いつか王子様が by ばちるど おはよう、地球さん! 今日もキレイね・・ 毎朝 サーシアは起きぬけにきっと窓ごしに地球を捜しだし、挨拶をする。 窓越し、といってもここの窓は皆戦艦と同じ硬化テクタイト ・・・めったなことでは壊れない。 そして <開ける> ことは絶対に不可能なのだ。 なにせここは 宇宙空間にただよう小島みたいな場所なのだから。 ― イカルス天文台 それがサーシアがお母様と住んでいる場所の名前。 「 風・・・ってどんなカンジなのかしら。 エア・ダクトからの送風とはちがうわよね・・・ 」 サーシアはべったり窓にオデコをおしつけ <空> を見上げた。 「 ふうん ・・・ 地球の空って青いんだって真田のオジサマから聞いたけど。 青い中に星が見えるのかなあ? 」 今 この地から見上げる <空> は果てしない闇、そしていつでも満天の星空・・・ 一日中 彼女の頭上には数多の星々が輝いている。 「 ・・・ あの星の向こうから飛んでくるのかしら ― アタシの王子様は♪ 」 サーシアはうっとりと星々を見上げた。 「 ― サーシアと申します ・・・ って御挨拶するの。 」 気取った様子でスカートの端を摘まみお辞儀をした。 「 そうしたらね、 王子様と結婚式よ♪ オーロラ姫 みたいに・・! 」 くるり・・・サーシアは一回まわってみた。 ふんふんふん♪ ちゃららら〜〜ん〜〜♪♪ なにやらメロディーを口ずさみ手脚をひらひら動かしている。 そんな少女の様子を 物陰から二つの影が見守っていた。 「 ・・・ほら? みてごらんなさい、奥さん サアちゃんが・・・ 」 「 千代さん・・・ まあ ・・・ サーシアったらまたやっているのね。 」 「 うふふふ・・・ あれはなにか踊っているんですかね? 盆踊り・・? 」 「 いえねえ、千代さん。 サーシアはバレエのつもりなんです。 」 「 え。 ば ばれえ ・・?? なんでまだサアちゃんが? 」 千代は 後ろに引っ繰り返るくらいにびっくり顔をした。 スターシアもクスクス・・・笑いをがまんできなくなったらしい。 「 実はね、先週 真田さんが 『 眠りの森の美女 』 のバレエのDVDを下さったの。 サーシアは今までアニメでしか知らなかったから、余計に感動したらしいのです。 もう夢中で・・・真似までして、ね。 あの子は王子様を待っているのですって。 」 「 お〜やまあ・・・ まあねえ、女の子は皆あのひらひら・・・が好きですからね。 あらあら なかなか上手ですよ〜〜 」 「 ふふふ ・・・ しばらく熱中しているでしょ。 」 「 可愛いですね〜 あ、そういえば週末に守君が来ますね。 」 「 ええ。 なにか真田さんと打ち合わせがある、とか言ってましたけど・・・ 」 「 それはね、きっと口実で本当は 守君、サアちゃんと奥さんに会いたくてたまらないのでしょ 」 「 サーシアの顔さえみられればいいみたいですよ。 」 「 あらあら ・・・ま、そういうことにしておきましょうか。 サアちゃんもお父さんと遊べて嬉しいでしょうね。 」 スターシアと千代は 楽しげにサーシアの様子を眺めていた。 「 お父様 〜〜 ! 」 イカルスの展望室でモニターを見てサーシアは歓声をあげた。 ず〜っと待っていた父が たった今、ゲートから出てきたのだ。 父は濃い緑の制服を着て、小型の鞄を小脇に抱えている。 がっしりした胸板にちょっとクセのある茶色の髪、サーシアは胸がドキドキしてきた。 すてき・・・! おとうさま ・・・・! やっと父が展望室に現れた。 「 おう、 サーシア。 元気だったか。 」 「 うん! お父様も元気だった? 」 「 ああ 元気だぞ。 でもサーシアの顔みてもっと元気になったな。 」 「 おかえりなさ〜〜い おとうさま! 」 サーシアはぽん、と父に抱きついた。 「 お〜っと・・・ おやあ〜 ずい分大きくなったなあ サーシア? もうすぐりっぱなレディだな〜 」 「 うふふふ・・・ もうちゃ〜〜んと れでぃ よ〜〜 」 「 守 ・・・ お疲れ様。 」 「 スターシア ・・・ ただいま。 