さくら さくら
                            byばちるど




   この下に ・・・ 埋まっている、のだろうか。   ―  死体が・・・

スターシアは しばらく息をつめて目の前の光景を見つめていた。
公園といわれている区画に沿ってずっと稚い木々が植えられている。
みな似たような高さ、ほぼ同じ間隔で並んでいて、どう見ても人為的に植樹された並木だ。
どの木もひよひよと頼りなく枝は多くはない。
その間から白い花がちらちら見える。

      さくらのきのしたには したいが うまっている

彼女はつい最近読んだ小説の中の一節を思い出し、少しばかり不思議な気がした。
それは旧い旧い物語で PCで<桜>を調べていた時に偶然みつけたのだ。
まだ日本語の読み書きが不自由な彼女のために 真田が作ってくれた翻訳ソフトを使ってみた。
その奇妙にひっそりとした雰囲気に魅かれ、つい夢中で読んでしまったが 
現実に今、その花を目の前にしてなんとも奇妙な気持ちだったのだ。

   ふうん ・・・ この星の木は皆こんな風に生えているのかしら。
   どこもみんなお行儀よくて ・・・ でも窮屈そうね

   さ く ら ・・・   この花が  さくら ・・??

   ・・・ 死体を踏んで枝を広げる ― そんな風にはとても見えないわ

彼女が生まれ育った星では 植物たちは我が物顔に自由奔放に生きていた。
水の多い惑星だったがスターシアが女主になった頃には陸地での主人は 
だんだんと植物になり始めていて・・・宮殿もさまざまな緑に囲まれていた。
あの地では 木々や草花は饒舌に話しかけ彼ら自身を大地に、空に、誇っていた・・・
  だがこの星では。  緑は稚くどこか危な気で必死に地に纏わり付いている。

「 守 ・・・ ここが 公園 なの?  あれが  その ・・・  さくら ? 」
「 ああ そうだよ。  以前はもっと大きな木ばかりでね、それは見事な花を咲かせていたのだが・・・
 まあ ここまで回復したのは奇跡に近いよ。 」
「 ・・・ あ。  」
スターシアはやっと気がついた。

   ―  そうなのだ。  この星は一度は死の星になりかけたのだ 

「 そう ・・・ それで ・・・ 」
「 うん。 皆まだ若木なんだ。 だから花の数も少ない。 
 だけど ・・・ また桜をみることが出来るとはなあ・・・  うん、その方が感激だよ。 」
守は ほう・・・っと息をつくと目の前の稚い緑をぐるりと見回していた。

   守 ・・・  昔の景色を思い出しているのかしら・・・
   そうね きっと。  私も 私にも見えるわ ・・・ あの白い花が・・・
   ・・・ イスカンダル・ブルーが咲き誇っていたあの光景が 

スターシアは ジャケットを掻き合わせそっと目を閉じた。 馴染んだ匂いが彼女を包む。
胸を突き上げる不快感がすこしは治まる・・・気がした。
「 もう少し歩くんだが ・・・ 大丈夫か。 」
「 ええ、大丈夫。  皆さんに会うのは久し振りだわ。 」
「 皆 待ってるぞ〜  うん ・・・ いい花見になるな。 」
守は妻の肩を抱いて ゆっくりと歩調をあわせて進んで行った。


   さくら  さくら  ―  この言葉を聞いたのは ・・・いつ ?




             ******************************




「 ・・・ さくら・・・? 」
「 うん。  俺の育った国では春になると皆、桜が咲くのを心まちにしていてね。
 開花予報まであって、まあ一種の御祭りさわぎだったよ。 」
「 そうなの・・・ きっとものすごくキレイなお花なのね。 」
「 う〜ん ・・・ ひとつひとつの花は地味で小さいんだ、すぐに散ってしまうし。
 だけどその小さな花が一斉にぱあ〜〜っと咲くとなあ・・・ 
 うん、 ほらこの草原とよく似ているんだ。 」
守は 懐かし気な表情で イスカンダル・ブルーの群生を見渡している。
「 そう・・・ わたしも見てみたいわ・・・ 」
「 ・・・ いつか、一緒に眺められると ・・・ いいな。 」
「 そうね いつか・・・守の故郷にいけたらいいわね。 」
「 ・・・ ん ・・・ 」
スターシアの白い腕がするり、と守の首に纏わる。
「 ・・・・・・・・ 」
守は微笑み妻を抱き寄せた。
「 俺にはここが一番さ。  君の側が な。 」
「 ・・・ 守 ・・・ 」

