相棒
           byばちるど




イスカンダルの暦は おおむね地球と似ていた。
地球のそれよりも もっと穏やかだがゆるゆると四季はめぐり、サンザーは優しい光を
投げかけてくれている。

      ふうん なるほど ・・・  正確にはわからんが 
      一日の時間も一年間という時間も 地球と似たようなもの か

古代守はこの星の運行を 日々の暮らしから理解した。
ゆきかぜ の艦長に就任した時から使っていた時計は 救出された時にはすでに止まっていた。
その示された時刻に 彼は心当たりはなかった。

      これは ・・・ いつのことなのだろう 
      ゆきかぜ が 最後に落ちていった時なのか 

時々彼はその時計を取り出し 破れたガラスと動かない針を見、永遠に止まった時へと
想いを馳せるのだった。

  そう ―  時は 巡る。  

どの世界にも どんなことがあっても 時は全てを呑み込んで流してゆく。  
 ―  時は  全ての感情を癒すのだ



それは 夏 も盛りを少し過ぎた頃のこと ―

「 お〜〜い スターシア ・・・ 」
ある朝 彼は朝の儀式を終え、妻との朝食を終えるとクローゼットにもぐりこみ
なにやらごそごそ支度をしていた。
「 はい? なにかしら、 守  」
スターシアは食器類を食洗機に入れ、 テラスの鉢植えに水をやっていた。
「 どこにいらっしゃるの、 守 ? 」
「 ・・・ ここ さ。  庭だよ。  今から墓所の掃除に行ってくる。 」
彼女の夫は モップやら箒、そして布を入れたバケツを持ってテラスの下に現れた。
「 まあ ・・・ 墓所って ・・・ 王家の、ですか。 」
「 ああ。 ちょうど お盆の時期だって気がついたからさ。 」
「 ・・・ おぼん ??? 」
「 ははは  ・・・・ トレイのことじゃないぞ。 」
「 ・・・ はあ ・・・?? 」
美しい妻は 服の長い袖を巻くり上げ水撒き用の水差しを持っていた。
白い腕が ― ほっそりとした白い二の腕が夏の光に鮮烈だ。
「  うわ ・・・ う〜〜ん ・・・ これは目のドクだなあ ・・・ 」
「 はい? 何が毒なんですの?  」
ますますわからない・・・と妻は首を捻っている。
「 あはは ・・・ごめん ごめん ・・・
 あのな 御盆 ってのは地球の習慣で 夏に祖先の墓所とかに御参りする時期なんだ。
 墓所を掃除して供えものをする。  そうして 御盆 の期間 ・・・ 3日くらいなんだけど
 還ってくる祖先の霊を慰めるのさ。 」
「 まあ ・・・ ステキな習慣ですのね。  それで守もお掃除に? 」
「 ああ。  王家の墓所って オレ、一回挨拶に行ったきりだろう?
 君と結婚した後でさ。 」
「 そうでしたかしら ・・・  」
「 うん。  あんまりご無沙汰〜 も気になるから掃除がてら行ってくる。 」
「 まあ ありがとう。  そうだわ、剪定鋏とかもお持ちになった方がいいわ。
 きっと ・・・すごく木が茂っているわ  」
「 おう ありがとう。  じゃ ・・・ 行ってくる。  昼までには戻るよ。 」
「 はい 行ってらっしゃい。  お好きなランチ、用意しておきますわ。 」
「 たのむ〜〜〜  」
わさわさ手を振って 守はハナウタ交じりに宮殿の中庭から出ていった。

イスカンダル王家の墓所は 眠りの森 の一角にあった。
森はその前に延々と どこまでも続くひろいひろい墓所を抱え 
そこには全てのイスカンダル国民が 静かに穏やかに、安らかに眠っている。
守は目礼をすると 広い墓地を横切っていった。
「 え〜と ・・・ こっちから入る のか ・・・ 」
奥のほうに木々が固まっている場所がある。 彼は枝をよけつつ脚を踏み入れた。

  パキ ・・・ 枯れ枝を踏んだ。 ずいぶんと落ち葉がたまっている。

「 ああ やはり掃除に来てよかったなあ・・・  おっと まずは挨拶、 と・・・ 」
白い墓石は ・・・ 御影石の類で作られているのだろうか。 球形のオブジェは王家が治める
この星 − イスカンダル か はたまた 母なるサンザーを模っているのか。
「 義父上  義母上 ・・・ そして代々のイスカンダル王家の皆さん ・・・ 」
守は 墓石の前に片膝を付き 静かに頭を垂れた。

    シュッ !!  ・・・・  トン !!!!

