両手に愛を byばちるど **** はじめに ***** 今回は 守さんファミリーはほとんど出てきません。 その上 オリキャラ満載です。 苦手な方、 反転180度 急速離脱 ぷり〜ず! ・・・こんなことがありまして ― あ〜なって こ〜なった のでした♪ *************************** ― 落ちる ・・・・ ! 急激な落下に伴ってつよいGが身体全体に圧し掛かってきた。 逆噴射をかけて 減速しないと・・・・! レバーを レバーを 引かな・・・ければ ちらり、と見たメーターの数字は最早絶望的だった。 だめだ。 間に合わない ・・・ ― せめて脱出カプセルに ・・・! く ・・・! か 身体が ・・・ う ・・・ 動けない ・・・! 地表は目の前だ。 もう ・・・間に合わないッ きゃあ 〜〜〜〜〜・・・・・・!! 全身が固いものに叩きつけられる。 あまりに激しい衝撃に 息が ・・・ 息がで き な い ・・・ たすけて・・・! だれか ・・・ た す け て ・・・・ ・・・・ こ れ ・・・ を ・・・・・・・ ! これ ・・・ を ・・・ と ど け て ・・・ ! 「 おやおや・・・ 姫様。 どうなさいました? また怖い夢でもご覧になりましたか・・・ 」 ふわり・・・と抱き上げられ柔らかい手がとんとんとん・・・と私の背を叩く。 あ ・・・? たった今まで 私を襲っていた激痛と絶望感は一瞬のうちに消えていた。 「 ・・・ う ・・・ ・・・? 乳母や ・・・・ どこ 」 「 はいはい、 姫様。 ばあやはここにおりますですよ・・・ 」 「 ・・・ああ 乳母や ・・・ 乳母や・・・! 」 「 姫様 ・・・ もう大丈夫ですよ? 乳母やがご一緒ですからね・・・ さあさ お目覚めあそばして・・・ 夢ですよ、みんなただの悪い夢です、姫様 」 「 ・・・ 夢 ・・・ ええ、そうね とても高いところから落ちる夢を みたの・・・ 」 「 まあまあ それは怖かったですね・・・ お可哀想に・・・・ 」 「 乳母や・・・ とってもとっても高いところよ・・・ きゅうでんのとうよりももっと高いの ・・・ ・・・ こわかった・・・こわかったの・・・ 」 「 ここなら怖いことはありませんからね ・・・ ああ ほら・・・姉君様もいらっしゃいましたよ。 」 「 ・・・ 姉さま・・・ 姉様! 」 「 まあ また怖い夢をみたのね? サーシア。 ほら もう怖いことなんかなくてよ。 私が一緒にいてあげるわ。 」 「 お姉さま・・・ スターシアお姉さま・・・ 」 「 ふふふ 甘えん坊のサーシア ・・・ 可愛いサーシア 」 姉は 白く細い指で私の髪を優しく梳ってくれた。 姉の笑顔と乳母やの温かい胸 ・・・ 私は強張っていた身体がふう〜っと和らいだ。 ・・・・ ああ もう怖いことなんかなにもない・・・・ 私は 乳母やの胸にアタマをつけて再びうとうととし始めた。 「 さあさ・・・ ゆっくりお休みあそばせ。 甘えん坊のサーシア姫様 ・・・ 」 乳母やの声が 再び私を眠りにと誘う。 あれは悪夢 ・・・ 必死にそう思い込もうとしていた。 あれは ・・・ いつかくる日 なんかじゃない! ただの気紛れな夢。 温かい穏やかな眠りにおちつつ、私は今見たばかりの夢を忘れようと躍起になっていた。 しかし その一方で怜悧な声が私に告げる。 あれは 確かな明日。 ・・・ お前はこうやって死んでゆく。 私には ― 未来を見ることが できた。 「 ― お父様 ・・・! 用意はよくてよ? 」 「 よ〜し サーシア。 今日は <一周> するぞ! 」 「 うわ・・・♪ 楽しみ〜〜 」 「 し〜〜〜! 侍従長に聞こえたら大変だからな。 こっそり・・・ 」 「 はい♪ うふふふ ・・・ ナイショ ナイショ ね? 」 「 そうだよ。 さあ 行くぞ! 俺についてこい! 」 「 は! 艦長どの! 