   ― さ く ら。  いつか ・・・ 見たいわ。  いつか 守と一緒に。

二人が眺めている白い花々、イスカンダル・ブルーたちはこぞって彼らの女主人夫妻を歓迎していた。
ゆれる満開の花々の中で 守とスターシアは熱く口付けを交わした。



  ― あれはいつのことだったろう。 
指折り数えるまでもなく、ほんの一年にも満たぬほど以前の日々なのに
スターシアにははるか昔のことに思えた。
あの時二人で語った さくら。 その花を見に行こうと夫が言い出したのだ。
「 ―  さくら ? 」
「 うん、ここの官舎街に公園があるんだが そこにずっと桜が植わっていてね。
 そろそろ花が満開になる。 」
「 ・・・ ああ 思い出したわ。  ほら・・・ イスカンダル・ブルーが咲いたときに
 守が教えてくれた花のことね。 」
「 そうさ、よく覚えていたな。  君に桜を見せる日がくるとは ・・・ あの頃は
 思ってもみなかったけれど・・・。 」
「 私、 見たいわ。  ず〜っとね、見たいなあって思っていたの。 」
「 そうか。 それじゃ次の週末に見にゆこう。 ― あ ・・・ 大丈夫か、その・・・気分は・・・ 」
守は話をやめ そっと妻の背を撫でた。

   ・・・ 痩せたなあ ・・・ 仕方ないとはいえ大丈夫か・・・

遠い遠い旅の果て、地球に辿り着きこの官舎に落ち着いた。
春が巡ってくるころ、守とスターシアの日々の暮らしもどうやら軌道にのってきた。
守は防衛軍の指令本部勤めとなり、忙しい毎日を送っている。
スターシアは慣れない家事に懸命に取り組んでいたが・・・
見知らぬ星での暮しに戸惑い、さらに悪阻の時期と重なり彼女はかなり参っていた。
日中もお気に入りの和室に 布団を敷いて横になっていることが多かった。
どうしようもないこととはいえ、守の心配は相当なものだった。

「 大丈夫よ ・・・ ふふふ・・・ 病気じゃないもの。 
 皆が ― わたしの母も、そうよ、イスカンダルでも地球でも 
 沢山の <おかあさん> たちが耐えてきたことだわ ・・・ 」
「 しかし ・・・ 」
「 あのね、 このごろ少しづつ治まってきたみたい ・・・
 それにね、 ほら・・・ この服、守のこれを着ていると不思議と気分がいいの。 」
スターシアは ネグリジェの上に羽織っているジャケットを引っ張ってみせた。
「 これ・・・ 俺のゆきかぜ時代の艦長服だよな。
 ほら ・・・ 君がイスカンダルで繕ってくれたやつだろ? 」
「 ええ。  初めて出会ったときに守が着ていたものよ。 」
「 もういいかげんぼろぼろなんじゃないか。 いいのかい、そんなので。 
 明日、帰りに新しいガウンを買ってこよう。 」
「 いいの。 だって これ・・・ 守の匂いがするから。
 これを着ていると いつだって守と一緒な気持ちになれて・・・安心するの。 」
「 ・・・ スターシア ・・・ 」
スターシアはきゅ・・・っと夫の古着を抱き締めている。