」 とびついてきた娘を片手で抱き上げつつも、もう一方の腕は愛妻を引き寄せる。 「 うふふふ〜〜〜 お父様とお母様のサンドイッチ〜〜 」 父の腕の中で サーシアは大喜びだ。 「 こらこら・・・あばれるとおっこどすぞ〜 さ ・・・ ウチに行こう。 」 「 あ〜ん ・・・ じゃ、ね〜ブランコして? こっちはお父様で〜 こっちはお母様 」 「 まあ サーシアったら甘えん坊さんねえ。 レディが急に赤ちゃんに戻ってしまったの? 」 「 いいの〜〜 ね、こうやってお家まで行くの〜〜 」 「 はいはい わかりました、お姫さま 」 サーシアは両親に挟まれ、ご機嫌ちゃんで<帰宅>した。 スターシアとサーシアは イカルス天文台の宿舎の中の一角に住んでいる。 ここには、宇宙戦士訓練学校の分校があるのだがごく狭い施設なのだ。 母子が滞在する住居も広くはない。 しかし狭いながらも楽しい我が家 ・・・ということで、守は久し振りで家族団欒を楽しむ。 「 お父様 〜〜 ほら ここ! ここに座って! 」 「 はいはい ああ スターシア、これ焼き菓子だ。 地球で評判なんだと。 たくさん買ってきたからこの基地の人達にも配ってくれ。 」 娘に手を引かれつつ、守は細君に包みを渡した。 「 はい。 皆さん 喜ぶわ。 そうだわ、サーシア、 これはあなたが配ってちょうだい。 」 「 はい、 お母様。 え〜と 千代さんでしょ、真田のおじさま、こうちょう先生に ・・・ 」 「 よし、お父様からも頼んだよ。 これはサーシアの仕事だ。 」 「 はい! 」 「 さあさ お茶にしましょう。 守、ランチはもう召し上がったのでしょう? 」 「 ああ 連絡艇の中でな。 しかしどうも慌しくてな・・・ 」 「 あらあら・・・足りませんでした、ってことね。 それじゃ すぐに用意しますわ。 サンドイッチでいい? 」 「 ああ きみの料理ならなんだっていい、スターシア。 」 「 うふふ・・・じゃ すぐに ・・・ 」 いつも青白い母の頬がほんのりとさくら色に染まっている。 父はそんな母を蕩けそうな笑顔で見つめる。 お父様とお母様は いつもらぶらぶなんだからあ〜〜 あ そうか。 お父様はお母様の王子様なのよね サーシアの母は とおいとおいイスカンダルという星の女王様だった。 激しい戦闘で怪我をしていた父を助け 二人は愛し合うようになり・・・ 父は故郷の星・地球には帰らず、そのままイスカンダルに留まった 母と共に生きてゆくために。 ・・・サーシアは両親の出会いを知ってますますうっとりしている。 お父様は 『 眠りの森の美女 』 みたいに お姫さまのお母様の手を取ったのね。 はあ ・・・・・ す て き・・・! 熱いため息をつく。 サーシアは地球年齢ならばほぼ10〜11歳、 そんな少女には愛も結婚もまだまだ甘い砂糖菓子 ・・・ ひたすら憧れの夢の中、なのだ。 「 お父様 〜〜 」 サーシアはうきうきした気分で父にぴたりとくっついて座った。 「 なんだい、サーシア ・・・ あ そうだそうだ お土産があったんだ。 」 「 え。 あのクッキーは サーシアの分もあるのでしょう? 」 「 いや それとは別に・・・ ちょっと鞄を取ってくれるかい。 」 「 はい、 お父様。 ・・・ どうぞ。 」 「 ありがとう。 ・・・ え〜と ・・・ ほら これだ。 」 守は鞄から小さな包みを出すと 娘の前に置いた。 白く艶のある紙になにやら金の細字で店のロゴが入っている。 「 ・・・ あけてもいいの、お父様。 」 「 ああ いいよ。 おっと・・・・ ランチが来たぞ〜 」 守はにこにこ顔でトレイを捧げた妻をみやった。 「 はい お待ちかねのランチです。 ありあわせのサンドイッチですけど・・・ 」 「 おう ・・・これは美味しそうだな! サーシアも食べるかい。 」 「 守、私達はもうお昼を済ませていますから。 ね、サーシア 私達はお茶ね。 」 「 う うん ・・・ 」 「 そうか? それじゃ・・・ 頂きます。 」 守はちょっと手を合わせてから ― 妻の手料理を堪能した。 大皿いっぱい盛ってあったサンドイッチは あっという間に消えた。 