りんごの唄                       ばちるどさん作



    ****  PS2ゲーム設定です。 『 イスカンダルへの追憶 』 と 『 暗黒星団帝国の逆襲 』 
        の間の時期。  
        ( 本編でいえば 『 新たなる〜 』 の後 です。 )
        ですから 古代守 も スターシアも生存設定! イスカンダルも存在しています!
        
        さらに! こちら様での設定を拝借し、↑の二人は一緒に脱出。娘はまだお腹の中。
        その上一つだけ! 設定変更のお願い ⇒  スターシアさんの瞳、ブルー でお願いします。




そんな歌があるとは ・・・  おそらくさすがの佐渡医師だって知らないに違いない・・・
古代守は ふ・・・っとその歌詞を思い出し、可笑しくなってしまった。


昨夜 遅い夕食の食卓で林檎が話題になった。
守自身も久々に手にした <ホンモノの>林檎だったが 異郷生まれの妻は、目を輝かせ
あのつやつやした赤い実を撫でたり頬に当てたりして愛でていた。
「 ・・・ うん、 日本ではどこででも見る馴染みの果物でな。
 俺も、いやたいていの日本人は林檎が好きだよ。  食べるだけじゃなくて・・・
 それこそオブジェや絵画の素材になってたなあ。 」
「 まあ ・・・ そうなの。  こんなにキレイなのですものねえ・・・  」
妻の白く細い指が 赤い果実を撫でる。 ちょん・・・と唇を寄せる。
「 よく似会うな。  ・・・ そうそう大昔にそんな歌があった・・・って聞いた覚えがあるよ。 」
「 歌?  まあ素敵・・・ どんな歌なのかしら。 」
「 う〜ん ・・・ 俺も知らないけど・・・ ちょっと調べてみようか。
 君、林檎が気に入ったみたいだね よかった・・・ 」
「 守が好きなものは・・・私も好きになりたいの。 」
「 あは・・・ 俺が好きなのは。 林檎じゃあないな。 」
「 ??  」
「 き み  さ、スターシア。  」
す・・・っと彼は妻の唇を奪った ・・・


昨晩の楽しい記憶が甦り、彼の微笑がさらに広がったゆく。
先ほど 他の事項の整頓のついでに検索コーナーを覗いてみた。 ― そして みつけた。
もっともあまりにも古く、正確な音程はわからない。 ただ 歌詞だけは保存されていたのだ。
『 りんごの唄 』 ・・・ タイトルからしていかにも古めかしい。 
しかし 守はなぜか心魅かれて ファイルを全部開いてみたのだ。

      ほう?  ・・・・ ふうん ・・・ なかなか・・・

ざっと目を通してみただけだがどのフレーズも守の心に深くしずんだ。

      黙ってみている  ・・・か。  

ふと見上げれば。 地球防衛軍本部の窓からも青くあおく・・・澄んだ空が見渡せる。
「 ああ ・・・ そうか。 あの星も、うん、そうだ彼女の瞳も ・・・。 同じ色だな。
 この唄の中でもこんな色の空 だったのかもしれんな ・・・  」
ガラにもなくセンチメンタルな気分になってしまった。
もしかしたら。  今朝 ・・・ 彼女が持たせてくれた包みも原因のひとつ、かもしれない。
< 手作りの弁当 > ― 今時、ソレは最高な贅沢品なのだ。

      ・・・ふふん〜〜♪  楽しみだな・・・

      いかん いかん!  任務中になんという・・・!

ざ・・っと頭を一振りし表情を引き締め、守は文字通り山積みになっている仕事にもどった。



あの青く輝く星から故郷に帰還し 早一ヶ月 ― いや、 まだたったの一ヶ月なのだ。
それなのに。  彼、古代守は怒涛のような仕事の波に襲われていた。
美貌の妻と共にイスカンダルから脱出し、ヤマトに救助され地球へ帰還した。
ほっと一息つき、しばらくは静かな生活をおくりたい・・・妊娠中の妻を気遣いそう願っていたのだが・・・
歴戦の勇士である彼を 地球防衛軍が放っておくはずもなく。
挨拶と報告のために本部に出頭したその日から 彼は激務に巻き込まれることとなった。
復興期にある地球は活気にあふれ、同時に問題も山積みだった。
当然 ― 帰宅は深夜に及ぶ。

