その青き星にて  ― (4) ―   




   ざわざわざわ ・・・・

その朝、イスカンダルの空は珍しくつよい風が吹いていた。
クリスタル・パレスの中庭の木々や草花は 左に右にその身体を大きく揺らせている。
   ざわざわざわ ・・・
薬草苑でも 多くの草がその葉を擦り合わせ、擂り合わせ、独特の香りを放っていた。
「 ・・・ おはよう ・・・  薬草さん たち ・・・ 」
彼らの女主人が いつもの朝と同じ時間に彼らの中に分け入ってきた。
白い裳裾に点々と青い沁みがつく ・・・
「 今朝は風がつよいわね・・・  皆 大丈夫? 
 ねえ? ま ・・・ 守は  随分元気になったの。 でもまだ時々熱が上がるの・・・
 どんな薬草がいいと思う?  皆の力を貸してちょうだい。
 しっかり治しておかないと ・・・ もうすぐ ・・・  還るから ・・・ 」
彼女の足が止まる。
「 ・・・ これ、 好きだって。   守の故郷にも似た香りがある・・・って・・・言ってたわ。
 そうだわ・・・ 今日は アナタに手伝ってもらうわね ・・・ 」
スターシアはそっとその草の茂みに手を伸ばしそのまま屈みこんだ。

    ぽとり ・・・ ぽと ぽと ・・・

摘んだ薬草を 大粒の涙が濡らす。
「 ・・・ アナタ達が ・・・ 羨ましいわ。 
 アナタ達は守の身体の一部になって一緒に生きてゆくのですもの・・・
 アナタ達が 羨ましい  ・・・ アナタ達に なれたら ・・・  私 ・・・
 いいえ ・・・ いけないわ、そんな。  でも ・・・ 」
ことん ・・・ 彼女はとうとう座り込んでしまった。
揺れる緑の葉が スターシアの姿を半分隠してくれた。

 陛下 ・・・ 女王陛下。 ワタクシ達ガオリマス。 イツモオソバニ・・・

「 ・・・? ああ イスカンダル・ブルー ・・・ 」
スターシアの脇には白い花が群れて咲いていた。
緑の葉を揺らし、白い花びらを震わせイスカンダル・ブルーは彼らの女主人に寄り沿う。

 女王陛下。  コノ星ノ名ヲ頂キシ我ラ一族、何処マデモ陛下ノオ供ヲイタシマス。
 イツマデモ ドコマデモ タトエ宇宙ノ果テマデモゴ一緒イタシマス。

「 ありがとう ・・・ ありがとう・・・ あなた達だけ ね・・・ 側にいてくれるのは 」
スターシアは白い花を集め顔を埋めた。
ほんのり ・・・ごく微かに青い香りがした。  それは彼の人の香りにも似ていた。

     ・・・ 守 ・・・!   守 ・・・ ああ ・・・ 守 ・・・・

女王の涙はその白い花だけが知っていた。
  ― いや。  もう一人 ・・・

     ― スターシア ・・・!

薬草苑に身を沈めている彼女を守は中庭への入り口からじっと見つめていた。


   ざわざわざわ ・・・・

朝からイスカンダルの空気はいつになく揺れて乱れていた。




   ヤマト がやってくる。  地球の艦が ― このイスカンダルに・・・! 

古代守はその事実を ほんの数日前知らされた。
彼は宇宙放射線病からまだ完全に回復しておらず、体調には波があった。
怪我の方はかなりよくなっていたが、散歩に出られる時期とベッドに伏す期間が交互に訪れていた。

