My Favorite  ― わたしのお気に入り ― 
                                   byばちるど



デザリアム戦の後、首都の復興に歩調を合わせ地球防衛軍の高級仕官用官舎も再建された。
臨時の仮官舎にいた古代守一家も 引っ越すことになった。
移転先は 海に近い場所だ。
新築でセキュリティも抜群、窓も東と南に大きく開いていて日当たりもいい。
守は得々としてスターシアに報告した。
「 え ・・・ 引越し? 」
「 ああ。  今までの官舎は被害が酷くてなあ、取り壊しになるんだ。 」
「 え ・・・ と 取り壊し?  どうして ・・・ 」
「 どうして・・・って。 ほら、きみも見ただろう? 外壁の損傷もひどくて危険なんだ。
 なに、次の官舎は新築だし、いいぞう〜〜 」
「 でも ・・・ あのお家に・・・お家に帰るつもりだったのに・・・ 」
「 大丈夫さ、荷物はほとんど無事だし。 ただの引越しだよ。」
「 ・・・ でも  でも ・・・ あのお家 ・・・大好きなの、大好きなお家 ・・・ 」
「 まあ 次の家もきっと気に入るさ。  
 ああ 間取りは今までよりも一回り大きいぞ。 部屋数も多いタイプを申し込んだからな。
 なにせうちのチビは、もうベビーベッドには入らないしな。 」
外見17〜8歳、その実やっと3歳になるやならずの愛娘を 守は愛しげに揶揄する。
「 え ええ・・・ 」
守の冗談にも反応せず、スターシアはなにかひたすら思い詰めている。
「 なんだ そんなに前の家がいいのかい。 」
「 え ・・・ いえ ・・・ 守が決めたのなら ・・・ いいわ。 」
「 わかってくれたかい。 じゃあ 早速荷物を纏めに行こうか。 」
「 ・・・ え ええ ・・・ 」
夫に従って仕度をしつつ  ― スターシアはずっと浮かない顔をしていた。


      お家 ・・・ 守とわたしとサーシアのおうち。
      この星に来て 初めての夜を過したわ  
      疲れて怯えていたわたしを やさしく迎えてくれた あのおうち・・・・

      ・・・ そうね あの日 
      とても静かな夜と ・・・ 綺麗な日の出をみたわ 
      いつだって守が隣にいてくれるから 安心してた・・・
      このおうちにいるのなら がんばれる・・って思ったわ。

      大好きな和室 ・・・ タタミの香りがとってもほっとできて
      すこしくらい具合が悪くても あのお部屋にいれば治ったわ
      お蒲団は ちょっと懐かしい肌触りがしたの
      赤ちゃんのサーシアがぐずった時も あのお部屋であやしたわ

 ・・・  わたしのお家  大好きなわたしのお家 ・・・


今までの官舎は外壁がかなり損傷していたし、室内も無事ではなかった。
緒戦で猛攻をしかけてきたデザリアム軍は 防衛軍関係の施設を重点的に攻撃、占拠した。
官舎は一応内部を捜索しただけだったらしいが・・・
懐かしい我が家は ドアを開けてみればかなり荒らされていた。

「 くそ〜 やりたい放題しやがって!  ・・・足元、気をつけろよ? 」
「 ええ ・・・ ああ ・・・ タタミが ・・・! 」
「 うん?  なんだい、スターシア。 」
「 ・・・ いえ ・・・ なんでもないわ。  守、寝室を見てきてくださる? 」
「 おう、わかった。 」
「 ・・・・・・ 」
和室は 襖は破れタタミの上には土足の跡が多数残っていた。
「 ・・・ いつも綺麗にしていたのに ・・・ タタミが可哀想・・・ ああ 花瓶が粉々・・・ 」
スターシアはゴミをひとつひとつ拾うと、汚れた畳を雑巾で拭った。
「 今日でさようなら なの。  ありがとう ・・・ 大好きだったお部屋 ・・・ 」
彼女は涙を溜めつつ そっと乾拭きしていた。

「 よ〜し ・・・ それじゃ これで全部かな。 きみの方はどうかい。 」
「 はい 大丈夫 ・・・ スーツ・ケースに入れましたわ。 」
「 そうか。  ・・・ なんだか元気ないなあ・・・ 疲れたのかい? 」
守はそっと細君を抱き寄せた。
「 ・・・え  いえ ・・・ そうね、ちょっと ・・・ ちょっとだけ疲れたかしら。 」
「 いかんな。 それじゃ早く帰ろう。  一人で歩けるか? 」
「 大丈夫ですわ。  ・・・ さあ 行きましょう。  」
「 うん  じゃ 俺、エア・カーを入り口に回しておくから。 ・・・ほら 荷物、俺が持つ。 」
「 ありがとう ・・・ 」
守はスターシアが引いていたスーツ・ケースも持って降りていった。

