美しき星 美しき音(ね)   
                             
 byばちるど




 コツコツ ・・・  豪華なドアを静かにノックをする音が聞こえた。

「 ・・・ ?  あ〜〜 開いてるぞ〜〜〜 」
資料の山の間から 真田技師長は顔も上げずに声をはりあげた。
「 失礼いたします。 ・・・ サナダさん? 」
澄んだ声が 入口ちかくで留まっている。
「 ?  え ・・・ あ 女王陛下! これはこちらこそ失礼しましたっ 」
彼は本の中から飛び出すと 入口まで大股でがしがし歩いていった。
ドアを開ければ ―  豪華な金の髪をゆらし、この星の女王陛下が立っていた。
「 あら・・・ お仕事をお邪魔してしまったようですね、 ごめんなさい。 」
切れ長の艶やかな瞳が 笑っている。
「 いや ・・・ もう気ばかり焦ってしまって。 どれもこれもなにもかも拝読したくて
 もうムズムズしています。 」
真田技師長は陛下の許可の元、王家の文書保存庫、つまり王立中央図書館 の書庫に時間の許す限り入りっぱなし、なのだ。
「 まあ それはようございました。  あの サナダさん?
 よろしかったらお茶でも いかがですか。 」
「 は ・・・ あの〜〜 宜しいのですか。 陛下のお仕事の邪魔でご迷惑では・・・ 」
「 まあ 迷惑だなんて そんな。  どうぞお気楽になさって ・・・
 少し休憩なさったら如何です?  朝からずっとこちらにいらっしゃいますでしょう? 」
「 あ は ・・・ これは面目ない。 いやあ〜 なにせ我々地球の乏しい知識で
 この星の科学を理解しよう・・・・というのは不可能なのかもしれません。  」
「 そんなことはありませんわ。 あの、もしコスモ・クリーナーについてご質問があれば 
 どうぞ。  わたくしでわかる範囲はお応えいたします。 」
「 そりゃもう願ったり・叶ったりですよ〜〜 陛下。 」
あまり感情を表に出さない彼も 文字通り満面の笑みを浮かべた。
「 では お茶の支度をここに運ばせますわ。  ああ そちらにソファがあります。 」
「 これは ・・・ 恐縮です。 」
スターシアは 手にした小さな機械に軽く触れた。
   カタリ。   ドアが開いて アンドロイドがワゴンに似たモノを押してきた。
書庫の中でおもいがけない午後のお茶会が始まった。
「 さあ どうぞ。 地球の方のお口にも合うと思いますわ。 」
「 は ・・・ ありがとうございます。  」
さすがの真田技師長も緊張しつつ、ソファに腰を下ろした。
イスカンダルのお茶は たいそう香ばしく美味であった。
「 これは美味しいですな ・・・ すばらしい。 」
「 まあお褒め頂いてうれしいですわ。ええ これは守、いえ コダイさんもお気に入りですの。 」
「 ああ そうでしょうねえ〜〜 アイツは今 ヤマトで皆とどんちゃんやってますよ。」
「 ・・・ どんちゃん??? 」
「 あ〜〜 えっと・・・ そう、陽気に騒いで楽しんでいる、という意味です。 」
「 まあ そうですか。 それは  よかった ・・・
 コダイさん は健康を取り戻されたましたわ。 」
「 ヤツから聞きましたよ。  陛下にお助け頂かなかったらとっくに宇宙の塵だ、って。
 本当にありがとうございました。 アイツの親友として御礼申し上げます。  」
真田は最敬礼をした。
「 まぁ そんな ・・・ どうぞ頭をお上げ遊ばして・・・
 あ そうそう ずっと思ってたのですが・・・サナダさんはイスカンダル語がお上手ですのね? どうやって学ばれたのですか。 」
「 え いやあ お恥ずかしい・・・独学ですよ。 陛下の届けてくださったスピーチと
 波動エンジンの設計図  そして 妹君が乗っていらした艇 ( ふね ) から回収させて頂 いた資料 ・・・ そんなものから学んだのですが ― 間違いだらけでしょう? 」
「 いいえ イスカンダル人のようですわ。 ふふふ ・・・ 守、いえ コダイさんよりも
 お上手かもしれませんわ。 」
「 そうですか!? それは光栄ですなあ〜〜  しかし正直言って < 読解 > は難しいです。 時間がもっともっとあるのなら 全部の書物を紐解きたいのですが・・・ 」
「 どうぞご興味のあるものはお持ちくださいな。 」
スターシアは 図書室をぐるり、と見回した。
「 え!? こ ここから ですか。 」
「 ええ。  もう ・・・ ここを利用するのもわたくしだけ ですから。 」
「 いやあ ・・・ しかし王家の図書館からは ・・・ 」
「 では 地球で保存してください。  いつかイスカンダルが滅びてしまっても
 この星の記録は ・・・ 地球に残せます。 」
「 ・・・ スターシア陛下 ・・・ 」
スターシアは すうっと微笑むと手近にあった古書らしきものを差し出した。
「 どうぞ?  いえ お願いいたします。 」
「 確かに。 責任をもってお預かりいたします。 」