「 わ!??  な なんだ !? 」
いきなり背後から なにかが ―  いや 誰かが飛び掛ってきた。
殺傷兵器の類ではないらしいが それでも彼は背に衝撃と軽い痛みを感じた。
「 ―  ・・・・?? 」
「  う にゃぁ〜〜〜〜〜お ぅ 〜〜〜〜〜〜 !? 」
「 ・・・!?   」
目の前の墓石の上に ソレは いた。 

 ふさふさとした鬣をもった小型のケモノが ぴん!と耳を立て髭を張り
真正面から守を睨みつけている。 爛々と光る瞳は 清んだ青だ。 
「 ね 猫???  イスカンダルに猫がいるのか?? 」
「 ぐるるるるる  〜〜〜〜 」
ケモノは 低く威嚇の唸りをして まさに守にまた飛び掛らんと構えているのだ。
「 お おい〜〜 よせ! 俺は掃除に来ただけだ! 墓荒しじゃないぞ〜〜 」
「 うにゃ〜〜お〜〜〜!! 」
  バッ ・・・!  茶色のケモノは墓石を蹴って  跳んだ・・・!
「 うわあ 〜〜〜〜〜 ・・・・ 」



  ガサガサ ガサ −−− 

両手にバケツやらモップを下げて 守が戻ってきた。
スターシアはちょうど薬草の花壇の手入れをしている最中だった。
「 お帰りなさい 守。  あら ・・・どうかなさったの。 」
彼女の夫君は なにやら微妙な表情で立っている。 よくみれば顔やら手に赤いスジみたいな
傷が残っているのだ。
「 ・・・ ? 木の枝でひっかけたの?  」
「 スターシア 〜〜〜  これ ・・・ コイツになんとか言ってくれえ〜〜〜 」
守は情けない声を出し 細君にくるり、と背を向けた。
「 ???   まあ 〜〜 !  」
彼の背中には サマージャケット風な上着の背には ふさふさとした茶色毛のケモノが
しっかりと爪を立ててぶら下がっていた ・・・!
「 墓所にいてさ ・・・ もうず〜〜〜っと攻撃してくるんだよ〜〜 」
「 まあ まあ  *〇жкЯ じゃないの!?  」
「 !?   みゃあ〜〜〜〜〜お 〜〜〜〜〜〜ぅ 〜〜〜〜♪ 」
「 え・・?? 」
守の背中に張り付いていたケモノは たちまち可愛らしい声を発しスターシアの元へと駆け寄った。
「 な ・・・ コイツ 知っているのかい? 」
「 ええ ええ ・・・ まあ 〜〜 *〇жкЯ〜〜  今までどこに居たの? 」
「 な〜〜〜ぉ 〜〜〜 ・・・ 」
ケモノはスターシアの腕の中に納まり さかんに甘えた声を上げている。
「 ・・・ スターシア ・・・ それ ・・・って ・・・ 」
「 ええ  *〇жкЯ26世。  王家の護り神なの、このコは父に仕えていました。 」
「 ・・・ へ ・・・え ・・・ 義父上の猫なのかあ〜 」
「ねこ?なんですか、それ?」
「地球の愛玩用の小さな動物なんだよ。姿はそっくりだよ。こいつは義父上と一緒にいたのか。」
「 そうなのよ。  父が亡くなった後、急に姿を消してしまって ・・・ サーシアと一緒に
 随分探したのだけれど ・・・  ねえ お前ずっとお父様の墓所にいたの? 」
「 みゃあ〜〜 ・・・ 」
「 まあ そうなの。  ありがとう ・・・ ねえ またこちらに帰っていらっしゃいな。 」
「 ・・・ にゃあ〜〜〜ォ ! 」
じろり。 青い瞳が守を睨む。
「 あ  や やあ ・・・ ヨロシク〜 えっと ・・・? 」
「 *〇жкЯ26世 よ。  ねえ *〇жкЯ、 彼はね、古代守。 わたしの夫です。
 わたくしの治世のイスカンダルの貴士 ( ナイト ) 閣下よ。 」
「 にゃあ〜〜〜 ・・・・ 」
イスカンダル猫 はまだ険しい視線を守に投げかけている。 
「 あ  は ・・・ 仲良くしような〜 えっと 〇×△■26世 ? 」
「 にゃ〜〜〜〜あォ! 」
「 うふふ ・・・ 発音が違います って。 」
「 え〜〜〜 なあ 大目にみてくれよォ  〇×△■26世〜〜 」
「 にゃ〜〜あ! 」
「 あのね、 *〇жкЯ。 守はね、貴士  ( ナイト ) として立派に務めを果たしてくれているの。
 そうそう イスカンダルの艦隊総司令も兼ねていますから。 」
「 ・・・ にゃあ 〜  」
「 さっきはね、 王家の墓所のお掃除に行ってくれたのよ?
 お前が住んでいるって知らなかったから・・・ 驚かせてしまったけれど 」
「 うにゃ〜〜 ・・・・ 」
「 すまなかったな〜  なあ 宜しく頼むよ。 俺は遠い星からの風来坊でさ。
 女王陛下に助けられたんだ。  だから陛下とこの星は 俺が護る。 」
「 にゃ〜〜〜 」
「 お前と一緒さ。 王家を護るって意味ではね。 」
「 にゃあ〜 」
「 いろいろ・・・案内してくれよ。  〇×・・・ いや 茶モフ! 」
「 にゃ? 」
「 あはは  茶色でモフモフ・・・立派な鬣がある猫だからな〜 茶モフ。 そう呼ぶぞ〜 」
「 にゃあ〜〜おぅ !! 」
守の付けた呼び名はどうもお気に召さない風だったが ― < 彼 > は 守に牙を剥いたり
爪を立てたりはしなくなった。


