明日もよい天気
                     byばちるど



「 やあ 星がきれいだ ・・・ 」
古代守 は テラスにでると 大きく伸びをして夜空を仰いだ。
「 ・・・  ふうん  星ってやつはやはりこうやって大気を通して眺めるのが一番 いいな。
 光が う〜ん そうだなあ ・・・ なんというか・・優しいものなあ ・・・ 」
彼は午前中に 大気圏外からながめた宇宙空間と 今現在の住まいであるこの青き星  
― イスカンダル の輝きを思い浮かべていた。
「 ふふん ・・・ まあ もっとも、 この星はどこから見ても素晴らしいが な。 」
もらす微笑に 遠くの星が瞬き返してくれた。
「 ・・・ 青き星 ・・・か ・・・ 」
守が初めて彼自身の目で見た母なる惑星は すでに赤茶けた無惨な姿を曝していた。
   ― 地球は青かった  ― 
大昔 初めて宇宙( そら ) から母なる惑星を眺めた先人はそんな名言を残したものだ。
しかし 守達 22世紀末に生まれた若者達にとって 青い地球 は映像や写真などの媒体でしか
見ることはできなかった。
「 ・・・ 地球も … 今ごろはこんな姿を取り戻しているだろう 進、真田! 頑張れよ ! 」
兄は遥か宇宙の果ての母星に帰った弟や親友にエールを送った。


「 ― さて 今日のパトロールも終了だな。 」
守は 眼下に輝く青き星 ―  妻の そして今は彼自身の故郷でもあるイスカンダルに
視線を向けた。
レーダーを始めとるす多数のメカを使っての観測に加え、原始的ではあるが
ゆっくりと丹念に目視してゆく。
人間の目、というものは案外と鋭い探査力がある。
< なんとなく違う >  < どうも怪しい >  そんな初期の変化を見出すのに、
結構役に立つ。  
毎日眺めている光景であれば その効果は尚更だろう。


先日 妻が神殿で倒れた。
突然 心に押し寄せてきたイメージの激しさに 耐えきれなかった と彼女は呻いた。
「 ・・・ あれは ガミラス と イスカンダルの終焉 なのだわ。 
 この惑星 ( ほし )  の寿命はそんなに長くはないのでしょう。 」
「 スターシア。 君は予知能力がある? 」
「  いいえ 。  でも あのイメージはあまりに鮮明過ぎて …
 それに神殿で見えた、ということに深い意味があると思うの。 」
「 そうか。  この惑星を統べる女王陛下の勘は 真実を伝えるのだろうね。
これはこの前から思っていたのだが、今後定期的に大気圏外からのパトロールを始めよう。
いざという時のためにも この星の艦船 (  ふね ) を自在に動かせないと困るからな。
 俺自身、船乗りのカンも 鈍っちゃ困る。 」
「 まあ …  そうね、守。  父は イスカンダルの宇宙艦隊総司令官でしたし。  」
「 そうか! では義父上に倣って 俺も精進しなければならんな。
明日から無人艦隊の操作をしてもいいかい ? 」
「 勿論ですわ、守。  というよりイスカンダルの宇宙艦隊は守の指揮下にあります。
 宇宙艦隊は女王の貴士 ( ナイト ) 閣下のものですから・・・  ご随意に。 」
司令長官殿・・・ と スターシアは優雅に会釈をした。
「 では 陛下。 陛下のご許可の下、全軍を起動させます。 」
「  お願いいたします。 」
さっと挙手の礼をとった守を スターシアはほれぼれと見つめていた。


波動エンジンの理屈を飲み込んでしまうと、守は全艦隊の起動に熱中した。
「 ・・・ う〜ん 素晴らしいなあ … この威力 ・・・ このパワー ・・・ 
 このシステムがもっと早く地球にもたらされていれば ガミラスと互角に渡り合えただろうに! 」
地球の被害も少なかっただろう、あんな無残な様相にもならずに済んだかも しれない。
… 先に斃れた 上官の  先輩の 後輩の そして同期生らの無念の顔浮かぶ。
守の両親も あんな最後を遂げることなかったかもしれないのだ。
  ― いや。 過ぎたことを悔やんでばかりでは一歩も進めないぞ。
彼は 決意も新たにする。
「 すべてこれから  だな。 真田 … 進 …  地球のことは任せた!
俺は この惑星 (  ほし ) を ・・・ 彼女を護ってゆくよ。 」
現在 守は週の半分は 艦隊を率いてイスカンダルの宇宙 ( そら ) を飛び
パトロール と 惑星の観察に集中している。
集めたデータは中央コントロールルームのメイン コンピュータに送り解析する。 
日々、 イスカンダルの様子を注意深く観測している。