      さようなら   ・・・  わたしのおうち ・・・

スターシアは玄関でもう一度だけ振り返り ― 懐かしい我が家に別れを告げた。
一瞬 ほんの一瞬だけ。 彼女の脳裏にはあの青き星の面影が浮かんだ。




新しい官舎は 快適だった。
親子三人で暮らすには十分すぎる広さで、スターシアは少し戸惑ってしまう。
守もサーシアも楽しそうだ。
「 う〜ん  新築はいいなあ。  リビング、広くて伸び伸びするぞ〜 」
「 お父様〜 寝室の壁紙、わたしが決めてもいい? 」
「 おう、いいぞ。  今度ホーム・センターにでも見にゆくかい。 」
「 わあ〜 嬉しい♪  ねえねえ ・・・ リビングのライトも見ましょうよ〜 
 フロア・ライトにしない? きっと素敵だわ♪ うふふふ・・・楽しみ〜
 あ〜ん 私、 寮に帰るの、イヤになりそう〜 」
サーシアはデザリアム戦集結後、宇宙戦士訓練校の寮に入っている。
イカルスでは聴講生だったが、今彼女は正式に訓練生として卒業をめざしている。
そのため、普段は寮で暮らし週末に帰宅する、という生活なのだ。
「 こらこら 訓練生が何を言うんだ。 
 しかしなあ カーテンも選ばないと・・・ なあ スターシア。 」
「 え  ええ  ・・・ そうね、  あら・・・ フスマ・・・」
そしてこの家にも 和室があった。
からり、と新しい襖を繰れば   ―  青畳がスターシアを迎えた。
「 ・・・ ああ  タタミの香り ・・・ 」
「 あら。 和室。  ふふふ・・・ またお母様のお部屋になるのかしらね。 」
「 そうね ・・・ そうしてもいいかしら。 」
「 あ〜 俺も使いたいのですが〜 奥さん 」
「 ふふふ・・・ 守は昼寝に使いたいのでしょ。 大の字になれるから・・・ 」
「 君と一緒に寝てもいいなあ〜って思っていますが? 」
「 ・・・ もう ・・・ 娘の前で ・・・ 」
「 あ〜〜 はいはい いつまでもお熱いこって・・・  邪魔者は消えます〜 」
サーシアは ちょっとばかり拗ねた顔をして見せたがご機嫌で自分の部屋に消えた。
「 ・・・ なあ どうだい、新しい家は 」
守はそっとスターシアの肩を抱くと 和室に入った。
「 ええ  綺麗で気持ちがいいわね ・・・  」
「 気に入ってくれたかい? 」
温かい茶色の瞳が心配そうに彼女を見つめている。
「 守 ・・・ ええ ええ。  どこだって守とサーシアが一緒なら私は幸せよ・・・ 」
「 ― ほんとうに ? 」
「 ええ。 」
白い両手が守の大きな手をきゅう・・・っと包んだ。
「 本当よ。  あの時みたいに ・・・ ウソは言いません。 」
「 え・・・・ あ。 あは ・・・ ありがとうございます 陛下。
 では これからの人生の旅も、お供させて頂きます。 」
守は空いている手で愛妻を抱き寄せた。
そのままゆっくりと畳の上に崩れ落ちる。  イグサの香りがにおいたつ。
  ― からり。   唇を重ねつつ、守は襖を引いた。




  ゆら ・・・・  ゆら ・・・・   ゆら ・・・・

清んだ空気に 朝の光が揺れている。  
スターシアは ぼんやりと目を開けた。

      ああ  ・・・ もう・・・朝 ・・・?
      いいお天気だわ ・・・  今日は潮の寄せる日だったかしら
   
      宮殿の奥庭に 薬草を干しましょう ・・・
      ・・・ そうそう 港の点検をアンドロイドに命じなければ

 ― カサリ ・・・ そうっと起き上がった。

      守を起こさないようにしなくちゃ・・・
      このごろ ちょっと無理をしすぎているみたいだから
      そうだわ、 また薬草のエキスを作ってみましょう

「 ―   あら?  」
ベッドに起き上がり、周りを眺めれば。   そこは新しい官舎の一室だった。
「 ・・・ そ ・・・ そうよ ね  ここは 地球の私達のお家。
 守と私と サーシアの ・・・ 」