陽射しの華やかさは 少しづつ消えて行ったが 澄んだ空が高く高くひろがる季節となった。
「 うわあ 〜〜 見事な秋晴れだなあ 」
守は テラスから空を見上げ感嘆している。
「 ふうん ・・・ 今日は森の中を探検してみるかなア ・・・ 」
「 守?  お目覚めですの?  朝食はテラスで召し上がります? 」
カーテンの奥から愛妻の声が聞こえる。
「 お そうだなあ 〜  うん、それじゃ俺が運ぶよ。  おっとその前にテーブルの準備・・・と 」
守はテラスの端に置いてあるテーブルに手をかけた。
「 ・・・よい ・・・ しょっと。  お?  やあ〜〜 茶モフ〜 お早う〜 」
「 にゃぁ〜お!   にゃ〜〜〜 」
気がつけば テラスの下には*〇жкЯ26世 ― 守いわく 茶モフ君 がこちらを見上げていた。
「 ほら あがってこい。 一緒に朝食、どうだ? 」
「 ・・・ にゃあ〜〜? 」
「 遠慮するなよ〜〜  お〜い スターシア〜〜 茶モフが来たぞ〜 」
  
   カチャ カチャ ・・・ カチン   陶器やらガラスの器の軽く触れ合う音がした。

「 守? ワゴンで運んできましたわ。  あら ・・・ *〇жкЯ〜 お早う 」
「 みにゃあ〜〜〜〜〜 」
< 彼 > は堂々とした茶色の鬣を振って 女王陛下に挨拶をしている。
「 よ・・・っと  ほら こっちこいよ。 」
「 う〜〜にゃ〜〜 」
守は腕を伸ばして < 彼  > をテラスに引っ張り上げた。
「 みゅう〜〜〜♪  」
「 はい お早う。  ねえ ・・・ お前もここで暮しませんか? 」
スターシアはさかんにすりすり・・・寄ってくる < 彼 > を撫でつつ語りかける。
「 そうだよなあ。  いくら義父上の墓守が使命でも ・・・ またここに来いよ。 」
「 ・・・ にゃ ・・・ 」
嬉しそうにスターシアに纏わりつき 食事も一緒に食べるのだが ・・・
< 彼 > は朝イチバンに宮殿にやってきて 守やスターシアの側で過し
夕食を貰うと 夜の闇の中、王家の墓所に帰ってゆく。
「 ねえ? また皆で暮しましょう  ・・・ ね? 」
「 にゃ〜〜ぁ・・・・ 」
わかったのかどうだか ―  < 彼 > は澄んだ瞳で女王夫妻を見詰めていた。