    それに ・・・ この服は イスカンダルを知っているもの・・・
    あの懐かしい空を 緑を 海の音を ・・・ 知っているもの・・・

「 こんなのが役に立つならどんどん使ってくれよ。 
  あ、さくらのことだけれど、・・・出歩いたりしていいのかな。 」
「 それは大丈夫。  無理をしなければ普段と同じ生活をしなさいって、ドクターが。
 その方が赤ちゃんにもいいそうよ。 」
「 それなら ・・・ いいが。  今週末、進たちが花見をする、と言ってさ。
 陛下もよかったらどうぞ・・・って誘ってきたのさ。 」
「 まあ ・・・ 進さんとお友達? 」
「 いつもの連中さ、君も全員知ってる ― ヤマトの第一艦橋にいたヤツらだよ。
 気心知れてるから 気楽だろう? 」
「 そう ね。  私も皆さんに会いたいわ。 」
「 そうか! それじゃ・・・ 一緒にでかけよう。 なに、すぐそこの公園だから心配いらないよ。 
 散歩がてらぶらぶら歩いてゆこう。 」
「 そう ・・・ さくら ・・・ 楽しみだわ。 」
白い頬をうっすらと染め スターシアは微笑んでいる。
「 うん。 皆もさ、君の元気な顔をみたら安心するよ。 
 温かい服装でいるほうがいいな。  そうそう、ユキが服とか買ってきてくれたのだろう? 」
「 そうなの。  素敵な服ばかりで・・・とても嬉しかったわ。 」
「 うんうん、よかったな。 ああ 必要なものがあればどんどん言ってくれ。
 俺だって買い物くらいできるぞ?  この官舎街にはスーパーもあるんだ。 」
「 ええ ・・・ その時はお願いします。 ありがとう、守 
 私、具合が落ち着いたらお買い物とか出かけてみたいの。 
 だから さくら・・・ 是非 守と一緒に見にゆきたいわ。 」
「 いやあ 俺も楽しみだよ。 花見か ・・・ 何年、いやそれこそ10年振り以上か? 」
守は空を見上げ 彼なりに感慨に耽っているらしい。

    さくら ・・・ そうね、あの時 ・・・ イスカンダル・ブルーの群生を見ていて
    守がとても懐かしそうに話してくれたわ

    きっととても とてもキレイな光景なのね。  
    ・・・ イスカンダル・ブルーの花盛りと似ているかしら・・・
    イスカンダル・ブルー の ・・・! 

少しだけ涙が滲んできた。
    ・・・ いけない ・・・ スターシアはさり気無く指でおさえた。    
「 ユキさんが選んでくださった服を着てゆくわね。 」
「 うん うん  春らしい服の君を早く見たいな。 」
「 ふふふ ・・・ 楽しみにしていてね? 」
「 ああ。 うわ〜〜 こりゃ花見よりもっと楽しみだぞ? 」
「 もう〜〜 守ったら・・・ 」
守は ほれぼれと妻の笑顔にみとれていた。



イスカンダルから戻って後、ユキはヒマをみつけては義兄達の官舎を訪ねていた。
慣れない地で 昼間はたった一人で家にいるスターシアのことが心配だった。

    女は女同士ですもの♪
    お喋りしたり ・・・ 早く一緒にお買い物とかしたいわあ・・・
    そうだ、明日の半休、 スターシアさんのお見舞いに行こう。

春とはいえ 低い雲が空を覆い冷え込んだある日、 ユキは義兄の家を訪れた。
インターフォンを押すと 少し間があってから返事があった。
「 お姉さま?  ユキです。 お加減はいかがですか。 」
「 ・・・ ユキさん。  ありがとう、さあどうぞお上がりになって・・・ 」
「 はい 失礼します ・・・  」
ドアを開けてくれたスターシアは ― 青白い顔でゆらり、と立っていた。
「 あの ・・・ ご気分が悪いのですか。 ごめんなさい、お邪魔して・・・ 」
ユキは思わず足を止めてしまった。
「 大丈夫・・・ ごめんなさいね、こんな恰好で・・・・ 」
「 いえ ・・・ どうぞ横になっていてくださいな。  」
「 ええ ・・・ ありがとう ユキさん 」
スターシアは以前にユキが選んだホーム・ウェアの上に防衛軍の旧艦長服を羽織っていた。