「 すまんね・・・  君がこの星に不慣れなことはよくわかっているんだけど・・・
 どうも なかなか解放してくれなくてさ・・・ 防衛軍のクソったれどもがさ。  」
「 あら 大丈夫ですわ。  このお家の中のことはだいたいわかったの。
 キッチンの使い方は 雪さんが教えてくれたし・・・ 」
遅くに帰宅して 疲れた顔でなお、気遣ってくれる夫に妻は笑顔で応えてくれる。
「 ああ  雪が来てくれたのか・・・ うん そりゃ助かるなあ・・・ 
 しかし、君・・・体調の方は大丈夫かい、キツくないか。
 具合が悪ければちゃんと休んでいろよ。 」
「 ええ ・・・ ちょっと気分が悪いときもあるけど・・・ 空を見ていれば楽になるわ。 」
「 ・・・ 空?  」
「 ええ。  この星の空も ・・・ 同じ色だから・・・  」
「 ああ   ああ そうだな、  そうだったなあ。  
 俺も・・・まだ動けない頃、 あの宮殿の窓から空を眺めていて随分と癒されたからな。 
 あの空は・・・うん、 本当に・・・ そう、同じ色だ。 」
「 ・・・ね?  」
二人は 遥か彼方の虚空に目をやった。

     あの星 ― イスカンダル ・・・・

漆黒の宇宙空間に浮かぶ青い星が 守とスターシアにははっきり見えるのだった。

「 だから ・・・ 淋しくないわ。 それに私はもう一人じゃないし・・・
 あのね、この子と沢山お話ししているのよ。 」
スターシアはそっとお腹に手を当てる。
「 うん そうだね。  でも・・・やっぱり心配だな。 誰か・・・頼もうか。  」
「 頼む・・・って? 」
「 いや、だからさ、 家事をそして君の身の回りのこととか・・・手助けしてくれるヒトさ。
 地球ではお手伝いさんって言うんだけどね。  」
「 え ・・・ でも。 知らないヒトを ・・・ このお家に入れるの? 
 あの・・・ 雪さんが時々来てくださるからなんとか ・・・ 」
「 いや、雪だって昼間は防衛軍勤務だし、彼女は未経験だろう? その・・・赤ん坊のことはさ。 」
「 あ・・・ そうだわねえ・・・ 」
守の弟・進のフィアンセ、 森 雪は 看護士の資格も持っている。
しかし なにせまだ未婚の若い女性・・・ やはりすこし年配で出産経験のあるヒトにいて欲しい。
守は 大きく頷いた。
「 うん、俺にちょっと心当たりがあるんだ。 任せてくれよ、大丈夫、心配するな。 」
「 守 ・・・ 」
守はがっしりと妻の肩を抱き、輝く長い髪に口付けをする。
「 君はね、ただ ただ 元気な子供を産む事だけを考えてほしいな。 」
「 ・・・ ありがとう ・・・守・・・ 」
「 礼を言うのは俺の方さ、スターシア。    ・・・ あれ、これ・・・買ってきたのかい。
 いやあ・・・久し振りだなあ・・・ この自然の色を見るのは・・・  」
サイド・テーブルの上に紙袋が置いていあり その中から真っ赤な林檎が顔を覗かせている。
「 え? ああ それ・・・ いいえ、 夕方ね、 進さんが持ってきてくれたの。
 お見舞い・・・って。  キレイな色ね・・・ 素敵なオブジェね。 どこに飾りましょうか。 」
「 ・・・えええ?  」
守は 無造作に袋につっこんである林檎とにこやかな妻の顔を交互に眺め・・・絶句していた。