陽が落ちると 穏やかな夕闇が広がってくる。
今 季節は地球で言えば初夏、といったところ ・・・ 夜に外に出ればひんやりした空気が心地好い。
守は テラスに置いた木製のベンチに腰をかけた。
「 ・・・ うん 上手く修繕できたな。  もっともかなり地球風にしてしまったが・・・ 」
このベンチは長らく広いテラスの片隅に放置されていた。
半ば朽ちかけていたのだが、彼は宮殿の庭に落ちている枝やら廃材を使って器用に補強した。
「 まあ ・・・ 守、すごいわ〜〜  」
「 ふふん、どうかな?  折角のベンチ、使わないのも惜しいと思ってさ。 」
「 ええ ええ。 このベンチ ね、 小さいころ、よく・・・家族で夕涼みしたの。
 ふふふ・・・ 妹とね、お父様やお母様の間に割り込んで きゃあきゃあ騒いだりしたわ。 」
「 おやおや ・・・ 賑やかで楽しそうだね。 」
「 そんなことが出来るのは ここだけだったから ・・・ とても楽しかったの。
 いつしか壊れてしまって ・・・ そのままになっていました。  」
・・・ ああ 懐かしい ・・・と 彼女は愛おしそうにベンチを撫でた。
「 さあ どうぞ、陛下? しっかり補強しましたから 陛下が騒がれても壊れないと思いますが? 」
「 もう〜〜 守ったら〜〜 」
「 あははは ・・・ さあ 座ろうよ?  今夜も星がきれいだ・・・ 」
「 まあ ほんとう ・・・ 」
スターシアはゆったりと守に寄り添って座った。
「 ・・・ 不思議だな。 」
しばらく黙って星を眺めていた夫が ぽつり、と言った。
独り言なのかもしれない と思ったけれど 小さな声で聞いてみた。
「 え  ・・・ なにが。 」
「 うん ・・・ 俺もな、 子供のころ、親父やお袋がやはりこんな風にして夕涼みをしていたんだ。
 そうだよ ちょうどこんなカンジの台に座ってたっけ。 」
「 まあ ・・・ ほんとう? 」
「 うん。 さっきこれを補強していて なんだかとても懐かしい気分だった。
 まあな〜 俺はちょろちょろする進の後を追い駆けていたんだけど さ。 」
「 うふふふ・・・ 可愛らしい・・・ 」
「 ほんと、チビだったからなあ  ・・・ アイツ ・・・
 親父たちは何を話していたのか さっぱり覚えていないんだけど。 
 ゆったりと語り合う親父とお袋の姿を眺めているだけで なんとなく幸せだったよ。 」
「 そう、 そうなのよ。 私もね、守と同じ気持ちだったの。
 お父様とお母様が 二人だけでいらっしゃることなんて滅多になかったから・・・
 私も側にいるだけで ・・・ふふふ なんだかほっこりする気持ちだったの。 」
「 ・・・ うん ・・・ どこの星でだって親子の情は同じってことだな 」
「 ええ ・・・  守のお父様とお母様、きっと ・・・ とてもお幸せだったのね ・・・ 」
 私たちと同じ・・・と呟くと スターシアはそろりと守に寄り添った。
「 ・・・・・・  」

   ファサ ・・・  ファサ ・・・・

暑熱はないのだけれど、守は 団扇に似た大きな葉をゆるゆる使い 細君に微風を送る。
二人の頭上には文字通り降るような星空がひろがっている。
「 これほどキレイな星空じゃあ なかったけれど ・・・
 チビのころなあ ・・・ こんな風に星を見上げて歩いていたことがあるんだ。 」
「 ・・・ 歩く?  お散歩? 」
「 いや ・・・ 進のヤツと虫取りにいってさ。 ちょいと遠出が過ぎてしまったのさ。
 俺の故郷はまだまだ野山が残っていたからね・・・ 面白くてつい時間を忘れて・・・って。
 気がついたら もうとっくに夕陽は沈んでた。 」
「 まあ ・・・ きっとキレイな夕焼けだったでしょうね 」
「 ・・・ う〜ん ・・・ いや 全然記憶にないんだな それが。
 早く帰らなくちゃ! ってそのことだけで頭がいっぱいだったんだろうな。 」
「 ふふふ・・・ お兄さんは責任重大ですものねえ。 」
「 そうなんだけど な。  なにせこっちもまだオトナじゃないだろ? 
 やっぱり遊びたい心が勝っちまう。
 夢中で虫を追ってて、気がつけば辺りは薄暗くなっていた、というわけさ。 」
「 ・・・・・・・ 」
スターシアは黙って微笑み 夫の肩に頭を寄せた。
「 それで ・・・ お兄様はどうなさったの? 」
「 うん ― 」
守の前に 懐かしい風景が浮かんでくる。