「 お〜〜〜い!  さなだ〜〜〜〜!!  皆で飲もうぜ〜〜〜 」

ドアの向こうから 大声が聞こえてきた。
「 あ  ったく〜〜 守のヤツ〜〜 不作法なヤツで申し訳ありません。
 すぐに黙らせますから。 」
真田は慌てて立ち上がった。
「 おい!  守! 場所を弁えろ! 」
「 うわ〜〜 なんだお前、 こんなトコにいたのか。 」
いきなり大きく開けた扉の前に 古代 守が目をぱちくりして立っていた。
「 ああ この星は科学技術が発展しているだけではないぞ。
 ここは ・・・ 素晴らしい宝のかくれ里だ。 守、お前ずっとここで暮らしていて
 気がつかなかったのか? 」
「 へえ ・・・ オレ、あんまりここには入らないからな〜〜 」
  
   くすくすくす ・・・ 涼やかな笑い声が聞こえた。

「 ? ・・・ スターシアさん?  こちらにいらっしゃるのですか。 」
「 おい! いらっしゃるもなにも ・・・ここは陛下の星、こちらは < 陛下の図書室 >
 だぞ〜〜〜 陛下がいらしてなんの不思議もないぞ。 」
「 そりゃま そうだが〜〜 ちょいとお邪魔します〜〜  」 
 がさり。  古代守がひょいひょい本の山を避けて入ってきた。
「 あら 守 ・・・ 今 サナダさんとご一緒にイスカンダルの文芸について
 語り合っておりましたの。 」
「 文芸 ・・・ かあ〜〜 オレはそっち方面はからっきし、だからな〜〜 」
「 そういうヤツだよなあ お前ってヤツは。 陛下、無粋なオトコは放っておきましょう。」
「 うふふふ ・・・・ でもね、サナダさん。 わたくしはコダイさん から
 たくさんの地球の歌を教わりましたの。 」
「 え ・・・  そうなんですか。 ほう〜〜〜 コイツが歌をねえ〜 」
「 あ〜〜 オレだって小学校で歌ったヤツくらいなら 覚えているぞ。」
「 ええ ええ そうなんですの。 守 ・・・ いえ コダイさんは
 たくさん 楽しい歌やら美しい音楽を歌ってくださいましたわ。 」
「 いやぁ ・・・ うろ覚えなものばかりで 」
「 でもわたくしは好きですわ。 」
「 それは ・・・ ありがとう。 」
「 ・・・ いえ ・・・ 」
二人は視線を合わせた、と思うとすぐに互いにそっぽを向くのだった。

   ?  ・・・ あ〜〜 ・・・ コイツぅ〜〜〜

そんな二人に真田は素知らぬ顔をしていたが 勿論ピンと来ていた。
「 なあ 守。  人生ってヤツは時にとんでもなくでんぐり返るよなあ 」
「 はあん??? なんだ?? 」
「 いや ・・・ そのうちわかるさ、うん。  」
「 ?? なんだ 貴様〜〜  」
「 いや こっちのことさ。  え〜 陛下。 それではお言葉に甘えまして・・・
 文献をいくつかお預かりさせていただきます。 」
「 ええ ええ お願いいたします。  ああ ご指示くださればアンドロイドが
 運びますわ。 」
「 いえ。 貴重なものですが 俺がこの手で・・・しっかりと預かりますよ。 」
「 まあ ・・・ ありがとうございます。  」