「 お父様 ・・・ そんなにお腹 ぺこぺこだったの? 」 「 ・・・ うん? そうじゃなくて これはお母様の料理だから さ。 あ〜〜 ・・・・ 美味しかった! スターシア、 きみの料理は地球一 いや宇宙一、だなあ〜 」 「 まあ うふふふ・・・守ったら。 地球でもっともっと美味しいものを召し上がっていたでしょ。 でもきれいに食べてくださって嬉しいわ。 」 「 俺は君さえいればなにもいらんよ。 」 父と母はじ・・・・っと見つめあっている。 サーシアはオシリがむずむずするみたいな、でもと〜ってもぽかぽかした気持ちだ。 王子サマとオヒメサマだわ・・・! いいなあ〜〜 サーシアの王子様は どこにいるのかしら 「 ・・・ っと・・・サーシア? ほら ・・・その包み 開けてごらん? お母様にもお見せしなさい。 」 「 は〜い ・・・ えっと・・・ このケースを開けるのね・・・ 」 ― カチ ・・・ 小さな音が聞こえてビロードのケースが開いた。 中には 七宝と金細工の小さな青い鳥が、ブローチになって入っていた。 「 うわ ・・・あ ・・・・ 」 サーシアは見とれているばかり、母が助け舟を出してくれた。 「 まあ キレイねえ・・・ これはブローチね? 」 「 ・・・ ぶろーち・・・? 」 「 そうよ、ほら・・・とめてごらんなさい? 」 サーシアはおそるおそるその煌く小さな鳥を手に取った。 ちいさな娘の掌に 小さな青い鳥が輝く。 「 これ・・・なんていう鳥さん? お父様 」 「 これは ・・・ そうだな、幸せの鳥、さ。 青い鳥だからな。 」 「 ブルーバードね ! 可愛い・・・! ねえ 鳥さん、フロリナ王女をたすけにゆくの? 」 サーシアは掌の鳥に にこにこ話かけている。 「 ブローチだからな。 付けてあげるよ、どこがいいかな。 」 「 う〜んとねえ・・・ あ えりとえりの真ん中がいいな。 」 「 よし ・・・・ これでどうかな〜 姫君? 」 「 わあすてき! ありがとう、お父様〜 ねえねえお母様、どう? 」 「 ふふふ よかったわねえ、サーシア。 とてもよく似会うわよ。」 「 そう? うれしい〜〜 お父様、 どうもありがとう! 」 サーシアは父の胸にまたまた抱きついた。 「 お〜う これはお姫さま、勿体無い・・・ ちょっと失礼いたしますよ? 」 守は首ったまに撒きついてきた娘の細い腕を緩めた。 そして 内ポケットからもうひとつ、小さな包みを取り出した。 そして ― 「 これは きみにだ、スターシア。 」 「 まあ 私に? 」 「 ああ。 ・・・ 今日は何の日か覚えているかな。 これ、今日という日の記念なんだ。 」 「 え 今日? 5月〇〇日・・・よね? 」 スターシアは壁のカレンダーを振り返る。 「 あ そうか・・・そうだったな。 」 「 え? 」 守は楽しいことを思いついた腕白小僧みたいな顔をした。 「 あの星の、イスカンダルの暦だと 何月何日ですか、女王陛下? 」 「 ・・・え ? え〜と・・・ 花陰の月の〇日 ・・・ のはずね。 」 「 御意。 では その時になにがありましたでしょうか。 」 「 ― あ ・・・! ああ! そうよ、 そうだわ ・・・ ! あの日 あの日ね? ヤマトが・・・イスカンダルを発った日 ・・・ 」 「 そうさ。 そして 君と結婚した日、だ。 さあ これは ― とても遅くなってしまったけれど、結婚の贈りモノです、陛下 」 守は包みの中からなにかを取り出すと 細君の手をそっと取った。 「 まあ なあに? え ・・・あら 指輪? 」 スターシアの左手の薬指には ― 真珠を頂いたプラチナの指輪が あった。 「 守 ・・・ これは・・・ 」 「 ああ。 スターシア、 地球では婚約や結婚の印に指輪を贈る風習なんだ。 きみには ― 随分と遅くなってしまったけれど ・・・ これを。 」 「 ・・・ 守 ・・・! 」 スターシアは左手を胸に抱いたまま 夫に抱きついた。 「 おやおや・・・・サーシアの次はお母様かい? ははは 大人気だな。 