   ジ  ジジジ ・・・・   ジ ・・・・

草むらからは地虫の声が聞こえてきてしまった。 もはや夜の領域になっている。
「 ・・・ やっば・・・ おい、急げよ、進〜 」
「 う う  ん  ・・・ 」
守はずっと握っていた小さな手を ぐい、と引っ張った。
さっきからほとんど引き摺るみたいにして歩いてきたのだが ― ここまで来てぐんと重くなった。
「 ほら 早く〜〜 」
「 ・・・ ぼくゥ・・・ もうあるけない 〜〜〜 」
「 え〜〜〜!? 」
「 あるけない〜〜 あし、いたいぃ ・・・ いたぁい〜 」
小さな弟は とうとうその場に座り込みベソを掻き始めた。
「 ・・・・ ちぇ !  ったく〜〜 しょうがないなあ・・・ 」
ほら、 と兄はしゃがんで弟に背を向ける。
「 兄ちゃんがおぶってやるから  ・・・ はやく! 」
「 ・・・う   うん ・・・ 兄ちゃん・・・ 」
ぴと。  生暖かい小さな身体が背中に張り付いてきた。
「 いいか?  行くぞ! 」
「 う うん ・・・ 」
そんなに軽くもない弟を揺すりあげると 守は歩き始めた。 足元は もう暗くてよく見えない。
「 ・・・ 兄ちゃん ・・・ 」
「 なんだよ。 」
「 ・・・ 星 ・・・ 」
「 え?  ・・・ ああ ホントだ〜 」
ふリ仰げば 頭上には星々がその姿を現し始めていた。
「 キレイ だね ・・・ 兄ちゃん 」
「 すごいな〜 ・・・  進?  あれが カシオペア  ・・・ あれは 白鳥座  さ。 」
「 ・・・ ん 〜 ・・・ 」
ぽつり ぽつりと話す兄に弟の応えも次第に間遠になってゆく。
「 ・・・  なあ 進。  兄ちゃんはさあ  いつかあの星の海を泳いでみたいんだ〜  」
「 ほしの うみ・・・? 」
「 うん。 ・・・ あの星の向こうまで 行けるかなあ ・・・ 行ってみたい なあ ・・・
 宇宙船に乗って ・・・ あの星の海の中を泳いだらきっと気持ち いいぞ〜 」
「 ・・・・・・・ 」
いつしか弟の答えは途切れ 替わりに小さな寝息が聞こえてきた。




「 あらあら ・・・ 小さな弟さんはオネムだったのねえ 」
「 ああ  それから俺は ずっしり重くなった進を揺すりあげて必死で歩いたのさ。
 ウチに帰って 親父から大目玉、くらったなあ・・・・ 」
「 うふふふ ・・・ どこでも同じ、ね。  お父様は厳しいのよ。 」
「 ははは そういうことだな。 
 しかし ・・・ 本当に星の海の彼方まで来るとは思ってもみなかったよ。 」
「 ふふふ ・・・ 本当 ・・・ 」
スターシアは微笑みつつ 立ち上がった。
「 こんなに気持ちのよい晩ですもの・・・ ね、ちょっと待っていらして? 」
「 ― うん?  」
「 おしゃべりして咽喉が渇きません? 飲み物を・・・すぐに戻りますわ。 」
「 ・・・? 」
スターシアは 裳裾を翻し宮殿の中に戻って行った。