  こうして真田技師長は 波動エンジンに関する文献だけでなく、多くの分野の文献を
データとしても記録してヤマトに積み込んだのだった。 




  ―  俺は いつかこうなるだろう ・・・ と 知っていたのかもしれない。

真田はぐんぐん遠ざかってゆく親友とその伴侶の姿を モニターごしにじっと見つめていた。
コスモ・クリーナ―D と文字通り山ほどの資料を積みこみ、 
ヤマトは今 この輝ける青き星の大気圏を突破しようとしている。
「 ・・・ 守。 頑張れよ。 俺も地球で頑張る! 」
親友は故郷の星を捨て 愛しい女性 ( ひと ) の手を取った。
その選択を 誰が攻められるだろうか。
今はただ 彼と彼の伴侶の幸福を祈るのみだ。
「 ― 真田さん 」
「 ん? なんだ。 」
古代進が ぼそり、と声を掛けてきた。
「 オレ ・・・ なんだかやたらと嬉しいんですよ。 ヘンですよねえ ・・・
 もう兄さんには二度と会えないかもしれないのに 」
「 ふ ・・・ それは俺も同じさ。 あの二人に当てられたかなあ〜〜 ははは 」
「 真田さん〜〜  」
「 はは 冗談さ。 アイツらの勇気と選択に こっちも活力をもらったってとこかな。 
 さあ ― 俺達の正念場はこれからだ。  」
「 はい! 」
「 ― 帰るんだ。 俺達の星へ。 」
 
   ― そうして ヤマトは地球に帰還した。


帰還後は ・・・ 多忙 などという言葉など吹っ飛んでしまいそうな滅茶苦茶激務の日々が
真田達、ヤマトの乗組員らを待ち受けていた。

真田は 科学局局長となり局員全員が一丸となって奮戦努力した。
いや 彼らだけではない、全ての地球人がそれぞれの立場で自分自身のできること に
獅子奮迅の働きをした。
 ・・・ そうしなければ 地球はもう滅びるしかなかったのだから。

 そして ― この星は徐々に その青さを取り戻し始めた。


           ****************


最近 防衛軍本部科学局で囁かれているウワサがある。
「 え〜〜と? 局長は? 」
「 工廠に出てます。  」
「 お帰りは ・・・・  」
「 多分あちらで泊まり ですね〜 」
「 泊まり?? 」
「 はい。 ・・・ 局長はあちらに住んでいるのかも・・・ 」
「 はあ さすが真田局長 〜〜 」
それは 都市伝説になりそうな勢いだった・・・

地球は一応人類が住居可能な状態になった。 空気はもちろん土壌も除染された。
人々は地下から這い出し 復興へと逞しく立ち上がり始めた。
復興計画の中枢を担う科学局は もう多忙などという言葉では言い合わせない状態だった。

その科学局局長は といえば ― 超多忙の合間、貴重な休憩時間にもタブレットを離さない。
「 ねえ 局長ってば休憩中も仕事? 」
「 う〜〜ん ・・・ なにか資料でも読んでいるみたいよ? 」
「 え〜〜〜 休憩時間まで?  なんの資料?  」
「 それが ・・・ ちらっと覗いたけど みたこともない文字だったの。 」
「 ・・・ 宇宙語?? 」
「 さあ ・・・ 」
「 でも なんなのかしら・・・ そんなに難しい問題なのかしらね 」
「 そうねえ あの局長でも解決できないなんてね 」
周囲はコソコソ・・・ 遠巻きにしていたので 当然ご本人は気がつくはずもなかった。
実際 真田は実に楽しそうにその<資料>を 眺めているのだ。
まるで なかなか溶けない飴玉を口の中で転がし楽しんでいる風でさえもあった。
その後も 真田局長の多忙さは続いていった。

そしてまた日々は過ぎてゆき 地球がようやくその青さを確実に取り戻し始めたころ。
この星は 一組の夫婦を迎えいれた。
「 ― 守! 」
「 真田 ・・・ ! 」
親友同士 万感の思いをこめて抱き合えばそれで十分だった。
「 サナダさん ・・・ お元気そうですね。 」
「 女王陛下。 ようこそ地球へ。 さあどうぞ寛いでください! 」
親友の美しい細君を 真田局長は、いや 地球市民全員が心から歓迎したのである。
 ― 古代守夫妻と真田志郎の交友が再会した。