守はここ数日、高熱に苦しんでいた。  夜の海辺へ散歩に出た日から少しぶり返したようだった。
そんな彼をスターシアは 付き切りで看取っている。
「 ・・・ スターシア ・・・ 」
「 ・・・ お目覚めですか。 ご気分は・・・ ちょっと失礼しますね。 」
白い手が守の額に当てられた。 
「 ああ すこし熱が下がりましたね。 よかったわ・・・ 
 ごめんなさい、まだ海辺などにお連れしてはいけなかったのです。 」
「 いや ・・・ 俺がどうしても、と頼んだんじゃないか・・・ 
 ・・・ 迷惑をかけてすまないね。 」
「 そんな 迷惑だなんて ・・・ 守 ・・・ 」
「 スターシア。  あの時聞いた話、 あれは・・・本当なのかい。 」
「 はい。 地球の人々は私の送ったメッセージを解読しこの星にやってきます。
 ヤマト という艦で ・・・ 」
「 地球の艦が ・・・!  信じられない!  地球の艦船は光速を越えることは不可能だったぞ。 」
「 はい。 ですから波動エンジンの設計図を妹に届けさせたのです。
 生き延びよう! という強い意志を持つのなら、このイスカンダルまで放射能除去装置を取りにくるために。
 波動エンジンの出力は光速を超え、何万光年もの距離をワープで進むことを可能にします。 」
「 ― ワープ航法、か。 理論上では存在していたが地球にはその原動力となるエンジンがなく、
 不可能、とされていたよ。  それが現実のものになろうとは な。
 我々はガミラスが易々と侵攻してくるのを歯噛みをしつつ見ているだけだった・・・ 」
「 ヤマトが 不可能を現実にしています。 」
「 それで そのヤマトが ・・・ ここまでやってくる、というのか。 」
「 はい。  守  ・・・ ヤマトが到着すれば  故郷に ・・・ か 還れ ます ね ・・・ 」
「 ・・・ 還る ・・・俺の故郷 ・・・  地球に  」
「 ええ。   さ さあ それまでに体調を万全なものにしておかなければ・・・ 
 これをどうぞ。  この薬草は解熱効果がありますわ。 」
スターシアは薬草のエキスを満たしたグラスを勧めた。
「 ・・・ ありがとう、スターシア。  あの  この前は すまなかった。 」
「 はい?  」
「 その ・・・ ガミラスのことで ・・・ 君のことを疎んじたり した。
 君自身には なんの罪もないことなのに な 」
「 守、それは当然の感情ですわ。 それに私にガミラスの血が混じっているのは本当のことですもの。 」
「 スターシア。  だが 俺は 俺は  ― 君が 」
二人の眼差しが真正面から重なり、 す・・・っとスターシアは目を伏せた。
「 ・・・ さあ 守、 しばらく休まれた方がいいわ。 
 ヤマトの皆さんがいらした時、 青い顔をしていたくないでしょう? 」
「 うむ ・・・  しかし ガミラスの本星は目と鼻の先なのだ、それをどうやって切り抜けるのだ? 」
「 大丈夫。 きっと ヤマトは無事にやってきます。
 私は地球の方々とヤマトを信じていますわ。 」
「 ヤマト ・・・ そうか。  ああ 思い出したよ。大昔の地球の戦艦の名前だった。 」
「 そうなのですか。  さあ これを飲んで休んでくださいな。 
 それと、これもこちらに飾らせてください。  この部屋は殺風景すぎますもの。 」
スターシアは白い花を挿した花瓶を枕元に置いた。
「 ・・・ ありがとう、スターシア。  ああその花は いいな、とても気持ちが安らぐよ。 」
「 まあ よかったわ。 
 この星にはどこにでも見る花です。 イスカンダルそのものみたいな花です・・・ 
 昔からこの星に群生し 人々と共に生きてきました。
 きっと最後まで私の側にいてくれることでしょう。 」
「 スターシア・・・? 」
守は 白い花から視線を戻し、彼女をじっと見つめた。
「 最後、と言ったね?  君はずっとこの星に ・・・? 」
「 それが私の イスカンダルの女王の務めです。 この星がある限りここにおります。 
 離れることはできません。 」
「 ・・・ そうか ・・・ 美しい花だ
 美しい 本当に美しい  ・・・ 君そっくり・・・・だ ・・・ 」
守は ことん、と意識を失うかのように眠ってしまった。
「 ・・・ ああ お休みになったのね  よかったわ・・・ 睡眠が一番の薬です・・・ 」
スターシアはそっと上掛けを直すと 部屋の明かりを落とした。

    ―  ・・・ 守 ・・・・ !

薄闇の中に 愛しい人の顔がほんのりと浮き上がってみえる。
「 ・・・・ ・・・・・・ 」
スターシアは足音を忍ばせベッドに近寄ると そっと ― 彼の人の唇にわが唇を当てた。
掠めるだけのキス ― それでも胸は高鳴り頬は耳まで染まった。

    ・・・・ ごめんなさい ・・・ 少しだけ・・・・ 
    これっきりにしますから ・・・
    ああ ・・・ごめんなさい ・・・

この星の女王は両手で顔を覆い足早に病室を去った。

   ―   スターシア ・・・! 