守との仲も良好になってきた。 初めこそ一瞬険悪なムードを漂わせていたが・・・
「 お〜〜い  茶モフ!  見回りにゆこうぜ。 」
「 にゃあお〜〜! 」
守が声を掛ければ   「 そんな軽々しい名で呼ぶな! 」 と抗議の声を上げるが
あとは一緒に行動している。
「 フンフン〜〜 そうさ、 オトコ同志だもんなあ〜  」
「 にゃ! 」
小船を出して漁に行けば < 彼 > は舳先で水先案内をした。
「 にゃ〜〜〜〜あ ・・・・ にゃ にゃ にゃ ・・・ !  」
「 おう こっちか〜 ・・・ へえ ・・・ 水が平気な猫ってのもいるんだなあ ・・・ 」
「 にゃ?  」
「 あ いや こっちのことさ。  お〜っと 引いてる 引いてるぞ〜〜 」
イスカンダルの海には まだ海の生物がかなり棲息しているのだ。
守は一本釣りの要領で大きな獲物を引っ掛けた。
「 うわ〜〜 デカイなあ〜  ・・・ イサキみたいなヤツだな 〜 」
釣り上げた魚を 手製のナイフで早速捌いてみる。
「 ふん ふん ・・・ 確かこれは食べても大丈夫って教わったぞ。   よ〜し・・・
 ・・・・・  うま〜〜〜〜い !!   おい 茶モフ、釣ったばかりの獲れ獲れだ〜 ほい! 」
ぽん、と目の前に刺し身を置かれて ― 
「 ?  ・・・・  にゃ  〜〜〜〜〜〜 ・・・・あ ・・・・ 〜〜〜 」
< 彼 > は さんざんくんくん匂いを嗅いでから ぺろり、と舐めぱくり、と一口 ― 
その後 < 彼 > は 至福の表情を浮かべふか〜〜〜く満足の唸りを上げた。
「 どうだ? 釣り立ては美味いだろう? 」
「 ・・・ にゃ ・・・! 」
「 ほら もっと食べろよ。  うま〜〜〜♪ う〜〜ん 醤油がないのが残念だなあ〜 
 あ そうか ラスリの実だ! アレの青いのをきゅっと搾って掛けたらきっと美味いぞォ〜〜 
 なあ? そう思わないかい  」
「 ・・・ にゃあ〜〜〜〜・・・  」
「 おう 刺し身は 気に入ったかい?  ははは やっぱり猫には魚がイチバンさ。
 さ〜て ウチの奥さんのために もう少し釣ってゆくか。 」
「 にゃ〜〜 にゃにゃにゃ 」
< 彼 > はまた軽い足取りで舳先に立つと 振り返って守をみている。
「 うん? なんだ?  この先に漁場でもあるのかい? 」
「 にゃ〜 」
「 よし もう少し船を進めてみよう。 な〜 茶モフ。 」
「 にゃ。 」
その日  守は活のよいイサキに似た魚を数匹、夕食用に持ち帰った。
「 まあ〜〜すごい大漁ねえ ・・・ それじゃさっそく晩餐に頂きましょうね。 」
「 うん。 船の上で刺し身して食べたのだけど、すごく美味かった。 なあ 茶モフ? 」
「 にゃ〜 」
守の足元で < 彼 > はこっくり頷いている。
「 さしみ ?  それは どんな風に調理するのですか? 」
「 調理? いやあ〜〜 刺し身は ― ああ じゃあ夕食用に俺が作るよ。
 普通 この魚はどうやって食べるのかい。 」
「 え ・・・ これは専用の調理器具がありますの。  ほら この前 砂護り を
 召し上がったでしょう、守。 」
砂護り とは カレイやヒラメに似た白身の魚だった。
「 あ ああ ああ そうだったね。  蒸し焼きみたいな味だったっけ。
 うん それじゃスターシア、君はそれを作ってくれよ。 俺は刺し身をつくる。
 今夜は御馳走だぞ〜〜 」
「 まあ 楽しみだこと♪ 」
「 おい 茶モフ〜〜 また刺し身で夕食だぞ。 」
「 にゃ〜〜♪  」
 ―  青いラスリの実を搾り さ・・・っと掛けた刺し身は 女王陛下のお気に入りとなった。