      私 ・・・ なんだってイスカンダルに居る夢なんか見たのかしら・・・
      もうずっと・・・ そんなこと、なかったのに 

両手を顔に当ててみれば 涙の跡が一筋 二筋のこっていた。
こんな気持ちになったのは 本当にしばらくぶりだ。

       いったい どうして? 前のお家でもこんなこと、なかったのに
      
ゆっくりベッドから立ち上がり 窓辺まで行きちょっとだけカーテンを開け窓も開けてみた。

    ザ  ・・・ ザザザ ・・・・  ザ  ・・・・ ザザザ ・・・・

密やかだが確かな音が耳に入ってくる。
「  ―  ああ ・・・  この音  この音のせい ね ・・・ 」
 波の音が。 寄せては返す波の音が 聞こえていたのだ。
故郷の星で あの宮殿で 生まれた時から四六時中聞こえていた波の音 ・・・
それを今、耳にしていつのまにか記憶の中を辿っていたらしい。
「 ・・・ スタ-シア ・・・ 早いね 」
「 守 ・・・ 」
後ろから 大きな手がふわり、と彼女の身体にまわされた。
「 ごめんなさい、起こしてしまった?  」
「 いや ・・・ なんとなく俺も目が覚めたのさ 」
「 ねえ ・・・ 海の 波の音が聞こえるのね ・・・ このお家 ・・・ 」
「 うん?  ああ そうだな。  この官舎の屋上に上れば海も見えるそうだよ。 」
「 そう ・・・ 海の近くに また住めるのね 」
「 ・・・ ああ そうだなあ。 久し振りだ・・・ 波の音は  いい ・・・ 」
「 ええ  ええ  本当に ・・・ 」
「 スターシア ・・・ 」
「 守  お は よ う  ♪ 」
海の向こうから昇ってきた朝日の中 二人はゆったりと口付けを交わした。

    二人の新しい朝が 始まった。


そう 今度の新しい家は海に臨める場所なのだ。 
そのことがスターシアにとってはなによりも嬉しくてほっとする想いだった。

    わたし ・・・ このお家も好きになれそう ・・・
    いえ きっと好きになるわ。

彼女は新しい家を整え 住み易くなるよういろいろ工夫し始めた。
新しい官舎はすこしづつ彼女の 家 になってきた。

「 あ〜 ・・・ しまったなあ ・・・ 」
金曜の朝 出勤時に守が鞄を開けてなにかぼやいている。
「 守? どうなさったの。 」
「 いや・・・ 幕之内に借りた本なんだけどな。 返すのを忘れていた・・・ 」
「 ?? どういうこと? 」
「 うん、 俺は今日出張でアイツは休暇なんだ。
 で 入れ違いになる前に返そうと思っていたんだながなあ。 」
「 その本 ・・・ お急ぎになるの? 」
「 うん なんでも週末に別のヤツが借りたいらしい。 
 スターシア ・・・ 悪いがヤツの官舎に届けてもらえないかな。 」
「 はい 勿論。  え〜と・・・ 幕之内さんはとちらの官舎でしたっけ? 」
守は目的の官舎を教えメモと本を渡した。
「 ・・・ あら これなら託児所の帰りに寄れますね。 」
「 いいかい? ボランティアの後で疲れているだろうけど ・・・ 」
「 ちょっとお散歩ができて楽しいわ。 それに、新しい場所ってドキドキするし。 」
「 じゃあ すまないが、頼むよ。 俺、今日から出張だからな。 
 クソ〜〜 金曜からの出張なんて誰かの陰謀じゃないのか〜〜  」
「 ふふふ・・・お仕事でしょ。  ご本は確かにお届けしますわ。  」
「 うん 頼む。  ヤツのとこでゆっくりしてこい。 
 まあ 気が向いたら泊まってきてもいいぞ。 」
「 え? ・・・ だ だって 独身の殿方のお家なのでしょう? 」
「 まあ いいから。 ともかく行っておいで。 この本、頼んだよ。 」
「 ・・・ はあ・・・  」
「 じゃ 行って来る。  まあ 楽しんでくるといいさ。 
「 ??  いってらっしゃい、守。 」
二人はいつもの通り、熱い口付けを交わした。