    あら 守さんの? もしかして ガウンの代わり?  
    いっけない・・・! 私、 パジャマとかガウンとか買って来てないわ

彼女はリビングを抜け、和室へとユキを案内した。
「 お姉さま ・・・ あらどちらに? 」
「 ふふふ ・・・ このごろ、こっちの和室で休んでいます。
 このお部屋の香り・・・ タタミというのでしょう?  とてもいい香りね。 」
「 え・・・ あ ああ そうですね。 私も、そう、日本人は皆この香りにほっとします。
 あの ・・・ スターシアさん? 」
「 はい?  」
「 その・・・ジャケットですけど。 サイズも合わないし着づらいでしょう。
 今度、羽織るものを買ってきますね、どんな色がお好きですか? 」
「 え・・・ あ これ・・・? 」
「 ええ。 ガウンの替わりにしていらっしゃるのですよね? 」
「 ・・・ いえ ・・・ あの・・・ タタミとこの服の匂いがあると随分楽なの。
 何と言ったらいいかしら・・・ そうね、気分が楽になるの・・・ 」
「 まあ そうなんですか。   ああそうだ、今日はね。 いいものをお持ちしました。
 お茶なんですけど・・・ 身体が温まります。 」
「 ・・・嬉しいわ。 いつもありがとうございます、ユキさん。 」
「 うふふふ・・・私も飲みたいんです。 お姉さま、二人でお茶会をしましょう。 」
ユキはキッチンにもどり、持ってきた荷物をあけた。
カモミールのお茶を入れ、 買って来たレモン・ジェリーを切り分けた。
「 さあさあ  どうぞ?  このお茶は古くから飲まれているんですよ。 」
「 ・・・ いい香り ・・・ ほっとするみたいな香りね。 」
「 でしょ?  こっちはね、レモンのジェリーです。 これなら召し上がれると思います。 」
「 キレイなお菓子ね・・・ ありがとう、ユキさん。 」
「 これもね、私も食べたかったんです。 さあ 冷たいうちにどうぞ? 」
スターシアはスプーンでゆっくりとジェリーを口に含んだ。
「 ・・・美味しい ・・・! なんだか咽喉をするする・・・通るわ。
 あら ・・・ なんとなくすっきりしてきたみたい・・・ 」
「 まあよかった。 あのね、レモンとか妊婦さんには好まれるんです。 」
「 そうなの。 レモン、というのね。 」
「 ええ。 ホンモノはまだ本当に貴重品で ・・・ これは乾燥させた粉末を使っていますけど 」
「 ああ  美味しい ・・・ 」
ジェリーの滋養などたかがしれているが、気分がすっきりしたのはなによりだ。
ユキと二人、他愛もないおしゃべりをしてお茶を飲み、スターシアは久し振りに笑った気がした。
「 ああ よかった。 お姉さま、お顔の色がよくなったわ。  」
「 あら そんなに酷い顔、してました?  いやねえ・・・もう・・・ 
 でも もう大丈夫。 レモン・・・でしたね? わたし、買ってきます。 」
「 乾燥させたピールとか粉末なら 昔の果実のものがあります。 
 本当は生のレモンを絞って召し上がるが一番美味しいのですけど ・・・ 」
「 ・・・ まだ 復活してないのね? 」
「 ええ クローン栽培は始まっていますが、まだ果実が生るまでにはなってないそうです。 」
「 そう ・・・ 花も樹もこれからなのね。 」
「 はい、今どこの国でも緑化を急いでいますから。 来年はもっと緑が増えます。 」
「 どんどんキレイになるのね。 」
「 スターシアさん、来年は赤ちゃんと春の花がごらんになれますよ。 」
「 そう? ・・・ふふふ そうね。 ユキさんもその次の春には・・・ 」
「 え ・・・ いえ 私はまだまだ・・・ 」
「 うふふ どうかしら? もうすぐ、かもしれなくてよ。 」
「 お姉様 〜〜 ! 」