官舎の天窓修理に行ってから 真田は時たま守の家を訪ねることがある。
その日も 彼は仕事帰りに守の官舎に立ち寄っていた。
「 じゃあ これで・・・すまんな、急に寄って。
 あ そうだ。 すまんついでだ、ちょっと教えてくれ。」
「 なんだ? お前に教えられることなんてあるかあ〜〜? 」
「 あは 守、お前よりも陛下に伺いたいんだが ・・・  これ さ。 」
真田はタブレットを差し出した。
「 ああ? ・・・ ああ イスカンダル語か 」
「 うん。 だから 陛下に伺いたいことがあってね 」
「 なんだ〜 俺じゃだめか?  俺だってイスカンダル人なんだぞ? 」
「 守、 貴様 語学は堪能か?  」
「 あはは 真田、貴様よ〜くわかっているだろ? 学生時代に・・・  」
「 ああ! 十分にな!  しっかしそんな貴様が どうやって陛下を口説いたんだ?
 まさか 強引に ・・・ 」
「 と〜んでもない! 正々堂々 儀礼を守り作法通りに端正に 正確なイスカンダル語を駆使して  女王陛下に求婚したのさ!  」
「 ほう? それなら これ! 解読しろ! 」
 ぐい、と真田はタブレットを守に押し付けた。 
「 ん〜〜 なんだ?  ああ? ・・・ あ ああ ・・・ それ 歌だ。 」
「 う た ? 」
「 ああ。 歌、song ってか もともとは 詩 poem の方らしいんだがな。
 あの星でスターシアがよく歌ってくれた。 」
「 へ 陛下が!? 」
「 うん。 お〜い  スターシア〜 これ あの歌だよなあ?  」
「 ・・・ 守? なにかご用ですの? 」
パタパタパタ ・・・ 軽い足取りで親友の細君が顔をみせた。
ふっくらしてきたお腹とともに、彼女の頬も桜色になりますます輝いてみえる。
「 はい? 拝見しますわ  ・・・ ええ これはイスカンダルの伝承歌ですわ。 」
スターシアは タブレットを手にぱあ〜っとあでやかな笑みを浮かべた。
「 で 伝承歌?? では・・・古いものなのですか。 」
「 はい。 これはイスカンダル古語で書かれていまして、文法も違います。 」
「 は〜〜〜 それで か! 」
「 はい? 」
「 いや ・・・ 守、陛下にお願いしてもいいかな。 」
「 ん? なんだ? 」
「 うん ・・・ できれば是非 歌っていただきたい、と・・・ 」
「 あ〜 どうかなあ・・ 腹圧とかかかるとマズイのかもしれないし・・・ 」
「 あらあ、大丈夫ですわ、守。 赤ちゃんにも聞かせてあげたいわ。
 真田さん、拙い歌ですけれど聞いてくださいますか? 」
スターシアはにこにこと もう一度真田をリビングに呼んだ。
「 はあ ありがとございます ・・・  」
ソファにすこし寄りかかった姿勢で スターシアはゆっくりと歌い始めた。



    青き星の元に生まれしものたちよ  青き海原を渡りゆけ

    その道は やがて天 (そら) へ 星の海へと 導きしもの

    さあ イスカンダルの子らよ 青き高みへ駆け上れ


夜の空気の中に 澄んだ声がすう・・・っと消えていった。
「 ・・・ いかがですかしら。 」
「 陛下・・・ ありがとうございます。  これは 出発の歌 ですね? 」
「 まあ 流石ですわね〜 真田さんは意味がおわかりですのね。 」
「 いえ  かの星でお預かりしてから どうしても解読できなかったのですが ・・・
 今 陛下のお声を拝聴して 身体全体で理解しました。 さあ 旅立て、と・・・」
「 まあ ・・・・!  ええ ええ そうなんですの〜〜
 この詩も歌も大好きでしたわ・・・ 代々女王が歌う歌なのです。 」 
「 そうですか ・・・ !  いやあ〜〜 ありがとうございました。
 守、すまんな、遅くまで邪魔をして。 これで失礼いたします。 」
「 どうぞ是非またいらしてくださいね。 」
「 真田、ありがとう!  ああ 下まで送ってゆくよ。 」
「 すまんね。  陛下 では失礼いたします。 」
二人は連れ立って 地下の駐車場まで降りた。
「 ああ 久しぶりにスターシアの歌を聞けたよ、ありがとうな〜 」
「 いやいや 礼を言うのは俺のほうさ。 素晴らしい歌声だなあ ・・・ 」
「 だろ? 」
「 コイツぅ〜〜 堂々とのろけるなっ!
 しかし陛下の歌を聞いて ひとつ謎が解けたな。 」
「 なぞ ??? 」
「 ああ。 イスカンダルの女王は おそらく代々斎の姫巫女だったのだろうな。
 そう ・・・ 我が国でも古にはそんな女性がいる。 」
「 地球・・・ いや日本に か? 」
「 額田王 さ。 まあ二千年ちかく昔の人物だがな、有名な歌人なんだ。
 彼女の歌に こんなのがある。 」
真田は再びタブレットを取り出した。