」 ― カツカツカツ ! コツコツコツ ・・・! 二つ足音が宮殿の広間を横切っていった。 それをじっと見ている私より少し年嵩の少女 ・・・ 彼女はぱっと身を翻した。 「 ・・・ またお父様とサーシアが ・・・。 お母様! 」 姉は母の部屋へ駆けて行く。 「 どうかしましたか、スターシア。 」 「 お母様。 お父様とサーシアが ・・・ また <空> へ・・・ 止めてきますね。 」 母は磨きこんだ机に広げた書類から 顔をあげ微笑んだ。 「 いいのよ、スターシア。 好きなようやらせておきなさい。 」 「 お母様! だって危ないわ!」 「 大丈夫です。 お父様は宇宙軍にいらしたのですよ、西のお父様のお国ではね。 」 「 まあ ・・・ そうなの。 」 「 ええ。 それでね、お父様に敵うパイロットはそうそう居なかった、と伺っているわ。 西の国では司令官として艦隊を率いてこの星を護っていらっしゃったのよ。 」 「 すごい ・・・ お父様! 」 「 ふふふ ・・・ お若い頃、そりゃ素敵でしたよ、あなたのお父様は ・・・ 」 「 まあ ・・・ わたしもお父様と 空 を飛んでみたい ・・・ 」 「 それはサーシアの役目です。 あなたにはお仕事があるでしょう? 」 「 はい ・・・ 」 幼いころからいわゆる帝王教育を受けていた姉は 素直に頷く。 でも ・・・姉はいつもちょっと羨ましそうな顔で 父と私を見ていた。 「 ― 重力圏離脱。 自動操縦に切り替えます。 」 「 よし。 ・・・ サーシア、腕を上げたな! 」 「 うふふふ ・・・ 初めて褒めてくださったわね、お父様。 いえ 艦長。 」 「 おう、お前も操舵士として一人前だな。 」 「 ありがとうございます、艦長! 」 「 うむ。 これでお前も将来、イスカンダルの護衛艦隊を率いることができる。 」 「 はい! 」 はははは ・・・ ふふふふう ・・・ 父と私は声を上げて笑いあう。 「 ええ お父様。 私がイスカンダルと姉様をお護りするの。 」 「 うんうん 頼もしいな、サーシア姫は。 」 「 お父様の後を継ぎます。 」 「 そうか。 それならば もっともっと鍛錬しなけれならない。 」 「 はい。 覚悟しております! 」 「 そしてイスカンダルの心を護るのだ。 そなたの愛で な。 」 父はとても嬉しそうに莞爾として笑った。 「 はい、お父様。 いえ 艦長。 お願いします! 」 「 よし。 それでは 今回の発進業務における問題点を指摘する。 よく聞け。 」 「 はい! 艦長どの! 」 父と私は < 同志 > として笑い合い 父は < 上官 > として厳しく指導した。 パイロットの資格も持ち 自国では宇宙軍に籍を置いていたという父は 幼い頃から私を空へ、宇宙へと誘った。 母は始め あまりよい顔はしなかったが敢えてとめようとはしなかった。 まだよちよち歩きのころ 私は父の操縦する艇で初めて ― 宇宙へと飛び出した。 「 サーシア姫 さあ ここに来てごらん? 」 父は艇の窓辺に私を呼んだ。 「 お父様 ・・・ ここ もううちゅうなの? 」 「 そうだよ。 宇宙空間だ。 そして ほら あれが ― 」 私は父に支えられ 巡洋艇の窓から外を見た。 「 ・・・ わああ ・・・・ きれい〜〜〜 青いきれいな ・・・ あれはなあに? 」 「 姫、あれが私たちのイスカンダルだ。 そなたの生まれた星なのだよ。 」 「 え! ・・・ あれが あれが ・・・ いすかんだる ・・・ 」 私は目の前に広がる光景に呆然としていた。 漆黒の宇宙空間に 青く美しい惑星があった。 これが ・・・ イスカンダル・・・! なんて なんて きれいな星なの ・・・ 幼いながら私はこの星に生まれ育ったことをとても誇りに思った。 その後 父は少しづつ私に巡視艇の操舵を教え宇宙についてこの茫漠とした世界について教えてくれた。 