その日の夕方 防衛軍の官舎街を金髪美女がうろうろしていた。
彼女は片手にちょっと重そうなスーパーのレジ袋をさげ、メモをみつつきょろきょろしている。
「 ・・・え〜と ・・・G棟 ・・・ はどこ? ここはE棟だから ・・・ 
 暗くなるとよくわからないわねえ・・・  子供達のお話を聞いていたら遅くなってしまったわ 」
さんざん行きつ戻りつした挙句 どうやらやっと目的地を発見したらしい。
「 あ! ここね! ・・・ふう〜〜 徒歩の時にもナビゲーターが欲しいわあ ・・・ 」
ぶつぶつ言いつつ、彼女はその建物に入っていった。

「 やあ いらっしゃい スターシアさん。 」
「 ― え?? 」
チャイムを押して、玄関を開けてくれたのは ―
「 さ 真田さん??  あ あらいやだ、私 お家を間違えてしまったみたい・・・ 」
「 お〜っと。 いいんです、スターシアさん。 ここですよ、幕之内の部屋は。 」
ぺこり、とお辞儀をして帰ろうとした彼女を 真田はあわてて呼び止めた。
「 ・・・え?  で でも・・・  ああ、真田さんも幕之内さんに御用がおありなんですのね? 」
「 御用・・・っていうか。 そうだなあ、美味い晩飯を食いにきた・・・ってとこです。 」
「 まあ ・・・ そうですか。 あの・・・じゃあ幕の内さん、いらっしゃいます? 」
「 居ますよ〜  お〜〜い 幕之内! 女王陛下がご面会だ! 」
真田は玄関から家の中にむかって怒鳴っている。
「 あの あの ・・・ 私、 守に言い付かって・・・ このご本をお返しに来ただけですの。 」
「 なんですって。 守のヤツ〜〜 陛下を使い走りになんかしやがって! 」
真田が本気になって憤慨していると・・・
「 おう〜〜 スターシアさん  お久し振りですね〜 」
奥から のっしのっしと当家の主、幕之内が出てきた。
「 まあ こんにちは、おひさしぶりです、幕之内さん。  あの これ 守から・・・ 」
「 スターシアさん、どうぞお上がりください。
 守のヤツの仕打ちは真田の怒声でわかりました。 実に許せんですな〜 
 こりゃ 一回はヤツを絞めておかんといかん。 」
「 え ・・・ そんなことは別に・・・ 」
「 ともかくどうぞ どうぞ 」
真田と幕之内は スターシアの手を引かんばかりに家の中へと案内した。

     ・・・ 困ったわ ・・・
     あ 守が <ゆっくりしてこい> って言ってたわね
     ・・・ このことだったの??

