銀河伝説 
               byばちるど



無限に広がる大宇宙 ― 
そこには数多の生命が満ち溢れている ・・・

  生命があればそこに文明が生まれ、文化が発達する。
そうだ、宇宙には さまざまな文明・文化が満ち溢れているのだ。
  ・・・・ 要するに 処変われば品変わる、ってことなのだ けど ・・・・


   ― そうだろうな、 うん。  そうさ、さまざまなんだから。

古代守は 懸命に頷き自分自身を納得させようと努力していた。
些細なことだ ― なによりも大切なのは妻を熱愛している、ということだ。
彼は新妻に微笑みかけた。
「 いいよ 君の好きにしたらいい。  」
「 ありがとう 守。  ・・・ 愛しているわ・・・ 」
「 ああ 俺もさ、スターシア 」
彼女の笑顔は守の心を鷲掴みにし、もう彼は彼女のことならなんだってオッケー!だった。

  ・・・ うん 構わないさ・・・
  この星には俺たち二人しかいないし な。
  それに気候も温暖で 宮殿や庭はとても清潔だし・・・
  なによりも これがこの星の文化なのだから 
  異星人である俺にどうこう言う権利はないさ。

異文化に理解がなければ とてもじゃないが異星人と結婚なんかできないのだ!


 ― そのことに気がついたのは まだ守が病床を離れられない時分だった。
つききりでまめまめしく世話をしてくれる彼女は いつも裳裾を引くドレスを着ていた。
それが この星の女性の民族服なのだろう。
その優雅な佇まいは 異星人とはいえ守にも心安らぐものだった。
床まで届く裾の長いドレスはとても柔らかい生地でできているらしい。
彼女の動きとともにはんなりとその肢体に纏わりつく。
衣越しとはいえ、かなりはっきりとその素晴しい身体のラインを眺めることができ、
守には最高の目の保養だった。
今 彼女は守のために食卓を整えてくれている。
「 え〜と これでいいかしら。  あら、ごめんなさい。 グラスをひとつ、忘れてきましたわ。 」
「 ・・・ ああ  これを使うから ・・・ 」
「 あらそれはお薬用です。  お食事は 楽しく頂きましょう。 
 ちょっとお待ちになって ・・・ すぐに持ってきますから。  」
「 すまないな ・・・スターシア ・・・ 」
笑顔で首を振ると、彼女はぱっと立ち上がり足早に病室を出ていった。

    ふわ  ・・・・・  

ペイル・ブルーの裳裾が大きく翻り宙に舞い  ―  白い脚が付け根近くまで露わになった。

      ―   素足 だ。
「 ・・・・・・  !  」
守の視線が釘付けになったが 白い脚は持ち主と共にすぐにドアの向こうに去った。
「 ・・・ 屋内だから、かな?  それとも ・・・・それが習慣なのか・・・ 」


         ・・・ そう。 女王陛下は はいていなかった。



はっきりと確かめたのは 二人が夫婦の誓いをし新枕を交わした後だった。
夜はもとより、昼も、そして屋外に出るときも新妻は用いていない。
夫婦といってもほやほやな二人、まだまだ遠慮があり守はかなり迷っていたがついに口にだした。
彼にしては珍しく 言い澱みおずおずと ・・・・
「 ・・・ あの なあ。  その・・・ 冷えることはないのかい。  」
「 ・・・え ・・・? 」
夫の問いに新妻は一瞬怪訝な顔をしたが 足元に落ちる夫の視線に気付きすぐに明るく微笑んだ。
「 ええ、 全然。  ずっとこうしてきましたから。  」
「 そうか ・・・ それなら ・・・いいけどな。  」
「 ああ でも殿方はお使いになります。  宮殿の衣裳部屋にも沢山ストックがありますわ。 」
「 そうなんだ・・・ ふうん  ・・・ 」
「 守、 どうぞご自由にご覧になって?  お好きなものを使ってください。 」
「 ありがとう。  この星をもっとよく知るためにも ・・・ 今度見せてくれ。 」
「 ・・・ふふふ・・・ 可笑しいわ、 守。 」
「 え? 」
「 だって 守はもうこの・・・イスカンダルの人間でしょう? 
 どうぞ、この宮殿内はご自由にお使いくださいな。 」
「 うん ・・・・ ありがとう。 それじゃ 俺のふるさとになるこの星のことを勉強させてもらうよ。 」
「 嬉しいわ。 お願いします。 」
「 了解〜 」
守は ちゃ・・・っと敬礼してから妻を抱き寄せキスを落とす。
「 ・・・ あ  ・・・・ ん・・・・  」
「 そして 君をもっともっと知りたいと思いま〜す♪ 」
「 ・・・・ もう ・・・・あ  あぁ ・・・ん ・・・  」
新婚の二人には なんでもかんでもが愛し合うきっかけになる。 
二人は縺れあったまま豪華なカウチに倒れこむのだった。