「 お父様〜〜〜 すごい!! すごいわ! お父様はこんなに大きなお船を 飛ばすことがお出来になるのね! 」 「 そうだよ。 でも勉強すればサーシア姫にもできるぞ。 」 「 え 私にも? 」 「 そうだ。 やってみるかな? 」 「 はい! 私もお父様みたいに 大きなお船で宇宙 ( そら ) へ飛んでゆきたい。 」 私は父にとびつき、父はとても満足そうだった。 そしてもうひとつ。 父は私に 飛ぶ ことを教えた。 そう、父は飛ぶことができた。 イスカンダルに生まれた人々は 皆なんらかの <ちから> を持っている。 <ちから> の種類や強弱は個人個人、違っていた。 そして 一生持ち続ける者もいたが、大半は大人になる頃には微弱なものとなっていた。 しかし 稀には強い<ちから>を持ち続ける人もいるのだった。 父もその一人だった。 あれは 空へ宇宙へと出てゆくもっともっと前のこと。 私がやっと自分の脚で歩いたり、お喋りもちゃんとできる年頃になったとき、 父は宮殿にある父の書斎に私を呼び寄せた。 そして ― 飛ぶことを教えてくれたのだ。 幼い私は父の前に立つ。 父はゆったりと私の手を取った。 「 サーシア。 さあ ・・・ 教えたとおりにやってごらん? まず、目を閉じて。 心を真っ白にするんだ。 ・・・ できるか? 」 「 はい、お父様 ・・・ 」 私は父の言うとおり しっかりと目を閉じ ― いろいろな想いを追い払った。 ・・・ きこえるか、 サーシア 「 !? ・・・ は はい、お父様 」 突然 父の声がこころの中に直接響いてきた。 声にださなくていい。 心の中で応えれば解るから。 「 は はい ・・・! 」 私は身体を固くして 父の声を待った。 さあ いいかい。 こころの中をまっさらにして 行きたい場所を 想い描いてごらん? 「 は はい・・・ それじゃ お庭。 イスカンダル・ブルーの花壇のところ。 」 よし。 それじゃ 花壇の様子を見るつもりで・・・・ 「 はい。 花壇 ・・・ イスカンダル・ブルーの白い花がいっぱい咲いてて・・・ 私は お花を摘みたいの。 花冠をつくりたい ・・・ 」 そうだ、その調子だ、サーシア。 さあ ・・・ ゆくぞ! 「 ・・・え?? あ ああ・・??? 」 ふわり。 私の身体は父と手を繋いだまま宙に浮き ― 次の瞬間・・・ 「 ?! あ ああ! ここは ・・・ あの花壇! 」 私の側には 白い沢山の花が優しく揺れていた。 そして その中に父の笑顔もあった。 「 飛べただろ? サーシア。 」 「 ・・・ は はい、 お父様! 」 私はもう一回 きゅう〜〜っと父に抱きついた。 「 お前はとても強い <ちから> を持っているね。 そのちからを大切にするのだよ。 」 「 はい ! 」 「 そして ね。 このちからは本当に本当に必要な時だけに使わなければならない。 」 「 ほんとうにひつようなとき? 」 「 そうだ。 まだ小さなサーシアにはわからないかもしれないけれど ・・・ 今はお父様がよい、といわなければ使ってはいけない、わかったね。 」 「 はい お父様。 」 その時、幼かった私には <ちから> がなんなのかまるでわかなかった。 父と同じことができた ― それだけで嬉しかったのだ。 「 お父様〜〜 お父様と私、 いっしょなのね♪ 」 「 そうだなあ。 サーシア、それではお姉さまを護るんだ。 」 「 はい! お父様がお母様をお護りしていらっしゃるのと一緒ね。 」 「 そうだ。 ― 頼んだぞ、サーシア姫。 」 父は真剣な眼差しで私をじっと見た。 「 はい! 」 大好きな父に真剣に言い付かり 私は幼いながらとても得意だった ・・・ 父は 貴士 ( ナイト ) として側近や国民の皆からとても尊敬されていた。 母の側には常に父の姿があり、公式・非公式に関わらず父はいつも陰となり イスカンダルの女王である母を護っていた。 