  ― やがて ・・・

  チロロ ・・・   清んだ音がして スターシアがトレイを捧げてテラスに出てきた。
「 守 ・・・  空の滴  ( そらのしずく )  をお持ちしましたわ 」
「 ん ?  おお ありがとう。  重くないかい、俺が持つよ。。 」
彼は立ち上がると細君の手からトレイを受け取った。
クリスタルのグラスと 細長い暗い色の容器が鈍い光を放っている。
「 やあ  あのワインだね ? 」
「 ええ  これ・・・  守の故郷の飲み物に似ているのでしょう?   ワイン というのね。 」
「 うん。  葡萄という果物の果汁を発酵させた酒なんだよ。 」
「  あのね、 この空の滴 も果物の実を使っていますのよ。 」
「 ほう? それはまた素晴らしい偶然だねぇ。 」
「 そうね。 空の実 というのだけれど・・・ 以前はイスカンダルの西の畑で栽培していたのですって。
 丘一面に空の実の畑が広がっていたそうですわ 」
「  ふうん ・・・ 今 その畑はどうなっているのだろう?  」
「 さあ・・・ 多分  空の樹  はほとんど野生に戻っているでしょうね。 」
「 なあ 今度行ってみようか? 」
「 まあ ステキ♪ もしかしたら・・・ 空の実 を収穫できるかもしれないわ。 」
「 いいねえ ・・・ 俺もこの星をもっともっと知りたいんだ。 」
「 ・・・ ありがとう、守 ・・・ 」
「 俺の故郷だもの、当然だよ。 」
「 ・・・・・・ 」
白い手が静かに守の腕に置かれた。
「 グラスをお持ちになって。 注ぎますから ・・・ 」
「 いや 俺が。 陛下 どうぞ? 」
「 まあ ・・・ それじゃ ・・・ 」
スターシアはグラスを取った。 守は細長い瓶から中身をそそぐ。

    トクトクトク ・・・・ トク ・・・

空の雫 は その名の如く空の色 ― 澄んだブルーの酒なのだ。
「 ・・・ ありがとう。  はい、 じゃあ守 どうぞ? 」
「 これは 恐縮です、陛下。 」
守は嬉しそうに グラスの中身を見ていた。
「 ・・・っと まずはそのくらいで・・・  ああ いい香りだ ・・・ 」
「 本当ね。  これ、え〜と・・・ なんというのでしたっけ? 」
「 ふふふ < 年代モノ の銘酒 > かな。 」
「 そうそう・・・ それですわ。  」
「 いいねえ 〜 それじゃ  ・・・ 乾杯♪ 」
「 かんぱい  」
教えてもらった挨拶を繰り返し、二人はチリンとグラスを合わせた。
この星で 空の雫 という飲み物はワイン的な存在のようだった。
ただ ・・・ 色はワインの白にあたるものが ブルー そして赤はかがやく黄金だった。
二人はゆっくりとグラスを傾けてゆく。
「 ・・・ うん  美味いなあ〜  なんというか、身体の奥底まで染透るというか・・・ 」
「 ふふふ ・・・ わたしも守に教えてもらって ・・・ 美味しい・・・♪ 」
「 そうだろう?  こんな美味いモノを飲まないなんて勿体ないよ。 」
「 父や母は飲んでいましたの。 そう ・・・ 妹の許婚者さんも ね。
 でも 子供にはちょっと・・・って言われていて。 わたし達は頂きませんでした。 」
「 ほう ・・・ まあ アルコール類は子供にはマズイからな。
 しかし 陛下はもう立派な大人なのですから♪ どんどん召し上がってください。 」
  トク トク トク ・・・・
守は細君のグラスに 空色の銘酒を満たしてゆく。
「 まあ ・・・ でも本当に美味しいわ 」
「 うん うん ・・・ 今度は 金色の方を開けような。 」
「 ええ ・・・・ 」
彼女の白い頬が ほんのりと桜色に染まってゆく。

守はこの星で健康を取り戻すと クリスタルパレスを始め宮殿の周囲をも 散策し
新しい 住まい を見てあるいた。  
畑と思しき施設はちゃんと機能していたし、果樹園の成れの果て、みたいな森も見つけた。
この惑星での食物は 地球とは全く異なる物もあり また 不思議に思うほど酷似したものもあった。
生きるために食べる、ということはたとえ何万光年離れていてもどこか共通するのだろう。
どの食べ物も守は感謝と興味をもって口にした。 
そして それらは彼の健康を支えて護ってくれるのだった。

グラスを傾けつつ 彼は気になっていることを思い出した。
「 そうだ。  君に聞きたいことがあるんだが。 」
「 はい、 なんでしょう? 」
「 うん ・・・ この近辺にガミラス以外で 艦 ( ふね ) を派遣するような星はあるのかい。 」
「 遭遇したのですか? 」
「 ああ。 この前 パトロール艇で飛んだときにな。 
 明らかにこちらを認識していたが そのままガミラスに向った艦があったんだ。
 イスカンダルのものでもガミラスの形態でもなかった。 」
「 そう ・・・ 交友のある星は今はありません。 でも 艦隊を保有する星は沢山あります。 」
「 そうか。  敵意はないようだったが ・・・ 要・監視、というところだな。 」
「 そうですね。  データの解析をお願いします。 」
「 了解です、陛下。  ・・・ 実はもうデータベースにしてあります。 」
「 さすが総司令長官殿。  今後の動向を観察してください。 」
「 了解。 」