秋が次第に深まってゆくにつれ 宮殿の周辺の木々も美しく彩られてきた。
朝晩 スターシアはバルコニーから紅葉をながめ 嘆息していた。
「 ・・・ ああ 今年もキレイになりました ・・・ 」
「 うん?  ああ そうだねえ・・・ イスカンダルの紅葉は見事だな。 」
「 地球の秋も こんな風なのですか? 」
「 うん。 俺の故郷では秋には <紅葉狩り> と言って 色づいた木々の様子を楽しんだり
 木の実を拾ったりしたものさ。 」
「 まあ ・・・ 同じですわね。  ほら ・・・ あちらの森なんか埋もれるほどステキ・・・ 」
スターシアは宮殿の東側の森を指した。
「 そうだねえ  今度一緒に行ってみようよ。  お?  茶モフ君の出勤だぞ。 」
「 にゃ〜〜〜 」
テラスの下で < 彼 > が二人を見上げている。・
「 あら お早う〜〜 *〇жкЯ。 朝御飯、 用意しましょうね。 」
「 ああ 俺がするよ。 あ そうだ、 お〜い 茶モフ〜〜 頼みがあるんだけどなあ〜 」
「 ・・・ にゃあ? 」
「 森の見回りに行きたいんだ。 案内してくれ。 」
「 にゃ〜! 」

森に行けば < 彼 > は ラスリの林や栗みたいなどんぐりみたいな木の実が
鈴なりになっている場所を教えてくれた。
「 にゃ〜〜〜 にゃにゃにゃ 〜 」
「 お〜い 待ってくれ〜〜  どこまで行くんだよ? 」
先に立って身軽に走ってゆく < 彼 > を 守は必死で追いかけてゆく。
宮殿の周囲の森には 沢山の種類の木々があり様々な実をつけていた。
充分に熟したのだろう、足元にも沢山転がっている。
「 ・・・すごいなあ・・・ ああ ちょうど秋だからなあ。 実りの秋、はこの星でも同じってことだな。」
「 にゃ〜〜あ 」
「 この実を収穫しろってか?  ・・・よ〜し・・・ ああ なんだかドングリとか栗みたいだな・・・ 」
「 にゃ  にゃ  にゃ〜〜  」
「 お。 お前も食べるのかい。  猫がドングリ、食うのかなあ・・・まあ いいや。
 ああ これなんか美味そうだぞ?  」
守は 大きな実を取り、外側の固い皮をお手製のナイフで剥いてみた。 
焦げ茶色の皮の中から白い実が顔をだす。
「 ・・・っと  ほい。  これでいいかい。 」
「 にゃ〜〜 」
< 彼 > は ぱたぱた・・・大きなシッポを振ると美味しそうに食べた。
「 ふうん ・・・ じゃあ 俺も。  ・・・  うん これは栗だな! なるほどねえ 」
「 にゃ〜〜にゃにゃ ! 」
「 ああ そうだな。  女王陛下にお持ちしなけりゃな〜 」
「 にゃ〜〜あ。 」
「 お。  こっちにも沢山落ちているなあ ・・・ よ〜し! 」
二人は熱心に < 栗拾い > を始めた。

「 まあ まあ まあ 〜〜 ククルの実がこんなに♪ 」
果たして陛下は 二人のかご一杯のお土産に大喜びをなさった。
「 ククル?  この実の名前かい。 」
「 ええ そうなんですの。  東側の森にはククルの樹が沢山あってね・・・
 実りの月 には沢山の実を落としてくれます。 」
「 そうなのか ・・・ 茶モフが案内してくれてさ。  早速一つ食べてみたけど中々美味いね。 」
「 あら 生で召し上がったの? 」
「 うん。 固い皮を剥いて ・・・ 茶モフも美味そうに喰ってたよ。 」
「 生でも食べられますけど あのね 焼いて食べるととても美味しいのよ。
 わたくし、小さい頃からククルの実が大好物なの。  お父様とよく採集に行きました。 」
「 にゃ〜〜にゃにゃ〜〜 」
「  *〇жкЯ、 ちゃんと覚えてくれてたのね、ありがとう〜〜 お前はいつもお父様のお供を
 していましたものね。  」
「 みにゃあ〜〜〜 」
スターシアに抱き上げられ撫でてもらい < 彼 > は咽喉を鳴らしている。
「 そうかあ〜 茶モフは君の好物だってこと、知っていたんだな。 」
「 にゃ! 」
喜ぶ陛下の腕の中から < 彼 > は ちろ〜〜ん と守を見て へへん! と胸を張った。

