花びらが降り注ぐ
とめどなく
髪に
頬に
胸に
くちびるに

狂おしく
わずかな痛みと
大きな喜びをつれて

心に体に
花びらが降りつもる







スターシアはベッドの中でゆっくりと眼をあけた。

ざざ・・・ざざ・・・・

夜明け前の薄く白い光に包まれ、ぼんやりとした寝室に 波の音が静かに入り込んでいた。
彼女はその音を久しぶりに聞いた気がした。

ああ、そうだったわ。
昨日・・・ 彼らが地球へと帰ってしまったから それで・・・・。


ガミラスを打ち破り イスカンダルへたどり着いた地球人たち。 彼らが滞在していた短い期間 、波の音はいつもと変わらずスターシアの耳に届いていたはずだったのだが、地球人たちの発する生気あふれる気配にイスカンダルの空気は陽気に踊り、いつのまにか波の音はかき消されてしまっていた。 それが今朝は、 以前のイスカンダルがそうであったように、 すべてが静かに流れる時間の中に納まりこんでいた。 一時の賑わいの後の静けさは スターシアに一抹の寂しさを感じさせた。地球人たちがコスモクリーナーのパーツをヤマトに積み込んで イスカンダルの空高く去っていった昨日がものすごく遠い日の出来事のように感じられた。

そろそろ起きなくては。 中庭へ行って薬草を摘んできましょう。
もう殆ど回復したけれど守にはまだ必要だもの。

そこまで考えてスターシアははっとした。

さようなら スターシア

守の声が彼女の頭の中によみがえった。 いよいよヤマトが出発するという時になって 守がスターシアに向けた言葉・・。 花びらは・・・・ あのなんともいえない 安らいだ気持ちで過ごした 夕べのあの時間は・・・

あれは夢だったの?

ぎゅっと胸が締め付けられ スターシアは身を起こした。
その時、はらりと上掛けが落ち、 スターシアは自分が何も身につけていないことに気がついた。体中に花びらが散らばっていた。
ぼやけていた頭の中が鮮明になってゆく。
ふと、自分の隣に目をやると 愛する人の寝顔がそこにあった。

ああ・・!

スターシアは自分の唇にそっと手をあてて 守がくれたぬくもりを確かめた。
彼女の頬を一筋の涙が零れ落ちた。
夢ではなかったのだ。

スターシアは眠っている守を起こさぬよう そっとベッドを抜け出すと 衣服を身に着け、 ガラスの小瓶と柄杓を入れたバスケットを手に 中庭に出た。

朝の空気はピンと澄んで 頬に冷たく心地よかった。
まず中庭の中央にある小さな泉に向かった。 柄杓で水を汲んでガラスの小瓶に詰めた。 次に小さなつぼみをつけたイスカンダルブルーを3本 摘み取り丁寧に白い布に包んだ。 水もイスカンダルブルーも祭壇に供えるためのものだった。 そうしてからスターシアは 守のためにどの薬草を摘もうかと考えながら 中庭をぐるりと一周した。 愛する者のためにあれこれ考えるのは スターシアにとって楽しい時間だった。 自然と彼女の小さな口から古くから伝わる歌が流れた。感謝と愛に満ちた歌。 ふいに自分の名前を呼ばれた気がして 彼女が振り返るとその先に守が立っていた。
「スターシア」
今度ははっきりと守の声がスターシアに届いた。
「守」
二人は歩み寄り、そっとキスをかわした。
「何をしていたんだい?」
「薬草を摘んでいたの。お供えするために。それとあなたのために。」
「ああ、君が毎朝祭壇にお供えするためのものだね。」
「ええ、そうよ。」
「その・・俺も君と一緒に祈っていいかな?」
「・・!ええ、もちろん。」
「なんだか今までは近づいてはいけない気がしていたんだが」
「そんなことはないわ。何も特別なことはないの。だれでもお供えをしてもいいし祭壇の前にいていいの。 自分の言葉で、毎日を恙無く過ごしていることの感謝の気持ちをこのイスカンダルにささげる、 ただそれだけなんですもの。でも今日はすこしだけ特別なの。」
「え?」
「あなたと結ばれた、そのことへの感謝も・・・」
「スターシア・・・」
守は思わずスターシアを抱き寄せた。
太陽が昇りまっすぐな光が中庭に差し込んできた。
中庭は光で満ち溢れ、なにもかもが生まれ変わったかのような 昨日とはまったく違う表情を見せた。
スターシアと守は連れ立って中庭を横切り宮殿の中へと消えた。
新しい朝が始まった。


おしまい

2011.3.26

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