     ああ ・・・ こんなおしゃべりをしたのって ・・・
     サーシアがあの星を出発して以来かもしれない・・・

     ・・・ サーシア ・・・ 

     そう ね。 ここにもちゃんと私の妹がいるんだわ

スターシアはユキとのお茶会で身体も心もほっと温まる思いだった。



「 ― ただいま〜 ・・・って古代君はまだよね〜 」
ユキは自分達のマンションに帰ると ぼすん、とソファに座りこんだ。
進の帰りは遅いし、夕食をつくるのも面倒だった。
「 う〜ん・・・? スターシアさん、元気ないわねえ・・・
 やっぱり悪阻の時期だもの、仕方ないか。
 でも・・・少しでも楽になるには・・・  なにがいいのかなあ? 
 やっぱりこれは経験者に聞くのが一番、だけど ・・・う〜ん ? 」
つらつら友達の顔を思い浮かべてみたが、彼女の周囲に同年代で <経験済み> はいない。
「 う〜ん・・・?  ― あ。 ちゃんといるじゃな〜い、大先輩が。 」
そうだ そうだ、とユキは早速携帯を取り出した。
「 ―   あ ママ?  
 教えて〜〜 あのねぇ つわりの時って どうしたらいいの? 」
「 ・・・・・・・ !!! 」
「 ? ママ??? もしも〜し??  ― やだ、なんで切っちゃうのよ〜〜〜 」
ユキは憮然として携帯を眺めている。
ユキの母はなにやら短い独り言を呟くと いきなり通話を切ってしまったのだ。
「 誰か来たのかしらね〜 ふ〜ん だ。 いいわよ、夜にもう一回掛けるから。
 じゃ・・・ 晩御飯でも作るか。  う〜ん面倒くさいな、 チン でいっか・・ 」
ユキは冷凍食品をレンジに放り込むと ソファにひっくりかえって雑誌を拾い読みしはじめた。

   ふぁ 〜〜〜 ・・・・  ああ〜 いい気持ち ・・・

そのままユキはいい気分で眠ってしまった・・・らしい。

 
     ― カチャ・・ カチャ・・・・  ジャー・・・

   ・・・ ?  う ・・・ん ・・? あら〜〜 なんだかいい匂い ・・・
   これって ・・・私の好きなお豆腐のお味噌汁 ・・・?
   
   ― あれ?  そんなもの、冷凍食品にあったっけ?

夢うつつで懐かしい香りをかぎ、ユキはもぞもぞと起き上がった。 
お腹の上にはタオルケットが掛けられていた。

   なに これ。   あ これって ・・・ 中学生の頃のじゃない・・・?
   ・・・ こんなの、どこにあったっけ?

「 ・・・ あ ・・・れ?  」
目の前のテーブルには ほかほか湯気のあがる皿がいくつも並んでいる。
「 あら ユキ。 目がさめた? ああ ああ いいのよ、横になっていて・・・ 」
「 ― ママ?? 」
「 ほら、ユキの好きなお味噌汁や卵焼きよ。  これなら食べられるのじゃない? 」
「 ・・・え ・・? 」
「 気分が悪くても少しでもね、口にいれてみて。 」
ユキの母は満面の笑みで ユキの隣に座った。
「 うふふふ・・・来年の春には一緒にお花見ができるわねえ・・・ チビちゃんと。 」
「 ・・・ はあ???  」
「 でもねェ ママはね、 おばあちゃん なんて呼ばせませんからね。 いい? 」
「 ???   ― あ。 」

    あ〜〜〜〜 ママってば!?

「 ママ! 違うの、違うのよ〜〜 」
「 なにが。 ユキってば一番に報告してちょうだい。 それで進君、大喜びでしょ? 」
「 ― ママ !! 」

        「  え。  スターシアさん・・・? 」




「 イスカンダルの食べ物と似たもの・・・? 」
進は箸を止め、思わずユキの顔をみつめた。
遅くに帰宅した彼をまっていたのは ― ほかほかの飛び切り美味しい味噌汁に卵焼き・・・・
彼が大感激をしてかぶりついたのは当然だろう。
そんな進をながめつつ、ユキは重々しく頷いてみせた。