女王の側には常にナイトの姿がある ― その様子に皆が安心しているのだった。 「 お父様。 お父様って本当にステキ! 」 私は ヒマさえあれば父に纏わり付いていた。 「 ははは ・・・ サーシア姫、ありがとう。 」 「 ね お父様! 私もね、立派なナイトになってお姉さまをお護りしたいわ。 」 「 おや これは頼もしいな、サーシア姫。 うん・・・しかしナイトは スターシアの婿君に願うことにして そなたには別の役目を頼もう。 」 「 あら なんでしょう。 」 「 サーシア姫。 そなたには西の侯爵領に許婚者がいるのだよ。 」 「 ・・・え・・・ ?? 」 「 お父様の弟の息子 ・・・ そなたには従兄にあたる好青年だ。 」 「 ・・・ まあ ・・・ 」 「 将来彼とともに西の侯爵領を統治し、そしてこのイスカンダル王家を支えておくれ。 西の侯爵夫人としてお姉様の治世を護ってさしあげなさい。 」 「 はい お父様 」 私は腰を屈めて正式なお辞儀をした。 ― 私は大人への第一歩を踏みだした。 私の成長が少し 速くなった。 イスカンダル人の成長は 個人差があった。 人々が皆同じ速度で成長してゆくわけではない。 あるものは急速に成人し、 またあるものはゆっくりと大人になった。 姉君と私はそんなに年齢差があったわけでないが 私は少女の時間が長かった。 雨水の月を迎えるころ、その人がやってきた。 私は初めて着せられた礼装にぎこちなく身をつつみ、父母、そして姉とともに出迎えた。 連絡艇から颯爽と降り立った青年は す・・・っと私たちの前に進み出てきた。 西の侯爵領の若君 ― 宇宙軍の礼装に身を包んだ私の <お婿さま>。 彼 ― ユーリーは空色の瞳とイスカンダルの陽に透けるプラチナ・ブロンドの髪を持っていた。 すてき ・・・・! お空とお日様を 一緒に持っているヒト ・・・ 「 女王陛下 そして 貴士閣下、 ご機嫌麗しく ・・・ 」 彼は母の前に片膝をつき、頭を垂れて正式な挨拶をした。 母は姉と そして私を彼に紹介した。 「 これが サーシア姫。 そなたにこの姫をお願いいたします。 」 「 身に余る光栄 ・・・ ありがとうございます。 」 彼は身を起こすと す・・っと私の手を取った。 とくん ・・・! 心臓が口から飛び出しそう・・・ 「 やあ ・・・ 初めまして、おチビさん。 」 空色の瞳の青年が 私の前で微笑んでいた。 「 まあ! 私、 サーシアです。 おチビさん、ではありませんわ。 」 正装をして、優雅に腰を屈めてお辞儀をしたばかりだというのに 顔をあげるなり私は ほっぺたを膨らませた。 「 あは・・・ごめん ごめん。 そんなに膨れては可愛い顔が台無しだよ。 」 「 膨れてなんて いません〜〜 」 「 ごめん サーシア姫。 ほら ・・・笑ってください。 」 「 ・・ ユーリー様 ・・・ 」 私は 目の前の背の高い青年をじっと見つめ ほんのりと笑った。 「 宜しくお願いします。 ・・・ 一緒に空の向こうまで飛ぼうね。 」 「 ・・・え?? 」 「 ふふふ・・・ 君のお父様から伺っているよ。 サーシア姫はこの国でも指折りの宇宙船の操舵士だって。 」 「 ま まあ・・・ 」 「 一緒に行こう! ― 一生 ・・・! 」 私の目の前に 大きな手がぱっと広げられた。 「 ― はい。 ずっと・・・一生! 」 私はその手に自分の手を預け しっかりと頷いた。 この手を離さない ・・・! そう、 死が二人を別つまで。 それから 私は西の侯爵領をしばしば訪問するようになった。 勿論 ユーリ―の操縦する高速連絡艇を使って! 私はずっとコクピットに入り浸っていた。 「 凄いわ・・・! ユーリ―様の操縦・・・ 」 「 ありがとう、サーシア姫。 ・・・しかし、パイロット席に張り付いている姫君というのも 珍しいなあ 」 「 そうですか? ・・・うふふふ ・・・ 私ね、お父様に鍛えられてますから・・・ 巡視艇の操舵もできますのよ。 