、このままずっと おにいさま の腕の中で休みたい。

それがサーシアのその時の素直な感情だった。



 あの戦い以来、四郎とサーシアの距離は縮まった。 地球へ帰還してからはお互い忙しかったが時間を見つけては会って話をしていた。 会いたいから会う。話したいから話す。 人はそれをデートと呼ぶのだが本人達にはあまりそういった感覚はなかった。 なぜなら、お互いに自分たちの気持ちには気がついていたのにもかかわらず、 (驚くべきことに)いわゆる「好きです、お付き合いしてください。」とお互い告白をしていなかったからだった。

あの日きちんと自分の気持ちを伝えたかったんだけどな…

 四郎は宇宙港の手荷物受け取り場所で自分の荷物が出てくるのを待ちながらぼんやりと思った。
将来のことを考えると、このままきちんと告白もせずにサーシアと付き合うことはサーシアに対して不誠実だと思ったからだった。 きっかけはなんだったのかもう忘れてしまった。とにかく四郎が話を切り出そうと思ったその時、 サーシアはむくれてカフェを飛び出してしまったのだった。

どうしたんだ?急に??
嫌われたのか?
お互い気持ちが通じ合っていると思ってたのにな。

 四郎は悩んだ。 そうこうしているうちに火星行きがきまり
結果、一ヶ月ほどお互い会えない、話せない状態が続いてしまった。

自分は急ぎすぎたのだろうか?

 サーシアは無邪気な子供ぽいところと、妙に大人びたところとを併せ持っていて アンバランスな綱渡りをしているようなところがあった。 あの日、サーシアは顔を真っ赤にして戸惑ったような眼差しを自分にむけた。

このままずっとサーシアと会わなかったら・・・・ 自分は耐えられるのか?

火星での仕事は忙しかったが 片時も四郎はサーシアのことを忘れたことがなかった。

やがて自分の荷物がターンテーブルに載って運び出されてきた。

加藤君・・・

にっこりと笑ったサーシアの笑顔が四郎の心の中によみがえった。

ああ、君の笑顔が見たい・・!

 四郎は携帯を上着のポケットから取り出すと電源を入れ
サーシアに向けてメールを打った。

会いたい・・・・

と。

来てくれるだろうか?

 メールに返事はなかった。 四郎はさわさわとした気持ちで到着ロビーで 来るのか来ないのかわからないサーシアを待った。 ふと誰かが自分を呼んでいる気がして声のする方向に目をやった。 大勢の人がゆきかうロビーの向こう、 流れるような金の髪をゆらしながら 一人の美少女が自分に向かって一直線に走ってきた。

「・・・・・!・・・・・・!」
 少女は四郎が理解できない言葉をつぶやきながら彼に思い切り抱きついた。
「サーシア!」

来てくれた!

 四郎は嬉しかった。 四郎もサーシアをしっかりと受け止めたが少し困惑した。 サーシアが何を言っているのかわからなかったからだ。
「サーシア?」
「・・・・あ。」
 サーシアは自分が夢中でイスカンダル語でつぶやいていたことに気がつき顔を真っ赤にした。
「あの・・・」
 二人は抱き合う手を離してしばらくただただ黙ってお互い見詰め合った。 お互い会えなかったこの一ヶ月は長かった。 最初に沈黙を破ったのはサーシアの方だった。
「ごめんなさい!私・・・」
「サーシア?」
「あなたに、もしも、もしも、もう一度あなたに会うチャンスがあるなら、まず最初にあやまろうと思ったの。
ごめんなさい。」
「?」
「私、あの日、あのカフェを勝手に飛び出してしまったわ。あなたに失礼な態度を・・・本当にごめんなさい。」
サーシアの大きな瞳に見る見るうちに涙があふれてきた。
「いいんだよ、サーシア。」
 四郎は少しためらったが、サーシアの頬を優しく手で包むと指で彼女の涙をぬぐった。
「来てくれて、ありがとう。来てくれないのかと思っていたから・・」
「ううん。ごめんなさい。メールを貰ったときにね、私嬉しかったの。 私の方こそ、もうあなたはこんな私に会ってくれないかと思っていたから。」

ああ・・・ お互いこの一ヶ月同じように悩んでいたんだな
嫌われてはいなかった。

 そう四郎は思うと、以前よりいっそうサーシアが愛しくなり、四郎はサーシアを引き寄せ強く抱きしめた。
「加藤君・・・?」
 サーシアに、あの格納庫のときのような四郎の感情が流れ込んできた。

あのコトバを・・・お母様から教わったあの言葉をきちんと地球の言葉で伝えなければ・・!

 サーシアは勇気を奮って言った。
「愛しているわ・・・・・」
 抱きしめる腕の力を弱めて四郎はまじまじとサーシアを見つめた。
自分の心の奥にまっすぐ入ってくるような四郎の眼差しにサーシアの心は震えた。
思わずサーシアは眼を伏せてしまった。
「・・・俺もだよ、サーシア・・・・愛している。」
 サーシアの小さなあごに四郎の手が触れ、彼女の唇に四郎の唇が重なった。
ほんの少し触れる程度の口付けだったが今の二人にはそれで十分だった。

きゅるる・・・・・・

 二人は ぱっと離れると 顔を見合わせて笑った。
「そういえばお腹が空いてたの忘れてたわ。」
「まーーーーったく。雰囲気ぶち壊しだなぁ」
「もう〜、仕方ないじゃない。」
「どこか食べに行こうか」
「ええ」
 サーシアは四郎の胸に頭をもたせかけた。
四郎は優しくサーシアを見つめた。

 やがて二人は腕を組んで到着ロビーを後にし、新しい一歩を踏み出した。

おしまい
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女性から告白するのは守さんちの伝統ってことで(笑)

2011.4.19

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