    ママの作品だけど ・・・ 黙ってよ。
    や〜だ 古代君ったらこんなモノが好きだったのかしら・・・・

    ふ〜〜ん ・・・ 今更だけど大発見だわ〜

「 そうなの。 スターシアさんね、悪阻で・・・辛いみたいなのよ。
 それで馴染んだ食べ物なら きっと咽喉を通ると思うのね。 ( とママが言いました ) 」
「 あ〜 だからイスカンダルの食べ物と・・・ 」
「 そうよ。 私たち、あの星でいろいろ御馳走になったでしょう? 」
「 ・・・ ああ そうだったなあ。 」
「 思い出した?  ね、なにか似た味とか食感のものって・・・思いつかない? 」
   う〜ん・・・ 進は箸を置いて真剣に考え込んでいる。

「 ・・・・ あ! みかん! 」 

「 ― みかん? 」
「 うん。 あ これってミカンのまんまだ!と思ったやつ、あったろ?
 ほら デザートじゃなくてオカズって感じだったけど。 」
「 ・・・・  ああ! あれね!  なんという名前か・・・忘れてしまったわ。 」
「 俺もさ。 でも味は確かにミカンだった! 」
「 そうね!  ・・・ けど、今時 ミカン なんて ・・・ある? 」
「 ・・・う ・・・・ う〜〜ん??? 」
「 戦前のものなんていくら冷凍保存でも無理だし。  
 苗木がやっとクローン栽培で育ち始めたところでしょ。 」
「 そうだよなあ・・・ 柑橘類は普通でも実生は時間が掛かるんだ。 」
「 そうなの? さすが詳しいわね、古代君。 」
「 えへへ・・・  うん、明日 心当たりを捜してみるよ。 」
「 お願いね。  あ それとお花見の話〜〜 古代君、大丈夫でしょ? 」
「 土曜だったよね? ウン オッケーさ。 
 あ 相原とか南部とか声をかけておくよ。  」
「 お願いね〜〜 私は古代参謀にお願いしてみるから。 」
「 頼む〜  ね ユキ。 御飯、 まだある? 」
「 え。 まだ食べるの。 」
「 お茶漬け〜〜 」
「 ・・・・ はいはい。 」
  ― こちらのカップルも 熱い夜を過したに違いない。




             ********************************



夫と一緒に ゆっくりと公園の中を歩いてゆく。
  ひらり ひら  ひら ・・・・  
時折 白い小さな花びらが空中にただよってくる。
「 ・・・ かわいい ・・・ 」
「 うん?  ああ もう満開なのか。  本当はもっとな、雪みたいに散るんだ。 
 桜吹雪、花吹雪、という言葉もあるんだ。 」
「 そう ・・・ でも これも好きよ、可愛いわ。 」
「 うん ・・・ お、あそこだな〜 進たちがいるぞ。 」
「 ・・・・あら 本当。 わあ 皆さんいらっしゃるのね。 」
ヤマトの仲間たちとはすぐに合流した。
「 こんにちは!!  お久し振りです。 」
「 さあ − こちらへ !!! 」
彼らは満面の笑みで守とスターシアを迎え、そして・・・・
「 お姉さま! ここ! ここが指定席です。 古代君に持たせてきました。 」
ユキが 分厚い座布団を指している。
「 そ・・・ も〜〜重たいのなんの・・・ 」
「 艦長代理〜〜 お疲れさん! 」 
「 重要任務、完了ですね〜〜 」
「 あとね、 ほら・・・ひざ掛け用に毛布も。 さあ どうぞ。 」
「 やあ すまんなあ。  スターシア ・・・ 座れるか。 」
「 ええ。 皆さん ありがとうございます。 」
守に手を取られ スターシアはゆっくりと座布団に腰掛けた。
「 そのコート、よくお似合いですね〜〜 」
「 ありがとう、南部さん。 これ・・・ ユキさんのお見立てですの。 」
「 ユキ、ありがとうな。  うん 本当によく似会うよ・・・ 」
「 そう? ありがとう、守。 」
夫婦は熱く見つめ合い ― 周りはやれやれ・・・と肩を竦めている。
・・・ 古代君、 とユキが進をつんつん突いている。
「 あ ・・・うん。 え〜 スターシアさん! これ・・・ 皆からのお見舞いです! 」
「 ― はい?  」
 