」 「 ひょう〜〜 これは頼もしい姫だな! ますますわが西の侯爵領に相応しい方だ。 」 「 ね ・・・ この艇の操縦も教えてください。 」 「 了解! サーシア姫。 私たちはともに艦隊を率いてイスカンダルを護って行こう! 」 「 はい、 ユーリー様。 」 「 姫、お目にかかるたびにどんどん大人になってゆかれますね。 」 「 はい。 早くユーリー様に相応しい年齢 ( とし ) になりたいです。 」 「 待っていますよ、姫、。 」 「 ・・・ はい。 」 私たちはしっかりと見つめあった。 愛と信頼 ・・・ ユーリーと私はベスト・カップルだった。 私はやがて西の地に嫁ぎ ― 姉君も婿君をお迎えになり ・・・ じきに小さな王子や王女たちが双方の宮殿を遊びに行き来するようになり イスカンダルは 再び栄えてゆく ・・・ 私はそんな夢を描き そんな未来を信じていた。 ― しかし 私がユーリーと婚約した次の年 ― 穀雨の月を待たずに東の侯爵領が突然の地殻変動で瓦解してしまった。 東の侯爵の若君は お姉様の貴士 ( ナイト ) になられるはずのお方、 お二人は生まれながらの許婚同士だった。 その月の朔日に お姉様の婚約式が予定されていたのに・・・ 「 ・・・え?! そ それでは ・・・お姉様の許婚の君は ・・・ 」 「 誠に残念なのだが ・・・ 東の侯爵領からの応答はない。 」 「 そんな ・・・! お父様! お姉さまは ・・? 」 「 スターシア姫は 女王陛下とともに祈りの塔に篭っておられるよ。 イスカンダルの海に還った人々の魂のために祈っていらっしゃるのだ。 」 「 ・・・ お父様! イスカンダルは ・・・ この星は ・・・ 」 私は泣きながら父にしがみついた。 「 サーシア姫。 お前達で姉君を支え、イスカンダルを護っておくれ。 まだ ・・・ まだ 希望はあるのだから ・・・ 」 「 そうね。 そうよね。 お父様 ・・・ 」 「 サーシア姫。 そなたに幸せな日々が巡ってくるように お父様はいつでも ・・・いつまでも祈っているよ。 この双の腕に あふれるほどの愛をこめて ・・・ な 」 「 お父様 ・・・ 」 父は きゅ・・・っと私を抱き締めてくれた。 私は父の腕の中で涙を拭った。 父の温かい腕にほっとしている、私はまだまだコドモだった・・・ ― その時、目の前にある風景が <見えた> ? ・・・ ここは どこ。 この 静かな 冷たい空気はなんなの ・・・? ・・・ なにかしら ・・・ この淋しい ・・・がんらんどうな気持ち ・・・ 誰も いないわ ・・・ お母様も お父様も お姉さまも ― あら ・・? あそこに並んでいるのは 墓標 ・・! 荒涼とした地 吹きぬける風だけが音をたてる ― 永遠の眠りの地。 そこにあるのは無数の墓標だった。 ― イスカンダルは 滅びてゆく ・・・! ズン ・・・ そんな想いが突然、私の胸に染み透ってきた。 それは直感に近かったのかも しれない。 「 どうした、サーシア姫? 」 私は静かに父の腕から身体を離した。 「 ううん ・・・ なんでもないの、お父様。 」 これは私が 私一人で受け止めなければならないのだ。 私は 姉君と二人で この星を最後まで看取ることになる ― そのことがはっきりと解った。 ― その年が 始まり だった。 東の侯爵領の瓦解をきっかけに この星は滅びの道を急速に歩みはじめた。 西の地でも そして王宮がある中の地でも 人々が斃れてゆく。 疫病が流行ったわけでもないのにぽろり、ぽろり、と人々が欠けていった。 新しい命の誕生も 絶えた。 この星の生命の炎が 消えてゆく・・・ そして ― 女王陛下が崩御された。 「 お母様 ・・・! 」 「 姫様方 ・・・ さ ・・・ ここでお別れなさいませ。 」 「 乳母や いやよ、お母様のお側に! 」 「 サーシア。 