「 僕です。  進です! 」
「 あら ・・・ ちょっと待ってくださいね・・・ 今 開けますから・・・ 」

夕方 スターシアはキッチンで夕食の準備に孤軍奮闘していた。
 ― といっても所謂 チン・・・! な料理がほとんどなのだが それでもなんとかサラダを作ろうと
彼女は苦心していた。
野菜をひとつひとつキッチン鋏でカットしてゆくので 時間がかかってしまう。
「 え〜と・・・ レタス に ・・・トマトでしょ。 レモンをしぼって・・・ きゃ・・・! 」
その最中に 玄関のチャイムが鳴った。
守とスターシアの新居は防衛軍の官舎なのでセキュリティはばっちり、予め登録した人物以外は
そもそもこの建物には入れない。

    ?? 誰かしら。 守 ・・・ なわけないわね、キィは持っているはずだし。
    あ  雪さんかしら・・・・

エプロンで手をふきつつスターシアはインタフォンのボタンをおした。
そうしたら ― 意外にも応えたのは若い男性の声 ・・・ 守の弟の進だったのだ。

    あら めずらしい ・・・  地球で会うのはこのお家に引っ越した時以来かしらね

ヤマトでは 艦長代理としてきびきび指揮をしていた進なのだが・・・・
個人的にはあまり話をしたことがない。 艦を降りてからの進はかなり違った顔を見せた。
とちらが本当の彼なのだろう・・・ スターシアは ちょっとばかりこの義弟に興味を持っている。

「 進さん!  いらっしゃい、 どうぞ入ってくださいな。 」
「 あ  ・・・ いえ  あの。 」
玄関口で 義弟は一瞬怒ったみたいな顔をしたが すぐに笑顔を見せた。
「 はい?  守は遅くなるのよ、よかったら晩御飯、一緒にいかが?  」
「 え ・・・ いえ。  今日はホントは雪が ・・・ 雪が手伝いにくるはずだったんですけど・・・
 残業で抜けられないから ・・・ 僕にスターシアさんとこに寄ってくれって。  」
「 まあ  ・・・ 」
「 それで ・・・ はい、 これ。 」
「 ・・・え?? 」
進は ぽん・・・と膨れた紙袋をスターシアに渡した。
「 雪が ・・・ その、なにかすっきりした気分になるものを持って行けっていうんで・・・これ。
 どうぞ ・・・ お見舞いです。 」
「 あら 雪さんが?  ・・・ まあ ・・・ きれい・・・! 嬉しいわ、ありがとう。  」
「 よかった・・・ あ それじゃ これで・・・・ 」
進は すぐにそのまま玄関から出て行こうとした。
「 あ! 進さん! ゆっくりしていって? 」
「 いや ・・・ 具合が悪いのに、お邪魔でません ・・・ スターシアさん。 
 雪に怒られます。  」
「 ・・・ そう?  それじゃ・・・私、もうちょっとしたら元気になりますから。
 そうしたら雪さんと遊びにいらしてね。 」
「 はい!  お休みなさい  ・・・スターシアさん 」
「 おやすみなさい、 進さん。  」

      <スターシアさん> か・・・  
      私 ・・・ まだ お義姉さん って呼んでもらえないのかしら・・・

渡された紙袋の重みを楽しみつつ スターシアは小さく溜息をついた。



「 それで ・・・ 君はコレを・・・林檎をオブジェだと思ったわけか。 」
「 ええ。  とってもキレイだし・・・・ 甘い爽やかな香りがするわ・・・ りんごっていうのね。
 本当に 気分がよくなるの、気持ち悪いのが収まるのよ。  あ・・・ 守? 」
守はしばし 呆然と妻の顔を見つめていたが ―
「 ・・・ あは ははは・・・・ 」
彼は上半身をテーブルに倒すみたいな勢いで大笑いしている。
「 ・・・ あの? 私 ・・・ なにか可笑しなこと、言った? 」
妻は真っ赤な林檎を手にしたまま おろおろと彼を見つめていた。
「 い ・・・ いや・・・ なんでもない、なんでもないんだ ! うん、そうだな、綺麗だもなあ。 」
「 ・・・・・・・ 」
スターシアも 改めて林檎を眺める。

      だってこれ・・・ 本当にキレイじゃない?
      滑らかなシェイプも 芸術的だし。 この色は ・・・ 素晴しいわ。
      ・・・ふうん・・・ いい匂い・・・
      進さんが言ったとおりに、この匂いをかいでいると気分がさっぱりするわ