「 じゃ じゃあ ・・・ ちょっとだけお邪魔しますわ。 」
「 そうこなくっちゃ!  よ〜し、美味しいココアをおつくりしますよ! 
 真田〜 リビングに御案内してくれ〜 」
「 わかった。  スターシアさん、どうぞ? さあ ここです。 」
幕之内は満面の笑みでキッチンに消え 真田が案内してくれた。
「 ありがとうございます。  真田さん、幕之内さんと同じ棟にお住いですの? 」
「 え ・・・ いや 違います。  俺の官舎はもう少し奥です。 
 いやあ〜 コイツが休みの時には仕事帰りにここに寄るのが俺たちの習慣みたいなもんでしてね。 」
「 習慣??  ― まあ ここですね   あら。 」
リビングのど真ん中には大きな炬燵が  どん! と据えてあり一人の青年がシアワセそうに
暖まっていた。
「 あ  スターシアさん!  お久し振りです。 さ  ドウゾ どうぞ 〜〜 」 
「 まあ 島さん? こんにちは、お元気でした? 」
「 はい、お蔭様で。 元気なおかげでさんざんコキ使われていますよ。
 表はもう寒いでしょう?  こちらへどうぞ ? 」
島はコタツを指してちょい・・・とコタツ布団の端を捲った。
「 ・・・ あの ・・・ これ。  なんですか? 」
「 え?  あ ・・・ そっか。 スターシアさん、初めてですか? 」
「 はい。  あの ・・・ お蒲団、ですわよねえ これ・・・ 」
スターシアはコタツ布団に触れてみる。
「 これは、ですねえ。 コタツ といいまして、この国にず〜〜〜〜っと伝わっている
 冬用の暖房器具なんです。 」
「 暖房器具、 ですか。  まあ 上がテーブルになっていますのね。 」
「 そうなんですよ。 ここでなんだってできますからね〜  あんまり気持ちがいいので、
 一旦コタツに入ると皆 根 が生えてしまうんです。  そうそう・・・そんなカンジで 」
「 あのう ・・・ 私、 正座、できませんの。脚を投げ出してもかまいませんか? 」
「 どうぞ どうぞ〜 ってか 皆そうですよ? ささ ・・・ 」
「 はい ・・・   あら?  まあ温かい ・・・♪ 」
「 でしょ?  俺 ・・・ もうここから離れられない・・・ 」
島はまた ぺとん、と天板にほっぺたを押し付ける。
「 お〜い 島! 皿を運ぶの、手伝え! 」
幕之内がエプロン姿で現れた。
「 スターシアさん、お待たせしました。 ココアをどうぞ。 」
ことん、と甘い湯気が立つカップが 置かれた。
「 まあ ・・・ いい匂い ・・ 」
「 あ ・・・ いいなあ〜 俺も飲みたい・・・ 」
「 こら 島! ごちゃごちゃ言わんと、手伝え! コタツはお前の昼寝用じゃないぞ! 」
「 へ〜い  ・・・ スターシアさん、コタツに当たっててください。 」
「 島! 早くしろ。  ああ そうだ、 スターシアさん、 これ ・・・ どうぞ。 」
幕之内はみかん山盛りの籠を コタツの上に置いた。
「 まあ みかん ・・・! 」
「 ええ やっとね、産地で大々的に量産体制に入って。 
 我々でも楽に手に入るようになりました。 お好きでしたよね、スターシアさん。
 これ 召し上がってお待ちください。 」
「 ありがとうございます。  あの でも よろしければお手伝い、いたしますわ。
 私だってこれでも主婦ですから。 」
「 いやいや どうぞコタツでのんびりしててください。 
 古代のヤツからもちゃんとメールが来ました。  ゆっくりさせろ ってね。 」
「 まあ 守ったら ・・・ 」
「 なに、すぐに夕食にしますよ。  おい 島〜〜 皿小鉢とあと 〜 」
幕之内はがんがん怒鳴りつつキッチンに戻っていった。
「 うふ ・・・ なんであんなにエプロンが似会うのかしらね・・・
 ああ でも ・・・ なんていい気持ち ・・・・ 」
スターシアはコタツの中でう〜ん ・・・と 脚を伸ばす。
一日、コドモたちの相手をしほとんど走り回っていたので やはりかなり疲れていた。
「 ・・・ ああ  脚が こんなにいい気持ち なんて ・・・ 」
いつの間にか スターシアは天板の頬を寄せていた。
「 あたたかい ・・・ ふふふ・・・ヒーターよりずっといい気持ち ・・・
 そうね ・・・ 日溜りみたい。 
 ・・・ ああ 子供の頃 ・・・ 海の見えるテラスでお昼寝したっけ・・・ 」

  ―  ことん。   スターシアはいつしかしっかり寝入っていた。

「 いやあ〜 お待たせしました。  ?  スターシアさん? 」
「 島〜 テーブルを拭け。  うん?  やあ ・・・ 」
「 お〜す・・・ さあさあ出来たぞ〜 島! テーブルを整えろ! 」
幕之内がキッチンから大きな土鍋を持ってきた。
「「  し −−−−−−− !!! 」」
真田と島が幕之内を押し止め 口を塞ぐ。
「 モガ〜〜?!   ・・・  ああ ・・・ 」
一瞬 幕の内は大立ち回りしかけたが ―  すぐに動きを止め、そ〜〜〜っと鍋を置いた。
「 やあ ・・・ 女王陛下はお休みですな。 」
「 昼間は託児所でボランティアだそうだから ・・・ 疲れているんだろうな。 」
「 少し待ちましょう。  ユキや徳川たちも来ますから。 」
「 ま そうだな。  よ〜し ・・・ デザートまで仕上げるぞ!
 島! 生クリームを泡立てるぞ!  手伝え! 」
「 ・・・ ひえ 〜〜〜 ・・・  」
幕之内は島をキッチンに引っ立てて行った。
「 ・・・ ふふふ ・・・  陛下、どうぞゆっくりなさってください。
 コタツ、お気に召したようですね。 よかった ・・・ ちゃんと守に伝えておきますよ。 」
真田は スターシアのコートを彼女の肩に掛けた。