ご遠慮しましょう。 陛下と貴士閣下のお邪魔になります。 」 「 お姉さま ・・・ ! 」 姉はやはり涙に暮れつつも 私の背を押して母の側から退去した。 イスカンダルの女王は 彼女のナイトに看取られて永遠の眠りに就くのがしきたりなのだ。 母は 微笑を残しイスカンダルの天 ( そら ) に溶け込んでいった。 「 ・・・ 新女王、スターシア陛下 」 私は姉君の前に跪き 新女王に愛と忠誠を誓った。 母の死の前後に私の成長はまた速くなり ほぼ成人の域に達していた。 すでにかなり減り始めていた国民たちは こぞって姉の即位を祝い、私の成人を寿いでくれた。 イスカンダル人は 皆それぞれ違った速度で成長するのだ。 私がこの時期に急激に成人したのは イスカンダルの意志に違いない。 ― 女王を助け この星を守れ ・・・と。 月が変る前に 父が倒れた。 「 ・・・ 頼むぞ スターシア姫 サーシア姫 」 「 お父様 ・・・!! 」 「 ・・・ ああ おまえ ・・・ 待たせたね 愛しているよ ・・・・ 」 父は微笑みつつ 目を閉じた。 母を看取り姉の即位式を無事に終えると父は燃え尽きたように 逝った。 お父様は ・・・ お母様の後を追い駆けて行かれたのだ 姉も私も肌でそれを感じていた。 その頃 ― もう国民たちは数えるほどしか残っていなかったが 皆、涙で父を送った。 「 さあ ・・・ 宮殿に戻りましょう。 」 姉は 私を促がし王家の墓地から引き上げてゆく。 「 はい お姉様 ・・・ あら・・? 」 「 なあに、サーシア? 」 姉の白い顔が私を振り返る。 「 え ・・・ いえ なんでもありません。 ここは淋しすぎます。 」 「 そう? ここにはお父様もお母様も ・・・ 多くの人々が眠っています。 淋しいことは ・・ ないわ ・・・ 」 「 お姉さま・・・・ 」 「 さ 参りましょう。 そしてユーリー様をおもてなししましょう。 」 ちょっと悪戯っぽい笑顔で 姉は私を見る。 「 もう ・・・ お姉様ったら ・・・ 」 「 サーシア。 貴女は西の地で幸せになって・・・ 」 「 ― 姉様 ・・・! あ ・・・・ ? 」 また だ。 先ほどから姉の後ろにちらり ちらり、と揺らめく影が見える。 私はじっと目を凝らした ― すう・・・っと周りの光景が消えてゆく。 ・・・・? あ ・・・ このヒト は ・・・? 姉の後ろに濃い色の髪で温かい瞳をもった青年が みえた。 全く見たことのないヒト、 彼は初めて見る服を着て柔らかい微笑を浮かべていた。 姉に寄り添い 庇うように立っている。 そしてその瞳は愛し気に姉を見つめる・・・ ・・・ああ! きっと彼が姉君のナイトとなられる方なんだわ。 「 ・・・ お願いします。 お姉様を ・・・ 幸せに ・・・ 」 「 サーシア? なあに? 」 姉は不思議そうな顔で 私に訊ねる。 「 ・・・ いえ なんでもありません。 さ 戻りましょう、姉さま。 」 私は喪服の裾を引き どんどん歩き始めた。 よかった・・・! お姉様 ・・・・ ステキなナイトに巡り逢われるのね どうか ・・・ どうか お幸せに ・・・! 墓地の寒風に涙を飛ばしつつも 私の心はほんのりと温かい想いでいっぱいだった。 イスカンダルの状況は 小康状態になった。 天変地異も減り ともかくも穏やかな気候が続いていた。 しかしながら ・・・ 国民は減り続け 西の地でも同様だった。 そんなある日 ― 姉から女王の執務室に呼び出しがあった。 私は服装を整え 女王の臣下として伺候した。 「 ― 女王陛下。 お呼びでございますか 」 「 ・・・ 遠くの星に 使者を送ることになりました。 」 「 遠く? 」 「 そうです。 このメッセージを届けに。 その星を救うために。 」 「 ・・・・・・・ 」 「 その星は − あのガミラスの攻撃を受けているのです。 見捨てることはできません。 