「 守 ・・・ これ。もしかしたら ・・・オブジェ・・・じゃないの? 」
「 え ・・・ あ ・・あは・・ ご ごめんな。  あ 〜〜 涙が出ちまったよ。 」
守はポケットからハンカチをだして ごしごし顔を擦っている。
「 あの・・・? 」
「 ごめん ごめん・・・ ああ、 今じゃ林檎も貴重品になっちまったけど・・・
 俺が子供の頃は どこのスーパーでも買える果物だったのさ。 」
「 ・・・ 果物?!   ・・・ 食べ物 ・・・ なの・・? 」
今度はスターシアが 目をまん丸にする番だ。
「 うん。  ああ やっと・・・地球もなんとか林檎が収穫できるほどに復興したんだなあ・・・
 あ、 そう これはな ― ちょっと待ってろ、手を洗ってくるから、 奥さん 」
ちゅ・・・っと彼女の頬に軽くキスをして。  守はバスルームへと出ていった。



   くる  くる ・・・ くるり ・・・・

真っ赤な細いヒモがゆらゆら・・・ 白い果実の下に伸びてゆく。
夫の手の中で りんご はくるり くるりと回るたびにその赤く輝く姿を変えつつあった。
「 ・・・・すごい ・・・! ず〜っとつながってるわ! ・・・守ってなんでもできるのね! 」
「 え?  あは これは子供の頃お袋がよくオヤツにこうやって林檎を剥いてくれたのさ。 」
「 ・・・ むく?  それ ・・・ ナイフ ・・・ よね? 」
「 ああ。  調理用のナイフでね 包丁というのさ。  ま、いずれ使えるようになればいいよ。 
 ・・・ はい、 どうぞ  女王陛下。 」
真っ赤な林檎 は 白くなり切り分けられ皿に並びスターシアの前に現れた。


イスカンダルに  ナイフ  はなかった。  < 手で切る > という文化はすでに失われていた。
固体を分割する時には振動波か衝撃波を応用したコンパクトな道具を用いた。
  ― つまり その究極が波動技術・・・ということなのだろう。
スターシアは地球に来て 初めて刃物を手にした。

「 ・・・ ナイフ ・・・?  ひんやりするわ。 」
「 うん ・・・ あ、気をつけろよ、刃に触ると指を切るぞ。 」
「 ・・・ 刃 ・・?  」
異星の女王は 興味深そうにその白い指でナイフを弄っている。
「 この惑星ではね、 そういうモノで固体を分割したりするんだ。 
 料理にも使うけど ・・・ 君はまだ触らない方がいい。 しまっておこう。 」
「 ・・・ はい。 」
守はナイフ類を引き出しにしまった。
以来 彼女はキッチン鋏を使っていた。 これはイスカンダルにもよく似た道具があり
あまり抵抗なく使用できたのだ。
 

白い果実に 真珠色の歯が当たる。
シャリシャリ ・・・ 気持ちのよい音をたて、彼女はりんごを食べた。
「 ・・・・ おいしい ・・・! 」
「 気に入ったかい?  よかった・・・ これで少しでも食欲が出るといいな。 」
「 ええ。  進さんが言っていた通りね。 さっぱりしてて・・甘くてちょっと酸っぱくて。
 おいしいわ・・・! 」
「 うん ・・・ これは本当に美味いなあ。  俺も子供の頃から好きだったよ。 
 もう一つ、剥こうか?  」
守も口に運び 懐かしい顔で味わっている。
「 ・・・ ううん、後は明日のお楽しみにするわ。 
 ね。 私も ナイフ ・・・使ってみたいの。 ・・・ ほうちょう、でしたっけ。 」
「 それは・・・いいが。 気をつけろよ、包丁だって使い方を誤ればひどい怪我をするからな。 」
「 はい。  私、ちゃんとお料理、できるようになりたいの。 
 あのね ・・・ いつか・・・ 守のランチを作ってあげたいわ。 」
「 お・・・さすがだなあ〜 奥様。  期待しているよ。 」
「 任せて。 」
守は久し振りに彼女の明るい笑みを見た、と思った。
「 ふふ・・・愛しているよ、奥さん。  ・・・・ うん、林檎の味がする♪
 でも林檎より君の方がずっとキレイだよ、スターシア。  」
夫は妻の唇を吸い、晴れやかに笑った。
「 ・・・ もう ・・・ 守ったら・・・ 」
スターシアは俯いて ・・・ その頬を林檎よりも赤くそめた。 