」 「 守 ・・・ 」 やっぱり! お父様はお母様の王子さまなんだわ・・・! アタシの王子さまは いつ迎にきてくれるのかなあ サーシアは父のお土産のお菓子を持つと、そっと部屋を出た。 両親がらぶらぶの時には 邪魔をしない ― それはもっと小さな時から知っていた。 ― シュ ・・・・! 展望室のドアが開いた。 加藤四郎は窓のすぐ側に立っていたが 振り返る間もなく少女の声が聞こえてきた。 「 ・・・ 四郎お兄さま? いる? 」 「 あは・・・ お転婆姫か・・・ おう、居るよ サーシア。 後ろから二枚目の窓だ。 」 「 わお♪ ねえねえ〜〜 聞いて? 」 タタタタタタ ・・・・・ 軽やかな足音と一緒に金髪の女の子が四郎の前に現れた。 「 四郎お兄さま〜 ・・・ あ お勉強中だった? 」 サーシアは彼がテキストらしきものを開いていたのを見て、急に立ち止った。 「 いや。 ちょっと復習していただけさ、 もうお終い。 」 「 よかった〜 それなら ほら! お菓子があるの。 オヤツにしない? 」 手にしてきた透明の袋を サーシアは振ってみせた。 「 わお。 よし、それじゃ・・・俺が飲み物もってくるよ。 サーシアちゃんはなにがいい。 ホット・ミルクかな。 」 「 あら ちがうわ。 アタシも・・・ こーひー。 ぶらっくで・・・四郎お兄さまと一緒。 」 「 ぷ・・・ はいはい、承りました。 」 加藤はクスクス笑いつつ 給茶機のコーナーに飲み物を取りに行った。 大小二つの影が展望室の窓際に並んでいる。 サーシアは加藤四郎と並んで座り込み、お菓子の袋を開けた。 「 これね お父様のお土産なの。 みんなで食べてくださいって。 」 「 ありがとう〜〜 あ ・・・でも俺だけもらってもいいのかな。 」 「 大丈夫、さっき千代おばさまに学校の皆にあげてねって置いてきたの。 これは サーシアと四郎お兄さまの分。 」 「 そっか。 じゃあ遠慮なく。 いただきまアす。」 「 はい どうぞ。 」 ポリポリポリ ・・・ パリパリ ・・・・ 展望室にはしばらく美味しそうな音が聞こえていた。 「 おいしい〜〜 ね おいしいわね、 四郎お兄さま。 」 「 うん すごく・・・ ごちそうさま、サーシアちゃん。 あれ? それは お父様のお土産かな。 その青い鳥は さ。 」 「 え これ? うふふふ・・・ そうなの〜〜 お父様のお土産。 幸せのブルーバードなの。 王女サマをね、高い塔から助けるの。 」 「 へえ〜〜 そうなんだ・・・ 」 加藤は 『 眠りの森の美女 』 など知らないから サーシアの言葉の意味は わからなかったが 彼はにこにこと少女のおしゃべりを聞いていた。 「 ― それでね〜 お父様がね お母様にとても素敵な指輪をおくったの。 けっこんゆびわ ですって 」 「 結婚指輪? ふうん 」 「 アタシもほしいなあ〜〜 あんな綺麗な指輪・・・ 」 「 う〜ん ・・・ サーシアちゃんが花嫁さんになるのはまだまだ先だからなあ 」 「 あのねえ、とっても素敵なの、白くて光ってる丸い宝石がついているのよ。 」 「 そうなんだ? あ そうだ、 サーシアちゃん、指輪、作って上げるよ。 」 「 え?? 四郎お兄さまが? 」 「 うん。 その・・・ お菓子の袋を止めているモールをくれるかな。 」 「 これ? ・・・ はい、 どうぞ。 」 サーシアはクッキーの袋を結んでいた銀のモールを加藤にわたした。 「 え〜と・・・これを さ。 ・・・ ほら サーシアちゃん、左手を出して。 」 「 え? え ええ 。。。 」 おずおずと差し出されて細い左手、その薬指に 四郎は銀のモールを結んだ。 結んだ先を蝶結び風にまげてみた。 「 ・・・ はい、サーシアちゃん。 僕からのプレゼントさ。 」 「 わあ〜〜〜 きれい・・・ お母様の指輪みたい・・・ 」 サーシアは自分自身の指に止まった銀の蝶結びをうっとりと眺めている。 「 ありがとう〜〜 四郎お兄さま ! 」 「 え ・・・ う ・わあ・・・こ こら サーシア・・・ 」 飛びついてきたサーシアに四郎は大慌てで抱きとめた。 