それに ・・・ 」 姉はしずかに玉座を立つと机の上の手文庫をあけた。 「 これは代々イスカンダルの君主に伝えられてきたことです。 生きよう、と意志のある者に救いの手を差し伸べよ ・・・と。 これを ・・・ 」 「 ・・・ 姉さま、いえ 陛下? 」 「 これが ・・・ メッセージを託したカプセルです。 」 「 わかりました。 これはイスカンダルにしか出来ない重要なお仕事ですね。 」 「 そうです、 それでそなたにメッセージを送る無人艦の準備を頼みたいのです。 ユーリー殿と相談してなるべく早く ・・・ 」 「 姉様。 私が参ります。 私がこの手で届けに参ります。 」 「 !? サーシア! ・・・ 遠い遠い地なのですよ。 危険です。 」 「 陛下。 遠距離であれば有人艦でないと到達の可能性が落ちます。 」 「 ・・・ですから ・・・ できるだけ優秀な無人艦を選択して ・・・ 」 「 ユーリーとも相談しまして すぐに航路計画を提出いたしますので ・・・ 少々お待ちくださいませ。 」 「 サーシア! あなたにそんな危険な役目をやらせることはできません。 」 「 ― 女王陛下。 誰かがやらねばなりません。 それは私の役割りです。 きっとお父様も・・・ このような事態を見越して私に操舵方法を教えられたのでしょう。 」 「 ・・・ サーシア ・・・ 」 「 直ちに準備に入ります、 陛下。 」 私は宇宙艦隊の指令補佐として 女王陛下に返答をした。 「 そなたにお任せいたします。 」 「 はい。 」 その日から 私の身辺は一変した。 ユーリーと宇宙港のドックに篭り、アンドロイドの助けを借りつつも出発の準備に奔走した。 艦の選定、整備。 そして遠距離ワープエンジンの点検 ・・・ やることはいくらでもあった。 「 サーシア姫。 あとは私がやりますから 休みなさい。 」 「 ユーリー様 ここは私の担当です。 ユーリー様こそまた徹夜なさってはだめですよ。 」 「 ふふふ ・・・ 姫と一緒なら楽しいですよ。 」 「 まあ ・・・ あの 私も ・・・ 」 私達はほとんど一緒に過し ― ますます確信した。 この人こそが 自分の最高のパートナーなのだ と。 ある晴れた朝 ― 私達はイスカンダルの宇宙港の岸壁に立っていた。 「 陛下。 ただいまから出発いたします。 」 「 ・・・・・・ 」 私はユーリーの半歩後ろに控え 彼と同じように女王陛下に答礼した。 「 ― よろしくお願いします。 ユーリー司令 そして サーシア 」 「「 はい !! 」」 私達は宇宙艇に乗り込んだ。 イスカンダルはみるみる内に小さくなり 宇宙の闇の中に紛れてしまった。 ヴィ −−−−−−− ・・・・・・・ 波動エンジンは静かに、そして確実に私達を遥かなる惑星へと運んでくれている。 外宇宙に出、艦の航行は安定している。 私達は大半の時をコクピットでおしゃべりをして過した。 ユーリーは操舵士としても一流の腕を持っていた。 「 凄いわ〜〜 ユーリー様 ・・・ 」 「 伯父上には負けたくないからな。 」 「 お父様に? 」 「 うん。 君の父上、つまり俺には伯父上だけど、 西の地では人気のマトだったんだ。 このイスカンダルの貴士 ( ナイト ) として若者たちは皆 憧れていたよ。 」 「 まあ そうなの! 嬉しいわ。 私もお父様が大好き! 」 「 ― 俺は? 」 「 ・・・ ユーリー様は ・・・ 比べることなんかできないわ! 」 私は きゅ・・・っとユーリーに抱きついた。 「 おわ〜〜 もう〜〜本当にお転婆姫なんだなあ〜 」 「 うふふ ・・・ 私は、ううん、私もお姉様もすっご〜〜くお転婆さんだったの♪ 」 「 へえ?? そりゃ初耳だなあ 〜 ふふふ 」 私達は啄ばむような戯れにキスに興じはじめ ― やがてしっかりと抱き合うのだった。 ― 旅の途中で ユーリーと私は結ばれ永遠を誓いあった。 