クリスタル・パレスの奥にはさまざまな部屋があった。
守は スターシアに案内されその部屋部屋を巡り歩いた。
衣裳部屋には 男物の衣服・小物類が数多くありどれも上質のものばかりだ。
「 ・・・ これはすごなあ ・・・ 」
「 守、ここは私の父の衣裳部屋でした。 どうぞ ・・・ 全部使ってくださいな。 
 ここは守のものです。 」
「 え ・・・ 」
「 だって 今、 この星を護ってくださるナイトは守ですもの。 」
「 ― ナイト ? 」
「 はい。 」
スターシアはちょっと頬を染めその部屋の中央にたった。
「 ここには貴士 ( ナイト ) に相応しいものが揃っていますわ。 」
「 ・・・ 君の父上という方はどういう方だったのかい。 
 先代の女王陛下、つまり君の母上とは ・・・ どうやって? 」
この星は 代々国王が君臨・統治する、と守は聞かされていた。
クリスタル・パレスがあるこの地の他にも大陸が点在し、かつては多くの民が住んでいた。
それぞれの地は有力な侯爵家が統治し、その頂点に王家が君臨する ― それがイスカンダルの世界なのだ。
王家は時として女王の時代が続くこともあったが その治世には
常に賢明にして勇猛果敢な夫君が女王を支えていたという。
そんな男性たちをこの星では貴士 ― ナイト ― と呼び国民たちの尊敬を集めていた。
「 そうですねえ・・・ こっちへいらして。 」
スターシアは守をまた別の部屋に案内した。
そこは 美術館にも似て、多くの肖像画や煌く宝冠などが収めてある。
スターシアはふかふかの絨毯を踏みつつ 夫に王家の歴史を話した。

二人は一枚の肖像画の前で足をとめた。
そこには堂々たる貴士が描かれている。  目の辺りがスターシアとよく似ていた。
「 これは父です。  父は西の侯爵領の長子でしたけれど ・・・
 初めて王宮に伺候した時に母を見て一目惚れ ・・・ なにもかも捨てて母の手を取りました。 」
「 ほう ・・・ 情熱的な方だな 義父上は・・・ 」
「 あら。 守も同じでしょう? 」
くす・・・っと笑って スターシアは守に寄り添った。
「 え・・・ あ、そ そうかな?   
 そうか ・・・ この方が君の父上なんだね。 」
「 はい、 こちらは 母の正式な肖像ですわ。  」
そのコーナーの中央には 一際立派な設えの一枚がありイスカンダル王家・先代女王陛下が描かれていた。
際立つ美貌、そして聡明で強い光を湛えた瞳  ― 立派な君主であったに違いない。
「 ・・・ ・・・・・ 」
守は さ・・・っとその肖像の前に片膝を突いた。
「 ― 守? 」
「 義父上  義母上  ・・・ どうぞ私にあなた方の姫君をお護りする栄誉をお許しください。 」
守は じっと肖像画をみつめてから頭を垂れた。
「 ・・・ 守 ・・・ そんなこと言わなくても ・・・ 」
「 スターシア。  これは俺たちの国での作法なんだ。 
 想い人に求婚する時には その人のご両親に挨拶をし、許しを頂く。  
 ・・・ 俺もお許し頂ければ嬉しいのだが ・・・ 」
「 守 ・・・! 」
スターシアは 守の腕の中の飛び込んだ。
「 スターシア? どうした? 」
「 ああ なんて ・・・ ステキなヒトなの! ええ ええ 父も母も ― 妹も。
 大喜びで あなたを家族に迎えますわ。  ありがとう ・・・! 」
「 先代の女王陛下と貴士閣下は お許しくださいましたか、女王陛下。 」
「 うふふふ・・・ 守ったら ・・・ 
 古代守 ― そなたはわたくしの貴士 ( ナイト ) として生きてください。 」
「 御意 ・・・ 陛下のお側に。 永久に。 」
「 ― 守 ・・・! 」
二人は固く抱き合い 熱く熱く唇を重ねた。
そんな娘夫婦を 先代のイスカンダル女王夫妻は温かく見守っていたに違いない。



「 ふう ・・・ さすがに冷えるなあ。 」
「 ええ 私もこんな気温は久し振りよ。 」
二人は冬の離宮へ 頬を赤くしてもどってきた。 
ハネムーンに、と北方のツンドラ地域にでかけ冬の離宮に滞在した。
温暖なイスカンダルも その地域は凍て付く寒さに覆われていて 守は久々に寒風に身をさらした。
それは身の引き締まる心地よいものだった。
「 君、 寒くないかい。 」
守は妻の足元を気遣って抱き寄せた。
「 うふふ・・・大丈夫よ。  守、ほらこのひざ掛けをお使いになって? 
 足元にはね、 これを・・・ 温かいでしょう? 」
「 ・・・ 本当だ!  軽くて温かい・・・すごい布地だな。 」
「 ええ これはある植物の繊維を加工して織り上げた北方地域の名産です。 
  ・・・ でも ・・・・ もう いらないわ。 」
「 ? なぜだい ? 」
「 ・・・ 私には ・・・守がいるから。 守の胸の方がずっと温かいもの ・・・ 」
「 スターシア・・・! 」
真っ赤になって俯いている新妻を 守はしっかりと抱き締めるのだった。