     !  コイツ〜〜〜  ・・・ 
     ははは  でも ありがとうな! 
     また一つ イスカンダルの美味を覚えたぞ

守も < 彼 > の豊かなタテガミを撫でてやった。
「 そうか それじゃ ・・・ なあ 今晩はちょっと外で食べないかい。 」
「 まあ 外でお食事をするの? 」
「 うん。 しっかり温かくしておいで。  俺はカマドを作っておくから 」
「 カマド? 」
「 うん。  君の好物のククルの実を焼いてみるよ。  コイツにも食べさせてやりたいし。 」
「 まあ ステキ。 それじゃ ・・・ 他のものも用意しますね。 」
「 おう。 俺も手伝うよ。 」
「 ・・・ にゃ〜〜〜あ 」


その日の夕方 ―  宮殿の前庭には小さなカマドが作られてた。
「 ・・・ っと ・・・ こんなカンジでいいか。  よし ・・・ 火を入れるぞ。 」
守はカンテラも兼ねてもってきた灯から火を移した。

  ジュワ −−−− ・・・・  ようやっと薪に火が付いていい具合に燃えあがり始めた。

「 うん ・・・ いいぞ。  まず鍋をかけて ・・・っと。  お 茶モフ〜〜 お前の好きな
 ククルの実も焼くぞ 」
「 にゃ〜〜〜  」
< 彼 > は午後中 ずっと守の側にいて彼がカマドを作るのを不思議そうに見ていた。
「 ほうら ・・・ 火が落ち着いてきたぞ。  温かいよなあ 」
「 にゃ ・・・・  」
守の足元で < 彼 > は目を細めカマドの暖気を楽しんでいる。
「 へえ ・・・ 普通動物は火を恐がるものなんだがな ・・・ 」
「 にゃ?  にゃああ〜〜〜 」
< 彼 > は ぴくん! と耳を動かすと さっと駆け出した。
「 え?  ・・・ ああ スターシア 」
「 守?  カマドはいかが?  うまく温まりましたか。 」
彼の愛妻が 大きなバスケットを抱えて宮殿からやってきた。
「 はい お夕食。 温めると美味しいものばかり持ってきましたわ。 」
「 お〜〜 ありがとう!  あ 俺が持つよ。  」
「 うふふ ・・・ 楽しみだわあ  ねえ *〇жкЯ? 」
「 にゃ〜〜〜あ ・・・ 」
「 ようし  期待しててください、奥さん。 え〜と・・・?  」
ガサガサと守はバスケットの中身を 取り出し始めた。

 ― その夜の食事は 即席バーベキュー とでもいうものとなり ・・・
いつもの食材が いつもとは少し違った味 に変わり二人は大いに楽しんだ。
冷ましてもらって < 彼 > も美味しそうに食べていた。
「 さあ  お待ちかね。  ククルの実を焼くぞ。 」
「 きゃあ♪  楽しみだわ〜〜  冬の離宮でね、お父様が暖炉で焼いてくださったの。 」
「 お そうか。  じゃあ今度持ってゆこうな。  ・・・・ と ・・・ 」
守は 熾に近くなった炎の中にククルの実を入れた。

  ジュ ・・・・  パチパチ ・・・ パチッ !

やがて炎が勢いよく爆ぜはじめ 香ばしい匂いが漂いはじめた。
「 まあ ・・・ いい匂い ・・・ 」
「 うん そろそろいいかな〜〜  よ・・・っと ・・・ ああ もう少し か 」
「 これはどうかしら?  あ 割れているわね。 」
「 どれ?  そら・・・ 」
守とスターシアは 長い金属のハシでククルの実を取り出し 割って食べた。
「 きゃ・・・ うふふ ・・・ 美味しい〜〜 」
「 うん 美味い!  これは美味いなあ〜 」
「 ほくほくしてて・・・甘くて。  この実を食べると ああもうすぐ冬がくるのね、って思うわ。 」
「 季節の移ろいを教える実 か ・・・ いいな。  この星は本当に豊かな星だ。 」
「 ねえ ? 守の故郷にもこんな実があるの。 」
「 うん。 栗といってね。  やはりこんな風に焼いたり茹でたりしてたべたなあ。
 そうそう  ・・・ お袋は栗御飯が得意だったっけ。 」
「 栗御飯?  ククルの実を主食に混ぜるの? 」
「 そうなんだ。  今度ククルでやってみようか。  そら こっちのが焼けたぞ  」
「 美味しそう〜〜  うふふ ・・・ もう止まらないわね。 」
  パキ ・・・ 二人はククルの実を割り続ける。
< 彼 > は 守の足元でじっと炎を そして二人の様子を 見つめていた。
「 ほら 茶モフ ・・・ お前ももっと食べろよ。   美味いぞ〜〜 」
「 ・・・ にゃあ〜  」
「 ふうん ・・・お前、猫なのに火とか平気なんだな〜 」
「 にゃあ〜〜 ・・・ 」
< 彼 > の澄んだ青い瞳にも 炎の陰がキラキラと映っていた。