   ・・・・ ん ・・・?  なにか 音・・・ いや、 声 ・・か ・・・

朝方、まだかなり早い時間に 守はふ・・・っと目が覚めた。
心地好い音が 聞こえる・・・いや 直接こころに響いてくる。
「 ・・・ スターシア・・・? 」
となりに手を伸ばしたがさらりとしたリネンの感触が当たるだけだった。
「 もう起きたのか・・・ 朝が一番気分が悪い、と言っていたのだがな・・・ 」
身重の妻が気掛かりでならない。
うん・・・!と伸びを一つして、 守もベッドを抜け出した。
ちらり、と時計をみればようやく日の昇る時刻だ。

    まさか・・・眠れなかった・・・とか?

少しばかり心配になり守は寝室を出ていった。


東の窓から差込み始めた淡い光の中で ― 彼女はくるくると動きまわっていた。
低く小さく・・・ その口からは優しいメロディがこぼれている。

「 ・・・ お早う ・・・随分早いお目覚めですね。 女王陛下。  」
「 守? 」
驚いて振り返った彼女の後ろから ちょうど朝陽が射しこんできた。
・・・ 金の髪が そのあえかな肢体が 光に包まれ浮き上がる。
「 お早う。  素敵な朝ね。  」
微笑みが その輝きを一層鮮やかにする。

    ああ この女性 ( ひと ) は・・・・!
    この輝きは 彼女自身のものなんだ

守は夢うつつな気分になり彼女をするりと抱き寄せると口付けをした。
「 守? ・・・ きゃ・・・ どうしたの? 」
「 いや 君が先に起きてしまったから淋しかったのさ、奥さん。 」
「 あら・・・ だって・・・  うふふふ・・・ちょっとやることがあったの。 」
「 え? 」
「 あのね。 ・・・ ほら、 これ。  」
スターシアは小振りな包みを差し出した。  大判のランチョン・マットで包んである。
「 守の御昼御飯よ。  ランチ・・・ お弁当です。  」
「 べ 弁当? ・・・ ひょっとして君 ・・・夜明け前からこれを作っていたのかい・・・! 」
「 そうよ。  どうぞ、持って行ってくださいね。 」
「 まったく・・・ まだ長時間の立ちっぱなしはあまり感心しないなあ。
 うん・・・? 指 ・・・どうかしたのかい。 」
彼女は手先にキッチン・タオルを巻いているのだ。
「 え・・・? いえ ・・・ ちょっと・・・ううん、なんでもないわ。 」
「 なんでもなく ないだろ。  ・・・ 切り傷? あ もしかして、君?  」
強引に引き寄せキッチン・タオルを取り除けば ― スターシアの白い指先は細かい切り傷だらけだった。
「 なんでもないの、大丈夫よ、守・・・ 」
「 大丈夫じゃないよ、スターシア。 包丁の傷から感染する場合もあるんだから。
 君はまだこの星の細菌に免疫があるか、わからないしな。  」
「 守 ・・・ わかったの?  ・・・私が包丁を使った・・・って」
「 ああ この傷をみればな。  陛下、どうぞ 御身 お大切に ・・・ 」
すい・・・っと彼女の手を取ると守は そのまま細い指を口に含んだ。
「 ・・・ あ ・・・ ? 」
「 甚だ原始的ですが。 おん傷のお手当をいたします。 」
「 あ ・・・ああ ・・・ 」
指先をゆるり、と舌先に絡まれ ぞく・・・っと背筋に快感が走る。
「 ま・・・守 ・・・ 」
「 ちゃんと後から消毒しておくこと。 いいね、奥さん。 」
「 ・・・ もう ・・・守ってば・・・ 」
「 ははは・・・ 弁当、ありがとう!  ふふふ・・・これは本部のヤツらに自慢できるぞ!
 ウチの奥さんの手作り弁当〜〜 最高の贅沢さ。 」
「 気に入ってくださって嬉しいわ。 」
「 さ・・・あとは俺がやるから。君はそこに座っていなさい。
 ふう・・・ さすがに早朝は冷えるよな・・・ ちょっと待ってろ。 」