  すう ・・・・っと 大きな星がイスカンダルの空を横切ってゆく。

「 あ 流れ星だ ・・・! 」
「 きれい ・・・  この季節には珍しいわね。  あ  また ・・・  」
「 うん ・・・ 地上で流れ星を見るのは 何年ぶりかなあ ・・・ 」
「 弟さんをオンブして帰った時以来? 」
「 あはは ・・・ そうかもしれんな。  懐かしい・・・ 」
「 私もね、妹と遊び呆けて ・・・ 叱られた思い出があるの。 」
「 ほう? 王女殿下姉妹が ですかな。 」
「 ええ。 そう 穀雨の月 のころでしたわ。
この時期は穀物が育つために必要な雨降りが続くのです。
大切な雨なのですけど、子供には退屈な日々でした。 」
「 そうだろうなあ ・・・ うん ・・・ 」
守はグラスを傾けつつ 楽しげに妻の話を聞いている。
「 外にはでられず、 子供の仕事である薬草干しにも 飽き飽きして …
 私と妹は宮殿の奥、 使っていない塔に入り込んだの。
 そこには古い衣裳箪笥や物入れがたくさん置いてあって ・・・
 昔の伝統的な衣装や代々の王族達の儀式用の衣装が保管されていたの。
 それを妹と二人でひっぱりだして … あれこれ着散らかして遊んだの。 」
「 うひゃあ〜  ・・・ お転婆な王女殿下姉妹だねえ 」
博物館に入り込んで重要文化財とか国宝で遊んだ、というところなのだろう。
「 うふふふ ・・・ お茶の時間に戻ってこないので 乳母やが真っ青になって探し回って 」
「 見つかった? 怒られただろう? 」
「 ええ。 物凄く。 全部片付けるまでお茶は勿論、晩のお食事はお預け。
 その上、 一週間、お食事の最後、<甘い楽しみ> もお預けだったの。 」
<甘い楽しみ> とは どうやらデザートやらスウィーツの類らしい。
「 あはは ・・・ こりゃ手厳しいな。 義父上のお指図かい。 」
「 ええ。 母よりも父がとても怒りましたわ。この星の伝統を大切にできないでどうする!って。 」
「 うんうん ・・・ そうですね、お転婆王女殿下。  義父上のお躾はすばらしい。 」
「 お食事の最後に <甘い楽しみ> が配られるときになるとね。
 私と妹は 席を立たされて ・・・ 王女様方は召し上がれません。 って ・・・ 
 ふふふ ・・・ 妹と二人で泣いて謝ったけど、一週間は許してもらえなかったの。 」
「 ほう〜〜 そりゃ厳しいね。 」
「 私、ラスリの砂糖漬けが大好きだったから ・・・ 本当に悲しかったわ。
 それで ・・・ それ以来、すこうし大人しくなりました。 」
あははは ・・・ 守は腹を抱えて笑っている。
「 守 ・・・ そんなに笑わないで ・・・ 」
「 あは ・・・ ご ごめん ・・・ けど ・・・ 俺はそんなお転婆姫が大好きさ。 」
彼はちょっぴり膨れッ面をした妻を引き寄せると軽くキスをする。
「  ・・・ あ ・・・ん ・・・  もう〜〜 」
「 この続きは ―  寝室へどうぞ 陛下。 」
グラスを置くと 守はそのままスターシアを抱き上げた。
「 ・・・ 守ったら ・・・  あ ・・・? 」
「 うん?  」
「 ― 流れ星 ・・・ 」
「 こらこら ・・・ こちらをご覧ください、陛下。 」
彼は悠々と彼女を抱いて寝室へ向かった。



    ―  ふう ・・・・     はあ ・・・・

熱い吐息が まだ時々二人の口から漏れる。  時折 ・・・ 身体の奥がまだ揺れる。
リネンの海の中で白い肢体が 時々ぴくり、と震える。
守は ゆっくりと身体の向きを変えると、彼女の黄金の髪に顔を埋めた。
「 ・・・・・・・ 」
「 ・・・ なに ? 」
「 ・・・ ふふ ・・・ イスカンダルの女王で よかったな ・・・って思ったの。 」
「 ?? 」
「 だって ・・・ ふふふ ・・・ 守のこと、  独り占め できるんですもの 」
「 君ってヒトは ・・・ ! 」

   イスカンダルの夜は もう一度熱い吐息で満ちてゆくのだった。
     ― 明日も 良い天気になりそうだ。




2012.8.22

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