上掛けの下で 守の手がしっかりと夜具を掴んでいたのを知るものはいなかった。




その部屋のドアをロックした時 大きな手がドアをがっしりと押さえた。
驚いて振り向けば 守の笑顔が目の前にあった。
「  守 ・・・  起きて大丈夫ですか。 」
「 ああ 熱も下がった。  それよりスターシア。 ここは ? 
 なにかコントロール・ルームのようだが。 」
「 はい。 ここでこのイスカンダル星を覆うメカニズムのコントロールをします。
 アンドロイドの防護部隊を操作したり 通信の送受信もできます。 
 ヤマトとの定期的な交信も そろそろ可能になると思いますわ。 」
「 そうか ・・・ 」
守はドアから手を離した。
「 守?  よろしければ御案内しますよ? 」
「 いや。 ここはこの星の心臓部だろう? ヨソモノの俺は立ち入ることはできない。
 そうだろう? 女王は君だ。  」
「 ・・・ ありがとう 守。 」
「 ヤマトから通信があったら すまないが艦長の名前を聞いてくれないか。 」
「 ご自分でお聞きになっても構いませんよ? 」
「 いや。 さっきも言っただろう? それはこの国の女王である君と地球の艦との問題だ。
 俺はタッチするべきではないよ。 」
「 はい、わかりました。  」
  この人はなんと潔い人なのだろう ・・・ スターシアはほれぼれと守の横顔を見つめた。
「 ・・・ うん? なにか? 」
「 え!  い ・・・いえ!  あ あの ・・・ 熱! 熱は下がりました? 」
「 あ ああ。  俺にはあの薬草エキスが一番合っているみたいだな。
 化学療法よりも 力が湧いてくるんだ。 」
「 そうですか。  この星の自然の力が守の身体を元気にしているのですね、嬉しいわ。 
 あ ・・・ でも油断は禁物です。 」
「 ははは・・・ 畏まりました、女王陛下。 
 しかし体力も付けたいのでね、 散歩に出ようと思うんだが。 」
「 そうですね・・・ 宮殿の奥庭から中庭を歩いてごらんになってはいかが? 
 花園と薬草苑があります。 」
「 もう少し遠出できそうだ、 その先まで行っても構わないかな。 」
「 ええ ええ どうぞ。 でも・・・なにもありません。  雑木林が広がっているだけ・・・
 抜ければマザータウンの市街地にでますけれど ・・・  無人の街です ・・・ 」
「 そうか。  海には外庭を東に出るのだったね? 」
「 そうです。  ・・・ まだあまり遠出なさらないほうが・・・ 」
「 ふふふ ・・・ 君はなかなか心配症なんだね? 」
「 あら だって守はすぐに無茶をするから。  きちんと養生なさってくださいな。 」
「 はいはい、陛下。  この星の空気にパワーをもらってきます。 」
「 そうなさって?  ヤマトが到着するまでにしっかり回復してください。 」
「 あ  ああ ・・・  そうだな。 」

    ヤマトが ・・・ 到着する ・・・

その言葉に 二人は身体を強張らせる。
言葉は途切れ 見つめあっていた視線はどちらからともなく逸らされ 差し伸べた手は宙に浮く。

   ヤマト!  ・・・ 地球の艦! 俺は 俺は ― 帰還する・・・のだ。

   ・・・ ヤマト。 ずっと待っていたはずの艦が ・・・ 今の私には・・・

幾千もの想いを押し殺し、唇に昇る言葉は ありきたりの挨拶なのだ。
「 どうぞ気をつけて行ってらっしゃい  守 ・・・ 」
「 ・・・ ありがとう スターシア・・・ 」