    ぽん、と渡されたのは ― つやつやしたミカン。

「 これ・・・ホンモノです。 さんざん捜してどこにもなくて・・・ 
 でも意外なトコにあったんです。 」
「 ?  」
「 あのね、お姉様。 ヤマト農園にミカンの木があったんです。 そこに実が・・・ 」
「 まあ そんな貴重なもの、頂いてもいいのですか? 」
「 どうぞ。 ヤマトの皆からの気持ちです。 」
「 ― ありがとう ・・・!  みかん ・・・ 可愛い名前ね。 」
スターシアは黄金色の実を そっと掌でなでた。
「 ね、 お姉さま。  是非召し上がってみてください。 皮は手で剥けますから。 」
ユキに促がされスターシアはそっとミカンの皮に指を当てた。
    シュ ・・・・   鮮烈な香りが飛び散った。
「 あら ― この香り・・・! 〇〇〇 だわ・・・ 」
「 うん? これはミカンだぞ。 いや ・・・ ああそうだね、〇〇〇と同じ香りだ。 」
スターシアは守に見せてからミカンを両手で包みその芳香を楽しんだ。
そしてミカンのひと房 ひと房をゆっくり口に運ぶ。 

     ・・・・ 美味しい ・・・!  これはイスカダルの〇〇〇と同じだわ・・・

なにか ― すぅ・・・っと爽やかな空気がスターシアをつつんだ。

     そう ね。  そうなんだわ ・・・ わかったわ 私。

進たち、ヤマトの仲間は もう大喜びで宴会に突入している。  
守は涙ぐんでいる妻の肩をそっと抱いた。
「 スターシア ・・・ 」
「 ねえ 守。  ― 私 わかったわ。 」
「 うん? なんだい。 」
「 どうして皆が さくら が好きなのか。 」
「 ?  」
「 あの ね。  桜の樹の下には皆の希望が眠っているのね。
 そして それがこの小さな花になって ・・・ 世界中に飛んでゆくのだわ。 」
スターシアは ひとひら ふたひら 散るはなびらに手をのばした。
「 だから 皆 さくら を愛するのね。  皆 希望をみつけるのよ。  」
「 ああ 君という人は ・・・ なんて ・・・ 」
守はそっと妻の肩をだきよせ 白い手をしっかりと握った。
「 俺の希望は ― ここにあるよ。 」
「 ― 守 ・・・ ! 」

「 ほらほら〜〜 兄さんったら。 二人の世界、しないでくれよ。 」
「 そうですよ、守さんもスターシアさんも こっちに混ざってくださいよ〜 」
「 おう 今 行くよ。 俺の分もとっておけ! 
 スターシア、ほらこの座布団を動かすから。 あ 気分は大丈夫かい。  」
「 ありがとう 守。  ええ ミカンのおかげですっきりよ。 」
「 そうか・・・ それじゃ ほらこの膝掛け。 しっかり巻いていろ。 」
「 はい。  ・・・ 暖かいわ。 」

       ひらり  ひら ひら ・・・・  

花びらが皆の上に舞い落ちる。 

   なんと美しい星だろう この星は花びらまでも美しく散ってゆく・・・

この星に来て よかった  ― 今 スターシアは心からそう思った。



           ***********************


戦いは終わり 今、やっとまた平和な春が訪れた。
昼間の公園は可愛い声に溢れていた。 
スターシアはゆったりと桜の木の間を歩いてゆく。
   
   この星に来て・・・いろんなことがあった。 いろんなことが・・・
   ああ でも。 
   今 この桜の花を見て こころが震えるわ。
   ああ ああ ・・・ 懐かしくてたまらない ・・・ 

ひらり ひらり ・・・  白い花びらがひとひら ふたひら スターシアの金の髪にとまる。
そっと手に受けた花びらに 彼女はそっと唇を当てた。
「 さくら さくら ・・・ ああ わたしも しっかり地球市民になれた ということね 」

   ものみな花開く季節 ― スターシアは微笑み春の景色を眺めていた。
もうすぐ夫も帰ってくるだろう ・・・


******* ひと言

そしてこのお話は 『 花 』 に続くのです。

2011.10.15

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