   にぎたづに ふねのりせむと月まてば 潮もかなひぬ 今はこぎいでな

「 はあん??? 」
「 詳しい意味は自分で調べろ! しかし彼女もまた斎姫に近い存在だったのだろうよ。
 彼女の歌で人々は鼓舞され闘いに出ていった、というからな 」
「 ふうん ・・・ 」
「 貴様ぁ〜〜 大切にしろよ! 」
「 あったり前だ!  」
親友同士は に・・・っと笑い合うのだった。



     むかし 地 は ひとつでございました

     広い広い宇宙の中でそれではあまりに寂しいから と
     母なるサンザ―は その地を幾人もの兄弟星に 分かたれました

     子供たちよ 仲良く助けあって生きてゆきなさい
     お前たちは みな一つの星から生まれたのですから

      そなた  イスカンダルよ
     そなたはこの母を祀るのです それがそなたの生きる道 

      そなた  イスカンダルよ
     いつの日も愛し合い生きるのです それがそなたの生きる日々 


月の綺麗な夜、イスカンダルの女王陛下は歌う ・・ 昔むかしの唄を。
窓辺に寄りかかり、スターシアはよく透る声で歌った。
「 ・・・ いい歌だな ・・・ 」
「 あら 守、お好き? 」
「 ウン。 なにか心の底から暖かく元気が湧いてくる。 」
「 そう? きっとサンザーの光が守の心を照らしているのよ。 」
「 俺の? 」
「 ええ ・・・ 」
 スターシアは す・・・っと身を屈めると彼女の夫君にキスを落とす。
「 サンザーがいつも守を温めてくれますように ・・・ 」
「 あは ・・・ 俺には君がいるから ・・・ 」
 守は彼の細君を優しく抱き寄せる。
「 君の歌が俺を温めてくれるんだ・・・ なあ? チビ助〜〜 」
「 うふふふ・・・ 赤ちゃんも聞いていてくれてるわ。 」
「 ん〜〜〜  チビ〜〜 聞こえるかい? 」
守は彼女のふっくらしてきたお腹にそっと顔を寄せる。
「 チビじゃありませんって。 女の子に失礼でしょ。 」
「 さあ どうだか・・・ 」
二人の眼差しはまたゆるゆると絡みあい やがてキスを啄み合う・・・ そんな夜が増えた。

スターシアは夜になると窓辺で歌うのが大層気に入ったらしい。
守も楽しいひと時を過ごせて大いに嬉しいのであるが・・・
「 ・・・ う〜ん ・・・ やはり窓を閉めようか  ・・・
 煩い、と感じる人もいるだろうからな・・・  」
彼はそっと窓を閉めるのだった。
 そんなある日 ― 帰宅してきた守は官舎の入り口で隣家の主人と顔を合わせた。
「 や・・・ 今晩は。 」
「 今晩は〜〜  あ あのう〜〜 古代さん 」
「 はい なにか・・・  」
「  あのう 申し上げ難いのですが・・・ 」
「 はあ? 」
「 あの ですね ・・・ 御宅様の 窓を・・・ あ〜 その歌声が ・・・ 」
「  あ! すいません 煩いですよね、 ちゃんと閉めます。 申し訳ない〜〜 」
「 いえいえ〜〜! どうか窓を閉めないでくださいますか  」
「 は? 」
「 皆 聞きたいのですよ 陛下の歌を ・・・ 」
「 ・・・ あ ・・・ 」
「 皆 陛下の歌に癒されていますよ、 なんというか心が元気になります。
 どうか 私共にもその幸せをお裾分けください。 」
「 は はい・・・!   」

 ― そして 彼女は今夜も歌うよ ・・・ そう 人々の心に響く歌を。


2014.11.5

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