「 こらぁ〜 あぶないじゃないか 」 「 えへへへ ごめんなさ〜い 四郎お兄さま だいすき〜〜 」 「 お・・っとぉ〜〜 このお転婆が〜 」 展望室には 二人の明るい笑い声が響いていた。 「 ああ いい湯だった・・・ うん? なんだ、サーシアはもう沈没かい。 」 夕食後 守は風呂からご機嫌で居間にもどってきた。 隅のソファでは サーシアがぐっすりと眠っている。 「 ふふふ・・・ お父様がいらしたのではしゃぎすぎたみたいよ? 御飯を食べたらすぐにこっくり始めたの。 」 「 まだまだ子供だものなあ・・・ うん ・・・ 」 守は愛娘の寝顔をつくづくとながめ そっと彼女の金髪をなでる。 「 ベッドに寝かせてくるわね。 」 「 あ ・・・ 俺たちが休むまでここに寝かせておいてやろうよ。 」 どうやら父は娘の寝顔を眺めていたいらしい。 「 そうしましょうか・・・ 守、お茶をどうぞ? 」 「 ああ ありがとう ・・・ 」 久し振りの夫婦差し向かいのお茶タイムだ。 二人はしばらく言葉もなく ただただ見詰め合っていた。 「 ・・・ そうだ ・・・ その指輪なんだけど。 」 「 はい? 見れば見るほど素敵ね ・・・ 」 「 うん ・・・ 実はさ、それ・・・俺のお袋のものだったんだ。 」 「 え ・・ おかあさま の? 」 「 ああ。 これ ・・・ 読めるかい。 この指輪と一緒に入っていた。 ガミラス戦の時、地下都市への移住を準備していて・・・保管していた貴重品の中にあったよ。 」 「 ・・・ まあ ・・・ 」 夫が取り出した古びた封筒を スターシアはそっと受け取った。 守 と 進 へ 一緒に入れた指輪は結婚20周年にお父さんが買ってくださったものなの。 戦争でほとんどはめるチャンスもなかったけれど お父さんが贈ってくれた大事な大事な指輪・・・私の宝物です。 これをね、みつけたら。 守 進 お前たちのお嫁さんにあげてちょうだい。 真珠がふたつ。 ひとつづつにしたらいいわ。 お前たちがいつも幸せでありますように ・・・ 母 より 「 進にも話して、二人で宝飾店に細工を頼んだよ。 あいつも雪に贈っているんじゃないかな。 」 「 ・・・ おかあさまの 指輪 ・・・ 」 スターシアは改めて我が指の光を見つめた。 彼女への指輪は 真珠の周りに細かいダイヤが波のように取り巻いている。 「 ・・・ この真珠はイスカンダルのつもり さ。 色はちがうけれど。 星の海の中で ひときわ輝いてた ・・・ 俺たちの星 ・・・ 」 「 守 ・・・! 」 「 ・・・ 愛してるよ スターシア 」 「 わたしも わたしもよ ・・・ 」 二人はゆったりと抱き合い 深く熱く口付けを交わす。 「 ・・・・ う〜ん ・・・ おうじ さ ま 〜〜 」 「 ? なんだ? サーシア? 寝言かな ・・・ 」 守は愛妻の身体を離すと娘の側に屈みこんだ。 「 ふふふ・・・ よく寝てるよ。 うん? なんだ これ。 」 「 ・・・ ああ それ。 サーシアの けっこんゆびわ なんですって。 」 「 へえ・・?? 」 父は憮然として娘の左手の薬指に煌く銀のモールの指輪をみている。 「 あのね、加藤四郎さんに作っていただいたそうよ。 もうご機嫌なの。 」 「 な ・・・ なんだって・・・? お オトコから指輪を? 」 「 いやだ、あなた。 ただのオモチャでしょう? 子供の戯言よ。 」 「 ・・・ そ そうか ・・・なあ ・・・ 」 「 まあ 可笑しなお父様ねえ。 ねえ ・・・ サーシア? 」 スターシアは愛し気に娘の頬にそっとキスを落とす。 ― いつか王子様が。 ふふふ ・・・ サーシアの白馬の王子様は どこにいるのかしらね・・・ イカルスの空は今日も満天の星 その煌きが三人家族の幸せを包んでいた。 ****** ひとこと ちょっと遅れましたけれど・・・ 皆様〜〜 Merry Christmas !!!! いらぬ注 : ブルーバードとフロリナ王女 云々 『 眠りの森の美女 』 第三幕で踊られる踊り。 ブルーバードが塔に幽閉されているフロリナ王女を助け出す 道行・・・という設定の踊りです。 2011.12.26 TOP |