秋がどんどん深まってゆく。  鮮やかだった木々の葉も岱赦色に沈んできた。
王宮のテラスにも 午後にはながく淡い陽射しがたっぷりと差し込むようになった。
守は隅に寄せてあった長椅子をテラスの中央にひっぱりだした。
「 へへへ ・・・ 縁側の替わり・・・ってとこかな。  よ・・・っと ・・・ 」
ごろん、と寝転がれば温かく穏やかな光が全身を包む。
「 ・・・ あ〜〜〜 ・・・ いい気持ちだ ・・・ お日様の光ってのは ・・・
 どこだって同じに優しいんだなあ ・・・ 」
「 ・・・ にゃ〜〜あ ・・・ 」
「 お。 お前もここにこいよ、茶モフ。  きもちいいぞ〜〜 」
「 にゃ・・・!  」
< 彼 > は身軽に長椅子の上に飛び乗ってきた。
「 おう ・・・ あはは お前のタテガミは気持ちがいいなあ〜〜  」
守は隣に蹲った < 彼 > の茶色いたっぷりとしたタテガミをもふもふと撫でる。
「 にゃ〜〜あ ・・・ あ〜〜 」
< 彼 > は 目を細め咽喉をゴロゴロ・・・鳴らしている。
「 う〜〜ん ・・・ いい気持ちだ ・・・ なあ お前、嫁さんどうした? 」
「 ・・・ にゃ ・・・ 」
「 先にいっちまったのか 」
「 ・・・ にゃ〜  」
「 そうか。 淋しいよなあ ・・・ あのな 俺の故郷の星にはお前とよく似た種族がいるんだ。
 可愛い雌猫も沢山いるぞ〜〜  こんど 連れてきてやるから ・・・後添いにどうだ?  」
「 にゃにゃにゃ〜〜 」
「 またさ  お前たちの一族で俺とスターシアの家族を見守ってくれ。
 一緒に この星で生きてゆこう  な ・・・ 」
「 にゃ あ 〜〜〜〜 ・・・・  」
ぱたぱたぱた・・・ < 彼 > は大きなシッポをゆっくりと振った。

「 守 ?  テラスにいらっしゃいますの? 」
スターシアは 中庭の日溜りに干してあった毛布を取り込んで来て、通りがかった。
「 ・・・ 守?  」
「 ・・・・・・・ 」
テラスには 引っ張り出した長椅子の上で彼女の夫君が気持ちよさそうに転寝をし 
 ―  そのお腹の上には茶モフ、 いや  *〇жкЯ26世がやはり仰向けになり
のびのびと手脚を伸ばしてぐっすりと眠っていた。
「 あら?  ・・・ うふふふ ・・・ 仲良しなのね。 起こさないであげましょうね・・・
 お茶の用意でもしておきましょう。 」
女王陛下はクスクス笑って 手にしていた毛布を夫君と護り猫の上にそっと・・・掛けた。


冬になった。
この星には雪こそふらないが 毎日鈍色の空が続き風は冷たい。
「 う〜〜〜 冷えるな。  風が突き刺さるみたいだ・・・ 」
守は午後の見回りからごしごし手を擦り合わせつつ 戻ってきた。
「 お帰りなさい。 ご苦労様 ・・・  守、 冬季の見回りはアンドロイドに任せたらいかが。 」
スターシアは熱いタオルを彼に渡した。
「 ふは〜〜 ・・・ 生き返るよ。  う〜ん やはり自分で確かめたいからな。
 それに 茶モフには負けられんし。 」
「 うふふ ・・・ でもあのコは最高の毛皮を纏っていますから。  あら? 彼は? 」
「 ― ここだ  」
守が 外套の前を開けると  ―   ぽろり、 と < 彼 > が飛び出してきた。
「 にゃあ〜〜〜 」
「 まあまあ *〇жкЯ ったら。 特等席にいたのですね。 」
「 にゃ ! 」
「 あはは 違うんだ。 俺がさ ・・・ 頼んだのさ。 カイロ代わりになってくれって。 」
「 にゃ〜〜〜あ。 」
「 うふふふ ・・・ 本当に仲良しさんねえ。  一緒に晩御飯にしましょう。 」
「 おう、いいな。  そうだ、空の雫を開けよう。 温まるぞ〜 」
「 そうね。 お願いします、守。 」
「 にゃあ〜〜〜 」
「 お 一緒に酒蔵に行くかい? 義父上はどの酒がお好みだったのかなあ 」
「 にゃ にゃ にゃ〜〜 」
「 あはは・・・・教えてくれるのかい。 よし 行こう。 ほら・・・ 」
「 にゃ〜〜ん ! 」
 ぴょん ・・・と < 彼 > は守の肩に飛び乗って ― < 二人 > は一緒に酒蔵に
降りていった。