  ―  ぴんぽ  − −−−−  ん  ・・・・   こんばんは〜〜〜

まもなくチャイムが鳴り、ユキたちの賑やかな声が聞こえてきた。


「 これ! これが美味いんですよ! 」
「 ・・・まあ これはなんですか? 」
「 スターシアさん! これを食べなくちゃ<幕之内鍋>を食べた、と言えません〜 」
「 ・・・不思議な食感ですわね ・・・ 」
「 お義姉さま〜〜 ムサい食欲魔人達なんか無視して〜〜 ほら 一杯いかが? 」
「 ユキさん ・・・ 〜〜〜ん ・・・ おいしい♪ 」
「 あ〜〜 ユキったらずるいぞ〜〜 スターシアさんを独り占めしてえ〜
 スターシアさん〜〜 この漬物! これぞ地球の永遠の味〜〜 」
「 永遠の味? 」
巨大なコタツの上、通称・幕之内鍋 を皆で囲み盛り上がった。
スターシアは四方八方から料理を勧められ困っていたが、太田が喜んで引き受けてくれた。
一升瓶やらビール樽、ウィスキー壜も乱立し、仕舞には沈没者が続出だった。

「 ・・・ 本当にいいんですか お義姉さま 〜 」
ユキは呂律も足元もゆらゆらしている。
「 ええ 勿論。  
 ユキさん、人妻が夫の留守に他の殿方の御宅に泊まるなんて いけません。 」
「 ふぇ〜〜い ・・・ 」
「 ああ 危ないわ、 ほら・・・ ユキさん・・・ 」
スターシアはユキを支えつつ 歩いてゆく。
「 す みましぇ〜ん ・・・  でもお義姉さま〜〜 お酒に強いんですねぇ〜〜 」
「 そう? ほらもうすぐ そこですよ。 」
「 ありがとうごらいます ぅ〜〜 ・・・ 」
深夜になってしまったが スターシアはユキを連れて自宅に戻ってきた。
官舎街なので治安は安心だったが ― それよりも男性陣は全員が潰れていた・・・
「 義姉として妹の安全は護らなければ・・・
 ユキさん。 進さんがお留守だからといってハメを外してはいけませんよ。 」
「 ・・・ ふぇ〜〜い ・・・ 」
とんだ深夜のお説教たいむ にユキは楽しい酔いもふっとぶのだった・・・

    


「 どうだい。  気に入ったかな。 」
守は満足の笑みを浮かべ 細君を眺めた。
「 ええ♪  と −−−−−−っても♪  ふふふ ・・・ 」
「 そりゃよかった。  ・・・ うん 本当に気持ち、いいな・・・ 」
「 でしょ?  」
「 ― だな。 」
二人の間には ― 早速守が買ってきた コタツ がある。
守は幕之内からメールを貰い、 出張の帰りに南町の商店街に回ったのだ。
そして。  彼らの住居にぴったりの中くらいのコタツをみつけた。 

  ― 古代家の 素敵なコタツ・たいむ が始まった。

「 ただいま〜  お父様 お母様〜〜 」
玄関からサーシアの声が響く。
「 まあ サーシア ・・・・ 」
「 ほ。 我が家のお転婆姫のご帰宅だ。 」
程無くして 襖が開き ―
「 ただいま です。   はい、 おみやげ♪ 」
サーシアは どん! と大きな箱をテーブルに置いた。
「 おいおい・・・サーシア なんなんだい? 大きな荷物は下に置け。 」
「 あ〜ら 荷物じゃないわ、お父様。  真田のおじ様から聞いたの。 」
「 真田から? 」
「 サーシア。 寒かったでしょう? ほら ・・・コタツにお入りなさい。
 その包みはなんなの。 」
「 コタツとこれはね♪  日本の冬には不可欠なモノ、なんですって。
 ・・・・・・ はい、 お母様。  」

   どん。    コタツの上にはつやつや橙色の みかん  が山盛り♪
 
「 まあ ・・・ 」
「 おう  いいなあ 」
「 ― でしょ? 」

和室にコタツ。 コタツの上には みかん。 
家族でまったりする穏やかな冬の日 ・・・ 遠くには波の音・・・

     そう ね。  ここがわたし達の新しいおうち・・・


   ― 女王陛下のお気に入り  ・・・ それは

茶色の瞳のご主人と小さなサーシア   皆の笑顔 
イスカンダル・ブルーの白い花とタタミのお部屋 ・・・ そして コタツみかん♪


2012.2.4

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