   ヤマトはまだ 辿りつかない。 



夜、自室に戻ると スターシアは奥から小振りな籠とジャケットを持ってきた。 
「 さあ ・・・ 早く直してしまわないと ・・・ 」
彼女は猫脚のカウチに腰をかけ、ばさりと衣類を広げた。
「 ・・・ 本当に激しい戦闘だったのね・・・・ あちこちが擦り切れているわ・・・ 」
籠の中から小さな器具を取り出すと、彼女は膝の上の衣服 ― 青色のジャケットを繕い始めた。
「 守 ・・・ これを着たらきっと凄く素敵ね! そうそう帽子も直しておかなくちゃ。
 ヤマトが到着したら これを着て ・・・  」
はた、と手が止まった。
「 ・・・ これを着て  着て ・・・ 守は。  ち 地球に ・・・ 」
震える手でそっとそのジャケットを ― 地球防衛軍の戦艦艦長服を スターシアは撫でる。
慈しむように 愛しむように 白い手が歴戦の勇士が纏う上着を撫でる。
「 ・・・ 今の私にできるのは この服をしっかりと繕い 
 あの人をしっかりと回復させること。  ・・・ それだけ ね ・・・ 」
涙で 生地の裂け目がぼやけて見える。

     守  ・・・ ああ 守  ・・・・!
     ダメよ、スターシア。 
     あの人は ・・・ 地球に還るべきひと。 
     あの人を ・・・ 待つ人だっているかもしれない・・・

     ・・・ ああ  でも。  ああ 守 ・・・!

     あなたを  待つ人は ・・・

ふと、二人の会話がこころの内に甦る。
「 故郷では ・・・ ご ・・・ご家族も ・・・ お帰りを待っていらっしゃるでしょう・・・ 」
「 いや。 俺の両親は亡くなってしまって。  弟が一人、いるだけです。 」
「 弟さん? 」
「 うむ。 宇宙戦士訓練校に入っていたから。 今ごろはどこかを飛んでいるかもしれないな。 」
「 まあ そうですか・・・ 」
「 君は ・・・ 妹さん一人だけと言っていたね。 」
「 ええ ・・・ その妹もどこでどうしていることやら・・・ 」
まだ守が病床から離れられない頃、お互いの身の上をぽつぽつ語りあったことがあった。
彼はとてもやさしい瞳で弟のことを話していた・・・

      そうよね ・・・ あなたを待つ、弟さんのためにも
      守  ・・・ あなたは帰らなければ

ぽとり、と涙が艦長服に落ちた。
「 いけない・・・! 晴れの門出に着る服を・・・涙などで汚してはいけないわ。 」
スターシアは涙を拭うと 心をこめて守の艦長服を繕ろい続けた。

     守 ・・・ どうぞ無事でいてください・・・
     私はありったけの祈りを このひと目 ひと目に籠めます

     濃い空の色をしたジャケットさん・・・・ どうか・・・
     守を ・・・ 私の愛したただ一人のひとを 護ってくださいね

窓辺で祈る乙女の影を 星々だけがそっとみつめていた。





     そして ある晴れた朝  ― 
     ―  ヤマト は。  その身をぼろぼろにしつつもイスカンダルの海に 降りた。


ヤマトでやって来た人々 ― 地球人たちは皆 <つよい> 人々だった。
生きる! 生きたい!  そんな強い生命力に溢れていた。
鋼の意志を持つ老艦長を始めクルー達は みな希望と強い使命感を抱きここまでやってきた。
「 初めまして、スターシアさん。  宇宙戦艦ヤマト、艦長代理の古代進です。  」
茶色の瞳をした若者が 埠頭で待つスターシアの前に進み出た。
「 ようこそ ヤマトのみなさん。 わたしがイスカンダルの女王、スターシアです。 」

     ・・・ あら。  この瞳と雰囲気 ・・・ 守によく似ているわ・・・
     コダイ ・・・ ?  あ。  弟さん ・・?
  
「 長旅でお疲れでしょう? ゆっくり休んでください。 」
「 ありがとうございます。  しかし女王陛下、 我々はあまり時間が 」
「 そうでしたわね。  どうぞ、こちらへ。 コスモ・クリーナーDのパーツがあります。 」
「 ありがとうございます! 」
青年は 頬を染め女王に礼を述べた。

    清々しい方たち ・・・ 
    ・・・ 守   あなたの故郷はきっと蘇ります ・・・

スターシアは地球のために心から彼らの成功を祈った。
クルーの中には 妹のサーシアと見紛うばかりの女性がいた ― 森ユキ ・・・ そう名乗った。


国民たちが眠る墓地に妹の霊を弔った後、艦長代理の青年とユキをクリスタル・パレスに案内した。
「 どうぞ ・・・ あなた方に引き合わせたい方がいます。 」
「 え? 」
「 ― 地球の方なのです。 あなた方がお帰りになる時にご一緒に ・・・ 」
「 ??? 」
スターシアは早足で彼らの先に立った。  ・・・ 立ち止まったら涙がこぼれてしまうから。