    そう ・・・ 北の離宮でも女王陛下は はいていなかった。



  ・・・・ 仔細あって 二人はかの青き星を離れることになったが。
地球に来てからも 女王陛下はその習慣だけは止めることはなかった。
さすがにヤマトに乗艦し地球に向かう最中には仕方なく身に着けていたけれど・・・
ヤマトに移って、守はすぐに手配したのだ。
「 すまん、森君 ・・・ そのう・・・きみのを貸してやってくれないか。 」
「 はい、勿論。  あ ・・・ でもサイズが合うかしら? 」
「 う〜ん?? ちょっと俺にはなんとも・・・ 直接スターシアに聞いてくれるかい。 」
「 はい 了解です。 ・・・でも多分 私のだと小さいでしょうね、背も私よりお高いですから。 」
「 ・・・ う〜ん?? その辺は・・・ ともかく頼む。  
 第一、ヤマトは戦艦なんだ、あのままでは危険だし。 それにその・・・ 」
「 はい、妊婦さんに冷えは大敵ですから。 お任せください、なんとかしますわ。 」
「 ありがとう! 恩に着るよ。 」
ユキの頼もしい返事に 守はほっとする思いだった。


  この攻防は無事地球に帰還してからも続いた。
守達は 軍の官舎に新居を構え、穏やかな日々を送るのだったが ・・・

「 冷えるよ、スターシア。 」
「 大丈夫よ、守。 このお家の中はとても温かいもの。 」
「 だめだ、今 きみは大事な身体だろう? 
 この子のためにも ・・・ 冷えてはいけいないよ。 」
「 ・・・ わかったわ。  」
「 ほら、 この前 南町の人たちから頂いた毛糸製のがあっただろう? 
 あれを使いなさい。 」
「 ・・・ う〜ん ・・・ でも ねえ・・・ あれ・・・ ごそごそするの。 」
「 イスカンダルのあの布地があったらよかったんだがなあ・・・ 」
「 守 ・・・ ごめんなさい。  これ ・・・使いますわ。 」
「 いい子だね、スターシア。  」
「 うふふ ・・・ いい子にしてますから。  ・・・ キスして? 」
「 はい ・・・ 女王陛下のお望みとあれば。 」
守は 妻を抱き寄せ ― お腹の子供を真ん中に 二人は熱く唇を重ねた。

   お腹の子供のため ―  
   ともかくこの理由で女王陛下は この時期だけ渋々・・・お使いになられたのだ。


  
 その後。  とんでもない戦争なんかもあったりしたが 地球はなんとか・・・生き残り、
守の家族も無事に生きながらえた。 
地球は今、 復興めざましい活気溢れた世界になっている。

  そんなある朝 ―

「 ・・・ ?   うふふふ・・・ また・・・ 」
古代サーシアは リビングで聞き耳をたて苦笑していた。


「 守。  どうしても だめ ・・・? 」
「 はい、どうしても。 」
「 ・・・・・・・・・ 」
「 そんな目で見てもだめです。 」
「 ・・・だって・・・ 」
「 だって じゃないです。 今日は外宇宙への連絡船・スターシアの進宙式で陛下は主賓なのですよ。 
 全地球が いや、 各惑星基地でも 大勢の人が見ています。 」
「 ・・・ でも ・・・ 」
「 デモ も スト もナシです。 さ これをお使いください。
 ― おっほん ・・・ 地球防衛軍本部付き 先任参謀としてお願いします。」
「 ・・・・・・・・・ 」
深い深い溜息が 聞こえてきた。 がさごそ・・・音がしている。
「 これだけは どうしても理解できないわ ・・・ 」
「 さ 陛下? ご準備はおよろしゅうございますか。」
「 ―  はいはい。 」
「 はい は一回です。 」
「 ―  は   い 。 」
「では女王陛下。 陛下の忠実なるナイトがお供つかまつります。」
守はすい、とスターシアの手をとり、身をかがめるとキスをした。
「お手をどうぞ陛下。」
「・・・」
珍しく不機嫌な妻は 最高に上機嫌な夫に腕を預け、出かけていった。

   カツカツカツ ・・・ コツコツコツ 

高い靴音が並んで遠ざかってゆく。
「 ふふふ ・・・ お父様とお母様ったら。 またやってるわ ・・・ 」
サーシアは今でもらぶらぶな両親の唯一の揉め事にクスクス・・・笑い続けていた。

   そう  ―  女王陛下は それからも・いつも なかなかおはきになりたがらなかった。

それは銀河伝説となった。




   ******   後書き

そこのあなた! なにを不埒な想像をしているのですか〜〜
陛下がおはきになっていなかったのは    靴   ですよ♪
・・・え?  アレ?  ・・・さあ?? それは旦那様しかしらないでしょうね・・・ 

2011.9.2

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