ビ −−−−− ビ −−−− ビ −−−−−!!! アラームが艦全体に鳴り響く。 私達はキャピンからコクピットに飛び込んだ。 「 ?! なに?? なんなの?? 」 「 落ち着け サーシア ! ・・・・ これは・・・! 」 「 こちらのレーダーには あああ??? 」 「 うむ ― これは ガミラスだ。 」 「 ガミラス?? ガミラスがこの艦を攻撃してくるというの? 」 「 そうだ。 ・・・ ごらん この反応を 」 「 ・・・ ! ああ 駆逐艦 ・・・! 」 「 うむ ・・・ 逃げ切れるだけ逃げてみるが・・ この艦には護身用の武装しかない。 」 「 艦長。 命令を。 ― 私達には大切な使命があります。 」 「 そうだな。 よし、では サーシア。 君は女王陛下からのカプセルを持って 脱出艇に移りたまえ。 」 「 !? な なんですって?? 」 「 復唱はどうした。 」 「 ユーリー いえ 艦長! 」 「 これは艦長命令だ。 ― 脱出艇に移れ。 この艦ではガミラスの駆逐艦には勝てない。 」 「 ・・・ でも ・・・! 」 「 聞こえなかったのか! サーシア 君は生きるんだ! 」 ユーリーは私の腕を掴むと 強引に脱出艇に押し込めた。 「 ユーリー!!! 」 「 サーシア ・・・ 俺の < ちから > はシールドだ。 俺の命あるかぎり ・・・ 君をシールドするから。 カプセルを届けるんだ! 」 「 ・・・・・・・・・ 」 私はなにも言えずに 艇の窓越しにただただ彼を見つめていた。 「 君は 生きろ! この艦が囮になるから。 行け! 生きろ! 」 「 ユーリー ・・・!」 「 イスカンダルの心を ― ! この愛を 伝えるんだ ! 」 「 ・・・ ユーリー ・・・・!! 」 「 サーシア! サーシア ・・・・ 愛しているよ サーシア −−−−−−− 」 ― ガクン ・・・! 脱出艇は被弾し 目の前の赤い星めがけて落下し始めた。 「 ・・・ああ ・・・ ユーリー ・・・ 」 ああ ・・・ あの夢の通りだわ このまま ・・・ 死ぬのね、私 私は奇妙な安堵感に包まれていた。 そう・・・もう あの瞬間を恐れつつ待つことはないのだ・・・ あ ・・・ カプセル ・・・ 誰かこれを ・・・ これを ・・・ ・・・ 飛ぶ? いえ まだだわ。 まだ ・・・ 飛ぶ時では ない わ まだ 飛ぶ時では ・・・ 私は薄れてゆく意識の中で 最後までそう想い続けていた。 なにもかもが 遠のいてゆき ― 私の意識はすとん・・・と星の海の中に おちた。 ・・・・ あ れ は なに ・・・・ 随分と長い間 眠っていた ・・・ 気がする。 私は 希薄になっていた意識をかき集め ・・・ 目を凝らした。 遠くに少女が見えた。 金の髪が 美しい金の髪が漆黒の空間に靡く ・・・ チリリ、と胸が痛んだ。 この娘は ・・・ 我が血を受けし者 イスカンダルのこころを継ぐ者 私は宇宙空間にふわり、と浮かび彼女をめざし その後ろに立った。 「 ― とびなさい ・・・! 」 「 ・・・・ だれ ??? 」 「 さあ 一緒に。 と び ま しょう ・・・ サーシア 」 自然にその名が口からこぼれ出た。 「 ・・・ は はい ・・・! 」 ああ ・・・ これで あなたにゆだねることができる ・・・ イスカンダルのこころを ・・・ あの青く美しい星の 溢れる愛を ・・・伝えます ・・・! さあ ゆきましょう 生きるのよ ! 私は両手を広げて小さな姪を抱き ― 飛んだ。 お父様 ユーリー ・・・ 私 本当に必要な時に 飛びましたわ ・・・ ほら ・・・ 両手にこんなにたくさんの愛を抱えて ね 再び私の意識は飛び散り ― 宇宙の闇に呑み込まれていった。 ***** あとがき この サーシア姫 は! 原作のサーシア姫 です。 あの神々しいまでに美しく 長いドレスに包まれて斃れていた方です ・・・ 2012.3.8 TOP |