 ある朝  ―  格別に冷え込みの厳しい朝だった ―  女王夫妻がいくら待っても 
< 彼 > は 宮殿にやってこなかった。
「 あら?  ねえ 守。  *〇жкЯ は? 守の側にいますか。 」
「 いや ・・・ 俺もずっと気になっているのだけど。 アイツ、朝食の時間の前には
 必ず来て君に挨拶していただろう? 」
「 ええ ・・・ それが護り神としてのしきたりなのです。 」
「 そうだよなあ。  」
「 昨夜 ・・・ なにか変わった様子でしたかしら。 」
「 う〜ん ・・・ いや 特には。  うん アイツが帰ってゆくときにな ここに来い
 一緒に住もう って 何回も言ったんだがなあ。 」
守の脳裏には彼の誘いに  ぴん!とシッポを立てタテガミを揺らし  に・・・っと笑って
帰っていった < 彼 > の姿が焼きついている。

   あの笑顔は  ― まさか。

「 ちょっと墓所まで行って来る。  どうも気になるんだ。 」
「 わたくしも行きますわ。 」
「 ああ 寒いから ・・・ 君はここで 」
「 いいえ。  *〇жкЯは 守の、この星の貴士 ( ナイト ) の護り神です。
 一緒に行かせてくださいな。 」
「 よし。 温かくして行こう。 」
「 はい すぐに ・・・ 」
二人はイスカンダルの軽くて暖かい外套に包まって 寒風の中、出かけていった。

 
    ビュウ ウウウウウウ  ・・・・・  ビュウ ・・・・・

鈍色の風が 広大な墓所を吹きぬけてゆく。
守はビークルに乗ってくるべきだったな ・・・と思いつつ、スターシアを半分抱きかかえて
王家の墓所を目指した。

  ―  < 彼 >  は  いた。

王家の墓所の 先代の貴士 ( ナイト ) 閣下の墓碑の前に ―  
*〇жкЯ26世は 静かに穏やかに ・・・ くるん、と丸くなって永遠の眠りについていた。

「 ・・・ 茶モフ ・・・ 」
「 *〇жкЯ ・・・   お前も ・・・ いってしまった の ね ・・・ 」
「 スターシア ・・・ 」
守はほろほろと涙を流すスターシアを そっと抱き締めた。
「 茶モフは ・・・ 今 幸せなんだ。  やっと義父上の元に行けたんだから  ・・・ 」
「 ・・・ええ  ええ ・・・ 父も喜んでいることでしょう ・・・ 」
「 茶モフ ありがとう ・・・ いろいろなことを教えてくれて。  
 ここに ・・・ 義父上の墓所に一緒に葬ってやってもいいかな。 」
「 ええ ええ ・・・ そうしてやってくださいな。 」
スターシアは襟に止めていたイスカンダル・ブルーの花をそっと手向けた。
「 うん   ああ  そうだ ・・・ 」
守は内ポケットをさぐり ずっと持っていた彼のもう動かない懐中時計を取り出した。
「 なあ ・・・ これ。  お前がずっと護っていてくれ。  
 親愛なる茶モフ君に喜んで進呈するさ ・・・ なあ ・・俺の相棒 ・・・ 」

    にゃあ〜〜〜〜 あ ・・・・   

空の彼方から < 彼 > の声が聞こえた ・・・と守もスターシアも思った。 


  ―  そして。   その冬の終わりに 二人はこの青き星を後にした。


 ******  後書き
茶モフ君は 実在のにゃんこなのです〜〜

2013.9.17
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