 案の定、 ヤマトでやってきた青年は守の弟だった。
 
    よかった ・・・ よかったこと・・・

さりげなく座をはずし、別室で兄弟の邂逅を祝福した ・・・ はずだった。
  ― ぱた  ぱたぱた  ぱた ・・・
足元に水玉模様がひとつ ・・・ ふたつ みっつ・・・と増えてゆく。

     あ ・・・? な なぜ・・・
     守のために喜ばなくちゃ・・・いけないのに・・・
     どうして 涙が ・・・ 

「 ・・・ 女王陛下・・・? 」
「 ?  ユキさん。  ・・・ なにか。 ああ スターシア と呼んでくださいな。 」
開け放してあったドアから 森 ユキが入ってきた。
「 スターシアさん ・・・ 」
「 はい? 」
共に愛するヒトを想う女性同士 ・・・ ユキはこの孤独な女性の涙の意味をすぐに悟った。
そしてスターシアも ユキが抱く想い人への思慕を感じとっていた。

  ― その一歩が踏み出せたら ・・・ どんなに幸せだろう・・・


 ふわ ・・・ ユキの身体に淡い影が纏わった。
「 スターシアさん・・・・? 」
ユキは驚いて振り返ろうとした。
女王スターシアが ぴたり、とユキを背中から抱いているのだ。
たった今まで、マザー・タウンの海に浮かぶヤマトをながめつつ語り合っていたのに。
「 ごめんなさい ユキさん。  でも すこしだけこうさせてください。 」
「 ・・・ スターシアさん・・・ 」
言葉はいらなかった。 よく似た面差しの二人は黙って同じ時間を分け合った。
スターシアは 静かに語った。
「 本当にごめんなさいね。   すこしだけ・・・
 ・・・・ サーシア ・・・  ああ サーシア!  お姉様を許して・・・ 
 貴女に生きる道をあげたつもりだったのに ・・・! 地球で生きていて欲しかった・・・
 貴女を死なせてしまったお姉様をゆるしてちょうだい・・・ 」
「 スターシアさん ・・・ いえ  お姉さま  」
ごく自然に その言葉がユキの口から漏れた。
「 ・・・ ありがとう ・・・ 」
イスカダルの空に 今夜もひとつ星が流れた。


 
   ―  陽が 昇ってきた。
今日  ヤマトは故郷めざして出発する。
スターシアは身支度を調えると、奥から守の艦長服を持ってきた。
昨日、 預かり最後の仕上げをした。
そっと両手で捧げもち ・・・ 頬を寄せる。
「 ・・・ 忘れないわ・・・ 忘れない・・・ 命を終えるその日まで・・・! 
 さようなら ・・・ 守 ・・・ さ  よ う なら  ・・・ 私の愛した ひと。  」
持ち主とずっと長の旅路を共にしてきたその服には彼の香りが染み付いている。
スターシアは そのかすかな青さと秘めた香りを胸いっぱいに吸い込んだ。
「 忘れない ・・・ 決してわすれないわ ・・・ 守 ! 」

    ― この星の女王として しっかり見送らなければ。

スターシアは く・・・っと唇を噛み締め背筋を伸ばした。



ヤマトは 準備万端を整えまさに空へと飛び立つ時を今か今かと待っていた。
中腹から伸びるタラップには 4人の男女が佇んでいる。
海風が 彼女の金の髪を揺らす。
陽光が 彼のジャケットに映える。
見詰め合うふたつの眼差しは どこまでも深く 熱く ―  離れがたく・・・
やがて 男はすべてを振り切り口を開く。 女はすべての堰を破り言葉を押し出す。


           「  さようなら  スターシア  」

            
           「  ・・・・ 愛してるわ  守 !  」





あとがき  ********

 ・・・ 言葉通りにイスカンダル・ブルーは忠誠を尽くします。 
彼らは 14万8千光年の果てまでも、女王陛下のお供をしてきたのです。
( めぼうき様作 『 イスカンダル・ブルー』 『 花 』 参照のこと♪ )


2011.5.25

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