     ・・・ ・・・ ♪
慣れた様子でキッチンを使う夫をながめつつ 彼女は低く歌っていた。
やがて 守は両手に湯気のたつマグカップを二つ 持ってきた。
「 ・・・ はい、 お待たせ。 」
「 まあ  ホット・ミルクね? 」
「 御意。 こんな朝にはぴったりだろ。  それにしても・・・久し振りだな。 」
「 え・・・ なにが。 」
「 君の歌 さ。  さっきその声で目がさめたんだ。
 あの星で よく聞いていたからな、懐かしかったよ。 」
「 ・・・ そうね。 そういえば ・・・ずっと・・・歌う余裕がなかったわ。 」
「 そうだな。 でも また・・・歌って欲しいな。 そう・・・この子の子守唄にも ・・・ 」
守はそっとスターシアのお腹に手を当てた。
「 そうね。  ・・・ああ 守の手・・・とてもいい気持ち。 赤ちゃんも喜んでいるわ。 」
「 次の冬には一緒に林檎が食べられるかな。 」
「 ・・・ そうね。 ・・・いっぱいお話して歌を歌ってあげるわ。 
 私たちのあの・・・美しい星のことも ・・・ 」
スターシアは 微笑むと つ・・・・っと窓から空を見上げた。
・・・青い あおい 空を  その彼方にある 青い あおい 星を。

  ― ああ  同じ色だ ・・・ 彼女の瞳も 空も ・・・ あの星と。

守は妻を抱き締めつつともに遥か彼方の空を見つめていた。
      


 その朝。 地球防衛軍本部の古代参謀は上機嫌で登庁した。
そして午前中、普段以上に精力的にばりばりと仕事に取組み片付けていった。

「 ― 長官。 申し訳ないですが本日は所用がありまして。 ランチはまた後日・・・
 はい、お誘い頂きましてありがとうございました! 」
「 ああ 真田? 悪い〜 今日のランチ・ミーティングな、俺 パスだ。 
 お前 適当にまとめてくれ。 じゃあな! 」
「 雪。 昼飯、ゆっくり行ってこい。 進も誘ったらどうだ、昼デートもいいだろ? 
 なに、多少昼休みオーバーしてもいいさ。 ほら 早く行け 行け! 」

さて 待望の昼休み ― 
数本の電話で邪魔者どもを追い払いしっかりとプライベート・ランチタイムを確保して。
守は 得々としてデスクの上に妻から渡された包みを取り出した。
「 ふふふ ・・・ それでは。 いただきます。  」
姿勢をただし、 きちんと合掌し。 守はしずかに包みを開いた。

   ・・・ なにかな。 包丁使ったってことは・・・?

  ― かぱ。  大振りの弁当箱のフタを開ける。
そこには。 

      うさぎ・りんご が ぎっちりと。  ・・・弁当箱一杯に並んで彼を見上ていた。

「 ・・・ あ ・・・ あは  ・・・・ りんご ・・・かあ〜 ・・・ 」

地球防衛軍本部 ― 窓から見上げる空は。  今日も抜けるように・・・青い。

  

  ************  

※  イスカンダルでは 衝撃波 や 振動波 云々 ・・・ について

 これは全くの書き手の妄想です〜〜
 ゲーム版の 『 暗黒星団帝国の逆襲 』 の中で
 北野君 ( 彼はパルチザンで活躍♪ ) が 
 イスカンダルから波動技術が渡来して以来 防衛軍の銃は 衝撃銃、 ショックガンです。
 規模は小さいけど戦艦の砲撃と同じ・・・   と言っていましたのでそこから妄想しました。    
 

2010.12.20

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